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地域の課題を解決する再生可能エネルギーの活用 ~耕作放棄地問題に取り組んだ宮津市~
写真提供:Getty Images

地域の課題を解決する再生可能エネルギーの活用 ~耕作放棄地問題に取り組んだ宮津市~

February 25, 2020

研究員
平沼光

パリ協定の発効により世界各国で再生可能エネルギー(以下再エネ)の普及が進められてきたが、ここに来てその動きはますます活発化する方向にある。日本においても自治体をはじめとする地域からの再エネ普及の要望が高まってきている。その背景には気候変動問題への対応という従来型の動機だけではなく、再エネの活用による地域の課題解決という視点がある。本稿では再エネを活用した地域課題の解決を目指すにあたっては何が要点となるのか、国内外の事例から考察する。 

高まる再生可能エネルギーの必要性

2019年7月、全国19の指定都市(政令で指定する人口50万人以上の市)で構成される指定都市自然エネルギー協議会(以下協議会)は、提言書「自然エネルギーによる持続可能な社会の構築に向けた提言 ~自然エネルギーによる強靭なまちづくり~」を公表した。協議会では、これまで自然エネルギー(再エネ)の電源構成比率について2030年に30%を求めてきたが、協議会の提言書ではこれまで求めてきた30%にとどまらず、野心的かつ意欲的な目標値を国が示す必要があることが提言されている。

協議会が再エネの普及を求める背景には、気候変動問題への危機感の高まりをはじめとした様々な環境の変化がある。パリ協定では世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2度未満に保つことが目標とされたが、2018年10月には、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)から、平均気温上昇を1.5度に抑えることが持続可能な世界を確保するために必要であり、そのために再エネの電力構成比率を48%~60%とするシナリオを示した特別報告書『1.5℃の地球温暖化』が公表され、再エネの活用をはじめとした気候変動対策がより一層自治体に求められる状況になってきている。

こうした気候変動問題への対応という従来型の再エネ普及の必要性に加えて、協議会が再エネの普及を求める理由には、提言の副題にあるように、再エネの活用による地域づくりという視点がある。協議会の提言には、北海道胆振東部地震等の教訓から、災害時における電力供給途絶リスクを回避するため、地域の再エネを活用したエネルギーセキュリティの確保によるまちの強靭化が盛り込まれているほか、地域経済の活性化と言う視点でも再エネの普及が求められている。

また、2019年6月にはRE100メンバー会の民間企業20社から提言書「再エネ100%を目指す需要家からの提言」が公表されている。RE100会とは、自社の事業で使用するエネルギーを100%再エネにすることを宣言した企業の国際的な連合体であるRE100(Renewable Energy 100%)に参加する日本企業が集まった会合だ。提言では、①再エネの社会的便益の適切な評価と、それに基づく政策立案、②日本の電源構成について、「2030年に再エネ比率50%」を掲げること、③他の電源に対して競争力を有する再エネを実現する環境整備、という再エネの普及を求める3つの提言がなされている。特に、提言で求めている2030年に再エネ比率50%という構成比率は、現在の日本の2030年の目標値である22~24%と比べると倍以上となり、いかに需要者側の再エネニーズが高いかが伺える。 

RE100会のように需要者側が再エネの普及を求めるのは、気候変動問題への対応無しに企業の持続的な経営は困難になってきたというビジネス環境の変化がある。パリ協定の発効以降、環境に配慮した企業が投資対象となるESG投資が世界的に進展する中、さらなる気候変動問題への対応を求めるIPCCの特別報告書『1.5℃の地球温暖化』の公表により、再エネの活用をはじめとした気候変動対策を怠る企業は競争力を失いかねない厳しい状況になってきている。地域経済の視点から見れば、こうした民間企業が気候変動問題への対応として再エネを調達しやすい環境を地域で構築することが、地域経済の活性化にとって重要になってきている。 

地域における再エネ普及の課題

気候変動対策という視点だけではなく、まちづくりといった視点からも地域における再エネの普及が重要になってきているが、これまでの日本の普及過程においては再エネの普及が地域の問題となる事例も発生している。特に発電容量が1メガ㍗以上になるメガソーラーのような大規模な太陽光発電施設については、地域の自然環境・生活環境や景観への影響を懸念した地域住民による反対運動が起こり、計画が頓挫した事例も発生している。既に長野県では太陽光発電設置による自然環境や景観への悪影響、災害発生の懸念に対処するため条例を改正し、一定規模以上の太陽光発電所の設置を環境アセスメントの対象事業に加えるなど、独自の対処を行っている地域もでてきている。

