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【Part 2】シリコンバレーからの新・電力網への提言: テスラが実現済みの蓄電池、EV、ソーラー発電、 Virtual Power Plant垂直統合の分散化型電力網ドミナント・デザイン
April 3, 2023
R-2022-111-2
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Part 2:テスラのエネルギー事業が示す新たなドミナント・デザイン
テスラ は主力製品であるEVで知られているが、実は蓄電池、ソーラーパネル、仮装発電所(Virtual Power Plant)、E V充電インフラなどを組み込んだ分散化型エネルギーの新しいドミナント・デザインを作り出している。この新しいドミナント・デザインにはいくつかコンポーネントがあり、順番に紹介していく。
図表2(Part 1からの複製):テスラが示している新しい電力網、エネルギー周りのドミナント・デザイン
1. ソーラーパネルと蓄電池をセットで導入 2. 家庭用蓄電池はハイパフォーマンスでデザイン製と機能の両方を重視、モジュラー設計 3. ソーラー発電の瓦:Solar RoofでBuilding-Integrated Photovoltaics (BIPV) 4. 住宅のソーラーパネルと蓄電池はアプリで常時状態確認、制御 5. リアル天候予想データとの連動で作動、ビッグデータも採取 6. 自宅エネルギーシステムとEVの連動、アプリで一元管理 7. 地域の蓄電池をVirtual Power Plant (仮想発電所)として運営 8. 集合住宅には業務用蓄電池で非常用電源 9. E V充電インフラには業務用蓄電池 10. 発電所には大型モジュラー蓄電池、ソフトウエアで管理 11. テスラが示すEV高速充電網の新しいドミナント・デザイン 12. EV充電による電力グリッドの需要のピークをシフト |
テスラのエネルギー事業
まずはテスラのエネルギービジネスの概要を紹介する。テスラの主力ビジネスは電気自動車(EV)であり、2022年の世界売り上げ台数はリードしており、ここ数年は急成長してきた。しかしその裏で電力事業も伸びている。(図表4、5)
図表4:世界のEV売り上げ
注:*の車種は Battery EV (BEV)とPlug In Hybrid (PHEV)の両方を含む
図表5:テスラの事業領域別の収益
テスラのエネルギー事業の規模はEVと比較すると小さいが、収益は着実に成長している。(図表6)
図表6 テスラの「エネルギー、その他」の収益
図表7:テスラのソーラーパネルと蓄電設置の比較
1.ソーラーパネルと家庭用蓄電池をセットで導入
テスラはソーラーパネル、自社製インバーター、そして家庭用蓄電池をセットで販売していて、新しいドミナント・デザインとなっている。家庭用蓄電池のPowerwallは家庭用蓄電池のデザインやパフォーマンスのカテゴリーを大きく作り替え、コストパフォーマンス的にも他社を引き離した。このPowerwallを2枚ほど付けると、平均的なアメリカの住宅が二日間ほど完全に電気を賄える程度の容量を蓄電できる。カリフォルニアの相次ぐ停電やテキサスの電力網の不安定な状況下において、Powerwallは家庭用ソーラーパネルとの相性は良いため、非常に人気となり、需要がテスラの製造能力を上回り、ソーラーパネルのセット販売のみとなった。
2022年末現在、新規ソーラーパネルを注文する場合、セットでPowerwallを購入するのがディフォルトとなっている。2022年の秋からはソーラー設置には少なくとも一つの蓄電を必要としている。
テスラのソーラーパネルと家庭用蓄電池のセット |
テスラの蓄電池、Powerwall |
ソーラーパネルと蓄電池は、テスラ以外のソーラーパネル設置企業でもセット販売となっている。ソーラーパネルの米国シェア約15%を占め、米国トップのSunrunも販売している。Sunrunが販売する蓄電池はテスラ製とLG Chem製の二つだが、テスラ は自宅全体をバックアップするのに比べてLG Chemのものは4回路までと記されている。
テスラの蓄電池の作動モードはいくつかあり、電力事業者との連動が行える地域では様々なユーザーにとっての恩恵と悪天候や災害からの不安を取り除く機能となっている。
