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急がれる日本の環境エネルギー技術の国際標準化 ~日米中協力によるスマートグリッド技術の国際標準化の可能性~ (東京財団研究員 平沼光)

August 31, 2009

技術国(日本)+市場国+政治力国の連携による国際標準化を進めるための戦略的な国際関係の構築

国際標準化の動きで遅れをとっている感のある日本であるが、環境エネルギー分野のデジュール標準をはじめとする技術標準化のステージで優位に立つには環境エネルギー技術の大きな市場となる市場国をどれだけ自国サイドに巻き込めるかが一つのカギとなる。 将来的に環境・エネルギー技術の市場展開を図る場となる市場国をその技術の国際標準化という段階からあらかじめ自国サイドにつけておくことは実際のビジネスを想定した上でメリットがある他、市場国を押さえているということで他国への牽制にもなりISO、IECでの最終投票にも有利な影響を及ぼすことが考えられる。中国、インドをはじめBRICS、VISTAと呼ばれる新興国、そして米国などは市場として重要になる。その意味で、市場国と日本の関係構築と市場国が参加する環境エネルギー分野の多国間枠組での日本のプレゼンスの発揮は重要であり、中でも市場としての有望性が高い中国との関係構築は欠かせないであろう。今後はまだ関係構築が進んでいない市場国との関係構築を急ぐとともに、多国間枠組においては特に日本が主導的立場で参加している枠組みへ未参加の市場国を戦略的に加えていくことが必要となるであろう。

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市場国との関係構築とともに国際標準化を図る上で日本が考えなければいけないのがISO、IECなどの国際機関において政治力を発揮できる国際関係の構築である。ISO、IECなどの国際機関を通して作る国際標準は最終的に参加国の投票でその可否が決まることにより日本一国が頑張っても埒が明かない場面がある。より多くの国を味方につけ賛成国となってもらう“仲間作り”を行う必要がありそのためには各国の賛同を得るための政治力が勝敗を分けるカギとなる。従来、ISO、IECで政治力を発揮してきたのがドイツ、フランスなどの欧州勢と米国である。これに日本が加わり日・米・欧の対立という三極構図が基本にあり、時に欧州勢と米国が連携し欧米VS日本というような競合の姿になるほか、最近は中国、韓国なども加わり状況は複雑化している。IECもISOもその設立において欧米が主導したという経緯があり現在も本部は欧州(ジュネーブ)にあることや、国際幹事引受数(2007年 経産省資料)を見てもドイツ159件(内訳ISO:128件、IEC:31件)、アメリカ148件(内訳ISO:124件、IEC: 24件)、フランス102件(内訳ISO:77件、IEC:25件)に対し日本は67件(内訳ISO:53件、IEC:14件)という状況で国際機関での政治力の発揮という点で日本は力不足な面があり今後これをどのように補っていくかが課題となる。それを補うには日本が技術力を持つ分野において政治力のある国と共同開発を行うなどにより協力関係を強め国際標準化の競合国から協力国へと転じさせることが大切だ。

2006年11月に経済産業省が発表した「国際標準化戦略目標」に沿って日本はISO、IECにおける国際標準化の投票おいて日本への投票数を増やすため日本との経済的な結びつきが強いアジア太平洋地域の国々との連携を強化しようとしている。環境・エネルギー技術の標準化を目指すにあたっては、単にアジア太平洋地域の国々との連携を強化するだけではなく、将来どこの国が標準化された技術の市場となるのか、標準化国際機関の中でどこの国が該当技術の標準化交渉で政治力を持つのかを把握し、日本の技術力を背景に、市場力のある国と国際機関の中で政治力のある国を押さえて国際標準化を進めるということを一つの基本戦略としていくべきである。そうした戦略を念頭に入れたうえで、環境エネルギー分野の多国間枠組への参加、二国間関係の構築などを横断的に進めていくことが益々重要になる。

日米中の協力によるスマートグリッド技術の国際標準化の可能性

技術国(日本)+市場国+政治力国の連携による国際標準化の可能性として日米中の協力によるスマートグリッド技術の国際標準化が一つの案として考えられる。

前述したように、IECの電力供給システム専門委員(TC8)ショーンバーグ議長(フランス・EDF社)提唱によりスマートグリッドの国際標準化について議論をする戦略グループ(SG3)が立ち上がり関係各国13カ国参加を召集し第一回の会合が2009年4月にパリにて開催された。例の如く欧州勢が口火を切りこの分野をリードしていこうとする動きが感じられる。

米国は、2009年6月に米商務省直轄の国立標準技術研究所(NIST)が関連技術を含めたおよそ300ページにわたるスマートグリッド標準化指針をまとめ、9月までには技術標準の枠組みを完成させる予定でおり、9月に予定されているスマートグリッド戦略グループ(SG3)の第二回会合にぶつけてくることが考えられ、米国としてもこの分野で政治力を発揮してくることが考えられる。

