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【論考】ポピュリズムを活用した財政再建:まずは『人気のある緊縮—無駄遣い削減』を
August 19, 2026
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現状は財政ポピュリズムなのか |
現状は財政ポピュリズムなのか
8月5日、食料品にかかる消費税率を2027年4月から2年間、1%に引き下げる基本方針が閣議決定された。与野党を問わず財政拡張的な政策が志向される中、日本は財政ポピュリズムに陥ったとの批判も強まっている。
たしかに現在の日本の財政状況、最近の国債・為替市場の動きなどを見れば、財政問題についての最近の政治の動きは深く憂慮すべき状況にある。ただ、以前にも述べたように(加藤 2026)、これらが「大衆への迎合」という意味でのポピュリズム的な動きなのかは一概には言えない[1]。果たして政治が大衆の要求に従っていることが、現在の日本の劣悪な財政状況を招いているのだろうか。そうだとすれば、財政民主主義を採る日本において、現在の状況を抜け出し財政健全化を進めることは極めて困難な道ということになってしまう。
本稿では、世論への応答と財政健全化を両立させていく可能性について検討する。その文脈でここで取り上げるのは、徹底した歳出削減——とりわけ政府の無駄遣いの削減——である。政府の無駄遣い削減という観点であれば、ポピュリズム的な動きはむしろ、財政緊縮に向けたエネルギーともなりうるからである。
世論は財政拡張一辺倒ではない
政治学では長年、有権者の意識や政治行動が果たして有権者自らの発意によるものなのか、あるいは政府・行政・メディアなどの誘導(動員)によるものなのかをめぐる分析が進められてきた。財政ポピュリズムの観点で言えば、近年の日本で財政拡張をけしかけているのは、国民(世論)よりむしろ政治サイド(特に各政党)という見方も十分可能だ。実際、日本や各国の世論調査結果を見る限り、世論は一様に財政拡張を求めているわけではない。今回の食料品の消費減税についても、「減税すべきではない」という意見も少なくない(佐藤 2026)。少なくとも、主要政党がこぞって2月の選挙公約で消費税減税を掲げたほどには、有権者の意識は減税一色というわけではなさそうだ。
また、消費税減税単体では賛成であっても、その具体的な財源論にまで踏み込めば、消費税減税に対する反対が大きく増える傾向も、各種世論調査から見て取れる。たとえば、最近の世論調査では、消費税減税が社会保障に悪影響を与えることについて不安を感じるという回答が多かった[2]。消費税減税が争点となった昨年の参議院選挙前の調査では、赤字国債を発行してでも消費税減税を実行すべきだと答えた回答者は38%に留まった[3]。
このように、世論は必ずしも財政拡張を全面的に支持しているわけではない。さらに、他国の厳密な実証研究では、緊縮財政もときに有権者の強い支持を集めることが示されてきた。東京財団の調査でも、日本の世論は、財政赤字問題を深く懸念している(加藤 2023)。財政・減税ポピュリズム論者の「大衆は一貫して財政拡張を望んでいる」という暗黙の前提は、少なくとも実証的には裏付けられない。
財政についての「応答性」と「責任」のジレンマ
民主主義国家における政府と国民との関係は、「応答性」と「責任」との双方のバランスの上にある。前者が過剰になった状況が「大衆迎合」(日本的な定義でのポピュリズム)と言えよう。ただ、政府としては財政を持続可能な状況に保つ大きな責任があるが、日本が財政民主主義国家である以上、財政問題についての世論への応答性も当然求められる。
では、現在の日本において、政府が財政の持続性という「責任」を果たしつつ、世論に「応答」する道はあるのだろうか。これこそがおそらく今の日本が直面する最大の課題の一つである。
まず考えられる道は、世論に一方的に受け身となるのではなく、世論を動かしていくことである。政府が10年先、20年先の国家像を責任を持って示しつつ、その実現に今必要な負担を説いて国民の理解を得る。そうした働きかけが欠かせない。
