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【論考】誰が「技人国」の仕事を確認するのか―派遣元と派遣先に分散する責任
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【論考】誰が「技人国」の仕事を確認するのか―派遣元と派遣先に分散する責任

July 28, 2026

1. はじめに

前回、愛知県豊田市と静岡県掛川市周辺で表面化した二つの事案を通じて、在留資格「技術・人文知識・国際業務」、いわゆる「技人国」で派遣就労する外国人にとって、派遣元企業の経営破綻や仕事の減少が、賃金未払いや突然の解雇にとどまらず、在留資格の更新や生活基盤そのものを揺るがす事態につながることを論じた[1]

これらの事案は個々の企業の悪質性として語られやすいが、視点を一歩引くと別の問いが浮かぶ。なぜ「技人国」で働く外国人が、仕事があれば派遣され、仕事がなければ自宅待機させられるという雇用のあり方に組み込まれていたのか。本稿では、外国人労働者と派遣という二つの「雇用の調整弁」が重なる部分として、この問題を考える。あわせて、20262月の出入国在留管理庁による運用見直し[2]が、この構造にどのような修正を迫っているのかを検討する。

2. 「雇用の調整弁」だった外国人労働者

外国人労働者が景気変動を吸収する労働力として位置づけられてきた歴史は、「技人国」に限られない。1990年の出入国管理及び難民認定法(入管法)改正後に来日した日系ブラジル人の多くは、製造業の請負・派遣という間接雇用に集中し、景気拡大期には大量に採用され、景気後退期には真っ先に契約を解除された。2008年の世界金融危機後には、政府が失業した日系人に帰国支援金を支給し、2万人を超える人々が日本を離れた[3]。外国人労働者が「労働力の供給調整弁として使われている」との批判が生じたのも、この時期である[4]

在留資格が安定していることと、雇用が安定していることは別である。在留資格「定住者」には職種制限がなく、法制度上は日本人と同じ範囲の仕事に就けるが、実際には雇用調整の受け皿になりやすい産業・雇用形態に就業先が集中してきた。外国人が自らそうした産業・雇用形態を積極的に選択しているというよりは、そうした働き方へ構造的に誘導されてきたのである。

世界金融危機から15年以上が経ち、外国人労働者の受け入れは専門性の高い分野へと裾野を広げたが、労働力を需要変動に応じて調整するという発想は形を変えて受け継がれている。「技人国」の外国人労働者が派遣形態で就労している状況は、かつて日系人が置かれていた調整弁としての位置づけが、専門職の領域にまで及んでいることを浮き彫りにしている。

派遣という雇用形態自体も、企業に雇用調整の余地を与える仕組みとして機能してきた。派遣先企業は需要の増減に応じて人員を柔軟に調整でき、派遣社員の募集・雇用契約・給与支払い・労務管理の多くを派遣元に委ねられる。だが、派遣社員である外国人労働者の立場では、派遣先との契約が終了した場合、派遣元が次の派遣先を確保できなければ、自宅待機や契約解除の対象となってしまう。

この仕組み自体を全否定するつもりはない。企業にとって短期的な人手不足に対応する手段として、派遣労働に一定の合理性があることは事実である。問題は、その柔軟性を最終的に誰が支えているのかという点にある。

3. 「技人国」ビザを確保した後に派遣先を探している実態

筆者が複数の関係者に行った聞き取りでは、派遣元がまず外国人本人を自社で雇用し、想定される職務内容をもとに「技人国」を申請する。在留許可が無事下りたら海外からの呼び寄せであれば来日後に、国内に在留する留学生等であれば「技人国」への在留資格変更後に、実際の派遣先を確保し、仕事があれば派遣する。なければ自宅待機させるという運用が行われていると、複数から指摘があった。

本来、「技人国」は具体的な専門的・技術的活動を行うことを前提とした在留資格である。しかし、派遣というビジネスモデルにおいては、案件が確定する前に人材を確保しておく必要がある。従事する活動が先に定まっていることを前提とする在留資格制度と、人を先に確保してから仕事を割り当てる派遣事業とのあいだには、もともと齟齬が生じる部分があった。

そもそも20262月の運用見直し以前は、申請時点で派遣先が確定していることは要件とされていなかった。派遣先が確定していない以上、実際の業務内容を申請時に厳密に確認しようがなく、審査は学歴・職歴と想定職務との関連を書類上説明できるかどうかに依らざるを得ない。派遣先未確定のまま許可を得る運用が広く行われてきたことは、複数の関係者が指摘するところである。制度の建前と派遣の運用実態とのあいだにあったこの隙間が、就労機会の拡大と、就労実態を確認する責任の空白という、相反する二つの結果を同時に生んでいた。