また、地域における再エネ事業の在り方という課題もある。2018年3月末時点、再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT制度)における設備認定容量の約81%を太陽光発電が占めており、その多くがメガソーラーとなっている[1]。メガソーラーは設置地域外の資本が行う外部資本型が多い。地域に外部資本のメガソーラーを受け入れても、メンテナンスなどの仕事は設置者である外部資本の事業者が請け負い、地元にはさしたる雇用を創出せず、売電益は外部資本の利益となり、法人税は外部資本の事業本社がある自治体の税収になるなど、地域にとって外部資本型の再エネ事業はあまりメリットがないという指摘もある[2]。日本で再エネをさらに普及させるためには、こうした課題にどのように対応していくかが重要なポイントとなる。

注目されるシュタットベルケ

自治体をはじめとした地域における再エネ普及のニーズが高まっている一方、再エネ発電施設の設置による地域の環境や景観への配慮、そして、再エネ事業による地域のメリットが見いだせなければ地域における再エネ事業の持続的な運営は難しいものとなるだろう。そうした中、持続可能な再エネ事業のモデルとして注目されているのがドイツのシュタットベルケ(Stadtwerke)である。

シュタットベルケとは、様々な地域公共サービスを住民に提供する自治体出資の地域公共サービス公社と呼べる組織である。シュタットベルケは、自治体の出資により設立されるが自治体とは独立した組織体制として存在し、再エネによる電力事業をはじめ、ガス事業、水道事業、熱供給事業、インターネット事業、市内バス事業など様々な公共サービスを住民に提供することで、どれか一つの事業が赤字となっても内部補助によりその他の黒字化部門が赤字部門を補い、事業全体としての安定性を高めているという特徴がある。こうしたシュタットベルケはドイツにおよそ1,400社存在し、電力市場に占めるシェアは自己電源ベースの小売りシェアが20%程度、市場調達を含む小売全体では約60%を占めている。

例えば、ドイツのハイデルベルク市(人口15万人)が100%出資して設立された資本金およそ6000万€のシュタットベルケ・ハイデルベルク社(以下 ハイデルベルク社)は、その傘下にエネルギー公社、ネットワーク公社、省エネ・環境関連公社、交通インフラ・登山鉄道運営公社、駐車場運営公社という5つの公社を子会社として設立することで地域のニーズを満たすサービスを展開するとともに地域雇用を創出している。エネルギー公社では、温室効果ガス削減に対する市民の高い意識を反映して電力販売の約90%が再エネにより賄われ市民のニーズに対応している。こうしたハイデルベルク社に対して地域住民が支払う利用料は公社の運営資金ともなり、巡り巡って様々な公共サービスという形で地域住民に還元されるという資金の地域内循環が行われている。

多様な公共サービスを内部補助により運営しているという点を除き、自治体が出資した公共サービス会社という点において、シュタットベルケは日本の第三セクターとほぼ同類と言えるが、最大の違いはシュタットベルケが地域の利益創出に貢献していることを市民が十分に理解している点にある。例えば、ハイデルベルク社が提供する電力は大手電力会社よりも1~2%高い値段で電力販売をすることもあるが、温室効果ガス削減に対する市民の高い意識や地域の雇用創出など、地域への利益還元を重視する住民により市内の84%の需要家がハイデルベルク社から電力を購入している。

日本では再エネ普及にともなう景観悪化や地域への利益還元が疑問視されるという状況にある一方、ドイツでは再エネ事業を実施することによる地域の利益を明確にし、それを市民が高い理解により支えることで持続可能な再エネ事業を成り立たせ、地域における温室効果ガス削減や経済活性化などの地域課題の解決を実現していると考えられる。

こうしたドイツのシュタットベルケをモデルとして日本でも日本版シュタットベルケと称した事業体を立ち上げる動きが始まっているが、ドイツのような地域住民の高い理解を得た取り組みには至っていない。日本版シュタットベルケの代表例とされた事例でも思うように地域住民を顧客として獲得できずに苦戦している状況にある。そうした中、京都府宮津市では地域住民を巻き込み、地域の課題を解決する再エネ事業の創出を実現させている。 

住民理解のもと実現した宮津市の太陽光発電事業[3]

2017年9月、オムロンフィールドエンジニアリング株式会社(以下、OFE)、京セラ株式会社(以下、京セラ)、そして宮津市の地元企業である金下建設株式会社(以下、金下建設)は、3社が出資して設立した特別目的会社(SPC)の宮津太陽光発電合同会社(以下、宮津太陽光SPC)が京都府宮津市に6ケ所の太陽光発電所(合計設備容量4,948kW)を開設したことを公表した。開設された太陽光発電施設の年間発電量は、一般家庭約1,100世帯分の年間電力消費量に相当し、約2,896tのCO2削減効果をもたらす規模とされている。発電量やCO2削減効果もさることながら、宮津太陽光SPCが開設したこの発電所の注目点は、地域の課題を解決することを目的に地域住民と宮津市が積極的に太陽光発電所の開設に協力したことにある。

