タイプ
論考
プロジェクト
日付
2018/9/3

固定資産税と空き家問題


 

佐藤主光  

一橋大学国際・公共政策研究部教授

 

不動産登記簿などの台帳からでは所有者が直ちにはわからない土地が九州の面積を越えているという。平成25年住宅・土地統計調査でも空き家数は820万戸と5年間で63万戸(8.3%)増加し、総住宅数に占める割合は13.5%と過去最高になっている。この問題の拡大を防ぐよう政府は相続登記の義務化の是非や土地所有権の放棄の可否を検討する方針だ。関連して「骨太の方針2018」(平成30年6月15日)では所有権のあり方や登記制度など土地の基本制度の見直しについて2018年度中に方向性を示した上で、2020年までに必要な制度改正を行うとする。ただし、空き家問題等は登記など土地制度の不備や高齢化・人口減少といった人口動態の変化のみに帰せられるわけではない。税、特に固定資産税が影響しているところが大きい。

 

固定資産税は市町村の基幹税であり、土地・家屋および償却資産(機械設備等)を課税対象とする。地方税法の定める標準税率は1.4%、税収は8兆8千億円余りと市町村税収の4割を占める(平成28年度決算)。納税義務者は、土地・家屋については、登記簿等に賦課期日(1月1日)に所有者として登録されている者で、これらの者が死亡しているような場合は賦課期日において「現に所有している者」とされている。また、所有者の所在が不明であれば、その使用者を所有者とみなす。地価の下落で減少傾向とはいえ、法人二税(法人事業税・住民税)などと比べると安定的な税源になっている。一人あたり税収でみた偏在性も最大と最小で2.3倍ほどと個人住民税(同2.6倍)や法人二税(同6.1倍)に比して小さく留まる。地方消費税(1.6倍)に次いで地方自治体にとって「安定的で偏在性のない税源」になっている。地方財政の教科書でも固定資産税は「望ましい地方税」の例に挙げられる。「安定的で偏在性のない」ことに加えて、地方公共サービスを受益する地域住民が(持ち家であれば直接に賃貸でも家賃を通じて間接的に)負担しているという意味で課税の応益性(受益者負担の原則)に適っているからだ。固定資産税は「地域社会の会費」としての役割を果たしうる。しかし、固定資産税の実態は必ずしも教科書通りではない。実際、小規模住宅(宅地面積が200平米以下)や新築住宅への優遇措置が空き家問題の要因になってきた。

 

固定資産税(土地)は宅地については公示地価等(市場価格に相当)の7割を目途に評価(評価替えは3年おき)するものとされる。ただし、その評価額(=7割×公示地価等)がそのまま課税標準(ベース)になるわけではない。「住宅政策上の観点から、住宅用地に係る税負担については緩和することが必要」として同用地のうち200平米までの部分を課税標準が6分の1に圧縮する特例措置が講じられてきた(地方税法第349条の3の2)。あわせて都市計画税も3分の1になる。200平米を越えた部分の圧縮幅は3分の1(都市計画税は3分の2)となる(地方税法第702条の3)(図1)。応じて固定資産税額(=税率×課税標準)が減じられる。税制上、小規模住宅を有利にする仕組みだ。わが国の住宅はかつて「ウサギ小屋」などと揶揄されたが、税制がウサギ小屋を促進してきた面は否めない。

 

図1:固定資産税額(土地)の決定 

こうした軽減措置は住宅に限らない。個人商店のような店舗と住宅が併用されている家屋(併用住宅)の敷地であっても、家屋の床面積に占める住宅部分の割合が4分の1以上の場合には住宅部分の割合に応じた住宅用地特例の適用がある。実際、二階建ての併用住宅であれば、住宅部分の面積が2分の1以上なら小規模住宅の軽減措置が完全適用される(固定資産税額が6分の1になる)。近年、伝統的な商店街から客足が遠のき、店舗は閉店に追い込まれて「シャッター通り」が増えていることが問題視されている。しかし、店舗のシャッターは下りたままでも所有者は居住し続けることが多い。これは固定資産税が軽く済んでいることもある。さもなければ閉店して収入が乏しい以上、税負担には耐えられないだろう。高齢・零細の事業者といった社会的弱者の保護になっているようにみえるかもしれないが、商店街の新陳代謝(新規事業者の算入による活性化)を阻害してしまっている。