4. 書類審査では実態を見抜けないという限界

こうした空白は、確認の責任が派遣元と派遣先のあいだに分散していることに起因するが、単に関係者の連携不足により生じているわけではない。書類審査だけでは、申請時の記載内容と、派遣後の業務内容との一致を継続的に確認することは難しい。入管当局は、労働条件通知書や派遣契約書など、申請時の書類をもとに審査するが、「通訳」や「生産管理」といった申請内容どおりの業務に実際に従事しているかは、書類だけでは判別しようがない。意図的な虚偽記載であれ、当初は適正だった内容が派遣先の都合でなし崩しに変わった場合であれ、書類審査という手法に限界があることは変わらない。

実際、こうした齟齬が表面化するのは、書類審査の過程ではなく、労働者本人からの相談やSOS、内部関係者からの通報、あるいは警察による別件の捜査といった、審査の外側にある偶発的な端緒による。2019年には、行政書士が留学生を「通訳」として虚偽申請した後、「技人国」へ資格変更を行わせていた事件[5]2021年には、人材派遣会社社長と行政書士が共謀し、ネパール人を翻訳・通訳業務に従事すると偽って食品工場で就労させていた事件[6]、通訳の資格で来日した外国人が食品工場で就労させられていた事件[7]が、それぞれ摘発されている。

こうした構図は、今回の運用見直しの直前まで確認されている。20261月には、「技人国」の受け入れ実績がある企業十数社の名義を無断で使い、約50人分の「技人国」に係る在留資格の申請を不正に行っていた行政書士が摘発された[8]。この事案は、実際には別の会社で働かせていたベトナム人について、実績のある企業の名前を借りて申請書を作成していたもので、この事件が発覚したのも、入管の審査によってではなく、名義を無断使用された企業が異変に気づき、入管局へ相談したことがきっかけだった。申請書に記載された受け入れ企業が、実際にその外国人を受け入れる意思を持っているかどうか、書類審査では確認していなかったことになる。


1 書類審査では実態を確認しにくい構造


出所)筆者作成

 

報道によって確認できる事案の多くは、労働者本人や関係者からの相談・通報、あるいは別件捜査など、通常の申請審査とは異なる経路を通じて表面化している。もちろん、入管が審査過程で疑義を把握し、不許可や追加確認に至った事例は公表資料からは見えにくい。したがって、これらの摘発事例だけから問題の広がりを推定することはできない。しかし、少なくとも申請時の書類と派遣後の業務実態を継続的に照合する仕組みが十分でなかったことは、今回の運用見直しからも読み取れる。

5. 「派遣先未確定」は申請を認めない入管庁の方針転換

出入国在留管理庁は2026224日、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格をもって派遣形態で就労する場合の取扱いについて通知を公表し、同年39日申請分からこれを適用した[9]。この見直しは、前節で述べた、申請時の書類と派遣後の業務実態を継続的に照合することの難しさに、部分的に手を入れようとするものである。

第一に、申請時点で派遣先が確定していない場合には、在留諸申請の許可等を受けられないことが明記された。通知は「必ず派遣先を確定させた上で申請してください」としている。これは、派遣元がまず人材を確保し、来日後あるいは在留資格変更後に派遣先を探すという、3節で見た従来の運用を認めないという方針転換である。

第二に、派遣元・派遣先双方に「誓約書」の提出が求められるようになった。派遣元は、本人と派遣先に在留資格の活動範囲を説明し、派遣先は申請された活動内容に従事させ、入管の実地調査等にも応じることを誓約する。これまで派遣元に委ねられがちだった在留資格上の確認を行う責任を、派遣先にも明示的に負わせた点は大きい。

第三に、在留審査の過程で、業務内容や活動状況について入管が派遣元だけでなく派遣先へも直接確認する場合があること、在留資格更新時に派遣元・派遣先の管理台帳や就業状況報告書の提出を求めることも明記された。

第四に、派遣形態で就労する場合には、派遣契約期間に応じた在留期間が決定されることも明記された。在留期間が個々の派遣契約と連動することになったのである。

従来、確認は申請時点の一度限りで、その後の就労実態との乖離を捕捉する仕組みは乏しかった。入り口の審査だけでなく在留期間中も継続的に派遣先での就労実態を確認する仕組みへの転換であり、この点は評価できる。

