【新春特別企画:展望2021】2021年の中国経済の展望

【新春特別企画:展望2021】2021年の中国経済の展望

中国政府は2021年の経済成長率目標を8%に設定するとしている。2019年の成長率は6.1%であり、2020年の経済成長率は2%程度になるとみられている。コロナ禍がなければ、2020年の成長率は6%前後になると予想されていた。それを踏まえてみれば、2021年の成長率目標を8%に設定したというのは確かに高い成長率であり、中国経済の回復を象徴する水準といえる。

しかし、それはあくまでも2020年の2%程度の成長に対する、8%成長ということになる。したがって、本格的な回復は2021年以降になると思われる。それよりも、課題は、米中貿易戦争とコロナ禍をきっかけに露呈した中国経済の構造問題にどのように対応するかにある。

中国経済が回復したのは、なんといっても新型コロナウイルスの感染抑制に成功したからであろう。そのうえ、国内の巨大市場の存在に加え、30%に上る家計の貯蓄率も経済回復に大きく寄与している。2019年には、15000万人の中国人が海外旅行を楽しんだ。一方2020年は、海外旅行ができなかった代わりに、彼らは中国国内で旅行し消費を行った。これが内需の源泉となった。

2020101日の国慶節はたまたま中秋節と重なった。この機会をholiday economyとして活用するために、中国政府は101日から8日までを急遽8日間の大型連休にした。この8日間、延べ6億人の中国人が国内旅行を楽しんだ。そして、1111日には、例年同様、「独身の日」(光棍節)が盛り上がりをみせた。若者を中心にネットショッピングが売り上げを伸ばし、わずか1日でアリババ1社だけで売り上げが7兆円にのぼったといわれている。

陰でe-commerce(電子商取引)を支えているのは宅配業者である。中国国内で生産されている段ボールは不足しがちであり、日本など海外から輸入されている。日本の大手段ボールメーカーによると、2020年上期のわずか半年で中国に輸出した段ボールは前年同期比倍以上に増えたといわれている。

一方、中国にとっての外需は米中貿易戦争により弱くなったといわれているが、巣籠もりするアメリカ人がネットで購入する日用品や家電のほとんどは中国製である。中国からアメリカへの輸出は減少するどころか、むしろ増えている。その影響もあって、日本などの港でコンテナが不足しがちになっている。

むろん、コロナ禍で中国は1人勝ちというわけではない。中国経済の細部に目を転じると、半導体などハイテク部品の輸入とハイテク製品の輸出がアメリカトランプ政権の制裁に阻まれ、停滞気味になっている。iPhone12の例を挙げれば、中国で調達される部品の割合は10%にも及ばない。その影響を受けて、下請けの中堅中小部品メーカーの業績が悪化し、従業員のリストラを余儀なくされている。

20205月に開かれた全人代(国会に相当)で李克強首相は政府活動報告を行った。そのなかで、39回も「就業」という言葉を繰り返して強調した。中国語の「就業」は日本語に訳すと、「雇用」を意味する。すなわち、2020年、中国にとってもっとも重要な政策課題はいかに雇用を安定させるかであった。同年10月に開かれた共産党中央五中全会(第19期中央委員会第5回全体会議)で習近平国家主席は演説を行った。そのなかで、22回も「安全」という言葉を強調した。この「安全」とは、日本語の「安定」を意味するものである。すなわち、中国経済と社会は極めて不安定な状況にあるということである。

習政権にとって2021年は重要な1年になる。なぜならば、それは2022年の党大会に向けた準備の1年になるからである。党大会を成功裏に開催するには、2021年に経済成長をできるだけ高い水準に押し上げる必要がある。国内では、雇用を安定させなければならない。対外的には、アメリカとの対立関係をできるだけトーンダウンさせながら、それ以外の国との関係を改善しなければならない。

だからこそ202011月、中国政府は地域的な包括的経済連携(RCEP)に合意するために市場開放などの大幅な譲歩を行った。アメリカ政治は大統領選挙のなかで大混乱に陥っている。中国にとってRCEP合意をきっかけに、アジア太平洋を中心に巨大な経済圏を形成することは新たなグローバル戦略を展開するうえで千載一遇のチャンスとなる。ちなみに、RCEPに参加する15か国のGDP合計の世界に占める割合は30%に上り、北米自由貿易協定(NAFTA)とEU(欧州連合)と並ぶ、一大経済圏の誕生を意味する。

最後に、2021年、中国にとって日本の関係を改善することは重要な外交課題になる。安倍政権では、習近平国家主席を日本に国賓として招聘する予定だった。コロナ禍と香港治安維持法の施行により、それが実現できなくなった。中国にとって日本との関係改善は米中対立をバランスするための重要な外交カードとなる。しかし、現在、中国の公船が頻繁に尖閣海域に出没することで日本の対中国民感情が急速に悪化している。要するに、菅政権は国民感情を無視して習主席を国賓として招聘することができない。2021年は不確実性の満ちた一年になると思われる。

 

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柯 隆(か・りゅう)/Long Ke

柯 隆(か・りゅう)

  • 主席研究員

研究分野・主な関心領域

  • 開発経済
  • 中国のマクロ経済

研究ユニット

対中国戦略研究ユニット