ここでは、もう一つの可能性——世論の支持を受けた歳出削減について見ていきたい。財政赤字への対応を大ざっぱに分ければ、①増税か②歳出削減によって赤字自体を縮小するか、③国債発行によって赤字を当面ファイナンスするかとなる。歴史的経験や各種の研究調査を見る限り、このうち国民の支持を最も得やすい財政健全化策は、②の歳出削減、とりわけ政府の無駄遣いの削減である。
東京財団の調査では(図1参照)、財政赤字の原因として「政治の無駄遣い」を挙げた国民は71.5%にのぼり、「社会保障費」(17.5%)など他を圧倒した(加藤 2023)。同じ質問に対して経済学者は72.0%が「社会保障費」を挙げ、こちらも他を圧倒したが、「政治の無駄遣い」(41.1%)は次に多い回答だった。国際的な実証研究でも、「財政緊縮は有権者に必ず嫌われる」という通説は支持されていない。増税中心の財政再建には政治的コストが大きい一方、歳出削減については、その内容や政党の立場によっては有権者の支持を集めることが示されている(Alesina et al. 2024; Bansak et al. 2021; Alesina et al. 2019)。本稿が着目する政府の無駄遣い削減は、まさにそうした「人気のある緊縮」の代表例となりうる。

財政ポピュリズム論者は、世論が財政拡張を志向しそれに政治が迎合するため、日本の財政再建が進まないと主張する。しかし、財政緊縮策は常に有権者に嫌われるわけではなく、とりわけ歳出削減は内容によっては人気政策にもなりうる。そもそも近代市民革命によって財政民主主義が導入された大きな理由は、国民の代表(議会)による王政の無駄遣いや恣意的な課税の監視だった。
政府・専門家と国民全般の認識ギャップ
このように、政府の無駄遣い削減は、財政についての政府の「応答性」と「責任」のジレンマを乗り越える数少ない道の一つとなりうる。
ただ、現在の財政状況や各種シミュレーション結果(例 経済同友会 2021)などから見れば、政府の無駄遣いの削減では、今後の社会保障費の増大などを賄うことは難しい。日本は他の先進民主主義国家と比べ「小さな政府」であり、一般政府支出の対GDP比は現在でもOECD平均を下回る。また、現在の歳出(2026年度当初予算)の約4分の3は、社会保障関係費(31.9%)、国債費(25.6%)、地方交付税等(17.1%)で占められており、それ以外の歳出の削減余地は限られる。東京財団調査において、経済学者の多くが、財政赤字の要因として社会保障費を挙げ、消費税増税を支持した理由もおそらくそこにある。
他方、先ほど見たように、国民の7割以上は財政赤字の原因として「政治の無駄遣い」を挙げており、「高い公務員の人件費」を挙げた者も4割以上にのぼる。国民の多くは、政治の無駄遣いの削減などを徹底すれば、日本の財政問題は解決するか、少なくとも大きく改善すると考えているのではないか。
こうした政府・専門家と国民全般との間の大きな認識ギャップを残したまま、国民の負担増を求めるような財政健全化を進めることは、政治的に非常に難しい。国民からすれば、自分たちに増税などの負担を求める前に、まずは政府が「自ら身を切って」徹底的に無駄を削減しろ、ということになるからだ。実際、東京財団調査の際に行った統計分析では、財政・社会保障問題について豊富な知識を持つ回答者ほど、経済学者に近い回答をすることが有意に観察されている(加藤 2023)。
徹底した政府の無駄遣い削減の先行を
政府・専門家と国民全般の認識ギャップを緩和する一つの有効な方法は、実際に政府が徹底した歳出削減を先行して実践し、「削り尽くしてなお足りない」という状況を国民に具体的に見せることである。そうした実践は、国民に負担を求める前に政府が「自ら身を切る」という覚悟(コミットメント)を明らかにすることにもなる。
ここでは過去の日本の経験も示唆的だ。消費税の原型となる「一般消費税」の導入が政治日程に上ったのは1970年代末の大平正芳内閣のときだが、その際に導入の主たる理由として政府が掲げたのは「財政赤字の解消」だった。これに対して当時の世論は、財政健全化の必要性は認めたものの、政府内の無駄や非効率の解消が先決として反対に回ったという(加藤 1997)。
結局、大平内閣は世論の反発を受けて一般消費税の導入に失敗した。その後、政権の焦点は徹底した行政改革へと移り、1981年には土光臨調(第二次臨時行政調査会)が発足する。これを立ち上げた鈴木善幸内閣の旗印は「増税なき財政再建」だった。政治的には、国民に新たな負担を求める前に、徹底した歳出削減と行政改革を先行させることが求められたのである。
