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生産面QNA(Quarterly National Account)のさらなる向上に期待 ~パブリックコメントの実施を~
写真提供:Getty Images

生産面QNA(Quarterly National Account)のさらなる向上に期待 ~パブリックコメントの実施を~

October 6, 2022

R-2022-054

生産面QNA(以下、GDPO[1])が2022715日より公表されている。これまでQNAは「公的統計の整備に関する基本的な計画」(第Ⅰ期基本計画、2009年)により、生産面からの四半期推計の検討が明記された。さらに、2014年の第Ⅱ期基本計画で「生産及び分配所得面を含む三面の四半期推計を整備し、当面、その速報を参考系列として公表することを目指す」とされ、長期間の検討の中で、実現されたものである。吉田(2022)によれば、今般のGDPOはかなり細かな産業レベルでの推計が行われ、精緻なものとなっている。

特に、これまでの四半期速報では、日本の場合、支出面QNA(以下、GDE)のみであり、GDPOに対しては、GDEでわからない産業別の動向等の多くの情報が利用できると期待される。今後とも、GDPOが持続的に公表され、利用頻度が高まることが期待される。

他方で、従来からGDEについては、①毎期の経済成長率(実質ベース、前期比変化率)のフレが大きい、②1次速報と2次速報での改定が大きい、③速報と年次推計との改定が大きい、などの課題が指摘されてきた[2]。こうした課題はGDPOの開発により軽減できるのだろうか。本論では、GDPOの特性について整理した上で、今後のGDPOへの課題を検討する。

年次べースのGDE、GDPO及びGDI
GDPOの統計的な特性:GDEとGDPOの等価性は高い
GDEの推計上の課題におけるGDPO
さらなる向上を期待して~パブリックコメントの実施を~

年次ベースのGDEGDPO及びGDI

年次ベースでみれば、そもそも年次GDPOの推計では、年次GDEにおける「財貨・サービスの供給と需要」の産出額と、年次GDPOの推計に用いられる産出額とを調整(コントロール・トータル)されており、年次GDEと年次GDPOとの乖離は小さくなることが期待される[3]。実際、年次GDEと年次GDPOとの成長率における乖離をみると、第一次年次推計では0.29%の乖離と小幅なものとなっている(図表1)。また、年次GDEと年次GDPOの成長率でみた相関係数は通期で0.91、生産面と支出面のバランス調整をおこなった2011年以降でみると0.96とかなり高い。

図表1:年次GDEと年次GDPOとの乖離状況(成長率ベース)

 

ただし、このような年次GDEと年次GDPOの乖離が小さいことが、年次GDEの統計としての精度が十分であることを示しているとはいえない。藤原・小川(2016)では税務データを用いて年度の年次GDIを推計し、消費税増税が実施された2014年度の実質経済成長率はプラス2.4%と示した。公式系列(年次GDE)では内閣府よりマイナス0.9%と公表されており、消費税増税によりマイナス成長に陥ったと解釈される。しかし、藤原・小川(2016)試算だと消費税増税後も2013年度と同程度のプラス成長とみられ、当時の経済環境に関する評価は大きく変わることになる、このように年次ベースでのGDEの推計精度の向上が求められている。 

GDPOの統計的な特性:GDEGDPOの等価性は高い

四半期ベースのGDPOを公表資料から特徴づければ、

  • 産出構造と投入構造といった構造情報は年次推計のデータを用いているものの、財貨・サービス別の産出額に係る基礎統計はGDEと同等のものを利用して、それを産業毎に再配分している
  • 実質の中間投入比率を暦年で固定して推計した上、中間投入比率の動態をより精緻に推計するという観点でGDEとの整合性を高めるために、第三次年次推計における生産面と支出面のバランス手法調整(SUTバランス )を踏まえて、中間投入の調整を行っている

この結果、GDPOGDEとの等価関係を高めることとなり、GDEGDPOは年次ベースと同様に、似通った変動になることが期待される。図表2は前期比変化率の標準偏差を変動性として、GDPOGDE、雇用者報酬(以下、GDI)及びそれぞれの個別のQNAを組み合わせた平均値を示している。GDPOGDEの変動性をみると、ほぼ同様なものとなっている。 

図表2GDPOGDE及びGDIの変動性

 

このため、支出面での把握だけでは不十分であった経済活動を、産業別の生産活動で確認できることになる。特に、リーマンショックや新型コロナウイルス感染症拡大などの大規模な経済的なショックについても、需要動向(GDE)に情報を加える形で、供給側(GDPO)の動きが確認できる。図表3はリーマンショック時の状況及び、消費税増税時の状況を示したものである。リーマンショック時には、急激な円高と信用不安による経済活動の抑制から自動車などの生産活動や販売活動が滞り、輸出が大きく減少した。これをGDPOでみると、当初は卸小売業が大きく落ち込み、その後製造業へ波及している様子がうかがえる。特に、業種別では「輸送機械」「電気機械」の落ち込みが確認できる。

また、消費税増税の影響について、2014年時と2019年時を比較すると(図表4)、両期とも消費への影響から卸小売業が大きく減少している。しかし、2019年時には製造業についても卸小売業がほぼ同じ程度に落ち込みが確認できる。また、その後の増税時の反動では、2014年時よりも2019年時の方が20201-3月期に卸小売業が大きく上昇していることが確認できる。20201-3月期は新型コロナウイルス感染症の影響が出始めた時期であることからその効果も検証すべきであるが、この時期の増税の反動増が小幅なのは、別の要因に求めることもできるのではなかろうか。このように、GDPOを用いることにより、経済活動をより多面的にみることが可能であることがわかる。

図表3:リーマンショック時のGDPOの動き

 

