コロナで雇用はどう変わるか

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コロナで雇用はどう変わるか

新型コロナウイルスの感染拡大は雇用に大きな影響を与えた。4月の緊急事態宣言下で、完全失業率は2.6%と微増だったが、休業者が597万人と就業者の約9%に達した。休業者の状態について考察するのは、慶応義塾大学教授の太田聰一氏(週刊東洋経済6月13日号)である。休業者の急増は、緊急事態宣言解除後の顧客回復に備えて労働力を確保するニーズがあるからとみる。また、多くの失業者を発生させないため、雇用調整助成金を拡充して、企業の利用促進を図った政府の対応が奏功したと評する。

ただ、一部の企業は今後、経営の見通しが立たなくなり、休業者の一部が失業者になることが避けられないと予想する。その際、雇用維持よりも雇用創出に政策の力点を置く必要がある。雇用が失われた分野から雇用拡大分野への労働力の移動が求められる。

他方、4月の失業率が14.7%に達したのが米国。最も影響を受けたのはレクリエーション・接客業界の低賃金労働者とみるのは、米マサチューセッツ工科大学教授のトーマス・コーカン氏(週刊東洋経済6月27日号)である。労働市場の再編成を支える策を講じないと格差が広がり、社会不安が高まると懸念する。半面、企業が人工知能や自動化への投資を増やし、正しいやり方でテック化を進めることで、より多くの雇用が生まれると期待を寄せる。一部でテック失業が生まれても大量失業は起きないとみる。人々がテックと協働すれば、雇用創出が加速する。

緊急事態宣言下で、在宅勤務が広がった。慶応義塾大学教授の鶴光太郎氏(週刊東洋経済6月6日号)は、テレワークの本質は、自由に時間や場所を選んで働き、生産性を高めること、とにらむ。テレワークは、職務の範囲が明確で、成果が見えやすいジョブ型雇用と親和的だ。他方、社員の一体感を重視するメンバーシップ型である日本型雇用にテレワークを導入すると弊害もある。孤立した社員の不安を払拭し、経営者が企業の方向性を示して社員を束ねつつ、働く場所を社員に委ねる日本型テレワークの必要性を訴える。

東京大学教授の近藤絢子氏(6月10日付経済教室)は、在宅勤務の普及は男女間格差の縮小にも寄与しうるとの研究成果を紹介する。また、在宅勤務の拡大で、出社せずに業務をこなせるようになると外注もしやすくなるので、フリーランスへの業務委託が増える可能性が高い。雇用によらない働き方に対するセーフティーネット(安全網)を整備することの重要性を説く。

所得保障の議論が浮上

政府と日本銀行は、コロナ対策として未曽有の規模で流動性を供給した。一律10万円の給付は、1回では将来への不安も残るだろうから、例えば月5万円を国民全員に出してはどうかと提案をするのは、東洋大学教授の竹中平蔵氏(週刊エコノミスト6月2日号)である。その代わり、所得が一定以上の人には後で返してもらって、ベーシックインカム(最低所得保障)にする。それが実現すれば、生活保護や年金給付が必要なくなると利点を示す。

今般のショックに、大恐慌級のデフレショックの証左は見いだし難い、というのは、名古屋大学教授の齊藤誠氏(6月12日付経済教室)。物価連動国債から算出された予想インフレ率は緩やかな低下にすぎないという。金利がゼロ近傍なら、金利面で長期国債はゼロ金利の紙幣と区別がなくなる。政府と日銀を合算した統合政府の見立てで、国債と紙幣という統合政府債務は、これまで旺盛な需要に支えられ、物価も上がらず金利も上昇しなかった。

では、「インフレ基調が明らかになってから財政や金融を引き締めればよい」との主張は妥当か。齊藤氏は、マイルドなインフレが生じるやいなや、ゼロ金利の維持は困難と論じる。特に将来の物価動向を反映する金利は、インフレが起きる前にゼロ水準から離れ、年0.5%を超えれば、統合政府債務の需要は急激に減る。需要が一瞬で減っても、統合政府債務の残高は即座に減らせない。この需給関係から、物価が急騰し、名目国内総生産(GDP)が瞬時に拡大することで、膨大な統合政府債務が、縮小した需要と均衡する。ハイパーインフレではないが、消費者や投資家の多大な犠牲と引き換えに、国債は確実に返済される。物価上昇への警戒を怠る危険を知らせる。

医師の偏在防ぐ対策急げ

感染症対策を進める上で、現状把握のための情報をいかに集め、活用するかが極めて重要な意味を持つと説くのは慶応義塾大学教授の宮田裕章氏(中央公論7月号)である。情報を集めるにしても、全地球測位システム(GPS)の利用はプライバシーに踏み込む要素がかなり大きく、個人の自由を重んじる民主主義社会では導入・運用のハードルが高い。

そこで、国家が情報を中央管理するという形ではなく、個人を軸にしたシステムとして、コンタクトトレーシングアプリの導入が始まった。ただ、このアプリは、国民の6割以上が使わないと意味がない。技術で感染拡大を抑え込んだ国は今のところないだけに、経済と生活のバランスの中で、一定の条件下で情報を使うという理解が国民に浸透できるかがカギとなろう。

医師の偏在対策に問題提起するのは一橋大学准教授の高久玲音氏(週刊ダイヤモンド6月27日号)である。病院と診療所の機能分化が進んでいないために、勤務医の不足と開業医の過剰という偏在が起きている。外来をある程度病院から切り離して、開業医とは異なる機能を持たせないと、ワークシェアは成り立たないとみる。

特に、2024年度から医師の時間外労働の上限が設けられ、医療機関で原則として年間の時間外労働を960時間以下とすることが求められているが、このままでは多くの病院が目標を達成できない。コロナ対策を契機に、これから医師になる若者の未来を制限するのではない形で、国や自治体は医療機関ごとの役割分担を整理して、勤務医の負担を減らし、偏在の是正に取り組むべきだと主張する。

 

2020年6月27日 『日本経済新聞』掲載

土居 丈朗/Takero Doi

土居 丈朗

  • 上席研究員

研究分野・主な関心領域

  • 税制
  • 地方財政
  • 財政の持続可能性
  • 社会保障
  • 公共選択論

研究ユニット

経済政策・経済思想ユニット