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少子化対策、財源は生まれてくる子ども世代に先送り —連載コラム「税の交差点」第114回
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少子化対策、財源は生まれてくる子ども世代に先送り —連載コラム「税の交差点」第114回

December 19, 2023

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 「こども庁 じじばば泣かせて 子を育て」 (朝日川柳 20231111日)

1211日のこども未来戦略会議で、「こども未来戦略」案が公表され、少子化対策の財源についての議論が大詰めを迎えている。3.6兆円規模の異次元の少子化対策の財源として、歳出改革で1.1兆円、支援金で1.0兆円、既定予算の活用で1.5兆円ということが明らかになった。岸田総理はこれまで「実質的な国民負担増なし」で行うと、さんざん喧伝してきた。「実質的な国民負担増なし」の中身が今回「こども未来戦略」案で、以下のように書き込まれた。

2028年度までに徹底した歳出改革等を行い、それによって得られる公費節減の効果及び社会保険負担軽減の効果を活用する。歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を構築することにより、実質的な負担が生じないこととする。」

わかりやすく言うと、新たに創設する支援金制度は、企業や個人から健康保険料に上乗せして負担を求めるので負担増になるが、それを打ち消すだけの歳出改革、つまり社会保険料負担の軽減を行う。さらに賃金増も見込まれるので、負担増が相殺され、実質ゼロになるということだ。つまり、実質負担増なしのためには、負担軽減となるような歳出改革を行う必要があるということになる。

具体的には、「2028年度までに、公費節減効果について1.1 兆円程度の確保を図る。歳出改革と賃上げによって実質的な社会保険負担軽減の効果を生じさせ、その範囲内で、2026 年度から段階的に2028年度にかけて支援金制度を構築することとし、2028年度に1.0 兆円程度の確保を図る」とされた。歳出改革の中身については、全世代型社会保障構築を目指す改革の道筋(改革工程)における医療・介護制度等の改革を実現することを中心に取り組む、とされた。

つまり、以下のことを行うということである。

・後期高齢者負担率の見直し(後期高齢者1人当たり保険料と現役世代1人当たり後期高齢者支援金の伸び率が同じになるよう、高齢者負担率の設定方法を見直す)

・介護保険制度改革(2割負担の範囲の見直しなど)

・医療・介護保険における金融所得の勘案

・医療・介護保険における金融資産等の取扱いなど

いずれも、これまで幾度となく議論されたが実現せず残っている課題だ。これらはおおむね、ゆとりのある「じじ・ばば」に負担増を求める趣旨で、冒頭の川柳の認識は正しいということになる。つまり、歳出改革とは、無駄な歳出を抑えるという意味合いよりも、「ゆとりのある者に負担をしてもらう」ということが内容になっているのである。そこに、歳出改革の難しさがある。 

ところが、この歳出改革はうまくいっていない。

例えば、「65歳以上の介護保険料を所得の多い層で引き上げる」という案が検討されてきたが、どうやら腰砕けで先延ばしされた。医療・介護保険における金融所得や金融資産の勘案など、お題目だけで、どの場でも具体的な検討はされていない。

歳出改革の本丸は、来年改定が予定されている診療報酬だ。財務相の諮問機関である財政制度等審議会財政制度分科会(会長:十倉雅和経団連会長)は1120日、診療所の経営状況が、近年の物価上昇率を超えるプラス4.3%と極めて良好なことなどを理由に、診療所の報酬単価を5.5%程度と大幅に引き下げるよう求める答申を出した。また診療報酬本体(医師や看護婦の人件費)についてもマイナス改定とすることが適当、とした。 これに対し日本医師会などが猛烈に反対し、政治家も加わり議論が白熱化、おとしどころはプラス改定になりそうだ。

さらには支援金制度も、「2026年度から段階的に2028年度にかけて構築することとし、2028年度に1.0 兆円程度の確保を図る。2028 年度にかけて安定財源を確保するまでの間に財源不足が生じないよう・・こども・子育て支援特例公債(こども金庫が発行する特会債)を発行する」とされた。

結局、異次元の少子化対策は、十分な財源を確保することができず、「じじ・ばば」ではなく、「こども・子育て支援特例公債」という立派な名前の赤字国債で賄われることになり、これから生まれてくる子どもたちの負担増になりそうだ。子どもを増やそうという政策の財源を、彼らの借金で賄うというブラックジョークとなった。

もう一つ指摘したいことは、岸田総理が少子化対策について国民に負担を求めることから逃げ、食言まがいの国会答弁を繰り返していることだ。

総理はこれまで、支援金制度の創設は、「実質、国民の負担増にならない」と答弁してきた。しかしその後「賃上げと歳出改革によって社会保障にかかる国民負担率の軽減効果を生じさせ、その範囲内で支援金制度を構築する」と変わった。さらに直近では「全体の取り組みを通じてみれば、国民負担率は上昇しない」「実質的な国民負担とは、社会保障負担にかかる国民負担率のこと」となった。 

国民の負担増になるか否かについて、金額ではなく「国民負担率」で評価すると言い出したわけだが、国民にとってきわめてわかりにくい議論になった。国民負担率は税負担と社会保障負担の国民所得に対する比率を合計したものだ。                    

 

社会保障負担には医療、年金、介護の保険料負担が入っている。支援金制度の負担だけを抜き出すことはできないので、負担が増えたかどうかは判断できない。そもそも、高齢化が進行すれば、現役世代に比べて5倍以上の費用がかかる医療費はふえる(自然増)。23年度予算の概算要求時点では自然増の見込みは5600億円となっている。そうなると、少子化対策如何にかかわらず、分子である社会保障負担額は増えざるを得ない方向にある。

国民負担率の推移は図の通りで、2013年度は40.1%だったが上昇傾向にあり、財務省23年度に46.8%になると見込む。内訳は社会保障負担率が18.7%、租税負担率が28.1%である。

 

一方、賃上げにより国民所得が増えれば、社会保障負担が増えても負担率は変わらない、あるいは伸びが圧縮される。総理は、この点をとらえて「国民負担は変わらない」と言っていると思われる。しかしこれは、「実質追加負担なしの実現のハードルを下げた」、「賃金引き上げを行うのは政府ではなく企業で、そこに責任を持っていく意図ではないか」という批判が出ており、食言につながりかねない。

いずれにしても、国民負担の分子を増やさないためには、1兆円の財源を確保する歳出改革が重要だ。それができなければ、総理答弁の整合性が問われ、内閣への信頼はさらに低下する。その意味で今回の歳出改革は、政権の命運をかけたものともいえよう。

 

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