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【論考】「頼られるメディア」とは何か ―地域情報基盤を考える―
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【論考】「頼られるメディア」とは何か ―地域情報基盤を考える―

August 25, 2026

元テレビ朝日 報道局プロデューサー 江野夏平

多様化する地域情報の伝達手段
地域情報を支える市民を育てる
放送局が蓄積した資産を地域へ還元する
地域との関係を情報基盤に生かす
「頼られるメディア」を支えるもの

多様化する地域情報の伝達手段

人口減少や広告市場の変化によって、ローカルメディアの経営環境は厳しさを増している。民放ローカル局では、再編・統合や放送設備の維持・更新のあり方を含め、経営基盤をどう維持するかが課題となっている。
ローカルメディアの将来を考える上で、事業を存続させるだけでなく、地域社会から必要とされ続けることが重要となる。民放ローカル局やコミュニティ放送局が存続しても、そこで伝えられる情報が地域住民にとって価値を失えば、ローカルメディアとしての存在意義は弱くなる。
地域における情報伝達は、もはや一つの媒体に限定されるものではない。現在では、インターネットを通じた情報発信が広がり、住民がニュースや地域情報に接する経路も多様化している。もちろん、既存のローカルメディアが担ってきた役割の重要性が失われたわけではない。ローカルメディアが長年の取材活動で培ってきた取材力や災害対応力、報道機関としての信頼は、容易に代替できるものではない。
情報を届ける手段が広がるなか、ローカルメディアも放送波や紙媒体だけに依存せず、WebニュースやSNS、YouTubeなどを活用し、取材した情報を複数の経路から発信している。
媒体の特性に応じた使い分けは、災害時の情報伝達においてさらに重要になる。被災地の状況を視覚的に把握するには、テレビやインターネット上の動画が有効である。避難所の開設場所や給水時間、交通規制など、住民が繰り返し確認する必要のある情報については、自治体がSNSを通じて発信する文字情報の有用性が高い。時間とともに流れる映像に対し、文字情報は必要な時点で再確認できる。媒体の優劣ではなく、情報の内容や受け手に応じて伝達手段を使い分けることで、住民が必要な情報に接する機会を広げることができる。

地域情報を支える市民を育てる

8月21日、摂南大学現代社会学部を訪ね、地域メディア研究に取り組む松本恭幸准教授に話を聞いた。松本氏の研究は、地方紙や放送などのローカルメディアにとどまらない。図書館や博物館、地域資料、デジタルアーカイブ、市民による情報活動までを視野に入れ、地域の歴史や文化、記録を住民自身が知り、受け継いでいくための情報環境について研究を重ねている。
松本氏の研究からは、地域情報基盤を考える上でも重要な示唆が得られる。地域情報基盤を支えるためには、ローカルメディアだけでなく、地域社会そのものにも目を向ける必要がある。地域住民が自ら暮らす地域の歴史や文化を知り、そこに蓄積された記録や記憶を受け継ぎ、次の世代へ伝えていくことも重要となる。情報を受け取るだけではなく、住民自身が地域について学び、その記録や情報の継承に関わることも、地域情報基盤を形成する重要な要素となる。
この視点に立てば、「メディア」の範囲も放送局や新聞社だけに限定されない。郷土資料館に保存された文書は、過去の地域社会を現在へ伝える媒体となり、デジタルアーカイブは地域に残された記録を共有し、将来へ継承する役割を担う。地域の歴史を知る住民も、その記憶を他者や次の世代へ伝える存在となる。地域情報基盤は、ローカルメディアだけでなく、地域の歴史や文化を受け継ぎ、伝える人々によっても支えられている。
松本氏が研究してきたWikipediaタウンやマッピングパーティーは、この考え方を具体化する実践である。市民が地域を歩き、文献や資料を調べ、その成果をWikipediaやOpenStreetMapなどに反映する。重要なのは、市民が地域情報の受け手にとどまらず、その形成に関わるという考え方にある。地域について学び、伝える経験を通じて、市民も地域情報を支える担い手となる。
人口減少が進むなか、地域情報基盤をローカルメディアだけで支え続けることは難しくなる。地域情報基盤の維持・発展には、その担い手を地域社会にも広げる必要がある。
摂南大学での教育にも、この考え方が取り入れられている。学生は地域を取材し、その成果をYouTubeで発信するほか、コミュニティ放送の番組制作にも関わっている。地域について学び、自ら伝える経験を通じて、学生も地域情報を支える担い手となる。
松本氏の研究と実践から見えてくるのは、地域情報基盤の維持・発展には、その担い手を地域社会で育てていく必要があるということである。