セルフ・パワーはソーラーパネルと蓄電池の組み合わせをフル活用し、太陽光発電時には自宅で使う電力と蓄電池の充電を行い、太陽光発電をしてない時は蓄電池を使うというモードである。極力電力網に頼らない使い方である。
この他の作動モードの説明は後ほど紹介する。
図表8:テスラの家庭用蓄電池Powerwallの作動モード
作動モード |
説明 |
セルフ・パワー |
二酸化炭素排出を最小限に押さえ、極力電力グリッドから独立する(ソーラーと連動のみ) |
時間指定のコントロール |
電力費を極力押さえるため、電力の値段が低いタイミングで充電し、高いタイミングでは蓄電池を使用 |
Storm Watch |
悪天候や嵐の予報と連動して停電の可能性がある時のために電力を蓄えておく |
停電時のEV充電 |
PowerwallとテスラEVを連動させて停電時にEV充電と自宅のニーズのバランスを保つ |
Source. 著者和訳
2.家庭用蓄電池はハイパフォーマンスでデザイン製と機能の両方を重視、モジュラー設計
テスラ は家庭用蓄電池という製品カテゴリーを大きく進化させて新しいドミナント・デザインを作り出した。2015年に家庭用蓄電池のPowerwallを発売し、2017年からネバダ州のギガファクトリーで量産を始めた。それまでのものに比べて大容量であり、2022年現在、発売されているPowerwall 2は13.5kWhの容量で持続的に5kW、最大で7kWの出力で、2枚ほどあれば平均的なアメリカの住宅は二日間ほど冷蔵庫や暖房などを完全にまかなえるとのことである。EVで培った技術を使い、家庭用蓄電池としてそれまでの空冷ではなく、初の水冷式を実用化したため、薄くてデザイン製に優れた仕上がりとなっている。また、水冷のため、テスラによると摂氏-20度から50度まで稼働可能である。
Source. 屋外設置の様子 |
テスラのPowerwallは水冷であることからも設置場所がフレキシブルであり、インテリアとして設置できるデザイン製やクローゼット内設置を意識していて、集合住宅やアパート、コンドミニアムにも対応しているのが大きな特徴である。
室内にも置けるデザインを意識している |
集合住宅のクローゼット内での設置も可能 |
テスラのPowerwallはモジュラー設計であり、最大10台まで設置可能である。1台から10台まで簡単に拡張可能であることは、設置状況のフレキシビリティーを従来の製品に比べて大幅に拡大している。
この新しいドミナント・デザインの設置場所のフレキシビリティーとモジュラー設計は、他社の家庭用蓄電池と比べると分かりやすい。他社製品は空冷であるがゆえに大きく、エアコンの室外機のような住宅の外付けを想定したデザインのものも多く、モジュラー設計ではないものが多いので、簡単に拡張できない。
他社の家庭用蓄電池のデザインとの比較 |
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Source. | |
Duracell Energy Bank |
パナソニックが北米で発売しているEverVolt家庭用蓄電池。 |
このPowerwallの人気は、カリフォルニアやテキサスの電力網の悪状況が加速させた。テスラの開発の主要拠点であるシリコンバレーでは、2017年からのカリフォルニア北部の大規模な山火事の影響や、残暑、強風、低気温、寒波、そして予期せぬ設備トラブルで、何度も「未計画停電」が起こった。更に2020年3月からコロナウィルスの感染拡大で在宅勤務が劇的に増えると、家庭用蓄電池の魅力は急増し、Powerwallの需要が急増した。テスラは2018年から数回の値上げを行ったが、それでも需要は供給を遥かに上回った。2021年3月からは、テスラはPowerwallの単独販売を休止し、ソーラーパネル設置とセットでしかPowerwallを販売しなくなった。
Powerwallのデザイン性へのこだわりは、初期モデルの発表を見ると分かりやすい。Powerwall登場以前の家庭用蓄電池はあくまでバックアップインフラという「設備」であり、決して見栄えの良い物ではなく、「家の外壁近くに設置する箱」というイメージだった。一方、Powerwallは、複数の色で、曲線を描いたスタイリッシュなデザインであり、デザインと機能性の両方を変えることで大幅な普及を試みた。
2015年、テスラのPowerwall発表イベントでのディスプレイモデル |
同イベントで複数のPowerwallがモジュラー式に繋げ合わさった様子 Source. |
