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日本のエネルギーを再考する ~福島原発事故から2年を経て~

March 21, 2013

東京財団研究員
平沼 光

3.11後の方向性は?

2011年3月11日、東日本大震災の影響により東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生した。原子炉建屋が爆発し白煙を上げているショッキングな映像は2年を経た今でも記憶に新しいことだろう。

事故を受けて菅直人首相(当時)は、2030年の総電力量における原子力利用を50%以上としていたエネルギー基本計画を一旦白紙に戻すことを表明。

その後の野田政権では2012年の衆院総選挙のマニフェストにおいて「2030年代に原発稼働ゼロ」が明記された。

選挙の結果、自民党が大勝したわけだが、昨年12月に公表された自公連立合意文書におけるエネルギー政策の方針では、原発依存を減らし再生可能エネルギーの普及などエネルギーを多元化する方向が示されている。

<自公連立合意文書 エネルギー政策抜粋>

四、原発・エネルギー政策
原発の再稼働については、国際基準に沿って安全第一主義を徹底した原子力規制委員会の専門的知見の判断による。同時に、省エネルギー、再生可能エネルギーの加速的な導入や火力発電の高効率化等の推進によって、可能な限り原発依存度を減らす。


原発の賛否についての議論は未だ尽きないが、いずれにしろ原発依存を減らしエネルギーの多元化を進めるというのが3.11の原発事故以降今日に至るまでに見えてきている日本のエネルギーの方向性といえる。

普及が急がれる再生可能エネルギー

こうした中、エネルギーのあらたな選択肢として注目されているのが再生可能エネルギー(再エネ)だ。

日本は資源・エネルギーに乏しい国といわれてきたが、原発事故以降、環境省をはじめ関係各機関から日本の豊富な再エネのポテンシャルが示されているほか、これまで高いとされてきた再エネのコストも火力、原子力といった従来型発電のコストに近づきつつあることが公表されている。

問題はいかにして迅速に再エネを普及させるかという点になるが、再エネは日照や風量など気象条件に左右され電力が安定しないこと、再エネ発電に適した地域と消費地を結ぶ送電網の大規模な整備が必要なことなどの課題が指摘されている。

こうした課題を解決するには従来の制度や電力システムのあり方などの常識にとらわれず柔軟に対処することが必要だ。

例えば、送電網の問題が指摘されているが、実は地域をまたがり電力を融通する日本国内の電力の連系線設備容量は意外にも多いことは一般にあまり知られていない。

国家間で電力融通を盛んに行っている欧州を例に見てみるとデンマークの国際連系線設備容量は約51%、ドイツ:約36%、ポルトガル:約27%、スペイン:約9.4%、アイルランド:約5%となっている。

一方、日本の地域間を跨る連系線設備容量は、中国地域で約128%、関西地域:約70%、北陸地域:約67%、東北地域:約28%、東京地域:約9%、北海道地域:約6%となっており東日本は比較的少ないものの西日本には十分な連系容量があるといえる。

現状、日本の連系線の活用は規制により制限されているがこうした連系線を再エネに開放することで送電網の課題の多くに対処できる可能性がある。

また、日本では対応が困難とされている再エネの電力変動についてもスペインでは発送電の完全分離を行い、送電部門に電力変動に対処する責任と機能を集中させることでコストが高くなる蓄電池にも頼らず対応に成功している。(スペインの電力システムの詳細については 論考「再生可能エネルギー スペインの成功事例を見よ」 を参照)

再生可能エネルギーの普及を促進するためにはこれまでの日本の常識から離れ、柔軟に対応することが求められている。

外交力が問われる天然ガスの獲得

2013年3月現在、全50基の原発中2基をのぞいて運転を停止しているという状況下において、それに伴う発電電力量の不足分は、当面火力発電、なかでも環境・コスト面で相対的に優位性のあるLNG(液化天然ガス)火力で代替することになる。

しかし、これまで日本は天然ガスを世界的にも割高な価格で調達してきており、天然ガス輸入拡大にともなうコスト増が懸念されている。

シェールガス革命の影響で価格が下がっている北米の天然ガスのスポット価格は約2ドル/100万BTU(英国熱量単位)に対し、日本向けLNGのスポット価格は3月現在約17ドル/100万BTUとかなり高い。