宮津太陽光SPCが開設した発電所は、宮津市由良地区、上宮津地区、栗田地区の遊休地を活用して開設されているが、特に由良地区では京都丹後鉄道丹後由良駅南側に広がる耕作放棄地が数十年に渡ってほとんど手つかずとなっていたことから、雑木や雑草が生い茂る状態となっており、近年ではそこに住み着いた野生動物が近隣住宅地にまで出没する等、地域住民にとって大きな課題となっていた。また、宮津市では、地域の持続的な発展のため、地域の再エネを有効に使い環境負荷の少ない低炭素型社会の実現を目指す方向にあった。特に、宮津市にとっては地球温暖化による海面上昇が重要な観光資源である「天橋立」へ影響を及ぼすことも懸念されており、気候変動問題への対応は市の課題とされていた。

こうした地域住民と自治体の課題を背景にして、OFEは宮津市との共同により、経済産業省からの補助金を活用した「京都府宮津市由良地区エネルギー地産地消事業化可能性調査」を2015年に実施し、その調査結果を踏まえて太陽光発電事業の企画化に漕ぎつけている。事業は単なる外部資本の太陽光発電事業ではなく、由良地区の耕作放棄地を整備し、太陽光発電事業を行うことで荒れ放題になっていた土地の問題を解決し、地域に貢献することも目的とされていた。

OFEは、事業計画の策定、発電設備の設計・施工と事業期間中の保守管理を担う事業のトータルコーディネーター役として地域の自治会に事業の趣旨を説明し、自治会とともに百以上に分筆され所有者不明になっていた耕作放棄地の地権者の特定を行っている。そして、事業が地域経済にも好循環をもたらすよう地元の企業である金下建設が土地の整備を担い、京セラが太陽光発電モジュール及び周辺機器の供給を担う3社のパートナー体制を構築し、共同出資による宮津太陽光SPCを設立。SPC設立後、OFEは金下建設と共に公民館での住民説明会の開催や地権者との契約などを行い、太陽光発電事業を実現させている。事業収益の一部は自治会に寄付として提供され地域活性化に役立てられることにもなっており、宮津太陽光SPCの太陽光発電事業は住民理解のもと地域の課題を解決する事業となっている。現状、発電された電力は固定価格買取制度による売電が主となっているが、宮津市ではさらなる再エネの有効活用を目指し、小売電気事業の実施も検討されており、宮津太陽光SPCの太陽光発電事業はその第一歩として位置づけられている。

宮津太陽光発電合同会社の取り組み概観 宮津市の取り組み

再エネ活用による地域課題の解決に向けて

前述したようにシュタットベルケの大きな特徴は、①自治体出資、②内部補助による経営、③地域に利益を生み出す事業、④地域住民の理解、という4つの点にある。宮津太陽光SPCの取り組みは、自治体からの出資はないが自治体の積極的な協力という意味では宮津市がコミットしている。また、事業による耕作放棄地の有効活用や事業を通じた自治会活動への協力という点では地域に利益を生み出す事業となっている。そして、地域課題を解決し利益をもたらすことが明確であるがゆえに十分な地域住民の理解が得られており、耕作放棄地の地権者の特定などの実務において自治会という地域住民からの協力が得られている。発電事業を含めた複合的な公共サービス事業の内部補助による経営こそ行われていないが、将来的に宮津市による小売電気事業などが実施されれば他の公共サービスとの相乗効果の促進も考えられる。

ドイツのシュタットベルケと比べてみても宮津太陽光SPCの取り組みはシュタットベルケの重要な特徴を備えていると言える。特に、地域住民がその活動に理解を示し、積極的に事業の実現に協力している点は、将来的に宮津市による小売電気事業が実施された際に地域住民が主たる顧客として小売電気事業の持続的な経営を支えることが考えられる。

現在様々な自治体で持続可能なまちづくりという名目のもと再エネを活用したまちづくりが取り組まれているが、再エネの活用ありきが前提の計画を策定し、後から地域住民を参加させるべく周知活動を展開するという事例が多く見受けられる。一方、宮津市の事例を見ると、その取り組みの構造は地域課題の把握から始まり、地域課題を再エネの活用により解決できるかの検討、そして課題に係わる地域のステークホルダーとの関係構築というプロセスを踏まえた、地域課題の解決を前提としたものになっていることが伺える。

気候変動問題への対応という従来型の動機だけではなく、地域の課題解決という視点から今後ますます再エネの普及が求められる傾向にあるが、再エネの活用による地域課題の解決に向けては、宮津市の取り組みは参考事例とすることが出来るだろう。 

 

[1] 経済産業省 資源エネルギー庁固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイト https://www.fit-portal.go.jp/PublicInfoSummary
[2] 西城戸誠「特集論文 再生可能エネルギー事業と地域環境の創造」都市社会研究2015 第7号 P32(2015)

[3] 宮津市における取り組みについては2019年7月11日に行った現地調査を基にする。

※本稿は時事通信社『地方行政』2019年10月17日号に寄稿の「変わる自治体の環境問題への取り組み方(上)地域利益を生み出す太陽光発電所の創出」に一部加筆して掲載。

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