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シェアリングエコノミーと統計改革〈政策データウォッチ(11)〉

東京財団政策研究所「リアルタイムデータ等研究会」メンバー
跡見学園女子大学マネジメント学部 教授

山澤 成康

はじめに

シェアリングエコノミーは、個人の遊休資産を活用して生産活動を行うものである。自家用車を使って顧客を運ぶウーバーや民泊のエアービーアンドビーなどが有名だが、ほかにもさまざまなサービスが提供されている。

シェアリングエコノミーは既存の統計システムでは把握できず、早急に整備することが国際的な課題となっている。本稿ではシェアリングエコノミーの特徴や、GDP(国内総生産)統計に計上する際の問題点などについて紹介する。

シェアリングエコノミーとは

シェアリングエコノミーを簡単に図式化すると図表1になる。仲介業者(プラットフォーム企業)が、サービスを提供したい個人とサービスを利用したい個人とをアプリなどでマッチングする。

図表1 シェアリングエコノミーの取引

プラットフォーム企業とサービスを提供する個人の間に雇用関係はない。また、サービス提供者は企業から業務委託を受けているわけでも、派遣されているわけでもない。個人の立場でサービスを提供する。プラットフォーム企業は提供者と利用者の出会いの場を提供するだけである。このため、新たに作成される総務省の生産物分類(商品分類)で、シェアリングエコノミー関連サービスは「マーケットプレイス提供サービス」に属する(総務省 2019)。

個人がサービスを提供することは、これまで難しかった。インターネットやスマートフォンの発達で、提供者と利用者のマッチングが容易になり、決済もネット上でできるようになり、サービスが拡大した。

プロシューマーの登場

シェアリングエコノミーの新しいところは、「消費者が生産者になる」というところである。アルビントフラーの『第3の波』には「生産=消費者(プロシューマー)」という言葉が出てくる。生産者(プロデューサー)と消費者(コンシューマー)を合わせた言葉である。シェアリングエコノミーで起こっていることはまさにプロシューマーの登場である。

国民経済計算では、家計は消費する主体、企業は生産する主体と明確に分けていたが、家計も生産する主体として考える必要が出てきた。

これまでも、個人が市場を通さず報酬をもらうことはあった。国民経済計算(SNA)では「未観測経済(NOE: Non-observed economy)」の中の非公式部門経済と呼ばれる取引に属する(United Nations 2008)。たとえば、友達を車で送って、代わりにご飯をおごってもらう場合だ。地方の友達を部屋に泊める代わりにお土産をもらう場合も当てはまる。ただ、こうした金額は微々たるものだったため、統計上捕捉してこなかった。この部分が看過できない大きさになる可能性が出てきた。

シェアリングエコノミーの分類

シェアリングエコノミーの規模は定義によって変わる。狭義のシェアリングエコノミーは、個人の資産を所有権を移転せずに行うものである。エアービーアンドビー(自宅の共有)やウ―バー(自家用車の共有)などだ。

日本では、企業資産のシェアもシェアリングエコノミーととらえる場合がある(図表2)。タイムズカーシェアは、企業の持つ自動車を個人に貸し出すサービスだ。ラクサスは企業の保有するブランドバッグを貸し出し、エアークローゼットは同様に洋服の貸し出しを行う。個人が同じ品物を共有することにはなるが、仕組みとしてはレンタカーサービスと変わらない。GDP統計上では企業のサービスとみなされ、現状でも把握できていると考えられる。

図表2 シェアリングエコノミーの分類

また、所有権が移転する場合もシェアリングエコノミーに含む場合がある。メルカリなど中古品売買を仲介する場合やクラウドファンディングの場合だ。中古品の売買やお金の移転はGDPに算入されないため、これらのサービスが拡大してもGDPが増えるわけではない。

シェアリングエコノミーの規模

シェアリングエコノミーの規模について、内閣府(2018)は2016年度の規模を5550億円(平均値)、シェアリングエコノミー協会・情報通信総合研究所(2019)は2018年度の規模を18874億円と試算している(図表3)。額面通りに受け取れば2年間で3倍以上に拡大している。

