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暗号資産・NFTなどWeb3.0の税制を考える―「当てはめ」ではなく「抜本改革」で――連載コラム「税の交差点」第100回
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暗号資産・NFTなどWeb3.0の税制を考える―「当てはめ」ではなく「抜本改革」で――連載コラム「税の交差点」第100回

August 25, 2022

R-2022-033

ブロックチェーンとWeb3.0
税制の課題は待ったなし
暗号資産と税制
文化芸術振興に有益なNFT
法人税法上の課題
税制は、「当てはめアプローチ」ではなく「抜本アプローチ」で
税にとって重要な課題は、正確な申告のための情報収集
わが国で進む情報収集

ブロックチェーンとWeb3.0

米国金融市場激変のあおりを食って暗号資産(仮想通貨)の価値は暴落している。とりわけドルと価値の連動したステーブルコインだと思われていたテラUSDの価値急落は、暗号資産そのものの信頼を失わせ、DeFi(分散型金融)、NFT(非代替性トークン)、DAO(分散型自律組織)などについてもブームは沈静化しつつある。

一方で、その基盤技術であるブロックチェーンについての有用性は高い。この技術の活用により、GAFAに代表される巨大プラットフォーマーがユーザーを囲い込むWeb2.0の世界を超えて、Web3.0と称される自律分散型の世界がもたらされると喧伝され、大きな関心を引くことになった。ブロックチェーンは、管理者のいない分散型の技術なのでユーザー同士が直接つながる世界、つまり国家の関与なく自律的に機能するネットワークを構築できるという点に大きな期待が集まっている。

税制の課題は待ったなし

問題は、このような自律分散型の世界に、現行の法制度や会計制度、さらには税制が対応できていないことで、これをどう対応させていくのかということである。国家とは相容れない自立型世界をめざすだけに、国家権力の行使である法制度や税制との相性はよくない。

一方ブロックチェーンを活用した暗号資産やNFTなどさまざまな取引が現実に行われており、個人に「損益」が発生している。課税当局としては、これを放置しておくわけにはいかない。また既存の税制が、NFTなどのビジネス発展の可能性を妨げているという批判もあり、ビジネス経営者や業界団体が要望書を出し、さらには本年3月自民党の議員有志が「NFTホワイトペーパー」[i]を公表するなどの動きがある。この問題にどう対応していくのか、その検討はわが国にとって急務である。

以下、「税制」に焦点を当てながら、当面の課題と、それに対処するにはどうすべきかという点について、私見を述べてみたい。

暗号資産と税制

最初に暗号資産の税制について。暗号資産に関する課税関係は、2019年度税制改正により整備された。暗号資産取引(売買、交換など)によって生じた損益の所得区分については、201811月と20216月に国税庁の見解[ii]が示され、「暗号資産取引自体が事業と認められる場合やその行為に付随したものである場合を除き、雑所得に区分される」となった。

雑所得は、最高55%(所得税と住民税)の税率で総合課税される。また損失が生じた場合、その損失の金額は他の各種所得の金額から控除することはできない。

この点について、暗号資産は譲渡性のある財産権をすべて含むので資産であり、その譲渡は譲渡所得ではないかという税法学者の有力な反論がある[iii]。譲渡所得であれば、5年超の保有期間の場合には平準化措置が講じられ2分の1課税になり、損失が生じれば、給与所得や事業所得などの他の所得金額から控除することができる(所得税法691項)。

米国では、仮想通貨は原則Propertyとして取り扱われ、売買、他の財産との交換などで損益が実現された段階で、Capital gainもしくはCapital lossとなり、通常所得とは異なる優遇税制が適用される。

国税庁が、雑所得に区分した背景には、暗号資産が資金決済法(第25項)で「代価の弁済のために 不特定の者に対して使用することができる財産的価値」と位置付けられたことから、ドルなど、「邦貨又は外貨との相対的な関係により認識される損益」として雑所得に該当するとされた(平成30529日財務金融委員会藤井次長国会答弁など)。

このような取り扱いは、暗号資産について抜本的な性格を吟味することなく、後述するように、既存の税制の取り扱いに「当てはめた」事例と考えられる。

このような中、「NFTホワイトペーパー」は、個人が行う暗号資産取引により生じた損益について、20%の税率による申告分離課税の対象とすることを要望し、日本暗号資産取引業協会も、20%の申告分離課税、損失の3年間の繰越控除を税制改正要望している。

