- 政策フロントライン
【特集】「骨太の方針」閣議決定を受けて―外国人の定住は前提とされ、永住は厳しくなるのか
August 21, 2026
2026年7月21日、政府は「経済財政運営と改革の基本方針2026」(骨太の方針2026)を閣議決定しました。高市内閣として初となる本方針は、私たちの社会をどのように導こうとしているのでしょうか。本連載では、政策の方向性や課題、実効性について多面的な視点から検討し、今後の社会の在り方を考えます。
これまでの特集記事は<政策フロントライン>のページからご覧いただけます。
|
この記事のポイント |
|
1. はじめに |
1. はじめに
2026年7月21日、高市政権として初めての「経済財政運営と改革の基本方針」(以下、「骨太の方針」)が閣議決定された[1]。外国人政策は第2章3節に「(4)外国人政策の推進」として記載されている。内容を確認すると、意外なことに気づく。この文書は、外国人の受入れそのものについての言及はほとんど見られない。在留資格の名称として本文に現れるのは育成就労だけである[2]。永住も、高度専門職も、技術・人文知識・国際業務も、特定技能も言及されていない。その代わりに書かれているのは、違法行為への対応、手数料と電子渡航認証制度による財源確保と入管庁の体制強化、日本語と制度・ルールの教育、有識者会議での議論の開始、土地取得のルールである。すなわち、受入れの中身ではなく、受入れを扱う体制と、受け入れた後の環境である。本稿は、この文書が何を決めたかではなく、外国人政策をどのように位置づけたかという視点から、今後の外国人政策について考える。
2. 外国人政策はどの章に置かれたか
今回の「骨太の方針」において、外国人政策は第2章「日本の成長力強化と安全・安心の確保」の3節「国民の安全・安心の確保」の(4)「外国人政策の推進」という部分に配置されている。同じ節に並ぶのは、「防災・減災・国土強靱化の推進」「東日本大震災・能登半島地震への対応」「治安・安全の確保」である。外国人政策は「治安・安全の確保」の直後に置かれた[3]。
他方で、同じ第2章1節の(4)「人材力の強化・人材総活躍」の部分では、外国人に関連する言及はない。この項は労働供給制約下の人材確保、エッセンシャルワーカーの育成、リ・スキリングの拡充を論じているが、外国人労働力に関する内容は触れられていない。労働力人口の規模に関する検討は第1章に移され、2026年末を目途に策定される「人口総合戦略(仮称)」において「将来必要となる労働力人口の規模」を多角的に検討するとされている。
留学生に関する言及が本文に現れるのは、経済安全保障の項の一箇所である[4]。研究セキュリティの確保とともに、留学生・外国人研究者の受入審査を強化するという文脈で言及されている。つまり、今回の「骨太の方針」において外国人は、人材と成長の章ではなく、「国民の安全・安心の確保」と「経済安全保障の強化」の部分に分かれて配置された。高市政権は政権発足当初、「秩序ある共生」を掲げたが、「骨太の方針」の本文中で「秩序ある共生」の語が現れるのは、総合的対応策および関係閣僚会議の名称としてのみであった。
3. 財源の確保と使い道
「骨太の方針」では、在留許可手数料の見直しと電子渡航認証制度の導入による手数料収入で確保した財源を最大限活用し、従来の考え方にとらわれずに必要な措置を講ずるとした。そのうえで、手数料引上げの趣旨に鑑み、優先して”出入国在留管理庁の人的・物的体制を抜本的に強化するとしている[5]。教育・生活面の施策は「あわせて」という接続詞で続く。
手数料の見直しや新たな手数料収入によって確保した財源は、管理体制の強化に先に充てられる。続く段落では、「日本語・生活学習プログラム(仮称)」の創設、プレクラス等の全国展開、登録日本語教員の処遇改善、地域や学校の体制整備が挙げられ、「国主導の下、地方公共団体等とも連携して」施策の充実を図ると書かれている。これは、1990年代以降、外国人住民の増加に直面した自治体、いわゆる外国人集住都市が約30年にわたり担ってきた領域を、国が主導する、つまりリーダーシップをとるという宣言であるといえる。では、「骨太の方針」が国主導で整備するとした教育・生活基盤は、現在どのような状況に置かれているのか。
