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バイデン政権下の米中関係-米中対立の本質的原因
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バイデン政権下の米中関係-米中対立の本質的原因

January 14, 2021

2021120日、4年間続いたトランプ政権は幕を降ろし、バイデン政権が誕生する予定である。トランプ政権の4年間を振り返れば、少なくともアメリカの有権者からみて、評価が大きく分かれている。大統領選で、バイデン候補は8001万票を獲得したのに対して、トランプ大統領は7380万票を得た。アメリカ政治と社会が完全に分断される構図になっている。

米国外交問題評議会会長リチャード・ハース氏は、トランプ政権の評価される点として、「中国に貿易慣行の是正を求め、ウクライナに殺傷能力のある(対戦車ミサイルなどの)武器を提供し、カナダとメキシコとの貿易協定を刷新し、イスラエルと一部のアラブ諸国間の関係正常化を仲介した」と述べている。一方、トランプ政権が作り出した問題として、「国際的安定の基盤であった北大西洋条約機構(NATO)の統合を傷つける行動を取り、一方では、アメリカが信頼できるのかという疑問を友好国や対立国において浮上させる言動をみせた。より優れた代替策を示すこともなく、国際協定や制度から離脱し、中国、北朝鮮、ロシア、トルコの権威主義的指導者に歩み寄り、しかも、ほとんどあるいはまったく目的を達成できなかった(略)」と総括した。

経済学者のシュンペーター氏が残した名言「創造的破壊」をもってトランプ大統領に当てはめれば、トランプ大統領は破壊者だったと言って過言ではない。そのバトンを受け継いだバイデン新大統領こそ、創造者の役割が期待されている。これについて、ハース氏はバイデン政権のタスクについて、トランプ政権によって壊れた制度を「修復」しなければならないと定義している。しかし、ここでの「修復」とは単純に元の状態に戻すのではなく、その創造性が求められている。バイデン大統領が創造性を発揮できなければ、トランプ政権と同じ運命を辿り一期目の4年間で終わることになろう。

バイデン政権が直面する課題

米国政治学者の多くは、バイデン政権が直面する内政面の課題として、政治の分断をいかに修復するかを指摘している。当初心配されていた、共和党と民主党がそれぞれ上院と下院の多数派を維持するねじれは選挙で生まれなかったが、トランプ支持者による議会の占拠にみられるように、アメリカ社会の分断は予想以上に深刻である。

バイデン政権は、内政面の課題を解決できなければ、外交問題の解決はもっと難しくなるだろう。トランプ政権が仕掛けた対中貿易戦争はアメリカ国内で幅広く支持されている。その点についてハース氏も評価する立場である。バイデン政権にとって大きな悩みとなるのは、中国との対立のエスカレーションをさらに続けるかどうかにある。

ブルッキングス研究所中国センターディレクターのチェン・リー氏は、バイデン政権は中国に対し競争と協力のバランスを取ることになると分析している。ここで、バイデン政権の対中戦略を占う前に、米中対立の本質的原因を明らかにしておかなければならない。米中対立はトランプ政権から始まったものではない。オバマ政権下でヒラリークリントン元国務長官が、come back to Asiaと宣言したことからもわかるように、この時すでにワシントンの中国に対する警戒が強まっていた。そのことを北京が十分に認識していなかっただけだった。

結論を先取りすれば、米中が対立し、しかも急速にエスカレートしているのは、政治のパワーゲームをプレーするときに、それぞれが従うルールがまるで違うものだからである。ハース氏がバイデン政権のタスクとして指摘した「世界を修復する」とは、既存のルールに従う環境づくりを意味するはずであるが、北京はそれに従う義務がないと考える。

中国は40年間、「改革・開放」政策を実施し続けてきた。しかも、2010年に中国のドル建て名目GDPは日本を追い抜いて世界二番目の規模となった。国際通貨基金(IMF)などの国際機関が購買力平価(PPP)で中国の名目GDPを再評価した結果、中国の国内総生産(GDP)はすでにアメリカを超えたともいわれている。中国の学校教育では、19世紀半ばのアヘン戦争以降、中国は列強に侵略され、国力が弱くなり、人民は貧しくて苦しい生活を強いられたが、共産党の力で再び強国として復権することができたとしている。そこでは、中国は列強が作った国際秩序に従う義務はどこにもないとも考えられている。