 

小規模住宅への優遇措置は空き家が空き家のまま放置される要因でもある。一旦、住宅を撤去して更地にすれば、当該土地は宅地でなくなるため6分の1(200平米を越えた範囲では3分の1)の減税が享受できなくなるからだ。空き家の放置は固定資産税の負担回避策になってしまっているのだ。管理が不十分になった空き家は、「火災の発生や建物の倒壊、衛生面や景観面での悪化等多岐にわたる問題を発生」させかねない。そのため政府は「空家等対策の推進に関する特別措置法」(平成26年)でもって、市町村長が周辺の生活環境の保全上、必要と認めた場合、当該空き家を「特定空家等」に指定すれば、固定資産税等の住宅用地特例の対象から除外することができるような措置を講じた。

 

空き家が増えるのは中古住宅の活用が進まないこともある。「住生活基本計画」(平成28年3月)は「空き家問題が深刻化する中で、既存住宅活用型市場への転換が求められてきた」とした上で「建替えやリフォーム等を推進するとともに、良質な住宅・宅地ストックの流通や空き家の有効利用を促進」するとしている。家計の純資産総額(約2,687兆円)の約1割が住宅、4分の1が土地であることを勘案すれば、中古住宅市場が活性化して、中古住宅の価値が高まれば、家計の住宅資産額が増大して「消費や投資の拡大が期待でき、日本経済に好循環をもたらすものと考えられる」。しかし、 中古住宅の流通シェアは約14.7%(平成25年)と7~9割程度の欧米諸国と比較して極めて低い水準に留まってきたのが現状だ。「新築住宅中心の市場から既存住宅活用型市場への転換が遅れている」背景にあるのは、いわゆる「逆選抜」として知られる中古住宅の質(性能)に係る買い手と売り手の間での情報の非対称性に留まらない。固定資産税にも原因がある。家屋に係る課税分については新築住宅(一般住宅)であれば、3年間は居住部分に係る床面積で120平米を限度に税額を2分の1に軽減する措置があるからだ。時限措置とはいえ、新築と同価値な中古住宅にとっては不利に働くことになる。なお、所得税の住宅ローン減税は耐震性を満たすことを要件に中古住宅と新築の格差は解消されてきている。税制上、固定資産税がいまだに新築志向になっている。

 

ではどうするか? 空き家が増えることを事前に防ぐには中古住宅と新築住宅との間での税制上の格差を解消して中古住宅市場の活性化に繋げる。具体的には新築住宅に対する優遇措置(3年間家屋に係る固定資産税を2分の1に軽減)を見直すことだ。一旦、空き家になったとき更地にせずにそのまま保有することが有利なのは小規模住宅の課税標準を6分の1に圧縮されているからでもある。こうした措置はシャッター通りが放置される要因でもあり、商店街の新陳代謝を損ねて、将来的に空き家化を進めかねない。住宅供給を歪める(ウサギ小屋を増やす)ほか、固定資産税の応益性にも反する。小規模住宅への軽減は元来(平成5年度まで)4分の1だった。その水準に課税標準の圧縮を抑えることだろう。住宅の保有者に不利な改正に思われるかもしれないが、税制でもって保有コストを上げることは(税負担に見合う便益があるよう)土地の有効活用にも繋がることが期待される。合わせて不動産取得税(都道府県税)や所得税の譲渡益課税を軽減して、空き家の売却等をし易くすることだ。関連して平成28年度税制改正では「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」が設けられている。これからの宅地課税は総じて①保有段階で課税を強化する一方、②取引段階の課税は軽減していくことが望まれる。

 

 

 

佐藤主光 (さとう  もとひろ)

1969年秋田県生まれ。92年一橋大学経済学部卒業後、98年クイーンズ大学(カナダ)で博士号(経済学)を取得。99年に一橋大学に着任、2009年から同経済学研究科、政策大学院教授。専門は財政・地方財政学。主な著書に『地方交付税の経済学』(2004年、共著、日経・図書文化賞受賞)、『地方税改革の経済学』(2011年、エコノミスト賞受賞)などがある。学術研究の他、政府税制調査会委員、財務省財政制度等審議会委員、内閣府経済財政一体改革推進委員会委員を歴任。地方自治体関係では東京都「東京と日本の成長を考える検討会」委員、奈良県税制調査会委員などを務めている。

 

 

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