欧州、米国の政治力国の動きが活発化する一方、有力な市場国として中国の存在は無視できない。中国政府は「再生可能エネルギーの中長期発展計画」に記された2020年までに再生可能エネルギー比率を15%に引き上げることを目指し、再生可能エネルギー発電所建設等の投資を積極的に進めていく予定で、関連する送電網を含めたスマートグリッドへの投資も加速することが予想される。

欧州、米国がスマートグリッドの標準化に向けて政治力を発揮し、中国が市場国としてのポテンシャルを高めている中、前述したように日本は技術国として電力供給の信頼性という意味においては既に高い技術力を有しており技術的優位性がある。

さらに、スマートグリッドにとって重要となる送電網についても日本は今年5月に日本発の国際標準として110万Vの超高圧送電網(UHV)を国際標準化することに成功した。110万Vの超高圧送電網(UHV)は再生可能エネルギー導入に伴う系統電力の品質低下を防ぐほか従来の送電に比べ送電損失が少なくCO2排出削減にもつながりスマートグリッドになくてはならない送電網だ。

既に中国は自国の送配電網の整備において日本発の110万Vの超高圧送電網(UHV)の配備を計画しており日本はその受注に技術的に優位な位置につけている。

また、スマートグリッドの核心部とも言えるV2G(vehicle to grid)というコンセプトにおいても日本は先行性がある。V2G(vehicle to grid)とは、電気自動車やプラグインハイブリッド車などの二次電池を積んだ次世代自動車をスマートグリッドに接続し、自動車で発電した電気の余剰分を配電網に送り家庭用電気として有効活用したり、売電をするというもので日本はこの分野でも二次電池や次世代自動車で先行している。

スマートグリッドの国際標準化において、日本は電力供給の信頼性や超高圧送電網(UHV)そしてV2G(vehicle to grid)というコンセプトに必要な二次電池や次世代自動車などの技術力をカードに、また、米国は一早くスマートグリッド標準化指針をまとめIECの戦略グループ会合の中でプレゼンスを示していこうとする政治力をカードに、そして中国はポテンシャルの高い市場力をカードとして、日本は米国の政治力と中国の市場を、米国は日本の技術と中国の市場を、そして中国は日本の技術と米国の政治力を得るという互いに補完関係を作れる環境にあると言える。

2009年5月、二階経済産業大臣と米国チュー・エネルギー長官の会談により日本の産業技術総合研究所と米国エネルギー省傘下の5つの研究所との間で環境・エネルギー技術についての研究協力の覚書が締結された。中でも商務省国立標準研究所(NIST)と締結された覚書の内容には“スマートグリッド(電気自動車、プラグインハイブリッド車用プラグの標準化含む)の国際標準化を目指す研究開発で協力する”とされておりスマートグリッドの国際標準化において日本と米国の関係が構築されたものになっている。

また、日本と中国とは同じく2009年5月に「省エネルギー・環境分野における協力の継続に関する覚書」の締結をしており省エネルギー・環境分野における協力関係が構築されている。

米中関係においては、2009年7月にワシントンで行われた「米中戦略・経済対話」において気候変動やクリーンエネルギーなどエネルギー問題が米中にとって重要な課題としてこの分野における米中の協力を強化する覚書に両国が署名をしており今後環境・エネルギー分野での米中の協力関係が進むことが見込まれる。

日米中の環境・エネルギー分野における外交関係を見てみても日米、日中、米中とお互いに協力関係にあることがわかり、スマートグリッドの国際標準化を目指すにあたって日本の技術力、米国の政治力、中国の市場力という3つの要素をあわせ自国にとって優位な形でスマートグリッドの国際標準化を日米中の協力で進めることができる可能性がある。
日米中の協力を核として、スマートグリッドで技術力があるとされている韓国やその他アジア諸国との関係を構築して行くという方向も見えてくる。

現在、日本は地球温暖化や環境・エネルギー分野において様々な二国間関係や多国間枠組の構築に取り組んでいるが、日本の資源といえる環境・エネルギー技術の維持発展を目指すのであれば、単なる二国間関係の構築や一つの枠組み内での日本の役割作りにとどまるのでは無く、技術の国際標準化ということを念頭に、より広い視野で全体を俯瞰した国際関係の構築を戦略的に進めることが必要である。


<平沼光/東京財団研究員兼政策プロデューサー>
日産自動車株式会社勤務を経て現職。現在は東京財団政策研究部にて外交・安全保障、資源エネルギー分野のプロジェクトを担当する。

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