所得区分の問題と20%の分離課税にするかどうかの問題は、区別して検討する必要がある。前述のように、所得区分の問題は、暗号資産の性格などを検討し譲渡所得の可能性を探る必要がある。

一方分離課税の問題は、暗号資産が、個人の投資促進や資産形成を支援するための金融所得優遇税制の対象としてふさわしいかどうかという観点からの検討となる。暗号資産は、その価値について十分な根拠を持たず、投機の対象となる中で、政策的な優遇税制である分離課税への道は険しいと考える。

暗号資産については、どの段階で所得が実現するのかという問題(所得認識のタイミング)がある。現行の取り扱いは、異なる暗号資産同士でトークンを交換すれば所得が実現するので時価を測定し所得計算をする、ということだが、例えばメタバース空間で異なるコイン同士が取引される場合には、そのような取引を国税当局が把握することは不可能であろう。所得税の基本は発生主義で、交換時に所得が実現したとみなすことには理由があるが、現実をみれば、法定通貨に交換されるまで課税繰り延べにする、あるいは所得税法上の交換特例を適用するなどの対応を検討すべきではないか。ブロックチェーン課税にあたって重要な視点は、「税務執行が可能な範囲でしか税制が機能しない」という点である。

文化芸術振興に有益なNFT

次にNFTである。NFTとはNon-Fungible Token、非代替性トークンのことで、無料で容易にコピーできるデジタルコンテンツを、ブロックチェーン技術を利用してNFTと結びつけ代替性のないものにして価値を持たせたものである。すでにNFTで表現したデジタルアートが数十億円で売買されるなど、活発なビジネスとなっている。そのような投機的な動きは別として、経済的に恵まれないクリエイターが自ら収益を得る機会として注目されている。

筆者が議長を務める文化庁文化審議会経済部会の基盤・制度ワーキンググループでは、文化芸術振興の観点から、NFTについての検討を始めている。クリエイターの収益機会の拡大や文化芸術コンテンツの来歴・蓄積等への効果的な活用などについて、実証事業の実施や様々な論点を検証する必要があるという内容の「報告書」(2022329日)を公表している[iv]

NFTの課税については、暗号資産などの財産的価値を有する資産と交換できる場合、その取引は所得税の課税対象となる。所得区分は、役務提供の対価として取得した場合は事業所得、給与所得または雑所得に区分される。譲渡については、譲渡所得の基因となる資産に該当しない場合に雑所得(規模等によっては事業所得)に区分される。基本的に前述の暗号資産の場合と同様の問題がある。

法人税法上の課題

NFTホワイトペーパー」は、暗号資産の期末時価評価による法人税課税の問題を指摘している。

企業が自ら暗号資産であるトークンを発行しビジネスを行う場合、一定数を自社で保有する(いわゆる「ガバナンストークン」)ことがあるが、当該トークンが活発な市場を有する暗号資産の場合には、法人税法上期末時価評価の対象となる(2019年度改正)。いわば含み益課税である。この税制を避けようと、ブロックチェーン関連スタートアップ企業がシンガポールなど海外に流出しているということもあり、「NFTホワイトペーパー」が取り上げた。

この取り扱いは、法制度や会計制度が整備されていないことに根本的な原因があるので、まずはそこの議論、制度の整備が先決だ。

税制は、「当てはめアプローチ」ではなく「抜本アプローチ」で

仮想通貨など新たな技術への税制の対応を考える場合、2つのアプローチがある。

一つは、法制・会計・税制などについて、既存の制度に当てはめていくアプローチ(「当てはめアプローチ」)である。

前述のように、仮想通貨の売却などが原則雑所得に区分されたのは、資金決済法の取り扱いをそのまま税制に「当てはめ」、日本円と外貨を交換した際に生じる為替差益と同じ扱いにしたのである。

