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【論考】「技人国」の言語能力確認は何を確認しているのか-海外採用と国内留学生のあいだ
July 30, 2026
1. 「技人国」に初めて加わった言語能力の確認
在留資格「技術・人文知識・国際業務」、いわゆる「技人国」は、これまで言語能力を独立した一律要件としてこなかった。学歴や職歴と、従事する職務の専門性との関連が審査の中心であり、言語能力そのものは、原則として在留資格取得の必須条件ではなかった。ところが、2026年4月15日以降の申請から、所属機関がカテゴリー3または4[1]に該当し、翻訳・通訳、ホテルや旅館における接客など、主として言語能力を用いる対人業務に従事する場合には、業務で使用する言語についてCEFR B2[2]相当の能力を証する資料が新たに求められるようになった[3]。なお、「技人国」の申請全体に一律で言語能力が求められているわけではなく、対象となる企業や職務における、業務で使用する言語の能力が問われている。当然、日本語を用いた通訳や接客業務に就く場合は、日本語能力の確認が求められることになる。
今回導入された言語能力の確認は、実際には何を確認しているのか。また、その確認は誰に求められ、誰には求められないのか。本稿では、制度変更の背景を確認したうえで、言語能力確認の実質と、それが外国人材の採用経路に与えうる影響を考える。
2. 職務名だけでは、実際の業務が見えない
前回の論考[4]で見たように、「技人国」をめぐっては、「翻訳・通訳業務」などの名目で在留資格を申請しながら、実際には工場のライン作業や荷物運搬など、日本語による対人業務とは異なる仕事に従事させていた事例が、繰り返し摘発されてきた[5][6]。
申請書に「通訳」や「接客」と記載されている場合、本人に実際の言語能力がなければ、その職務に従事するとは考えにくいが、実際には日本語力をほとんど必要としない作業に配置されているのであれば、申請上の職務と実際の業務が食い違っている可能性がある。
出入国在留管理庁は、今回の制度変更と過去の不適正事例との関係を、公式には明示していない。しかし、両者を並べて見ると今回の言語能力確認の導入は、申請書上の職務名だけでなく、その職務に必要な能力を本人が実際に備えているかを確認する意味があると考えられる。これは、「技人国」の審査が、学歴や職務名などの形式的な確認から、少なくとも一部の対人業務について、その業務に必要な能力の確認へ踏み出したことを意味する。もっとも、そこで確認される「能力」が何を指し、どこまで測られているのかは、後述するように、留学生として来日し、卒業後日本で就職するのか、あるいは、直接就労ビザを取得して来日して働くのか、いずれかの経路によって異なる。
3. 国内大学卒業者の能力は何によって確認されるのか
この言語能力確認には大きな例外がある。本邦の大学、大学院、高等専門学校、専修学校の専門課程等を卒業した者については、一定の条件の下で、CEFR B2相当の日本語能力を有するものと評価され、JLPT(日本語能力試験)[7]やBJT(ビジネス日本語能力テスト)[8]などによる別途の証明を提出する必要がない[9]。
しかし、この日本語能力の証明を免除する規定には、少なくとも三つの疑問が残る。第一に、入学時に各大学が行った日本語能力の審査結果が、卒業時に全国共通の基準で再審査されないこと。第二に、日本語を主な教授言語としない学位課程の卒業者と日本語を教授言語とする学位課程の卒業者が区別されないこと。第三に、全国の大学間の教育内容や卒業認定の水準の違いが捨象されることである。
第一の点から見よう。日本語で授業を行う大学であっても、全国一律でJLPT N2を入学条件としているわけではない。N2相当の日本語能力は入学時の一つの目安とされているが、大学は、EJU(日本留学試験)[10]やJLPTの成績に加え、面接、独自試験、書類審査などを通じて、日本語で授業を履修できる能力があるかを総合的に判断している。こうした多様な判断自体には、一定の合理性がある。試験の点数だけでは測れない学習能力や将来性を評価できるからである。しかし、それはあくまで、入学時点でその大学の教育課程を履修できるかについての個別判断である。いったん入学すれば、学生は各大学が定める単位を取得し、卒業要件を満たせば学位を得られる。卒業時に、すべての留学生の日本語能力を全国共通の基準で改めて測定する制度はない。その結果、「入学時の各教育機関による個別判断」が、共通基準による再確認を経ないまま、「技人国」申請では「CEFR B2相当の日本語能力」を示す根拠へと読み替えられることになる。
