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「大阪都構想」否決でも、問題は何も解決していない
写真提供:共同通信社 吉村洋文大阪府知事(左)、松井一郎市長(右)11月1日午後11時29分、大阪市

「大阪都構想」否決でも、問題は何も解決していない

November 10, 2020

2020年111日、「大阪都構想」の是非を問う住民投票(大阪市を廃止し特別区を設置することについての投票)が行われ、反対が692,996票(得票率50.6%)、賛成が675,829票(得票率49.4%)で、反対多数で否決された。

吉村洋文大阪府知事は大阪都構想に再挑戦することはないと明言し、松井一郎大阪市長は20234月までの任期を全うした上で政界を引退する意向を表明した。

「大阪都構想」、つまり大阪市域を特別区制度に移行することは、これで無くなった。その結果、大都市制度としての政令指定都市制度の欠陥が、結局改まらないことになった。

政令指定都市制度の重大な欠陥は、道府県と政令市が自ずと連携できる仕組みを持ち合わせていないことである。大阪で不幸せとかけて「府市あわせ」といわれ続け、大阪府と大阪市が行政面でなかなか連携しないという時期が長く続き、二重行政もしばしば問題視された。それは、大阪市以外の政令市でも、大なり小なりに同様なことが起きている。

今年においても、新型コロナウイルス感染症対策で、道府県と政令市が連携できていないことが露呈した。例えば、保健所を持つ道府県と政令市がそれぞれに感染者の数を発表する様子が各地で見られた。道府県域で何人の感染者がどこで見つかったかを知りたければ、道府県のホームページなどを見ればわかるかといえば、政令市がある道府県ではそうではない。政令市の分は、政令市が発表するのであって、道府県は政令市域以外の市町村域で見つかった感染者を発表する。政令市域についての詳細は、政令市に聞いてほしいといった具合である。

また、ある県では、県が企画して感染者の療養施設を確保しようと政令市域内の施設に打診したところ、同県下の政令市の市長からそれを批判された。県が政令市の頭越しに施設を利用しようとしたことが理由のようだ。同じ県域にありながら、政令市域に県の権限が及ばないところが顕著にあることが、新型コロナ対策でも露呈した形だ。

大阪市はそうはしなかった。同じ党派であることもあり、松井市長は、新型コロナ対応を吉村大阪府知事に委ねて一元化した。それは同じ党派だからできた面があり、知事と市長が手柄争いをしようものなら結果は違っていただろう。

まさに、新規感染者の発表だけでなく、新型コロナ対策全般にわたり、道府県との連携不備という政令指定都市制度の欠陥が浮き彫りになった。大阪市は政令市だがうまく連携できたと評されるが、それは知事と市長の人間関係によるものであって、制度がそうした連携を担保したわけではない(これは吉村知事と松井市長が強調している)。道府県と政令市の連携は、制度的に担保されていないのだ。

それは、政令指定都市制度の根源に関わる欠陥である。というのも、政令市は普通の市と何が違うのか。それは、道府県が有する権限の大半を政令市に移譲するところである。道府県は、政令市域においてはわずかな権限しか残らず、ほとんどすべては政令市が司る。政令指定都市制度とは、そういう仕組みである。

そこには、道府県と政令市との間で柔軟な制度設計をする余地はほぼなく、政令市となれば容赦なく道府県の権限が政令市に移譲される。

それに比べて特別区制度には、都と区の間に財政調整制度が設けられ、そこには権限配分を柔軟に変えられる余地がある。権限に応じて財源を配分するという発想がある。東京都でも、都と区の間で財政調整制度をめぐり、対立する場面も時にはあったが、最終的には折り合って権限と財源の配分を時代に応じて変えてきた歴史がある。そうした仕組みは、道府県と政令市の間にはない。

加えて、東京都の都区財政調整制度の長所として、区の間での財政調整を見える化できる点が挙げられる。大阪市民は大阪市に税金を払い、大阪市から行政サービスを受けている。けれども、どこの区の住民がどれぐらい税金を納めたかという統計は取れるといえば取れるが、その税金からどこの区にいくら行政サービスが投じられたかは容易に判別がつかない。

しかし、東京都の都区財政調整制度は、どこで税金が納められ、どこに税金が配られているかがはっきり見える。見えることで、対立の種になることもないわけではないが、お互いが合意をする中でそれぞれの区に財源が配分されるという形で透明化される。これも、都区財政調整制度の長所といえる。

政令市の中でも、当然暗黙裏に財政調整めいたことが区の間で行われているが、住民がその金額をじかに見るということは難しい。これは、大阪市以外の政令市でも同様のことが言える。

道府県と政令市の連携不備に加えて、もう1つの視点として、大都市内の各地域の行政についても、政令指定都市制度には欠陥がある。それは、政令市域は広いのに、地域ごとにきめ細かく行政を行うことができないという点である。

政令市域内で住民が望む行政サービスのニーズが画一的であればよいが、まずそうではない。政令市域は広いゆえに、高齢者向けのサービスを多く欲する地域もあれば、子育て世帯向けのサービスを多く欲する地域もある。しかし、政令市は、1人の公選市長と1つの市議会しかない。政令市は、政令市域で画一的に行政サービスを提供するほかない。

 

大阪都構想の制度設計(案):4つの特別区の区割り・区の名称・本庁舎の位置

(出所)大都市制度(特別区設置)協議会事務局「副首都・大阪にふさわしい大都市制度《特別区制度(案)》」2020年(令和2年)61920

 

これに対して、特別区制度の下では、各特別区が他の区にはない独自の行政サービスを展開することができる。各特別区には公選区長と区議会がそれぞれある。東京の例でいえば、文京区は文京区で他の区の住民から何も言われずに文京区の自治ができる。もちろん、広域行政については都が権限を持っているから、特別区域全体に共通して行うべき行政サービスは、都に権限を委ねて実施することもできるし、各区で申し合わせて同様に実施することもできる。

政令市の中で、そういう調整は市長や市議会でできなくはないが、自らの地域である行政サービスを優先して実施してほしいという要望を、政令市の中で訴えようとすると、他の地域から選出された市議会議員等を説得しないとできない。

特別区は、公選区長と区議会議員を独自に選び、独自に行政サービスを決められるという点は、大都市制度における特別区制度ならではの長所である。

新型コロナウイルス感染症の収束はまだ見えない。それでいて、政令指定都市制度が大きく改まる気配もない。新型コロナ対策一つとっても、道府県と政令市の連携不備は致命的になる。「大阪都構想」が投げかけた大都市制度のあり方について、今一度、各政令市で改善に向けた議論と取組みが求められる。道府県と政令市について、人間関係に依存した連携ではなく、制度的に連携を担保することが問われている。

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