量産モデルへの進化では、より実用的で、コストも考えた設計の改善が伺える。2017年から量産されたPowerwall 2はモジュールとしての拡張のしやすさと同時に、生産コストを考慮したと思われる角ばったデザインと、直射日光を長期間に渡って浴びても温度が上がりにくい白のみとなった。屋外設置でも、ガレージの中の屋内設置でも見栄えが良いものに重点が置かれている。
2017年から量産が開始されたPowerwall 2の実際の設置の様子。(ユーザーのインターネット投稿より) |
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4枚をモジュール式に2枚ずつ屋外に設置。(カリフォルニア州、2017年) |
ガレージ内に設置の様子。(アリゾナ州、2019年) |
Powerwallがドミナント・デザインとなった証拠は、他社の最新モデルがテスラのデザインに影響され、似たようなデザインを試みていることである。
LGのResu Prime |
2.1家庭用蓄電池の周辺機器も垂直統合
テスラのソーラーパネルは発売当初、他社製のインバーターとゲートウエイ(配電盤)を接続する必要があったが、テスラは2021年1月に自社製のインバーターの発売を開始した。テスラのインバーターは従来製品より小型化し、テスラの家庭用蓄電池Powerwallとデザインを統一した。配電盤も同様にテスラ内製のものに切り替えた。
Powerwall と自社製インバーターとゲートウエイ |
テスラの自社開発前のインバーターとゲートウエイ |
Powerwall周りの機材の垂直統合もさらに進んだ。新しいPowerwall+はそれまでは別々だったソーラーパネルとの接続に使うゲートウエイ(配電盤)とインバーターをバッテリーと一体化させた。これによってPowerwall+、Tesla Backup GatewayとTesla Inverterが物理的にも統合された。
2.2ソフトウエアで機能も容量もアップデート可能
テスラがEVでのソフトウエアダウンロードによって、性能を高めたりする機能を標準装備とするドミナント・デザインを確立したのと同じように、2020年から出荷されたPowerwall+やゲートウエイ、インバーターはソフトウエアをWi-Fiでダウンロードしてアップデート可能にするモデルとなった。2020年の秋に出荷したPowerwall 2はその後、2021年の4月から5月にかけて、ソフトウエアアップデートによって使える容量が増えるということもあった。気温によっては50%も上がる場合もあった。最初に出荷した当初はまだ使いこなせていなかったハードウエアの容量を、販売後にソフトウエアを稼働させて使えるようにしたのである。
テスラのEVは発売後にバッテリー周りのヒートマネージメントシステムのソフトウエア向上で、毎年極寒の地で動くEVからデータを集め、冬から春にかけて何度もヒートマネージメントシステムのソフトウエアアップデートを繰り返してバッテリーの効率などを上げてきた。家庭用蓄電池も、販売後に進化してパフォーマンスが上がっていく可能性もテスラが示したドミナント・デザインの一部である。
3.ソーラー発電の瓦:Solar RoofでBuilding-Integrated Photovoltaics (BIPV)
テスラ は瓦にソーラー発電の機能を埋め込んだSolar Roofという製品の先駆者であり、新たなドミナント・デザインの牽引役となっている。これはBuilding-Integrated Photovoltaics (BIPV)という建物と一体になった太陽光発電というエネルギー業界における新しいカテゴリーのプロダクトである。テスラ はSolar Roofを2015年に発表し、その後バージョン3まで改良され、2019年から2020年にかけて自社工場で量産体制が整った。
Solar Roofの特徴は、見栄えは通常の屋根とは変わらないが、陽が当たるところは発電可能な瓦で、当たらないところは同じ形状の通常の瓦であるということである。
Source: 著者撮影、Tesla Storeにて |
図:テスラのウェブサイトに掲載されているSolar Roofの導入例。
シリコンバレー 近郊の一戸建て住宅 Source.(住所記入後、ポップアップメニューにて表示される同地域の導入例) |
2021年5月にケンタッキー州で最初にSolar Roofが設置されたとされる家が地元のニュースに取り上げられた |