第二・第三の点は、この読み替えの範囲をさらに広げる。英語で学位を取得した卒業者も、日本語で学んだ卒業者も、制度上は同じ「国内大学卒業者」として扱われる。また、大学教育には認証評価をはじめとする教育の質を保証する仕組みが設けられているが、それは、すべての大学の教育内容や卒業認定の水準が均質であることを意味しない。まして、個々の卒業生がCEFR B2相当の日本語能力を有していることを直接確認する制度でもない。入学時の選抜方法、教授言語、日本語教育の内容、卒業までに求められる学修の水準は、大学によって一様ではない。
では、証明を求められる側は、何をどこまで確認されているのか。CEFR B2相当として認められるJLPT N2が測定するのは、主に「言語知識」「読解力」「聴解力」であり、CEFRにおける「話す」「書く」といった能力や、会話上の「やりとり」などの習熟度は直接測定していない[11]。ホテルのフロントや顧客対応で必要なのは、相手の発言を理解するだけでなく、状況に応じて説明し、質問に答え、ときには苦情にも対応する能力である。つまり、日本語能力の証明を求められる経路において確認されているのは対人業務の遂行能力ではなく、その基礎となる日本語力にとどまる。それでも、N2取得者は少なくとも共通試験による能力確認を一度は経ている。国内大学卒業者への証明免除は、さらに間接的な「卒業」という経歴の上に成り立っている。
大学の授業を履修し、所定の単位を取得できることと、通訳や接客の現場で日本語を用いて説明し、応答し、交渉できることは同じではない。こうした違いを考慮せず、「国内の教育機関を卒業した」という事実のみに基づいて「CEFR B2相当の日本語力を有する」とみなすことには、慎重であるべきだろう。
4. 海外から国内へ、供給ルートは動くのか
今回の制度変更は、外国人材の採用ルートにも影響を与える可能性がある。対象となる企業や職種で、海外から「技人国」人材を直接採用する場合、その人材が必要な言語能力の証明を取得していなければ、JLPTやBJTなどの証明を新たに取得する必要がある。一方、国内大学卒業者等は、別途、言語能力の証明を求められることはない。これに加えて、2025年12月からは、「留学」から「技人国」または「研究」への在留資格変更について、本邦の大学等の卒業者・卒業予定者などを対象に、一定の提出書類を省略できる仕組みも導入された[12]。海外大学卒業者にも一部の上位大学を対象とする省略措置があるが、国内大学については大学の知名度や選抜性による限定はない。ただし、派遣形態で雇用される場合には、この書類省略は適用されない。
なお、これらの制度差を分ける法制度上の基準は、厳密には採用の経路や現在の在留地ではなく、本人の学歴である。国内の大学等を卒業していれば、海外から採用される場合でも免除の対象となりうる。一方、海外大学の卒業者は、すでに日本に在留していても、対象となる企業や職務に該当すれば、言語能力の証明を求められうる。ただし、国内大学卒業者を日本国内で採用する場合と、海外大学卒業者を海外から直接採用する場合を比べれば、この学歴基準は、結果として二つの採用経路の申請負担の差となって現れる。
言語能力証明の免除と提出書類の省略という二つの制度差により、該当する企業や職種では、必要な証明を持たない海外人材を直接採用する場合に比べ、国内大学卒業者を直接雇用する経路の申請負担が、相対的に小さくなりうる。もちろん、これだけで企業の採用需要がすでに国内留学生へ移行したと断定することはできない。日本語能力証明を持つ海外人材もいるうえ、採用判断は職務経験、賃金、募集費用など複数の要因によって決まるからである。
しかし、対人業務に対する労働需要そのものがなくならないのであれば、一つの供給経路の負担が重くなったとき、企業が別の経路を探すことは不自然ではない。制度上は、海外から直接呼び寄せる経路から、すでに日本に在留し、国内大学を卒業する留学生の採用へ、一定の移行圧力が働く可能性がある。
図1 「技人国」の新要件による2つのルート

出所)筆者作成
5. 終わりに-日本で学んだという経歴は、何を保証するのか
今回の制度変更は、申請書に記載された職務名だけを確認する審査から、その職務に必要な言語能力を本人が備えているかを確認する審査へ、一歩踏み込んだものと評価できる。ただし、その確認は、本人の業務遂行能力を直接測るものではなく、二段の代理指標の上に成り立っている。証明を求められる経路では、会話・作文能力や、コミュニケーション能力を直接測定しない試験が能力の根拠とされ、国内大学卒業者については、試験による確認さえ省かれ、「卒業」という経歴が根拠とされる。審査は能力の確認へと移行したが、確認の方法と実質は、本人の学歴によって大きく異なる。
そのうえで、第4節で見たように、制度変更の結果として国内大学卒業者を採用する経路が相対的に選択されやすくなるのであれば、日本語能力の確認が最も間接的な経路に人材が流れ込む圧力が強まることになる。一方の供給経路の申請負担を重くしても、労働力需要が依然として存在するならば、外国人材の供給は別の経路へ移行する。国内留学生がその受け皿になるのであれば、国内大学卒業という学歴を単なる手続上の通行証にせず、実際の日本語力や職業能力をどのように確認するのかが問われる。
