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【特集】世界人口デーに寄せて―人口減少社会における外国人受け入れの条件―在留資格「技人国」が問う「選抜なき定住化」
June 24, 2026
1987年に世界人口が50億人を超えたことを記念して定められた7月11日の世界人口デー。世界人口は2084年まで増加を続けるという予測もある一方、日本はいち早く深刻な「人口減少問題」に直面しています。課題先進国として、この時代にどう向き合い、何を未来へつなぐのか。現状と課題解決の道筋を改めて考えます。
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この記事のポイント |
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1.はじめに |
1.はじめに
7月11日の世界人口デーは、1987年に世界人口が50億人を超えたことを記念して国連開発計画(UNDP)国連が定めた日である。世界全体では、人口増加が資源や環境への負荷としてしばしば語られてきた。しかし日本が直面しているのは、その裏面ともいうべき人口減少である。2026年5月に公表された令和7年国勢調査の人口速報集計によれば、2025年10月1日現在の日本の総人口は1億2305万人で、前回調査の5年前から309万7千人(2.5%)減少した[1]。この減少幅は前回調査からさらに拡大し、人口が増えたのは東京都と沖縄県の二都県のみであり、日本全国のほぼすべての地域で人口減少局面に入っている。人口減少はもはや一部の地域に限られた現象ではなく、社会の構造そのものになりつつある。
こうしたなか、外国人の受け入れは避けて通れない政策課題となっている。社会を支える生産年齢人口の縮小の度合いは総人口の減少より速く、人手不足はすでに多くの産業や地域で深刻化している。介護、建設、製造、農業、宿泊、外食、物流、小売など、地域社会の暮らしを支える現場で、外国人労働者の存在はもはや例外ではない。
だが、人口が減るから外国人を受け入れればよい、という議論は単純である。外国人は、不足する労働力を補うためだけに来日するのではない。働き、暮らし、家族を形成し、子どもを育て、長期的には地域社会の一員となっていく存在である。受け入れを考えるなら、労働市場だけでなく、教育、医療、福祉、住宅、地域コミュニティまでを視野に入れる必要がある。したがって問われるべきは、外国人を受け入れるか否かだけではない。どのような制度を通じて、どのような能力確認と責任分担のもとで、どのような将来展望をもつ人材を受け入れるのか、である。
2.「技人国」は「専門職」に見えるが、定住回路でもある
この問いが最も見えにくい形で現在立ち上がっているのが「技術・人文知識・国際業務」、いわゆる「技人国」という技術的・専門的分野の在留資格のあり方である[2]。「技人国」で働く外国人は2025年6月末で45万8千人を超え、いまや「技能実習」や「特定技能」を上回って、就労を目的とする在留資格のなかで最大の集団となっている[3]。それにもかかわらず、「専門的・技術的分野」の在留資格として位置づけられてきたために、技能実習や特定技能のようには、外国人労働者の受け入れ制度として正面から政治的な議論の対象になりにくかった。
しかし、実際には「技人国」は日本の外国人受け入れにおける重要な回路となっている。留学生が日本企業に就職する際の主要な入口であり、地方企業や中小企業にとっては人材確保の手段でもある。さらに「技人国」は、長期滞在、家族帯同、永住申請にも接続しうる[4]。つまり、単なる就労資格ではなく、定住化への入口としても機能しているのである。
ここに、「技人国」の見えにくいリスクがある。「技人国」を申請する際にも、学歴、専攻と職務内容の関連性、雇用契約、報酬水準などの審査はある。しかし、技能実習や特定技能のような技能試験や日本語試験が制度上設けられているわけではない。実際の職業能力、日本語能力、職場や地域社会で生活していく力が十分に確認されないまま、長期滞在や家族帯同、永住申請へと接続しうる。専門職として受け入れているからこそ、その選抜機能の弱さが、かえって見えにくいのである。
したがって、いま問われているのは、「技人国」を規制するか否かではなく、規制しなければ何が起きるのか、そして規制した場合に今後何を回避しなければならないのか、である。放置のリスクと規制のリスクの双方を見据えたうえで、制度の再設計を考える必要がある。
3.規制しなければ何が起きるのか
規制しなければ、問題は静かに蓄積していく。「技人国」を「専門職」として扱い続けながら、実態としてより広い労働力受け入れの回路として拡大させれば、建前と現場の距離は広がる。在留資格と職務内容の実態が乖離し、日本語能力や職業能力の確認が不十分なまま長期滞在化が進めば、いずれ制度そのものへの信頼が損なわれるリスクがある。
