写真提供元:GettyImages

消費増税が三たび延期される景況なのか?

平成最後の予算である平成31年度(2019年度)予算案は、3月29日に参議院で可決され、成立した。この予算案は、201910月に消費税率を10%に引き上げることを前提としたもので、消費増税対策(臨時・特別の措置)の予算も盛り込まれた。

そうして、2019年4月1日を迎えた。この日以降は、消費税率が10%となる10月1日以降に商品等を引渡す商取引はすべて(軽減税率対象品目を除く)、法令(消費税制の経過措置)に基づき、消費税率を10%として契約を結ばなければならない。新税率となる6か月前から、こうした経過措置が適用されるからである。

とはいえ、米中貿易摩擦や英国のEU離脱(Brexit)などの影響を受けて、世界経済が減速傾向になる中、10月の消費増税は三たび延期されるのではないか、との見方もある。しかし、4月1日以降に10月の消費増税を延期するとなると、こうした契約を結び直さなければならないこととなり、商取引は大混乱する。もちろん、衆参両院で、消費税率を10月1日に10%に引き上げないこととする法案を審議し可決できなければならない。そのためには、最低でも半月は時間を要する。その間、商品等を引き渡す日の税率が何%になるかが定まらず、契約すら結べないということになって、経済活動を停滞させる。いまさら、10月の消費増税を延期することは実務的に困難である。

ちなみに、消費増税を先送りした過去2回、安倍晋三首相が延期を表明したのは、いずれも増税予定日の6か月よりも前だった。201510月に予定されていた引上げを延期すると安倍首相が表明したのは201411月。20174月に予定されていた引上げを再び延期すると表明したのは20166月である。安倍首相は、この消費税制の経過措置を踏まえていたのだ。

消費増税を10月に予定通り実施すれば、日本から(リーマンショック級の!?)景気後退が起こるとして、景況悪化の不安を吐露する向きもある。本当だろうか。

4月に入り、こうした論議に合わせるかのように、IMF(国際通貨基金)が、“World Economic Outlook”の改訂版を公表した。実質経済成長率を含め、今後の世界経済や各国経済の景況の見通しを発表した。その結果は、2019年1月にIMFが公表した見通しよりも、世界経済の実質成長率を下方修正するというものだった。

この下方修正は、世界各国の株式市場での先行き悲観論を助長した面はあるが、実のところどれほどのものだったのだろうか。IMFが4月9日に公表した世界経済見通しのうち、主要国の実質経済成長率を示したのが、次の表である。

 

表によると、2019年の実質経済成長率は、世界経済全体でみると、1月予測の3.5%から3.3%へと下方修正され、2010年以降で最低の水準となることが示された。その背景には、関税引上げが貿易を圧迫することが懸念され、多くの先進国で成長率が鈍化するという見通しがある。ただ、中国は、追加された景気対策の効果を織り込み、若干の上方修正となった。

日本の実質成長率も、0.1%ポイント下方修正された。そこには、10月の消費増税が織り込まれている。

確かに、世界経済の実質成長率は、下方修正されて世界金融危機以降最低の水準との見通しだが、日本の実質成長率は1.0%である。実は、この成長率は、2018年の0.8%よりもわずかに高いという見通しである。日本に限っては、「成長率の低下」という見通しにはなっていない。もちろん、IMFの見通しには、2019年度予算に盛り込まれた2兆円規模の消費増税対策も織り込まれている。

2019年度予算は、10月の消費増税を前提としているが、同時期から始まる消費増税対策も盛り込まれている。(その是非には議論はあるが)これらがセットになっている。そして、IMFの見通しではこれらがセットで織り込まれている。

IMFの見通しは、消費増税を予定通り実施しても、消費増税対策が同時に講じられることから、2019年の実質成長率は、むしろ2018年よりもわずかに上昇する、という姿を示したものといえる。成長率が上がる状況を、「景気後退」とはいわない。実質成長率は高いとはいえないものの、昨年より成長率が上がる見通しなのだから、消費増税を三たび延期する口実にはできない。

IMFの見通しは、日本の消費増税が引き金になって、景況の悪化が世界経済にも伝播するという話には、全くなっていないのである。ちなみに、今回下方修正された3.3%という世界経済の実質成長率は、201410月に公表されたIMFの同見通しで2014年の成長率として示された水準と同じであった。しかし、結果は、表にも示されているように、2014年の実質成長率は3.6%だった。

今後、世界金融危機の再発を警戒すべきほぼ唯一の点は、中国で金融危機が起きないようにすることである。日本は1997年に、欧米は2017年に深刻な金融危機に見舞われた。現在では、それを未然に防ぐ制度や政策対応が用意されている。日米欧発の金融危機は、今や起きにくい状況になっている。ただ、中国はそうした経験はない(しないに越したことはない)。そして、100年に一度といわれる「リーマンショック級」の景気後退は、金融危機を伴わなければ起きないものである。金融危機を未然に防げれば、「リーマンショック級」の景気後退にはつながらない。無論、たった1国の消費増税ごときで、金融危機が起きるものではない。

今回公表されたIMF“World Economic Outlook”は、こうした示唆深いものだといえる。

土居丈朗

土居 丈朗

  • 上席研究員

研究分野・主な関心領域

  • 税制
  • 地方財政
  • 財政の持続可能性
  • 社会保障
  • 公共選択論

研究ユニット

経済政策・経済思想ユニット