図表3 シェアリングエコノミーの規模

(出所)内閣府(2018)、シェアリングエコノミー協会・情報通信総合研究所(2019

ただ、両者は単純に比較できない。内閣府は企業のヒアリング、情報通信総合研究所は個人へのアンケート調査をそれぞれ基にしており調査手法が異なる。内閣府は白タク規制があることを考慮して移動のシェアを試算に含めていない。情報通信総合研究所は、企業のカーシェアリングも含めている。市場拡大は続いているが拡大率は3倍には届かないだろう。

米国の動き

米国の商務省経済分析局(BEA)はデジタルエコノミーの規模を推計した(BEA 2019)BEAは、デジタルエコノミーのサテライト勘定作成に向けた取り組みを続けており、年1回のペースで推計を更新している。デジタルエコノミーを、デジタル化を可能にするインフラストラクチャー、電子商取引、デジタルメディア、の3つに分類している(図表4)。

図表4 デジタルエコノミーの分類

2017 年の電子商取引とデジタルメディアを合わせた規模は実質付加価値ベースで2200億ドル、GDP比1.2%である。過去10年間、年率11.1%の高い伸びで推移している。

シェアリングエコノミーは電子商取引のうちCtoC(個人から個人へのサービス)に入る。しかし、CtoCの部分は計測されておらず、上記の計算には含まれない。個人の生産活動の把握が難しいのは米国も同じで、統計上の課題であることをレポートで明記している(Barefoot et al. 2018)。

GDP統計への実装

GDP統計に計上する際最も問題な点は、個人が稼いだ金額を把握する統計がないことだ。年間所得額が20万円以上の個人事業主は、税制上把握できるが、申告漏れがあれば記録されない。税制上把握できたとしてもそれを公的統計に活用する仕組みがない(山澤 2018)。総務省の家計調査を使えばシェアリングエコノミーで得た収入が把握できる。ただ、サンプルは8000世帯であり、統計精度に問題がある。

企業活動はさまざまな統計で把握できる。現在策定中のサービス産業の生産物分類では「マーケットプレイス提供サービス」という形でシェアリングエコノミーを捉えようとしている。家計側から生産活動を把握することは困難で、現実的なのは、プラットフォーム企業からのアプローチだ。企業と協力して統計を整備していく必要がある。

参考文献

Bureau of Economic Analysis (2019) ”Measuring the Digital Economy: An Update Incorporating Data from the 2018 Comprehensive Update of the Industry Economic Accounts”

Barefoot, Kevin, Dave Curtis, William Jolliff, Jessica R. Nicholson, Robert Omohundro (2018) “Defining and Measuring the Digital Economy” Working Paper, Bureau of Economic Analysis

United Nations (2008) “Non-Oveserved Economy in National Accounts” United Nations Economic Commision for Europe

アルビン・トフラー(1982)『第3の波』中公文庫

シェアリングエコノミー協会・情報通信総合研究所(2019)「シェアリングエコノミー市場調査 2018年版」20194

総務省(2019)「研究会における議論等を踏まえた修正等について(G 情報通信業)」第20回生産物分類策定研究会(2019131日)

内閣府(2018)「シェアリング・エコノミー等新分野の経済活動の計測に関する調査研究」報告書概要版、2018年7月

山澤成康(2018)「1次統計におけるシェアリングエコノミーの把握」『季刊 国民経済計算』第164号、201812

 


 

山澤 成康   跡見学園女子大学 マネジメント学部 教授

1962年広島県生まれ。1987年京都大学経済学部卒業。日本経済新聞社データバンク局、同編集局経済部、日本経済研究センター短期予測班総括などを経て、2009年4月から現職。2016年4月から2年間総務省統計委員会担当室長を務める。2017年3月埼玉大学で博士(経済学)取得。主な著書に「実戦計量経済学入門」(日本評論社)、「ディズニーで学ぶ経済学」(学文社)など。第1回景気循環学会中原奨励賞受賞。

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