しかも、こうした制度上の曖昧さは、日本社会だけでなく、移住者本人にも深刻なリスクをもたらす。たとえば、あるSNS上の投稿では、「技人国」の資格で来日した外国人が、来日から1か月半を過ぎても派遣会社から仕事を手配されず、受け入れてくれる職場を自ら探している様子がうかがえた。こうした困難に直面する人は、けっして例外ではない。
なぜこのような問題が生じるのか。制度上は「専門的・技術的分野」の人材として扱われていても、日本へ移動する過程に関わるのは、日本語教育や職業訓練を提供する教育機関、求人を紹介する業者在留資格の申請を代理する行政書士、人材を派遣する派遣会社、そして受け入れ企業である。しかし、それぞれ負う責任は「教育まで」「紹介まで」「申請まで」「派遣・配置まで」「雇用管理まで」という、自らの工程に限られる。日本への移動から就労、生活の安定までを一貫して支える主体は、どこにも存在しない。その結果、求人情報の齟齬、申請内容と実際の業務とのずれ、来日前後のミスマッチ、過剰な費用負担、そして孤立といったリスクが、分節化された連鎖を伝って、最終的に移住者本人へと転嫁されていく。
図1 分節化された仲介と移住者へのリスク転嫁
出所)筆者作成
ここで強調しておきたいのは、問題の本質は仲介者が存在することそのものにあるのではない、という点である。送り出しから就職までを媒介する仕組みは、本来であれば移住を支える社会的な基盤にもなりうる。問題なのは、全体に責任を負う主体が不在のまま、リスクだけが最も立場の弱い個人に集まっていく構造である。責任の所在を曖昧にしたまま、このような人々を受け入れ続けることは、本人にとっても、受け入れる地域社会にとっても、責任ある受け入れとは言いがたい。
これは、「技人国」の「第二の技能実習化」とも呼ぶべき事態につながりかねない。国際貢献という建前と労働力受け入れという実態の乖離を長く批判され、制度改革の対象となった技能実習と同じ道である。「技人国」が「専門職」という外観のもとで実質的な労働力受け入れを拡大させていると見なされるようになれば、その影響はより深刻だ。技能実習が少なくとも制度上は期限付きの滞在を前提としていたのに対し、「技人国」は定住・永住に接続しうる資格だからである。
「技人国」の問題は、制度の表面だけを見ているかぎりは見えにくい。技能実習であれば、監理団体、実習実施者、送り出し機関など、制度を構成する主体が比較的明示されている。特定技能であれば、人手不足分野の就労資格として位置づけられ、技能試験や日本語試験も制度に組み込まれている。これに対し「技人国」は、「専門的・技術的分野」の資格であるがゆえに、制度全体としての受け入れ責任や、定住化への接続が、これまで十分に議論されてこなかった。
4.規制した場合に、何を回避すべきか
では、規制を強化すれば問題は解決するのか。そう単純ではない。「技人国」が担ってきた労働需要は、制度を厳格化しても消えるわけではないからである。
第一に、特定技能や育成就労といった、より政治的に可視化された制度に対する受け入れ圧力が集中する可能性がある。しかし、これらの間口を安易に広げれば、外国人労働者の受け入れをめぐる政治的反発が高まりかねない。第二に、海外からの直接採用が難しくなれば、国内の日本語学校・専門学校・大学を経由した留学生採用への依存が高まりうる。だが、国内の教育機関を経由したからといって、実質的な日本語能力や専門性が保証されるわけではない。「技人国」の問題が留学生政策の内部へ移るだけであれば、再設計とは言えない。第三に、入口だけを厳しくすれば、制度利用がより見えにくい迂回路へ移るおそれもある。書類上は専門職らしく見せる申請が高度化し、実態との距離が覆い隠されれば、問題はかえって把握しにくくなる。つまり、求められているのは「厳格化せよ」という結論ではない。「技人国」が吸収してきた労働需要の行き先を、規制と同時に設計することである。
このまま「技人国」での受け入れが進んだ場合、懸念されるのが「選抜なき定住化」である。これは、技能試験や日本語試験のような明示的な能力確認、職務適合性の確認、そして社会統合の仕組みを十分に経ないまま、長期滞在、家族帯同、永住申請へと接続していく状態を指す。外国人が定住すること自体が問題なのではない。問題は、定住を可能にする制度でありながら、どのような人材を、どのような能力確認と支援のもとで定住外国人を受け入れる社会へ迎えるのかが、十分に設計されていないことである。これは将来の仮説ではなく、すでに部分的に進行している。
長期滞在や家族帯同が進めば、教育、医療、福祉、住宅、子育て、日本語教育など、地域社会で対応すべき課題も当然に生じる。それ自体は定住社会を形成するうえで必要な社会的投資だが、仮に国の在留資格制度が定住化を可能にしながらも、生活者としての支援だけが後から自治体や地域社会に委ねられるものであるなら、制度への不信や地域社会との摩擦を招きかねない。