放送局が蓄積した資産を地域へ還元する

地域の歴史や記憶を次の世代へ伝えていく上で、民放ローカル局が長年の取材活動を通じて蓄積してきた映像も重要な資産となる。
MBC南日本放送の「8・6豪雨災害デジタルマップ」は、その具体例である。MBCは1993年8月6日の豪雨災害を取材した映像を、発災から30年となる2023年、撮影地点と結び付けたデジタルマップとして公開した。過去の被害状況を映像で確認できる、いわば映像版のハザードマップである。
かつてニュースとして伝えられた映像が、現在では住民が過去の被害を身近な場所と重ねて確認できる防災情報として活用されている。過去の映像資料をニュースなどに再利用するだけでなく、地域社会で活用できる情報へと転換した点に、この取り組みの意義がある。
民放ローカル局には、長年の取材活動を通じて、地域で起きた出来事や人々の暮らしを記録した膨大な映像資料が蓄積されている。これらは番組制作のための過去素材であると同時に、地域社会の変遷を記録した情報資産でもある。その蓄積を住民が利用できる形で提供することは、放送局が取材活動を通じて得てきた資産を地域社会へ還元することを意味する。
放送局が蓄積してきた映像資料を、番組制作のための素材にとどめず、地域社会の共有資産として位置づけ直す視点が必要である。

地域との関係を情報基盤に生かす

地域情報基盤を支えるのは、放送局が蓄積してきた情報資産だけではない。地域の人々や行政、企業との間に形成されてきた関係も、その重要な要素となる。
KBC九州朝日放送は、福岡県、佐賀県の全80自治体と防災パートナーシップ協定を締結し、自治体担当者が参加する防災ネットワーク会議を継続している。また、地域住民が「地域リポーター」として、身近な出来事や地域の情報をKBCに伝える仕組みを設けている。局員が常駐していない地域からも情報が寄せられ、放送局と地域を結ぶ情報の経路となっている。学校での防災教育などを通じ、放送局と地域社会との接点も形成してきた。[1]
人口減少によって取材を担う人員が限られていくなか、すべての地域に従来と同じ取材体制を維持することは難しくなる。自治体や住民との関係が形成されていれば、局員だけでは把握できない地域の情報が放送局へ入る経路を確保できる。平時から形成された人的関係は、日常的な地域情報の把握を支えるとともに、災害時には情報収集の経路として機能する可能性を持つ。
松本氏の議論とも、この点で接点が生まれる。地域情報を担うのは、放送局の記者やディレクターだけではない。自治体職員、地域リポーター、住民など、地域に存在する人々も、情報を媒介する役割を担う。こうした地域との関係を生かすことが、地域情報基盤の維持・発展にもつながる。

「頼られるメディア」を支えるもの

地域情報基盤は、地域メディアだけによって支えられているわけではない。
松本氏の研究と教育からは、地域情報を支える市民を育てることの重要性が見えてきた。MBCの取り組みからは、放送局が蓄積してきた情報資産を地域社会へ還元する意義が見える。KBCでは、自治体や地域住民との関係性が地域情報基盤を支えていることがわかった。対象は異なるが、いずれも地域情報基盤を民放ローカル局だけで支えることには限界があることを示していた。
この観点から、次に検証したいのがコミュニティFMと地域社会との関係である。9月には福島県いわき市を訪れ、SEA WAVE FMいわき(以下、FMいわき)と、いわき市役所危機管理部災害対策課への聞き取り調査を予定している。
FMいわきは、東日本大震災時に24時間体制で放送を継続した。福島第一原子力発電所の事故後、地域から避難する住民が相次ぐなかでも、スタッフは局に残り、地域住民に必要な情報を伝え続けた。断水時には地域ごとの通水時期の見通しや、生活物資の配布に関する情報など、住民生活に直結する情報を放送した。
注目すべきなのは、震災時に何を放送したかだけではない。住民、自治体、地元紙などから情報がFMいわきに集まり、放送を通じて再び地域へ伝えられた点である。非常時にこうした情報が局へ集まった背景には、平時から地域社会との間に築かれてきた関係があったのではないか。
FMいわきはコミュニティFMであり、県域を対象とする民放ローカルテレビ局や地方紙とは事業規模も対象地域も異なる。しかし、平時から地域との関係を形成し、必要な情報が集まる環境をつくること、その情報を住民に適した形で届けること、蓄積された信頼が非常時の情報伝達を支えることは、地域メディア全体に関わる論点である。
いわき市危機管理部災害対策課への聞き取りでは、行政側からFMいわきが地域の情報伝達体制のなかでどのように位置づけられているのかを確認する。メディア側の評価だけでなく、行政や住民との関係から検証することで、平時に形成された地域との関係が非常時の情報基盤としてどのように機能したのかを明らかにする。
地域情報基盤は、地域メディアだけでは形成できない。地域情報を支える人が育ち、地域メディアと住民との間に情報が行き交うことで、その基盤は成熟していく。
9月のいわき市での調査では、その関係が平時からどのように形成され、東日本大震災という非常時にどのように機能したのかを検証したい。コミュニティFMの事例から得られる知見が、民放ローカル局や地方紙を含む地域メディア全体の持続性を考える上でどのような意味を持つのかについても、引き続き考察を進める。

 


[1] 江野夏平,【論考】人口減少社会と放送制度の新展開 ―多様性を支える情報基盤の再構築に向けて― ,2025年12月11日

  • 研究分野・主な関心領域
    • メディア論(映像表現論)
    • 放送法(危機管理)
    • 政策広報戦略
    • 社会実装プロセス

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