我が国は、「2033年までに外国人留学生を40万人受入れる」という目標[13]を掲げているが、日本の大学で学んだ人材を、どのような能力確認を経て、どの仕事へとつなげていくのか。日本の大学を卒業したという資格が何を保証するのか、その前提となる学びの質をどのように確保するのかはこれまで以上に重要な政策課題となる。
[1] 「カテゴリー1~4」の定義については、下記の出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』」を参照されたい。「カテゴリー3」は税務署へ法定調書合計表を提出しているが、源泉徴収税額が1,000万円未満の中小規模の企業・団体、「カテゴリー4」は設立直後等で法定調書合計表をまだ提出していない企業・団体、新規開業の個人事業主が主に該当する。https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/gijinkoku.html
[2] CEFR (Common European Framework of Reference for Languages:ヨーロッパ言語共通参照枠) は言語の枠や国境を越えて、外国語の運用能力を同一の基準で測るために欧州評議会が開発した国際標準。熟達度を6段階で示し、「B2」は上から3番目のレベルで「自分の専門分野の技術的な議論も含めて、具体的な話題でも抽象的な話題でも複雑なテクストの主要な内容を理解できる。お互いに緊張しないで熟達した日本語話者とやり取りができるくらい流ちょうかつ自然である。」とされている。
https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/chiikinihongokyoiku/r05_boshu/pdf/93841301_04.pdf
[3] 出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』」
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/gijinkoku.html
[4] 誰が「技人国」の仕事を確認するのか-派遣元と派遣先に分散する責任
https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=5015
[5] 朝日新聞2021年8月13日付記事「通訳のはずが工場勤務 人材会社社長らが不法就労助長容疑」https://digital.asahi.com/articles/ASP8F4FCZP8FUTIL009.html
[6] 日本経済新聞2022年2月3日付記事「在留「拡大解釈」許さず。中村屋、入管法違反容疑で書類送検」https://www.nikkei.com/article/DGKKZO79804350S2A200C2EA1000/
[7] 「Japanese-Language Proficiency Test」の略称。国際交流基金と日本国際教育支援協会が共催で実施している。
[8] 「Business Japanese Proficiency Test」の略称。公益財団法人日本漢字能力検定協定が実施している。
[9] 出入国在留管理庁「在留資格『技術・人文知識・国際業務』」2026年4月15日以降の申請における、CEFR B2相当の言語能力を証する資料に関する取扱いについて
https://www.moj.go.jp/isa/applications/status/gijinkoku.html
[10] 「Examination for Japanese University Admission for International Students」の略称。独立行政法人日本学生支援機構が実施している。
[11] 日本語能力試験HP「CEFRレベル参考表示」および「よくある質問」
https://www.jlpt.jp/about/cefr_reference.html
https://www.jlpt.jp/faq/index.html
[12] 出入国在留管理庁「在留資格「留学」から就労資格への変更申請を予定されている皆様へ」https://www.moj.go.jp/isa/10_00240.html
[13] 教育未来創造会議 未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ(第二次提言)(令和5年4月27日)https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kyouikumirai/teigen.html