他の業者も似た製品の開発、販売を急いでいることからも、テスラが新しいドミナント・デザインを確立したといえる。
Solar Roofは基本的に非常に強度の強いガラスで作られており、家に合わせて4通りのスタイルがある。左から、Tuscan, Slate, Textured, Smoothである。
テスラによると、耐朽性は通常の瓦や屋根の素材よりも格段に頑丈であり、雹(ひょう)が降った場合、通常の屋根が直径1インチ(2.54cm)の物まで耐えられるのに対し、Solar Roofは直径1.75インチ(4.4cm)まで耐えられる。更に、テスラは、風力は時速166マイルまで耐えられ、カテゴリー4という最大級に近いハリケーンでも大丈夫だと主張している。火災に対しては、最高水準の Class A UL 790の認可を受けている。
更に、発電することを含めてコストパフォーマンスを計算すると、通常の屋根より優れているというのがテスラの主張である。Solar Roofの価格はソーラーパネルの約1.5倍だが、屋根の面積によっても変わるため、単純比較は難しい。2022年2月に、それまでの10年ローンに加えて20年ローンのオプションを加え、月々の支払額を約半額にすることで、より多くの人にとって払いやすいオプションを追加した。2022年の世界的なサプライチェーン問題で、2月から新規予約受付後の設置作業を一時的に停止した。その後、テスラ社が直接取り付けるという形ではなく、サードパーティーの業者経由での設置が再開された。
4.住宅のソーラーパネルと蓄電池はアプリで常時状態確認、制御
テスラは、家庭用の発電と蓄電をアプリで一元管理を可能にしている。これをさらにEVのアプリと一体化させているため、EVの充電を含めたエネルギー管理を手軽に行える。
下記のテスラのアプリでは太陽光発電の発電量、自宅の消費電力、Powerwallの充電状況や電力網からの電力使用量が常時確認できる。このほかにはこれまでの発電量や今日の電力自給率なども一目で分かる。また、「オフ・ザ・グリッド」(電力網からの独立)というボタンもあり、極力電力網に頼らない発電とバッテリー使用のモードへと切り替わる。
これらの「エネルギー」や「インパクト」のメニュー項目に入ると、過去のデータや詳細が見える。
Backup Reserveで、停電に備えるために蓄える分の電力と、グリッドからの自立で自分の家で使う分の電力のバランスをシンプルに変えられる。 |
一連の契約ドキュメントなどもアプリから簡単に閲覧できる。 |
5.リアル天候予想データとの連動で作動、ビッグデータも採取
災害対策として、テスラは嵐や悪天候、及び自然災害が発生しそうな時にアラートを受けて停電に備えて電力を蓄えるという動きを、家庭用蓄電池に標準装備させてドミナント・デザインとした。
テスラ は気象予報と連動したStorm Watchというサービスを始め、停電が起こりそうな規模の台風や嵐などが発生する予報と連動してPowerwallが自動的に停電に備えて電力を蓄える。テスラは2021年にはStorm Watchが40万回発動したと発表した。
アプリに表示されるStorm Watch |
カリフォルニアでは大規模な火災が起きた2020年に火災による電力網のダウンを想定してStorm Watchの蓄電が発動した。 |
テスラ は気象予報による停電リスクと、実際に停電したかどうかの情報も得ており、ビッグデータを集めている。アメリカの電力網は、州ごとに複数の電力会社がいる形で分散化しているので、既存の電力業界とは別の情報網を構築したことになる。このデータをどのように活かすかはまだ分からないが、天候と電力網周りの様々なデータが、今後、研究者やサードパーティーに開放されることがあれば、色々な価値につながる可能性がある。
6.自宅エネルギーシステムとEVの連動、アプリで一元管理
テスラ は自宅の太陽光発電と家庭用蓄電池のエネルギーシステムを、世界的に最もシェアの高いテスラのEVと連動させ、アプリで一元管理できるようになっている。エネルギーとEVを両方、同じテスラのスマートフォン用のアプリで管理する形をとり、右か左にスワイプするとE Vの部分か家庭エネルギーの部分に切り替わる。テスラ はすでにE Vをアプリで管理して冬場には窓に貼った氷を溶かしたり、夏場は空調をかけて冷やしたり、防犯カメラをリアルタイムで遠方から見られるようにするなど、様々な機能を盛り込んでいることで知られている。自宅で充電する場合は電力が安いタイミングで充電する時間設定を車側からでき、家のエネルギー管理側からはいつ、どのような充電元を選ぶか設定できる。逆に、できるだけ電力網に頼らずに自給率を上げる場合は日中、発電が多いタイミングで家庭用蓄電池とEVの両方をできるだけ充電させるということも簡単に選択できる。