もっとも、新たに導入された誓約書や管理台帳もまた書面である以上、4節で述べた限界を完全に解消するものではない。確認の主体が明確になったことと、確認が実効性を持つことは、なお別の問題として残る。

6. 調整弁のリスクを誰が負うのか

派遣先が確保できないという事態が生じたとき、それは本来、外国人を先行して雇用した派遣元の事業リスクである。しかし実際には、そのリスクは、自宅待機、賃金の減額や未払い、契約解除、意に沿わない転職の強要、在留資格更新への不安という形で、外国人本人へと移転されやすい。

前回紹介した豊田市・掛川市の事案は、このリスク移転がすでに現場で起きていたことを示している。企業が必要なときにだけ労働力を確保できるという柔軟性は、仕事のない期間の費用とリスクを、誰かが負担することで初めて成立する。外国人の派遣においては、その負担がもっとも弱い立場にある外国人本人へ集中してきた。

今回の運用見直しは、この構造そのものを直接是正するものではない。派遣先を事前に確定しなければならないという要件は、申請の入口で申請者たる外国人労働者のリスクを減らす効果を持つに過ぎず、派遣先が確定したあとで契約が途中終了した場合の待機や解雇のリスクを減らすものではない。むしろ在留期間が派遣契約期間と連動することで、派遣契約の終了は在留期限の到来と重なりやすくなり、待機のリスクは在留資格を更新できないリスクへと形を変えて本人に残り続ける。他方、要件厳格化によって派遣元は採用に慎重になり、これまで派遣という回路で就労機会を得ていた外国人材の就労の入口が狭まる可能性もある。

7. 終わりに

以上を踏まえると、求められるのは、労働者派遣という雇用形態そのものの否定ではなく、次の諸点である。

・派遣先の確定と職務内容の確認を、申請時だけでなく在留期間を通じて維持すること
・派遣元と派遣先双方の責任範囲を明示すること
・待機期間中の賃金保障の実効性を高めること
・派遣契約終了時の配置転換や転職支援の仕組みを整えること
・本人に対して業務内容と在留資格の関係を丁寧に説明すること
・不適切な運用を行った企業側の責任を追及する体制を強化すること 

労働者派遣は、企業に柔軟な人員調整を可能にする仕組みである。しかし、その柔軟性のコストを、収入だけでなく在留資格までもが雇用と結びつけられた外国人へ押しつけてはならない。派遣元と派遣先のあいだに分散してきた責任を、外国人の就労実態を継続的に確認する責任と、その生活基盤を守る責任とに分けるならば、今回の見直しが責任の担い手を定めたのは前者のみである。後者の責任を負うべきは、第一に雇用主として先行雇用のリスクを引き受けた派遣元であり、次いでその柔軟性から利益を得る派遣先であり、最終的には雇用と在留資格を結びつけた制度の設計者として、両者の履行を担保すべきは国であろう。


[1] 在留資格「技人国」をめぐるトラブルは何を示しているのか賃金未払い・突然の解雇から考える雇用責任と在留リスクhttps://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4997

[2] 出入国在留管理庁「申請人が派遣形態で就労する場合の取り扱いについてhttps://www.moj.go.jp/isa/content/001457164.pdf

[3] ロイター通信 2014815日付記事「アングル:外国人労働者への支援強化、司令塔欠く対応に不安の声も」https://jp.reuters.com/article/markets/japan/-idUSL4N0QI37G/

[4] 同上

[5] 一般社団法人全国日本語学校連合会 「留学生の机(11事件報道から学ぶ在留資格虚偽申請」平成313月(元記事:読売新聞2019314日朝刊)https://jalsa.tokyo/wp-content/uploads/2022/01/11%E3%80%80事件報道から学ぶ(在留資格虚偽申請).pdf

[6] 朝日新聞2021813日付記事「通訳のはずが工場勤務 人材会社社長らが不法就労助長容疑」https://digital.asahi.com/articles/ASP8F4FCZP8FUTIL009.html

[7] 日本経済新聞202223日付記事「在留「拡大解釈」許さず。中村屋、入管法違反容疑で書類送検」https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79804350S2A200C2EA1000/

[8] 読売新聞202618日付記事「ベトナム人の入管手続きで勤務先を偽って申請した疑い、行政書士を逮捕在留資格の認定スムーズにする目的か」
https://www.yomiuri.co.jp/national/20260108-GYT1T00143/

[9] 出入国在留管理庁「在留資格「技術・人文知識・国際業務」をもって派遣形態で就労する場合の取扱いについて」令和82月(7月改正)
https://www.moj.go.jp/isa/content/001457164.pdf 

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