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【論考】外国人を家族とともに受け入れるということ―外国にルーツをもつ若者の高校卒業と就職
August 27, 2026
1. はじめに
日本は、外国人を労働者として受け入れるにあたって、在留資格によっては、配偶者や子どもの帯同を認めてきた。1990年の入管法改正で設けられた「定住者」の在留資格は、日系人とその家族に就労の制限のない滞在を認めた。また、「技術・人文知識・国際業務」など、家族帯同が認められる就労資格では、扶養を受ける配偶者や子どもに「家族滞在」の在留資格が認められる。[1]。
外国人を家族とともに受け入れるということは、働く本人だけを受け入れることではない。子どもは日本の学校に通い、日本で育つ。滞在が長期化すれば、日本で生まれる子どもも増えていく。ただし日本の国籍は原則として血統主義を取るため、日本で生まれ、日本の学校で育っても、その多くは外国籍のままである。他方で、国際結婚や国籍の取得によって、日本国籍をもちながら日本語の支援を必要とする子どももいる。学校にいるこの子どもたちは、国籍というカテゴリーだけでは捉えきれない。
本稿が文部科学省の「日本語指導が必要な児童生徒」という区分を用いるのは、そのためである。これは国籍による分類ではなく、学校が日本語の支援を要すると判断した児童生徒を数えたものであり、教育行政が把握しているカテゴリーである。在留外国人の増加に比例し、「日本語指導が必要な児童生徒」の数も近年、急速増加している。
また、在留外国人の子どもに関わる政策課題は、就学期間中だけに限られない。彼らはいずれ学校を卒業し、働き、生活を築いて親から独立していく。家族として受け入れる以上、こうした学校から社会へ移行する若者たちへの支援も受け入れ政策の視野に入れる必要がある。在学中の日本語指導や進路指導は、その一部でしかない。以下では、日本語指導が必要な生徒の高校卒業後の進路に絞って、現在何が起きているのかを見ていく。
2. 高校卒業から就職までのプロセス
日本の高校卒業者が企業に就職するプロセスは、「日本的高卒就職システム」と呼ばれる[2]。企業は学校に求人を出し、学校は生徒の希望や成績をもとに応募先を調整して、卒業と同時に就職先に送り出す。多くの都道府県では、応募は1人1社に限るという慣行が現在でも採られている(この慣行については生徒の選択肢を狭めるという批判もある)。若者が自分で職を探して労働市場に入るのではなく、学校(教員)が企業とのあいだに立ってその接続を担うのである[3]。
日本では高校・大学などの教育機関を卒業後、最初にどのような雇用形態で就業したかが、その後の職業経路を長く規定する。初職が非正規雇用であった場合に正規雇用へ移ることが容易ではないことは、日本の若年労働をめぐる研究で長年指摘されてきた[4]。新規学卒として就職する機会は一度しかなく、その一度の貴重な機会がその後のキャリア形成に長期にわたって影響を及ぼす。つまり日本の高卒就職は、二つの性質を併せもっている。学校が接続を担うことによって、多くの生徒を卒業と同時に安定した雇用へ送り出す力がある。その一方で、このプロセスから外れた場合、あとから安定した職を得ることは難しい。では、このプロセスは、日本語の支援を必要とする生徒に対しては、どのように働いているのか。
3. 高校卒業後の出口
文部科学省は、高校生全体の卒業後の進路状況調査に加え、日本語指導が必要な高校生等についても、卒業後の進路を継続的に調査している[5]。令和6(2024)年度に修了した公立高校生全体の8割近くが進学するが、日本語指導が必要な生徒の進学率は5割に満たない。高校卒業後の進路については、大学等への進学率に注目が集まりやすい。しかし、進学率の高低だけで、その進路が望ましいかどうかを判断することはできない。高校卒業後に就職することも、重要な進路である。問うべきなのは、その就職が本人の生活基盤を支え、その後のキャリアにつながるものになっているかである。
では、進学しなかった生徒たちは安定した仕事に就けているのだろうか。日本語指導が必要な生徒の7割強が「就職に到達」しており、公立高校生全体とそれほど大きな差はない。しかし、「非正規・一時的就職」に就いた者は、公立高校生全体では2.6%に過ぎないのに対し、日本語指導が必要な生徒では35.3%と大きな差が生じている[6]。同じ年に同じ公立高等学校を修了し、同じように就職した生徒のあいだで、10倍を超える差が生じている(図1)。
「進学も就職もしていない」者の割合は、日本語指導が必要な生徒のほうがやや高い。ただし「非正規・一時的就職」ほどの差は生じていない。この区分には家事手伝いや進学準備中の者、外国の大学等へ進んだ者も含まれ、その後の生活の状況までは分からない。したがって、この割合の差をそのまま「日本語指導が必要な生徒は就職そのものが難しい」と解釈することはできない。むしろ注目すべきなのは、就職に至った生徒の雇用形態に大きな差が生じていることである。
第2節で見たように、日本の高卒就職では学校が企業との接続を担い、その仕組みを通じて多くの生徒が卒業と同時に安定した雇用へ送り出されている。公立高校生全体の非正規就職が2.6%にとどまるのは、その結果である。同じ公立高校を修了した生徒のあいだで32.7%ポイントもの開きが生じているのはなぜなのか。一つの理由として、日本語指導が必要な生徒が、この接続の仕組みを十分に利用していない可能性が考えられるが、この差が、学校を介した就職プロセスの利用の違いによるものかどうかは明らかではない。
この統計からわかるのは、日本語指導が必要な生徒は卒業後、無職にとどまっているのではなく、非正規雇用で職業生活を始めている割合が高い、ということである。日本の高卒就職では、入職時の雇用形態がその後のキャリアに影響を与える。だとすれば、この分岐は卒業の時点で終わる話ではない。
図1:日本語指導が必要な生徒と公立高校生全体の卒業後の進路比較 
出典:文部科学省「令和7年度学校基本調査」及び「令和7年度日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」より筆者作成