7.地域の蓄電池をVirtual Power Plant (仮想発電所)として運営
テスラは2021年7月からカリフォルニア州で家庭用蓄電池のPowerwallのユーザーを対象にVirtual Power Plant(以下VPP)の提供を始めた。VPPは、Powerwallのオーナーが有志でピーク時に、バッテリーから電力グリッドに電力を供給する仕組みである。電力供給が逼迫しそうなタイミングの数時間前に、テスラはユーザーに「Virtual Power Plant Event」という通知を送り、ユーザーはその都度、参加するか否かを決めることができる。
テスラの説明では、Powerwallには自宅で使うための電力は十分残しながら多少のユーザーで設定可能な量の電力をグリッドに提供する。このVPPは、夏の猛暑などでピーク時の需要が電力会社の電力供給能力の限界に近づき、止むを得ず停電を強いられる事態を未然に防ぐのが目的である。
2021年のテストでは、VPPへの参加はボランティアとして報酬やインセンティブはなかったが、2022年からは北カリフォルニアの電力会社PG&Eから参加に対して報酬が支払われることとなり、真夏の電力ひっ迫時に発動した。
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北カリフォルニアPG&EはVPPに参加するユーザーに対して、1kWhに対して2ドル支払われる。VPPイベントごとに10ドルから60ドルの収入になると事前予想がされた。参加表明をすると、一年で得られる金額の予想が表示される。VPPイベントが発動しても、その都度断ることも可能である。
初期設定でVirtual Power Plantに参加すると、支払われると予想される額が表示される。 |
2022年8月17日に稼働した第一回のVPPイベントはPG&Eの電力網に2345世帯ほどが参加し、最大16.5MWの電力が提供された。
2022年8月から9月にかけてカリフォルニア州は熱波に襲われ、電力網の電力供給逼迫警報が発令され、連日VPPイベントが開催された。9月9日時点でテスラのPowerwallを使用してVPPに参加したのはPG&Eが3659世帯、南カリフォルニアのSouthern California Edison (SCE)から1025世帯で、合計4684世帯に上った。8月17日の第一回からの三週間で新たに約2000世帯が参加した。9月9日のVPPイベントでは最大24.6MWの電力供給が観測され、ピーク時の3時間で68.6MWhの電力が供給された。
図表8:テスラのVPP稼動発電量、参加世帯数
図表9:テスラのVPP発動時の発電量の比較(2022年8月、9月)
カリフォルニア州の州都、サクラメント在住のあるユーザーによれば、9月の第1週の熱波の間にPowerwallで255kWhの電力を供給し、合計510ドルの収入を得たとのことだった。これはPowerwallとソーラーパネルに支払っていた400ドルのローン・リースを上回る金額だった。
このカリフォルニアでのテスラのVPPの動きは他の州でも注目され、様々な実験や構想が広まっている。例えばテキサス州では80MW規模のVPPを導入する検討がされた。テキサス州は2021年の2月と2022年12月に大寒波に襲われた際に電力網が不安定となり、大規模な停電を経験している。テスラはすでに2021年8月にテキサス州で電力小売業者としてTexas Public Utility Commissionに申請を行い、11月に認可された。テスラはすでにオーストラリア南部で電力を供給していたが、アメリカでは初めてである。
また、バーモント州の小さな電力事業者は8月下旬までに4000台のPowerwallを顧客の家に設置して2021年の熱波で1.5ミリオンドルほどのピークプライスのコストを避けることができたと語っている。
8.集合住宅には業務用蓄電池Tesla Powerpackで非常用電源
テスラ は業務用蓄電池、Powerpackも提供している。2020年の時点では232kWhの容量で、他社では別売となることが多いインバーターと一体になっている。テスラによると、この業務用Powerpackは2022年の段階では世界50カ国で10GW以上の容量を販売している。