貿易統計によると、2012年の日本のLNG年間輸入量は8731万トン。これは震災前の2010年に比べ25%も増えたことになる。

このまま高い調達価格での輸入が増えると電力価格にも影響が出ることから、いかにして安く、安定的に天然ガスを調達するかということが喫緊の課題となっている。

そのため、日本は天然ガスの主な輸入先を従来のインドネシア、マレーシアといった東南アジア諸国、カタールなどの中東諸国に限らず、シェールガス革命で安価な天然ガス生産が可能になった北米や、日本の至近のサハリンに大量の天然ガス埋蔵量を有するロシアなどにも調達先を広げる必要がある。

昨今の世界の天然ガスマーケットはシェールガス革命により市場にダブつきが生まれたことによる価格体系の変化など、ある意味従来に比べ買い手市場になりつつある。

そうした中、一大天然ガス輸入国である日本はその市場力をもって調達交渉を有利に運べるチャンスである一方、原発停止による天然ガス需要の増大という日本の苦しい状況を産出国から見透かされるリスクもあり、日本の資源外交力が問われる状況になっている。

東京財団では日本の資源外交の具体策として昨年5月に 提言「日本の資源エネルギー政策再構築の優先課題 ~制約条件から導くエネルギー像と取り組むべき中長期的課題への提言~」 を公表。提言では、天然ガスの安定・安価な調達のための施策としてロシア産天然ガスをサハリンからパイプラインで調達する可能性を提示した。

また昨年10月には、先日海底からの天然ガス産出試験に成功した日本のメタンハイドレート開発について、日本の卓越したメタンハイドレート開発技術を資源外交のツールとすることを提案した レポート「日本の天然ガス確保策 ~メタンハイドレート開発技術を外交カードに~」 を公表している。

再生可能エネルギーの普及と共に喫緊の課題である天然ガスの安定・安価な調達についても、既存の枠を超えた大胆な発想であらゆる手段を尽くすべきであろう。

問題の克服が最優先の原子力発電

エネルギーの選択肢が限られている現状の日本にとって、どのような選択肢であれ安易にそれを手放すことは得策とはいえない。

特に、前述したようにこれから益々資源外交を推進していかなければいけない状況においては一つでも多くの選択肢を外交カードとして保持しておくべきである。

その意味で、これまで日本のエネルギーを支えてきた原子力発電についても選択肢としてテーブルに残すと共に、実用できる電力供給源としてその役割を期待したいところだが、原発事故により浮上した原子力発電に係わる様々な問題が解決しない限り、原子力発電が日本のエネルギー多元化の基幹を担うことは現状不可能といえる。

特に、地震のリスクを目の当たりにした日本にとって、活断層の有無を含め既存の原子力発電所の安全確認は急務である。

2013年3月18日、内閣府中央防災会議の作業部会は南海トラフ巨大地震の被害想定の報告(第二次)を公表。東日本大震災(M9.0)を上回ると想定される南海トラフ巨大地震(推定M9.1)の被害総額は220兆円にも及ぶと試算されたが、試算には地震による原発事故は含まれていない。今後は南海トラフ巨大地震が原子力発電所に及ぼす影響も今まで以上に慎重に検討する必要がある。

バックエンド(放射性廃棄物処理等)の未完成という問題も克服しなければならない。原子力発電は発電だけではなく、発電の過程で生じる放射性廃棄物の処理までを含めて一連のシステムといえるが、放射性廃棄物を最終的に何処に、どのように処理するのかがまったく決まっていないという大きな問題がある。

原子力発電に関してはこの他にも様々な問題が3.11原発事故以降指摘されているが、そうした問題に対する答えなしに、短期的な経済影響のみを理由に推進することは現状困難といわざるを得ない。

政府の覚悟が示せるか

昨年の衆議院議員選挙により政権が民主党から自公連立政権へと移行したが今のところ具体的なエネルギー政策は十分示されていない。

おそらく、次の参議院議員選挙が終わるまでは明確にならないのかもしれないが、どのような施策を講じるにも困難の無いエネルギー政策の選択はありえない。

前述したとおり、再エネ、天然ガス、原子力等それぞれに乗り越えなければならない課題があるからだ。

かといって、困難の無い選択として3.11福島原発事故前のエネルギー政策に後戻りすることは許されない。

本稿を執筆している最中に、「発送電分離を盛込んだ電力改革の政府方針案が骨抜きになるのでは?」という報道があった。

政権与党は「何のためにエネルギー政策を再構築するのか?」、「エネルギー政策を再構築する上で一番重視しなければいけないことは何か?」を今一度熟慮し、覚悟を持って政府としての具体策を国民に示すことが必要だ。

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