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平沼常勤研究員執筆の書籍「サーキュラーエコノミーの地政学」のご紹介
December 19, 2025
12月19日に平沼光常勤研究員が執筆した書籍「サーキュラーエコノミーの地政学」(日経BP・日本経済新聞出版)が出版されました。平沼常勤研究員より書籍をご紹介いたします。
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今夏の参院選では実質賃金の向上など、国民の懐をいかにして潤すかが大きな争点となった。国民の懐を潤すための課題として「年収の壁」などの個別政策に注目が集まったが、忘れてはならないのが深刻な人口減少という日本の大きな課題だ。
このまま日本の人口減少が進むと、働く人よりも支えられる人が多くなり、労働力人口減が経済にマイナスの負荷をかける「人口オーナス」の状態がさらに深刻化することが懸念され、国民の懐を潤すどころか日本の「稼ぐ力」が著しく低下してしまう危険性がある。
人口減少下でも日本の「稼ぐ力」を持続可能にし、実質賃金を向上させるには労働生産性のさらなる向上とともに、円安抑制や資源・エネルギー輸入依存の解消など交易条件の改善が欠かせない。
特に、労働生産性が1990年から年平均+0.6%向上している一方、交易条件は年平均-0.6%と悪化している(※)ことから交易条件の改善は急務と言えるだろう。
なにしろ2023年の原油や石油製品、液化天然ガス、石炭などの鉱物性燃料と、鉄鋼、非鉄金属、金属製品などの原料別製品の輸入額の合計は約34兆円に達しており、2001年の輸入額合計約11兆円と比べ3倍にも膨れ上がっている状況にある。
日本は自動車や半導体製造装置などの高付加価値品を世界に売って外貨を年間約20~30兆円稼いでいるが、せっかく稼いだ外貨が鉱物性燃料と原料別製品の輸入のために国外に流出してしまっていることになり、ただでさえ「稼ぐ力」の低下が懸念されている。
こうした中、世界では「採掘した資源で製品を作り、消費し、捨てる」という資源を直線的に消費して使い捨ててきたこれまでの経済モデル(直線経済)から脱却し、資源を廃棄物から回収しリサイクル資源として循環利用するサーキュラーエコノミー(循環経済)へと移行する動きが加速している。
これは、資源の主役が地中から掘り出される埋蔵資源ではなく、廃棄物から再生したリサイクル資源へと移り変わることを意味し、埋蔵資源に乏しい日本にとっては資源の輸入依存という呪縛から解き放たれ、交易条件を改善するチャンスが巡ってきたと言える。
日本は埋蔵資源に乏しくとも、日々大量に廃棄される廃棄物が都市鉱山として蓄積されている。その都市鉱山をリサイクル活用し、レアメタルをはじめとするリサイクル資源を国産資源として確保することで資源の輸入依存を大きく解消することが期待できる。
自らを「資源に乏しい我が国は・・・」としてきた日本であるが、サーキュラーエコノミーの潮流では資源の主役となるリサイクル資源を輸入に依存することなく、国産資源として自ら調達できるのだ。
そればかりか、足元に目をやれば実は日本には様々な国産資源がある。
日本の年間発電電力量を上回るポテンシャルの再生可能エネルギー、レアアース泥やマンガン団塊など海に囲まれた日本ならではの海洋資源の数々、そして前述した都市鉱山からのリサイクル資源など、日本には様々な国産資源の可能性がある。
米中貿易戦争の影響で中国のレアアース問題が注目されているが、日本は廃棄物からレアアースをリサイクルする高い技術力を持っており、そうした日本の高い技術も無形の国産資源と言えるだろう。
しかし、残念ながらこうした日本の国産資源は十分に活用されておらず、せっかくの国産資源を無駄にしている状況にある。
この度出版した『サーキュラーエコノミーの地政学』では、世界のサーキュラーエコノミーの潮流を紐解くとともに、なぜサーキュラーエコノミーへの対応が必要なのか、国産資源を無駄にしている日本の現状と課題、そして日本がとるべき施策を6つの提言として記した。
本書が日本のサーキュラーエコノミーの構築や人口減少問題への対処の一助に寄与できれば幸いである。
※ 日経ビジネス「[昭和100年]失われた30年 「働けど生活楽にならざり」こんな日本に誰がした第40回 生産性を上げても賃金が下がる窮乏化」2025年5月7日
https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00702/042200041/