このような被害者意識ゆえに、既存の国際秩序に従おうとしない中国の基本姿勢とアメリカの覇権との衝突こそ、米中対立の基本的性格を決めているのである。国際政治学者によっては、これは米中新冷戦と定義されている。北京が守らないのは既存の国際ルールだけでない。そもそも、中国社会内部に目を転じれば、法律はたくさん制定されているが、それを守らなければならない遵法精神が根付いていない。なぜならば、法律よりも、共産党指導部の特権が最優先されているからである。共産党指導部の特権と法律の規定が対立した場合、間違いなく共産党指導部の特権が優先される。その延長線上にあるのは、中国の国際戦略である。要するに、既存の国際ルールに従うよりも、目的と結果が最優先にされる。これが中国国内で広く信奉されているリアリズムの世界観である。

マイナスサムゲームの米中対立

トランプ政権が実施している対中経済制裁をみると、そのほとんどは中国の国際覇権狙いを力で阻止するものである。しかし、米中両国の経済的interdependence(相互依存関係)を考えれば、トランプ政権が実施している対中経済制裁は米国にも不利益をもたらしているはずである。要するに、短期的にみると、米中対立はマイナスサムゲームである。それゆえ、米中のディカップリング(分断)が一部の政治学者と経済学者によって指摘されている。そのなかで、アメリカが被る代価はその覇権を守り抜くためのコストと理解できなくもない。

先のハース氏の指摘には、致命的な欠陥がある。トランプ政権が国際協定と制度の一部から離脱したのは事実だが、問題は戦後、先進国を中心に作られた国際機関と国際協定の多くが機能しなくなったことだ。今や、国連(UN)でさえ機能していない。このような状況下で、グローバリズムが無秩序の乱戦状態になることは避けられない。これから重要なのはハース氏が指摘した修復というよりも、新しい国際秩序を創造することである。

おそらくトランプ大統領の政治がもっとも批判を招いているのはその一貫性のなさではなかろうか。同盟国との同盟関係をトランプ政権が傷つけたとの批判も同じ次元のものである。先進国の立場に立ってみても、NATOは設立当初の役割と目下の機能が大きく乖離しているだけでなく、目下の複雑化しているグローバル社会に十分に対応できていないのは明白である。

一般的に創造することよりも、破壊することのほうが反対を招きやすい。現に中国に対して貿易戦争を仕掛けたトランプ大統領はウォール街を中心とする米国財界の猛烈な反発を招いた。米国財界は中国との友好な関係を維持しつつ、中国の商慣行を改めてもらおうと考えているようだ。しかし、これまでの歴代大統領では、それを実現することができなかった。むしろ、中国との国際貿易で雇用機会が中国にシフトしているだけでなく、アメリカの覇権と目されているハイテク技術も中国によって支配されようとしている。したがって、トランプ大統領の荒い政治はその歴史的背景に起因するものと理解する必要がある。

同様に、北京の立場に立って反省しなければならない点も多い。すでに世界二番目の経済大国として台頭している中国は歴史的な被害者意識を払拭する必要がある。さもなければ、それに因むナショナリズムは中国社会の不安定性を助長することになるだけでなく、国際社会における信頼関係を傷つけることになる。

中国共産党の統治体制は選挙によって正統性が証明されていないため、その権力の強さとは裏腹に予想以上の脆弱さを抱えている。だからこそ、中国では、政府に対するいかなる批判も政府転覆罪として問われる可能性がある。批判に慣れていない中国政府は、国際社会でも同様に、批判されると相手のことを「反中勢力」と決めつけ、厳しく罰則を課そうとする。その一例として、新型コロナウイルスの発生源をきちんと調べなければならないと主張するオーストラリア政府に対して、北京はすぐさま反応し、同国に対して、ビーフやワインの輸入を止めるとの制裁措置を講じた。このような過剰ともいえる反応は国際社会における中国のイメージを予想以上に悪化させている。

結論的にいえば、グローバル社会の不安要因には、これまでの宗教の衝突に起因するテロの多発に加え、新興国家中国の台頭とそれに適用される国際ルールの欠如があげられる。アメリカという超大国に体当たりする中国の外交姿勢は、その歴史的背景を鑑みれば理解できないことではないが、グローバル社会は極端に不安定化する恐れがある。グローバル社会の安定を実現するには、国際秩序を再構築し、リセットする必要がある。それはこれから誕生するバイデン新政権に期待されている役割である。

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