4. 学校現場、教室では何が起きているのか
文部科学省が2026年5月に公表した調査によれば、公立学校で日本語指導が必要な児童生徒は84,759人となり、2年前の前回調査から22.6%増加して過去最多となった[6]。増加分15,636人のうち15,595人が外国籍であり、日本国籍の児童生徒は0.4%増にとどまる。国際結婚家庭や帰国児童など従来からの層は、ほぼ横ばいである。
日本語指導が必要な児童生徒が在籍する学校は12,668校、全公立学校の39.4%に及ぶ。一方、5人以上が在籍する学校は4,329校であり、残る約8,300校では在籍数が1人から4人である。学年が分かれれば、1クラスに1人、隣のクラスは別の言語という状態になる。外国籍の児童生徒73,313人について母語別にみると、最も多い中国語が24.3%、ポルトガル語が16.3%である。一方、いずれの分類にも属さない「その他」(文科省の調査における分類上の「その他」)が16.7%を占め、ポルトガル語を上回る。
課程別にみると、構成はさらに異なる(図1)。ベトナム語は小学校で1割を占めるのに対し高等学校では3%に満たず、ネパール語は逆に小学校の5%弱から高等学校の17%へと比重を増す。前者は国内での家族形成、後者は年長の子を伴う移動という、来日の形の違いを反映していると考えられる。母語別の構成は、今後も出身国の変化に応じて変化していく。1990年代以降に急増した日系南米人の集住地域を前提とした日本語支援の体制や枠組みは、日本語とポルトガル語という対応関係にあったが、2026年現在、そして今後の多国籍化していく児童生徒の構成には対応しきれない。
図1 令和7年度 日本語指導が必要な外国籍児童生徒
出典:文部科学省「令和7年度日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査結果について」より筆者作成
*令和7年5月1日現在の在籍者を課程別に集計したものであり、同一集団の推移を示すものではない
*図1内の「その他」は、上位5言語以外の全て(日本語、英語、韓国・朝鮮語、スペイン語をはじめ、少数言語など)の言語を含んだ数字である。
外国人労働者は2025年10月末で257万1,037人となり、国籍別ではベトナムが60万5,906人と最も多い[7]。留学生は2025年5月時点で40万8,069人、中国が13万1,097人で最多だが、ネパールが10万239人と前年比54.7%増で続く[8]。就労と就学の主要な出身国、地域は、日系南米人が中心であった時期からかなり入れ替わって多国籍化している。外国人の来日から家族形成までには時間差があり、教室の児童生徒たちの言語構成の変化はこれから本格化する。
同じ言語の児童が1校に数十人在籍する集住地域では、その言語の支援員を配置すれば足りた。現在、母語支援員は7,301人、日本語指導補助者は8,706人に増えたが、いずれも在籍校数を下回る。支援員や指導補助者の人数を増やしても、従来の外国人集住地域のような配置方式では分散した国籍構成に対応することは容易ではない。
「骨太の方針」が登録日本語教員の処遇改善と日本語・生活学習プログラム(仮称)を掲げたが、これらはいずれも取り出し指導と初期適応を担う仕組みであり、在籍学級で過ごす大半の時間は施策の対象になっていない。これまでも教室で困っている外国籍の児童生徒には、担任をはじめ学校現場が試行錯誤しながら対応し、さまざまな支援を担ってきた。同文書は第3章で、2029年度までに教師の時間外在校等時間を月30時間程度へ縮減するとも記している[9]。国主導とする以上、国が引き受ける範囲と、学校現場に残る負担の境界を示す必要がある。
5. 定住は前提としつつ、永住は厳格化されるのか
「骨太の方針」は、外国人の受入れの基本的な在り方について有識者会議での議論を開始し、2026年度中に基本方針を取りまとめるとした。7月24日、政府は関係閣僚会議を開き、受入れ人数に数値目標を設けるかどうかを含めて検討する場を設けることを決め、同日、有識者会議の下にワーキンググループが置かれた。8月7日の初会合では、2040年までを見通した在留外国人数と就業者数の推計手法が示され、入国超過数が増加・現状維持・減少する複数のシナリオが想定されている。議論は、基準ではなく数から始まった。