業務用Powerwallは集合住宅や地域の非常時バックアップ電源として実用化している。また、住宅用のPowerwallと組み合わせることでさらにマイクログリッドの役割を果たせることが実証されている。2021年に、カナダのトロントから1時間ほどのコミュニティがテスラのPowerpackとPowerwallを組み合わせたマイクログリッドを設置し、コミュニティー単位で電力網から独立した電力供給をある程度まかなえる取り組みを実装した。カナダのこの地域は冬の豪雪などで孤立してしまうこともあり、対策としてこのテスラのPowerpackとPowerwallの組み合わせを実施したのである。
カナダで導入されたPowerpackとPowerwallを使ったコミュニティー単位の |
このカナダの事例とは逆の使い方の「コミュニティー・バッテリー」のプロジェクトで、テスラは2021年にオーストラリアのシドニー近郊にPowerpackを取り付けた。こちらは日中、使用できる以上に太陽光発電が行われた場合、夜間まで貯めて使うことで電力費を軽減させるという取り組みである。非常時にもある程度使えるという役割もある。 |
9.EV充電インフラには業務用蓄電池
テスラはここ数年、急拡大してきたEV高速充電網にもPowerpackを取り付け、電力需要の時間をピークシフトしている。自らが展開するEV高速充電網のスーパーチャージャーだけではなく、Electrify Americaなど、他社のEV高速充電設備にもテスラ製のPowerpackが設置されている事例が急増していることから、テスラ はこの方面でも新たなドミナント・デザインを作り出している。
この使い方はEVユーザーとEV高速充電網を運営する企業の双方にメリットがある。EV充電網の課題に、電力価格ピーク時でのEV充電のコストが急激に、大幅に上昇する可能性がある。EV充電の値段変更は可能であり、時と場合によって変わることはあるが、充電網の元となる電力価格に乱高下やピーク時の価格の急増をそのまま直接EV充電ユーザーに課金してしまうと、EVユーザーは突然の劇的な価格上昇を恐れて高速充電網を使わない可能性が高く、そうなるとEVの浸透も進まない恐れがある。高速充電網を運営する企業はユーザーに急激な価格上昇を請求できないと価格設定に困る。高めに設定するとユーザーは使ってくれないが、低すぎると突然のピークプライスでは大幅な赤字となりうる。そこで大型業務蓄電池を据え置くことでピークプライス時に対応し、場合によっては夜などの安い電力を日中のピークプライス時に電力網に売るということすら可能となる。
テスラのEV用スーパーチャージャーと併設されているPowerpack |
テスラのPowerpackは他の業務用大型蓄電池のメーカーに比べてもコストパフォーマンスが良いという判断から、テスラ以外の会社の高速E V充電器にも導入された。2021年12月時点でElectrify Americaの高速充電器設置の140箇所以上にテスラのPowerpackの導入が確認された。
テスラとは資本関係なども無い高速充EV電網提供企業、Electrify AmericaにテスラのPowerpackが設置されている。 Source. |
10.発電所には大型モジュラー蓄電池、ソフトウエアで管理
テスラは2019年から電力事業者向けの大型蓄電、Megapackの提供を始め、これもドミナント・デザインに加わった。Megapackはモジュール式のコンテナの形をとっており、モジュールはそれぞれ容量が3MWhで、1GWh規模以上の設置が可能である。テスラが提唱している用途は、再生エネルギーの電力供給のマネジメント、グリッドのボルテージのサポート、需要のピークを下げる役割、独立したマイクログリッドの構築、周波数の安定等である。北カリフォルニアの電力事業者Pacific Gas & Electric (PG&E)のMoss Landing発電所では、2021年に完成したプロジェクトがあり、256個のMegapackが設置により、最大182.5MWの電力を730MWhの容量で提供し始めた。これは2021年の中頃の時点では世界最大の蓄電池プロジェクトだったとされる。
PG&E Moss LandingのTesla Megapack設置状況(2021年2月、完成間近の時点)
10.1電力事業者向けソフトウエア、PowerhubとAutobidder