図表4:消費税増税時のGDPOの状況

 

GDEの推計上の課題におけるGDPO

このようにGDEで表現された経済活動を産業(供給)面からの整合的に把握が可能となっている。しかし、これによってGDEの課題に対応できるものではない。GDEの課題は、他国と比較して変動性や大きく事後的な改定が大きい等、安定的な推計値となっていないことではないかと考えられる。上述(脚注2)の通り、GDEの公表後の新聞報道からも明らかである。

他国での複数のQNAの利用については、小巻(2022)で示したように、アメリカでは2015年から日本の2次速報に該当する時期(Second Estimateと呼ばれている)に、分配面QNAが公表され、支出面と分配面の単純平均値の経済成長率が併せて公表されている。また、オーストラリアでは生産面、支出面及び分配面の三面から推計され、その平均値が四半期GDPの公表値とされている。こうした扱いは、それぞれのQNAの推計精度の課題を補い、より精度の高い経済成長率を得るための工夫として利用されている。これらの国々では、GDPOGDE及びGDIが独立して推計されている。QNAについても、複数の面を独立して推計すれば、それぞれのQNA間での集計値に乖離が生じる。三面のQNAの各々独立した推計値に同じ程度の計測誤差があり、計測誤差が互いに無相関である場合には、平均値の計測誤差の分散は個々の推計値の分散の3分の1になることが期待されることがある。このため、GDEGDPO及びGDIのみの集計値のいずれかよりも信頼性の高い活動の測定値であると推測できる(Aspden1990))。

これらの国々と比較すると(図表5)、日本のGDEGDPOとの乖離はイギリスやオーストラリアより小幅なものとなっている。アメリカでのGDEGDIとの乖離とほぼ同等となっている。しかし、日本のGDPOの変動性はGDEと変わりなく、GDPOの変化率についてもGDEと同様の課題に直面する可能性が大きい。

図表5:諸外国におけるQNAとの比較

さらなる向上を期待して~パブリックコメントの実施を~

残念ながら、GDPOが開発されたことでは、GDEのこれまでの課題は改善されない。GDEの統計としての精度向上が必要であり、「公的統計の整備に関する基本的な計画」に基づき、種々の対応策が講じられている。 GDPOもこの計画の中で開発されてきた。したがって、統計委員会での審議などを通じて、多くの意見を取り入れた形での開発となっている。

しかしながら、現状ではGDEの精度向上に関する課題の解決には至っていない。したがって、GDEの課題を諸外国のように軽減できる方法の1つとして、独立的に推計されたGDPOへ期待する利用者は多いのではなかろうかと考える。仮に、SNASystem of National Accounts)の概念に整合的な経済活動別の産出額に関する月次(あるいは四半期統計)があれば、日本のGDPOについても、独立して推計することが可能となってくると考えられる。しかし、現状では、独立してGDPOを推計することは日本では難しいとみられる。このために必要なのは、QNAを推計できる基礎統計の整備である。

また、GDPOの位置付けは「参考系列」扱いである。参考系列であるがゆえに、今後ともさらなる向上を目指して、広く利用者からみたGDPOに対する取組について、パブリックコメントを実施するのも方策ではないかと考える。もちろん、統計委員会などでの意見の集約も必要であるが、過去においても企業物価指数等で、パブリックコメントを実施して、広く意見を求めて改善につなげてきた。今回のGDPOGDP統計史上で画期的(小峰(2022))なものであるだけに、さらに前進させる意味でも、GDPOを含むQNA全般について、パブリックコメントなどを通じて、広く意見を求めてはいかがであろうか。 


参考文献

  1. 藤原裕行・小川泰尭(2016)「税務データを用いた分配側GDPの試算」、日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、No.16-J-920167月。
  2. 吉田充(2022)「四半期別GDP速報(生産側系列)の開発状況とその活用について~ 経済活動別(産業別)GDPの四半期推計について ~」、New ESRI Working Paper No.63
  3. 小峰隆夫(2022)、日本経済論495Twitter2022715日、https://twitter.com/Takao_Komine/status/1547849154776690688?cxt=HHwWgMDTxd-miPsqAAAA
  4. 小巻泰之(2020)「精度向上を重視すれば四半期GDP成長率のブレは大きくなる~GDPの信頼性に関する報道から~」、政策データウォッチ(25)、東京財団政策研究所、March 10, 2020
  5. 小巻泰之(2022)「QNAQuarterly National Account)に求められるのはさらなる速報化か、精度向上か ~海外におけるQNA速報の状況から~」、東京財団政策研究所、April 42022
  6. Aspden C (1990) ‘Which is the Best Short-term Measure of Gross Domestic Product? A Statistical Analysis of the Short-term Movements of the Three Measures of Gross Domestic Product and their Average’ ABS Cat No 5206.0June

[1] 本論ではQNAにおける生産面をGDPO、支出面をGDE、分配面をGDIと表記する。また、GDPはこれらすべてを含む一般的な名称として用いる。また、特に表記をしない場合には四半期ベースの数値を意味する。

[2] 小巻(2020)でみたように、「揺らぐ統計の信頼、G7でブレ最大」(日本経済新聞(以下、日経新聞)、20191210日)と報道された。発端は20197-9月期のGDP1次速報の大幅上方改定である。さらに同記事ではGDP速報の半年後の改定率は日本がG7諸国の中で圧倒的に大きく、また「日本のGDPは加盟国の中でブレが大きい」とOECD統計部局幹部のコメントが紹介されている。

[3] 年次ベースでは、年次GDEの推計値を代表系列と位置づけ、年次GDEと年次GDPOとの乖離を「統計上の不突合」として年次GDPOに加算し、年次GDEと年次GDPOが一致するように調整されている。

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