法人の自社保有暗号資産の時価評価の取り扱いも、ガバナンストークンとは何かなどの根本的な議論を行わず、2019年度税制改正で既存の法体系に「当てはめ」た結果だ。

このような対応は、いわばパッチワークの「当てはめアプローチ」で、結果としてビジネスが阻害される可能性がある。

新たな「発明」に対しては、法制・会計・税制のルールを総合的かつ根本的に見直す「抜本アプローチ」が必要だ。こうすれば、仮想通貨取引は資産の譲渡として譲渡所得扱いになる可能性が出てくるし、自社発行ガバナンストークンの問題も解決される可能性がある。

筆者が税制当局にいた時期には、米国などから、ストックオプション、合同会社、企業組織再編など、わが国には存在しなかった「初物」の導入ニーズが高まり、税制改正の対応に追われたが、まずは会社法や企業会計でどう規定されるのか、そこを見極める必要があり、税制の整備はそれを踏まえてということとなり、その分遅れることになった。わが国では会社法などの法令の概念を借用して税の取り扱いを決めるという仕組みになっているので、やむを得ない対応であった。

「抜本アプローチ」の問題点は、検討に時間がかかるので、その間ビジネスの遅れが生じることである。しかし「当てはめアプローチ」では限界があり、「抜本アプローチ」に変えていく必要がある。ビジネスに遅れが出ないようにするためには、政府部内に明確な「司令塔」を置き、法制度、会計制度、税制の抜本的・総合的な対応策についてスピード感をもって行うことである。その際には、これから述べるように、情報収集の方法について、国際的な動向も踏まえて検討する必要がある。課税がついていけないということになれば、税の不公平が生じるからである。将来的には、取引高に応じた税制に変えて取引所やプラットフォーム運営者に納税義務を課すようなことも検討課題となるのだろう。

経済財政運営と改革の基本方針 2022[v]には、「ブロックチェーン技術を基盤とするNFTDAOの利用等の Web3.0の推進に向けた環境整備の検討を進める。さらに、メタバースも含めたコンテンツの利用拡大に向け、2023 年通常国会での関連法案の提出を図る。」とされており、対応を急ぐ必要がある。

税にとって重要な課題は、正確な申告のための情報収集

適正な課税を行うという観点から最も重要なことは、取引の実態、情報を誰からどのようにして集めるのかということである。例えば、メタバース空間においてアバター同士でトークンの取引が行われ所得(損益)が発生したような場合、本人はどのように計算し申告するのか、税務当局としてはどのように本人確認をし、所得を把握するのかなど課題は山積している。

メタバース内の支払い手段である暗号資産を交換する仲介業者(取引所や交換所)や取引の場を提供する「プラットフォーマー」は、取引のハブ機能を持ち、取引の結節点といえ、彼らからの情報収集がカギを握る。

わが国で進む情報収集

わが国では、税務当局からプラットフォーマーに対する情報照会の仕組みに関し、令和元年度(2019年度)改正で、プラットフォーマー事業者等に対する任意の照会ができることに加えて、高額・悪質な無申告者等を特定するため、担保措置(拒否等について1年以下の懲役または50万円以下の罰金等)を伴う実効的な形による情報照会を行うことが可能になった。

この点について、 OECDEUの場でも検討が行われてきた。20223月、OECDは暗号資産の国際的な情報交換の枠組みに関する公開諮問文書を公表、現在ある共通報告基準(CRS)と同様の情報交換を適用するための枠組みが示された。報告義務者は、暗号資産交換取引所を業務で行う仲介業者で、交換や譲渡などの移転を報告の対象にしている。

今後とも、国際的な動きや事業者の負担も踏まえながら、仲介業者やプラットフォーマーからの情報収集のあり方について、引き続き検討を進めていくことが重要だ。

「メタバースの中に税務署を作り、アバター税務職員を常駐させる」というアイデアがあるが、笑い話では終わらない気がする。

 

[i] NFTホワイトペーパー Web3.0時代を見据えたわが国のNFT戦略20223月)

[ii] 国税庁「仮想通貨に関する税務上の取扱いについて(F&Q平成3011

     国税庁「暗号資産に関する税務上の取扱いについて(情報)令和3630

[iii] 例えば「租税法」金子宏第24265ページ

[iv] 文化審議会第1期経済部会基盤・制度ワーキンググループ報告書2022329日)

[v] 経済財政運営と改革の基本方針 2022 新しい資本主義へ ~課題解決を成長のエンジンに変え、持続可能な経済を実現~令和467

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