テスラの大型蓄電池は、バッテリーの技術そのものが注目されがちだが、実はテスラ はバッテリーに加えて電力事業者向けのソフトウエアも開発し、提供している。電力モニタリングとエネルギー制御のソフトウエアPowerhubと、機械学習(AI)を用いた自動エネルギー・トレーディングのソフトウエアAutobidderである。リアルタイムで電力価格を把握し、それをベースに予想をすることで値段が高いところへ売ることができ、それを自動的に実行するソフトウエアである。テスラによると、2019年7月までの時点で既にテスラの顧客は100GWものエネルギーをグローバル電力市場に売ったとのことである。これらのソフトウエアは常時アップデートされており、サーバーと無線通信(Over-the-air)によって更新されている。
11.EV高速充電網の新しいドミナント・デザイン
テスラのEV高速充電網「スーパーチャージャー」はEV事業の一環でもあり、EVと充電網の垂直統合はEVとE V充電網の両方のドミナント・デザインとなっている。もともとテスラがEVの販売を開始した2010年頃に、EV用の高速充電網がなかったため、テスラ は充電機器を自社で設計・製造・設置して展開させたのである。
EVのユーザーにしてみれば、外出先で充電できないことが不安になるので、充実したEV充電網は必要である。テスラからみれば、EV充電網を作ってくれるところが無いので、自ら作って展開しなければEVも売れない、という計算になり、自社展開を決断したのである。
テスラのスーパーチャージャー網は2022年11月の時点で4万台あり、EV所有者の調査など結果などを見ると、ユーザーの満足度は他社を大きく引き離している。テスラのEVが売れる大きな理由はEV充電網の充実にあると言っても良い。
ユーザーから見て「使える」EV充電網は数や立地だけではなく、どこにあるのかが一目で分かり、EVを接続して充電して課金するプロセスが簡単であることや、プラグが大きすぎないことも大事である。
テスラの充電網は2016年からすでにアメリカ全体の主要大陸横断ハイウエイや都市部に行き渡っており、急速に拡大している。2020年から2021年にかけて1万台ほど増え、2022年末までにはさらに1万台ほど増えている。
図表10:テスラのスーパーチャージャー設置状況
2017 |
2018 |
2019 |
2020 |
2021 |
|
Supercharger Stations |
1,075 |
1,421 |
1,821 |
2,564 |
3,724 |
Supercharger Connectors |
9,069 |
12,002 |
16,104 |
23,277 |
33,657 |
Source:Tesla Investor Relationsより著者作成
図表11: アメリカでのテスラスーパーチャージャー(2022年4月)
スーパーチャージャーの設置状況は2022年ともなると、特にカリフォルニアや東海岸の都市部での設置が非常に充実している。下記の図の赤が既に稼働しているスーパージャージャーで、灰色が設置中のものである。
スーパーチャージャーのカリフォルニア |
スーパーチャージャーのシリコンバレー、ベイエリアでの設置状況(2022年4月) |
アメリカ東海岸でのスーパーチャージャー設置状況 |
11.1ユーザーから見たスーパーチャージャーの見つけやすさ
ユーザーから見たら、スーパーチャージャーの場所が一目で空き状況も含めて確認できると安心する。
現在地の近くのスーパーチャージャーの場所と空き台数がリアルタイムで示される |
撮影:筆者
途中で充電しないとたどり着かない長旅をする場合、EVに付いている大画面のナビに行き先を入力すると充電すべきスーパーチャージャーが現れる。
シリコンバレーからロサンゼルスまでは320マイルで6時間20分かかるが、社内のナビが途中で寄るべきスーパーチャージャーを指定してくれる。走行中には別のスーパーチャージャーも常時表示されるので別のところに寄った場合、自動的にアップデートされる。 |
撮影:筆者
11.2ユーザーから見たスーパーチャージャーの使いやすさ
テスラのスーパーチャージャーはユーザーから見たら他社のものに比べて非常にシンプルなのが特徴である。これはユーザーにとって使いやすいということだけではなく、次に紹介する設置コストの低さと展開の速さにも大きく関係している。
現在設置されているスーパーチャージャーは二種類の外観で、三つの充電速度を提供している。バージョン1は72kW、バージョン2と3がそれぞれ150kWと250kWで見かけは同じである。