高市早苗政権も、日本版DOGE(租税特別措置・補助金見直し担当室)を内閣官房に立ち上げ、政府の無駄遣いを厳しくチェックする姿勢を見せていた。連立を組んだ日本維新の会は大阪府市政で歳出削減を積極的に進めてきた実績があり、日本版DOGEの創設は、「政府効率化局(仮称)」として連立政権合意書に盛り込まれていた。
今の日本が「小さな政府」だといっても政府の無駄遣いは各所にあるはずだ。日本版DOGEには、2026年1月〜2月の間に3.7万件超もの意見が国民から寄せられたという[4]。しかし、7月に各省庁が公表した自主点検結果では、約120の優遇制度のうち、廃止の方向性が明示されたのは1件のみだった[5]。これでは、政府の無駄遣いをまず徹底的に削減してほしいという国民の納得はとうてい得られない。
ポピュリズムの活用を
政府の無駄遣い削減は財政・減税ポピュリズムに阻まれない緊縮財政策である。むしろ、ポピュリズム的な動きは推進のエネルギーとさえなりうる。日本全体の財政状況から見れば、金額的には「焼け石に水」であったとしても、今後避けて通れない、国民の負担を伴う財政健全化への世論の理解を得るためのステップとなる。
だとすれば、やるべきことは明らかだ。日本版DOGEの対象を租特・補助金・基金から、特別会計を通じた歳出や、場合によっては政府出資を伴う官民ファンドなどにまで広げる。各省庁の自主点検に委ねるのではなく、外部の目による独立した地道な検証を制度化し、その勧告を予算編成や税制改正に実際に反映させる仕組みをつくる。民主党政権下の「事業仕分け」のような政治ショーにはしない。そして何より、かつて土光臨調を政権が強く後押ししたように、政治リーダーである高市首相自身がこの旗を掲げ、強くコミットすることだ。幸い、ここは政治が世論に思う存分「応答」できる数少ない領域である。財政ポピュリズムが盛んに言われる時代の財政健全化は、逆説的だが、ポピュリズムの活用から始めることができる。
[1] ポピュリズムは「大衆迎合主義」と日本では定義されることが多いが、これは欧米では一般的な定義ではない。
[2] 日本経済新聞「消費減税で社会保障「不安」57% 1%案反対層で67%、世論調査」2026年6月28日。
[3] 日本経済新聞「財源なき消費税減税に世論慎重 「赤字国債発行でも」38%どまり」2025年5月27日。
[4] 内閣官房・租税特別措置・補助金見直し担当室「租税特別措置・補助金・基金の適正化に向けた提案募集の結果について」による。募集期間は2026年1月5日〜2月26日、寄せられた提案・意見は計37,174件。
[5] 日本経済新聞「日本版DOGE「税優遇廃止」1件のみ 13府省庁120件、財源捻出見通せず」2026年7月5日。
参考文献
Alesina, Alberto, Carlo Favero and Francesco Giavazzi. 2019. Austerity: When It Works and When It Doesn't. Princeton University Press.
Alesina, Alberto, Gabriele Ciminelli, Davide Furceri and Giorgio Saponaro. 2024. “Austerity and Elections.” Economica 91(363): 1075–1099.
Bansak, Kirk, Michael M. Bechtel and Yotam Margalit. 2021. “Why Austerity? The Mass Politics of a Contested Policy.” American Political Science Review 115(2): 486–505.
加藤淳子 1997.『税制改革と官僚制』東京大学出版会.
加藤創太 2023.「財政問題について経済学者と国民の意識はどう乖離するのか」東京財団政策研究所(5月15日).
加藤創太 2026.「財政ポピュリズム:政治は世論に迎合しているのか?」東京財団(6月15日).
経済同友会 2021.『持続可能な財政構造の実現に向けて:長期の経済財政試算を踏まえて』.