1.輸出規制を強める中国
中国政府は2010年7月、レアアースの輸出枠を大幅に減らすことを発表、昨年度の輸出枠5万トンに対し今年は4割減の3万トンになる見通しだ。
レアアースは希少鉱物資源として経産省が指定する31種類のレアメタルのうちの一つで、
ハイブリッド車、EV車など次世代自動車の駆動モーター、原子炉の放射線遮蔽材、省エネディスプレイ、蛍光体など様々な環境・エネルギー技術に不可欠な鉱物資源である。
現在、中国はその世界需要の約9割をまかなっているという寡占化した状況にあり、日本もその供給のおよそ9割を中国からの輸入に頼っている。
先ごろ経産省が公表した「次世代自動車戦略2010」では、ハイブリッド車、電気自動車等の次世代自動車の新車販売台数における割合を2020年までに20%~50%に引き上げる方針にある。
<2020年、2030年の新車販売における次世代自動車普及政府目標>
(※経済産業省「次世代自動車戦略2010」より)
例えば、2009年度の新車販売台数約489万台を目安に考えると、レアアースを多く必要とする次世代自動車は2020年には200万~300万台に膨れ上がる計算になる。
これを実現するにはレアアースの安定確保は絶対条件になり中国の輸出枠削減は痛いところなのである。次世代自動車に限ったことではない。温室効果ガス25%削減を掲げる日本にとっては様々な環境・省エネルギー技術を普及させる必要があるが、前述したようにその多くの技術、製品にレアアースをはじめとするレアメタル資源が必要なのだ。
事態を重く見た日本政府は2010年8月23日に北京にて開催された日中ハイレベル経済対話にてレアアースの輸出規制緩和を中国政府に申し入れたが、中国は輸出枠拡大に伴う資源開発が自国の環境破壊につながる事を表向きの理由に拒否をした。中国のレアアース採掘はレアアースが埋蔵されている山(鉱床)に酸性の薬品を流し掛け、溶けだした溶解液からレアアースを抽出するという方法が一般的であるが、流れ出した溶解液が河川を汚したり土壌汚染を引き起こしたりする環境問題を抱えている。
環境問題を背景にした中国の対応に対し、これといった交渉材料を持ち合わせていない日本の申し入れはまったく聞き入れられなかったという結果に終わった。
中国が輸出枠を削減する根幹の理由は、
(1)今後増えるであろう自国産業の需要を優先させるため。
(2)世界需要の9割をまかなっている自国のレアアースの価値を高め、戦略物資化することで外国の資本と技術を手に入れるカードとするため。
の二つが主なものとして考えられる。
特に中国はこれまでの資源を切り売りする資源ビジネスから脱却し、自国の資源を利用して高付加価値な製品を製造する産業振興を図ろうとしており、今後中国国内でのレアアースの需要が伸びる見通しにある。既に、2008年の中国のレアアース消費量は1990年比10倍という高い伸びを示しているほか、中国政府が2009年3月に公表した「自動車産業調整振興計画」では、電気自動車(EV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、ハイブリッド車(HV)などの次世代自動車の生産能力を2011年までに50万台に引き上げるほか、乗用車販売台数における次世代自動車の比率を5%に高める方針であることなどから今後さらなる中国国内のレアアース需要増大が見込まれる。
また、中国は1992年の南巡講話で?小平氏が、「中東有石油 中国有稀土 一定杷我国稀 土的優勢発揮出来」(中東に石油があるように中国には希土(レアアース)が有る・・・)と語ったようにレアアースを戦略物資と考えており、自国のレアアースの価値を高めるため様々な動きを見せている。
2009年5月、中国の非鉄金属企業の中国有色鉱業集団有限公司(CNMC)は豪レアアース資源開発大手のライナス社(Lynas Corp.社:本社シドニー)の株式の51.6%を取得しようとする動きを見せた。これに対して、豪FIRB(豪州外国投資審査委員会)は国益の観点から新たな鉱山開発を行う企業への外資の出資率を50%未満とすること等の新規制を導入。それにより中国有色鉱業集団有限公司(CNMC)はライナス社(Lynas Corp.社)への出資を撤回するという動きがあったが、こうした中国の動きは他国におけるレアアース開発に干渉することでレアアース市場の寡占化を目指していると見ることが出来る。