充電器本体には電力プラグがあるのみで、クレジットカード読み取り機やICチップ読み取り機、及びディスプレイなどは一切ついていない。
最も早いスーパーチャージャーは250kWで、この他に見た目は同じで150kWのものもある。 |
よりコンパクトなスーパーチャージャーは72 kWである。 |
撮影:筆者
使い方は簡単で、EVの充電ポートにプラグを近づけるか、充電ポートを手で軽く押すか、アプリか車の本体画面で「Open port」というボタンを押すとポートが開く。プラグを差し込むだけで充電が始まる。充電を止める時はプラグのボタンを押すことでプラグがリリースされ、それを抜き取って、走り去るだけである。EVとの交信は自動的に行われ、課金はEVのアカウントに登録されているクレジットカードから引き落とされる。これ以上シンプルにはできないというぐらいの垂直統合インテグレーションである。
チャージャーのケーブル先端をポートに近づける。 |
親指の位置にあるボタンを押すと車側が認識してポートが自動的に開く。 |
あとはポートに差し込むだけで、他には全く何の操作も必要がない。 |
撮影:筆者
このテスラのスーパーチャージャーの使いやすさは他社と比較するとシンプルさが際立つ。テスラは様々なプラグ規格が出来上がり実用化される前から独自に作ったこともあり、ユーザーの利便性を求めた結果、他に比べて非常に小さい。小柄な人やお年寄りにも使いやすい。国際標準のCCSはかなり大きく、ヨーロッパでのスーパーチャージャーはCCSを採用しているが、廃止が決まったCHAdeMOのプラグは特に大きくて重い。
CHAdeMO |
CCS |
テスラのチャージャー(72kW、大きい方) |
撮影:筆者
しかも72kWのプラグよりも150 kW, 250 kWのパワフルなスーパーチャージャー Version 2, 3の方が若干小さくなっている。圧倒的に数も使用量も多いテスラのプラグに安全性の問題は見受けられないので、大きい方が安全性が高いとも言えないはずである。
プラグの規格は各国政府の意向がありテスラ製のものが将来、世界の標準になるとは限らない。テスラは北米の正式企画に採用されようと、様々な使用をオープンにしているが、欧州の規制で既にテスラ社でも採用しなくてはいけないCCS企画が主流となる可能性もある。技術的に優れたものが標準規格になるとは限らない例だが、使い勝手とシンプルさでは、テスラ がEV高速充電器のドミナント・デザインを示したことには変わりはない。
11.3スーパーチャージャー網はソーラー、蓄電池とE Vの垂直統合構想
テスラの太陽光発電と蓄電池とスーパーチャージャーの垂直統合の構想は非常にわかりやすく、テスラがスーパーチャージャーを急速に展開させたため、再生エネルギーが得られるところでは新たなドミナント・デザインとなっている。
できるだけソーラーなどの再生可能エネルギーで発電し、大型蓄電池で貯めてEVに供給するというのは、テスラが地球のエネルギー改革を起こして人類を救うという目的とストーリーにぴったりはまる。初期の頃にテスラが自らの充電網を作り始めた頃のサンフランシスコとロサンゼルスを結ぶ大型フリーウエイの脇の大型スーパーチャージャー設備は、乾燥地帯の砂漠気候の荒地の真ん中に大型ソーラーパネルを日除けとしても使うような形で分かりやすく作った。
Firebroughのスーパーチャージャー |
撮影:筆者
12.EV充電による電力グリッドの需要のピークをシフト
テスラのEVはスーパーチャージャーと垂直統合で運営されているため、電力グリッドへの負担を考慮したユーザーの行動を促すことがある。例えば夏の猛暑で電力需要のピークが非常に高くなると予想されると、下記のような「EV充電はオフピークでお願いします」という表示が地域の車に表示される。テスラのスーパーチャージャーの利用可能状況は常にEVの画面に表示されるので、オフラインになっているスーパーチャージャーがある場合は間違って行くことがない。この通知は自宅での充電もなるべく控えるように促している。
撮影:筆者
「EVが広まると電力網への負担がかかりすぎる」という議論を日本で聞くこともあるが、EVと充電網が連動していればピーク時の電力消費をマネージすることも可能となることを、テスラは垂直統合で充電網を運営していることで示している。
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