5.必要なのは「規制」ではなく「再設計」
必要なのは、「技人国」の入り口をただ拡大することでも、ただ縮小することでもない。「技人国」については昨今、問題が表面化している。愛知県での大規模な給与未払いや、行政書士による偽装申請などが報道によって明らかになっている[5]。「技人国」を「専門職資格の一部で不適正利用が起きている」といった面だけで捉えるのは不十分である。むしろ「技人国」は、専門職、留学生の就職、地方中小企業の人材確保、そして定住化への接続を同時に担ってきた多機能な制度、あるいは資格として、正面から捉え直す必要がある。
そのうえで、再設計に欠かせない柱は少なくとも三つある。第一に、入口での能力確認を明確にすることである。学歴や職務との関連性だけでなく、実際の職務に必要な技能、日本語能力、職場でのコミュニケーション能力をどう確認するかを検討しなければならない。第二に、来日後の責任主体を明確にすることである。教育機関、紹介会社、行政書士、派遣会社、受け入れ企業が分節化されたままでは、リスクは移住者本人に転嫁され続ける。誰がどの段階で何に責任を負うのかを、制度の上で明らかにする必要がある。第三に、定住化を見据えた社会統合の仕組みを整えることである。家族帯同や永住申請に接続しうる資格である以上、就労だけでなく、家族や子どもの教育、地域生活、日本語学習までを含めて設計しなければならない。
これらは、留学生政策と就労政策、社会統合政策を別々に扱うかぎり実現できない。三者を一体のものとして設計し直すことが求められている。人口減少社会において、外国人受け入れは現実的な選択肢の一つである。しかしそれは、単に労働力を補充する政策ではなく、将来の地域住民を迎え入れる政策でもある。問われているのは、規制するか否かではない。規制しなければどのような矛盾が蓄積するのか、規制した場合にどのような迂回路や新たな不均衡を生むのか――その双方を見極めたうえで、選抜・育成・社会統合を備えた受け入れ制度を設計できるかである。必要なのは、外国人を労働力として数える発想ではなく、定住社会の一員として迎えるための制度設計なのである。
[1] 総務省統計局「令和7年国勢調査 調査の結果」https://www.stat.go.jp/data/kokusei/2025/kekka.html
[2] 出入国在留管理庁 在留資格「技術・人文知識・国際業務」https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/gijinkoku.html
[3] 出入国在留管理庁「令和7年6月末現在における在留外国人数について」https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/13_00057.html
[4] 「技人国」の在留資格更新回数に上限はないため、雇用主に雇用継続の意図がある限り、更新継続が可能となる。家族を呼び寄せるための「家族滞在」の在留資格申請には、扶養者が呼び寄せる家族が扶養者による扶養を必要とする配偶者または子であることを証明する必要がある。また、扶養者自身に呼び寄せる家族を扶養できるだけの収入があると認められる必要がある。永住許可申請を行うには、10年以上日本に在留し、そのうち5年以上は就労・居住資格で過ごしていること、素行が善良であること、独立生計要件を満たすことなどの条件がある。
出入国在留管理庁HP 「永住許可申請3」https://www.moj.go.jp/isa/applications/procedures/zairyu_eijyu03.html
[5] 厚生労働省愛知労働局 令和7年9月3日発表資料「労働基準法違反容疑で逮捕・送検~派遣労働者に対する賃金不払の疑い~」
https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-roudoukyoku/content/contents/002373471.pdf
テレビ愛知2025年9月3日「派遣労働者の2カ月分の賃金約1660万円を未払いか 労働基準法違反疑いで人材派遣会社社長を逮捕・送検」
https://news.tv-aichi.co.jp/single.php?id=7853
千葉日報2024年12月22日「ベトナム人に給与未払いか、愛知 数千万円以上、大使館が調査要請」
https://www.chibanippo.co.jp/newspack/20241222/1318769
読売新聞2026年1月9日「逮捕された行政書士の男、ベトナム人約50人の入管手続きで十数社の会社名を勝手に使ったか…ブローカーから数百万円の報酬」
https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20260109-GYO1T00027/