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【論考】現実が制度を先導してきた40年-日本の外国人受け入れ政策を問い直す
April 28, 2026
1. はじめに
いまや日本の外国人受け入れは、周辺的な政策課題ではない。製造業、建設業、農業、介護、宿泊業、外食業、小売業など、多くの分野が外国人労働者なしには機能しにくくなっている。大学や専門学校では留学生が重要な構成員となり、地方自治体では外国人住民への対応が日常業務の一部になっている。人口減少と高齢化が進むなかで、外国人受け入れは、日本社会の持続可能性そのものに関わる中核的な政策課題となった。
しかし、その重要性に見合うだけの政策的整理が、日本で十分になされてきたとは言いがたい。現実には外国人を受け入れ、労働力として必要としてきたにもかかわらず、それを一貫した政策理念のもとで位置づけてきたわけではない。受け入れは進んでいるのに、その全体像は曖昧なままである。人手不足の状況が続くなか、外国人への依存は深まる一方で、受け入れ後の生活や定住をどう支えるのかは後景に退きやすい。日本の外国人受け入れ政策は、この40年、社会の必要に迫られながら拡大してきたが、彼らを社会としてどのように引き受けるのかという議論は、十分に深まってこなかった。
このねじれは、最近になって突然生じたものではない。1980年代後半以降、日本社会は人手不足や産業構造の変化に押されながら、現実の必要に応じて外国人受け入れを拡大してきた。しかし制度の側は、そのたびに後追い的、断片的に対応してきた。言い換えれば、日本の外国人受け入れを動かしてきたのは、理念や政策ではなく、現場のニーズだったのである。
こうした問題意識から、筆者は近著『国際労働移動の社会学-日本の外国人労働者受入れ1985-2025』(明石書店)において、1985年以降の約40年間をたどり、日本の外国人受け入れを「制度と実態のずれ」「一時性と定住化のねじれ」「政策分野の分断」という三つの軸から整理した。本稿では、その全体像を踏まえつつ、日本の外国人受け入れ政策がなぜ現実の後追いになってきたのかを考えたい。
2. 建前では抑制、実態では拡大という基本構造
日本の外国人受け入れ政策を特徴づけてきたのは、建前のうえでは単純労働分野での外国人の受け入れを抑制しつつ、実態は受け入れを拡大してきたという構造である。1990年の出入国管理及び難民認定法(入管法)改正以降、日本政府は一貫して、専門的・技術的分野の外国人は受け入れる一方、いわゆる単純労働者の受け入れには慎重な立場を維持してきた。この原則は、長く日本の外国人受け入れ政策の基本路線として語られてきた。しかし、現実の労働市場はその原則だけでは動かなかった。製造業、建設業、農業、食品加工、宿泊、介護など、多くの分野では慢性的な人手不足が生じ、外国人労働力の導入が拡大した。その際、日本社会が取ってきたのは、正面から外国人労働者の受け入れを制度理念として認めることではなく、別の名目を用いて必要な人材を受け入れる方法だった。日系人の受け入れ、留学生の資格外活動、技能実習制度、特定技能制度などは、それぞれ制度上の位置づけや名目は異なるが、結果として人手不足分野を支える機能を担ってきた。
ここで重要なのは、日本が外国人受け入れをしてこなかったのではなく、受け入れを正面から制度理念として引き受けないまま、実質的に拡大してきたという点である。これは単なる言葉の問題ではない。建前と実態のずれが大きいほど、制度間の接続が悪くなるとともに責任の所在が曖昧になり、しわ寄せは現場や当事者に向かいやすい。日本の外国人受け入れ政策の難しさは、まさにこの構造から生まれている。
3. 後追い・断片的に進んできた制度形成
本書で1985年を起点に置いたのは、この頃から外国人受け入れをめぐる現実が制度を先導し始めたからである。1980年代後半以降、日本経済の構造変化、地方産業の労働力不足、国際結婚の増加、留学生政策の拡大などを背景に、外国人の受け入れは多様なかたちで進んでいった。まず社会や産業の側に現実の必要があり、その後で制度がそれを追いかける。こうした構図が繰り返されてきたのである。
この点は政策的に重要である。理念に基づく一貫した制度設計ではなく、個別の必要に応じた後追い型の制度設計続くと、制度全体としての整合性が失われやすい。ある制度は就労政策として動き、ある制度は教育政策の一部として動き、ある制度は国際貢献や人材育成の名目を持つ。その結果、外国人受け入れ政策は、入管政策、労働政策、教育政策、地域政策、社会保障政策にまたがるにもかかわらず、それらを横断する全体設計が弱いまま今日に至っている。
「制度が複雑すぎる」「現場で何が起きているのかわかりにくい」「受け入れ後の責任主体が見えにくい」といった問題が繰り返し指摘されるのは、この歴史的経緯と無関係ではない。現在の混乱は偶然の産物ではなく、40年にわたる制度の積み重ねの結果として理解する必要がある。日本の外国人受け入れは、この40年で確実に拡大してきた。しかし、それは外国人を社会の成員としてどのように位置づけるのかを明確にしたうえで進んできたわけではない。社会的統合を目指すのか、同化を前提とするのか、多文化共生社会を目指すのかあるいは時限的な労働力として扱い続けるのか。その基本的な構想が曖昧なまま、就労の入口だけが広がり、その後の生活、教育、家族、地域との接続は後追いになりやすかった。この方向性の未整理こそが、現在の制度的緊張の背景にある。こうした曖昧さを支えてきたのが、一時的受け入れを前提とする政策発想であった。
