R-2023-095
日本の所得税制は、2000年代に大きな改革を行うことはなかったが、2010年代にはほぼ連年のように税制改正が行われた。その中には、給与所得控除の上限引き下げ、上場株式等の配当・譲渡所得課税の税率引き上げ、最高税率の引き上げ、配偶者(特別)控除の見直し、基礎控除の見直しなどがある。2010年代に実施されたこれらの所得税改革のうち、どの税制改正が所得格差是正にどの程度寄与したか。
「所得税改革の経済分析:2010年代の改革効果のパネル分析と2020年代に求められる改革のマイクロシミュレーション分析」の最終報告として、まず本研究で対象とした2010年代の所得税改革が、所得格差はどれだけ縮小させたかを、日本家計パネル調査(JHPS)の個票を用いたマイクロシミュレーション分析を行って明らかにした。加えて、2008年から2020年の各年において同じJHPSのデータを用いて、所得税制のみならず、社会保障給付、社会保険料、特別定額給付金等の非課税給付などによって、現実の所得格差が、諸政策の実施前にどの程度あって、実施後にどの程度是正されたかもジニ係数を用いて示している。
本研究では、2020年代に求められる所得税改革に対する示唆も提示している。2010年代の所得税改革の結果を踏まえた政策的含意を引き出すだけでなく、2024年度税制改正大綱で例示された16~18歳の扶養家族控除の縮小が、同年齢層への児童手当の支給期間延長に伴って実施された場合に、家計にどのような影響が及ぶかについてもマイクロシミュレーション分析を行っている。
本研究から得られた政策的含意が、今後の税制改正論議に役立てられることを願う。
目次
第1章 2010年代の所得税改革は所得格差をどれだけ縮小させたか
第3章 18歳までの児童手当支給と扶養控除縮小なら誰にどれだけ給付の純増となるか
■Review『所得税改革の経済分析』全文はこちら(PDF:1.7MB)