ところが基準そのものは、この議論を待たずに動いていた。同じ7月24日の夜、政府が永住許可の要件を厳格化する方針を固めたと各紙が報じ、8月4日、出入国在留管理庁が「永住許可に関するガイドライン」の改定案を公表して意見公募を開始した[10]。
改定案は、永住が特に慎重な審査を要することを初めて明記した。独立生計要件については、日本人世帯の平均収入を継続的に上回ることを求め、将来受け取る年金額が、その収入水準で厚生年金に30年間加入した場合に相当する額に達しているかを新たに加えた。国益要件については、国益に反しないという消極的な理解を改め、積極的かつ具体的に利益をもたらすことを要するとしたうえで、一定水準の日本語能力、日本の制度・ルールへの理解、そして義務教育期間の子どもがいる場合の就学の状況を評価に組み込んだ。配偶者特例の婚姻期間と在留期間も引き上げられる。永住許可申請の手数料は、1万円から20万円への引上げが予定されている。「骨太の方針」が述べた手数料の見直しによる財源確保は、ここで具体化する。
2025年末時点の在留外国人約412万人のうち、永住者は約94万人である。入管庁は、永住者の生活保護率が日本人と同水準であるとの調査結果を踏まえて要件を厳しくしたと説明している。注目すべきは、評価に組み込まれた項目の並びである。日本語能力、制度・ルールの理解、子どもの就学、つまり「骨太の方針」が「あわせて」として掲げた教育・生活面の施策は、そのまま永住審査の物差しとなった。学習の機会を保障する施策は、同時に定住の可否を測る指標である。
「骨太の方針」は、定住を前提として教育と生活の基盤を全国に整備すると書いた。学齢期の子どもがいるということは、その家族、保護者がいるということである。学齢期の児童生徒に関する記述は、家族とともに一定期間日本で定住することが前提でなければ書かれない。しかし同じ時期に、その子どもたちの親にとって、安定した地位への到達は、これまでよりも難しくなる可能性がある。
「骨太の方針」から永住許可のガイドライン改定案まで、この数か月の政府文書や案に共通するのは、日本語能力を制度の指標として位置づける姿勢である。ただし、日本語習得の機会は職場や地域によって大きく異なり、その水準を示すことと、そこへ至る道筋を保障することは、同じではない。一定期間日本で暮らすことを前提とするのであれば、その生活基盤の整備と、安定した在留資格への到達条件をどのように接続するのかまで、一体として設計する必要がある。
[1] 内閣府「経済財政運営と改革の基本方針」
https://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/honebuto/2026/2026_basicpolicies_ja.pdf
[2] 同上、p23
[3] 同上、p22-23.
[4] 同上、p20
[5] 同上、p23
[6] 文部科学省「令和7年度日本語指導が必要な児童生徒の受入状況等に関する調査結果について」
https://www.mext.go.jp/content/20260525-mxt_kyokoku-000049811_03.pdf
[7] 厚生労働省「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和7年10月末時点)
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_68794.html
[8] 独立行政法人日本学生支援機構「2025(令和7)年度外国人留学生在籍状況調査結果」
https://www.studyinjapan.go.jp/ja/_mt/2026/05/data2025z.pdf
[9] 内閣府HP「経済財政運営と改革の基本方針」p33
[10] 出入国在留管理庁HP「永住許可に関するガイドライン(案)」
https://public-comment.e-gov.go.jp/pcm/download?seqNo=0000318904