4. 日本語指導が必要な生徒の卒業後、誰が彼らを引き受けるのか
では、日本語指導が必要な生徒たちは、卒業後、どのような道をたどるのか。既存の統計から、その後の経路を継続的に把握することは難しい。文部科学省の調査は、日本語指導の必要性という基準で生徒を把握している。在留資格別の進路は示されない。反対に、在留管理の統計からは、その若者が高校在学中に日本語の支援を受けていたか、卒業時にどのような働き方で仕事に就いたかはわからない。労働に関する統計も、日本語の支援を必要としてきた経歴を記録していない。教育、雇用、在留管理は、それぞれ別のカテゴリーで同じ若者を把握しており、そのあいだがつながっていない。
したがって、卒業時に生じた分岐により、その後彼らがどのような経路をたどるか、確かめる手立てがない。前節で見た卒業後の進路の差が数年で埋まっていくのか、それともその差は埋まらずに続いていくのか。日本の若者一般については、初職が非正規雇用である場合、正規雇用へ移ることは容易でないと指摘されてきた。それがこの若者たちにも当てはまるとすれば、分岐は卒業の時点では終わらない。それが当てはまらない可能性もあるが、確かめる材料もまた存在しない。
問題は、卒業後の支援がまったく存在しないことではない。学校での日本語指導と、卒業後の就労や在留を、一つの移行過程として継続的に把握する仕組みがないことである。学校にいるあいだは、日本語指導も進路指導も、教育行政の仕事である。しかし卒業した瞬間に、その若者は制度の視野から外れてしまう。あとは本人が働きながら日本語を身につけ、機会があれば正規雇用へ移っていくことになる。それは、その先を本人の努力と選択に委ねるということである。
そして、この卒業者は毎年社会に送り出されるとともに、新たに日本語指導が必要な児童生徒の数も増え続けている。日本語指導が必要とされていた高校の卒業者数は、今後、年々増加していくだろう。外国人を家族とともに受け入れるという判断は、1990年代から30年以上にわたって重ねられてきた。外国人の家族帯同を認めれば、その子どもが日本の学校に通い、卒業し、やがて働き始めることは当然生じる。実際、子どもたちは学校に来て、卒業し、働き始めている。にもかかわらず、学校から就業への最後の接続を、誰が継続して見ていくのかは明確ではない。
外国人を家族とともに受け入れたからといって、その子どもの職業生活を行政がいつまでも支えるべきだということではない。日本で高校を卒業した若者が、その後は自ら働き、生活を築いていくことは当然である。ただし、その出発点である学校から職場への移行に、これほど大きな格差が生じているのであれば、理由を把握しないまま本人の問題として片づけることはできない。
5. おわりに
今後、日本で暮らす外国人が増え、滞在が長期化すれば、親とともに来日する子どもだけでなく、日本で生まれ、日本の学校で教育を受ける外国にルーツをもつ子どもも増えていく。そうした子どもたちが高校を卒業し、日本で働き始めることは珍しいことではなくなるだろう。日本語指導が必要な生徒の進路は、そのときに初めて考えればよい問題ではない。本稿で見たように、日本の高校を卒業後に就職する経路に乗ったとしても、その先の雇用形態にはすでに差が生じている。
外国人を家族とともに受け入れるのであれば、子どもが学校に通うことだけでなく、その子どもが成長し、卒業し、働き始めることまで当然起こるものとして考えておく必要がある。人数がさらに増えてから対応を考えるのではなく、いま見えている格差がなぜ生じているのか、その後どうなっているのかを確かめるところから始める必要がある。
[1] 出入国在留管理庁 在留資格「家族滞在」
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/dependent.html
[2] 労働政策研究・研修機構「「日本的高卒就職システム」の変容と模索」『労働政策研究報告書』No.97サマリー、2008年https://www.jil.go.jp/institute/reports/2008/documents/097_summary.pdf
[3] 日本経済新聞2026年3月7日付記事「高卒就活「応募は1社のみ」が招く早期離職 根強い慣習、教員8割賛成」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2372A0T20C26A1000000/
[4] 小杉礼子「非正規雇用からのキャリア形成─登用を含めた正社員への移行の規定要因分析から」『日本労働研究雑誌』労働政策研究・研修機構、2010年https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2010/09/pdf/050-059.pdf
[5] 文部科学省「令和7年度 日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査結果について」
https://www.mext.go.jp/content/20260525-mxt_kyokoku-000049811_03.pdf
文部科学省「学校基本調査」令和7年度 結果の概要
https://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/kekka/k_detail/2025.htm
[6] 本節で言及した進学率や非正規率の値は、文部科学省が実施している2つの調査から筆者が算出した。日本語指導が必要な生徒は「令和7年度日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査」、公立高校全体の高校生は「学校基本調査(令和7年度)」により、いずれも公立高等学校(全日制・定時制)の生徒に範囲を揃えている。なお、日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査が公表している非正規・一時的就職率49.6%は、特別支援学校高等部と通信制課程を含むため、本稿の数値とは異なる。