4. 一時的受け入れという前提と現実との乖離
日本の外国人受け入れ政策のもう一つの特徴は、長らく「一時的受け入れ」を暗黙の前提にしてきたことである。外国人は一定期間だけ働き、やがて帰国する存在であり、日本社会の構成員として長期的に生活基盤を築く存在としては十分に想定されてこなかった。この発想は、制度上の設計だけでなく、社会の側の認識にも深く浸透してきた。
しかし、現実はすでにその前提を大きく超えている。外国人労働者のなかには、日本で長期間働き、家族を呼び寄せ、子どもを育て、地域社会の一員として暮らし続ける人びとが増えている。留学生から就労資格へ移行する人もいれば、就労をきっかけに家族形成や定住化へ進む人もいる。
政策的に見れば、ここで問われているのは、外国人受け入れを労働供給の問題としてのみ扱うのか、それとも生活者・住民の受け入れとして再設計するのか、ということである。働き手として受け入れた人びとは、やがて住民となり、親となり、地域社会の構成員となる。にもかかわらず、制度の側がなお一時的受け入れの発想を前提とするならば、教育、医療、住宅、社会保障、相談支援といった分野で、現場の負担と制度の空白はさらに大きくなる。
このことは、日本の外国人受け入れ政策を、もはや入管政策や雇用政策だけで完結する問題として捉えることができないことを意味している。どの在留資格で入国するのか、どの職種で働くのかといった問題はもちろん重要である。しかし、それと同じか、それ以上に重要なのは、受け入れた後に誰が何を担うのかである。たとえば、外国人住民の子どもが学校に入れば教育政策の問題になる。地域で生活する以上、自治体の相談、支援体制が必要になる。病気や失業、高齢化の問題が生じれば、社会保障や福祉の問題になる。
外国人受け入れは、就労の問題として始まっても、必ず地域社会の問題へと広がっていく。その意味で、現在の日本に必要なのは、外国人受け入れを単なる労働力政策としてではなく、社会の設計そのものに関わる課題として捉え直す視点である。どの制度でどれだけ受け入れるかという入口の議論だけでなく、その後の教育、家族、社会保障、地域共生まで含めた全体像を政策として構想しなければならない段階に、すでに入っている。
5. 外国人受け入れ政策は全体設計の見直しを迫られている
本書が示した2025年という時点は、単なる現在ではない。日本の外国人受け入れ政策が新たな段階に入ったことを示す節目でもある。技能実習制度の見直し、特定技能制度の拡充、高度人材政策の再編、留学生政策の転換、地方自治体の対応強化など、制度の側でも一定の再調整が始まっている。
だが、これらの変化は、従来の枠組みの延長で部分的に手直しするだけでは十分ではない可能性が高い。なぜなら、現在直面している課題は、単一制度の改善では解決しにくいからである。受け入れルートの多様化、在留資格間の境界の曖昧化、送り出し国との関係、地域の受け入れ能力、教育と社会保障の接続といった問題は、どれも制度横断的である。したがって今後の政策には、単なる制度改正ではなく、外国人受け入れを支える全体構造の再設計が求められる。
ここで改めて問われるべきなのは、日本はどのような外国人受け入れを目指すのか、そして誰がその受け入れを支えるのかという点である。必要な人材を受け入れると言うだけでは足りない。どのような名目で、どのような責任分担のもとで、どのような社会的統合を前提に受け入れるのかが問われている。
6. 今後考えていきたい三つのポイント
東京財団の研究プロジェクトでは、この40年の全体像を踏まえたうえで、今後とくに三つの点を考えていきたい。
第一に、「技術・人文知識・国際業務」資格、いわゆる「技人国」のグレーゾーン化である。日本は高度人材の受け入れを掲げてきたが、その運用は当初想定された専門的・技術的業務の範囲だけでは説明しきれない広がりを見せている。
第二に、受け入れ後の生活基盤の問題である。外国人受け入れは就労の入口だけで終わらず、教育、家族形成、社会保障、定住化へと広がっていく。
第三に、国の制度と地域社会の負担のずれである。制度は国が設計するが、実際の影響を引き受けるのは地方自治体や地域社会である。この構図を可視化しなければ、持続可能な受け入れ政策は構想できない。
外国人受け入れの問題は、外国人とその周りの関係者だけの問題ではない。それは日本社会が人口減少と労働力不足の時代に、今後どのような社会を目指そうとしているのかを映し出す鏡である。次回は、その象徴的な論点として、「技術・人文知識・国際業務」資格、いわゆる「技人国」を取り上げたい。
※本論考に関する理解を深めるのものとして、筆者の編著『国際労働移動の社会学 日本の外国人労働者受入れ1985-2025』(明石書店 2026年3月刊行)をご参照ください。https://www.akashi.co.jp/book/b674821.html