QNA(Quarterly National Account)に求められるのはさらなる速報化か,精度向上か ~海外におけるQNA速報の状況から~

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QNA(Quarterly National Account)に求められるのはさらなる速報化か,精度向上か ~海外におけるQNA速報の状況から~

R-2021-080

日本でGDPといえば,需要動向を集計した支出面のGDPが代表系列[1]に位置付けられている。しかしながら,一国経済を把握する上で,GDP3種類作成されている[2]。支出面(GDE)に加え,その支出の対価などの状況を集計した所得(分配)面(GDI)及び,企業や政府の生産(供給)動向を集計した生産面(GDPO)の3種類である。これら三面の集計値は一致すると考えられ、これを三面等価と呼んでいる。支出,生産及び分配の三面から推計が求められるのは,例えば支出面が代表系列の場合,支出のデータだけでは得られない一国の産業別の動向,家計貯蓄率や家計の消費意欲を測る消費性向といった重要なマクロ経済指標を得ることができること,さらにGDPの正確性を三つの面から整合的に確認できることがある。このようにGDP推計において,支出面,生産面及び分配面(三面等価)における種々の情報を整合的に活用して,経済活動をより正確に把握するために,三面等価に基づく四半期別国民経済計算(QNA)の策定が検討されている。

これまで,日本ではGDP速報としてGDE及び,GDIの内訳である雇用者報酬が作成されているが,完全な形でのGDI及びGDPOの作成が課題(野木森(2011),山本(2011)等)となっている。統計委員会及び内閣府でGDI及びGDPOの策定が検討されているが,当初の計画より大きく遅れる状況にある。

本論では,諸外国の三面のQNAの作成状況を整理した上で,改定状況(リビジョンスタディ)を確認し,日本でのQNAの活用について検討する。

三面等価は調整されて等価関係を維持させている
諸外国での実質QNAの作成状況
諸外国のQNAの推計精度
日本でのQNAはどのように進められるのか

三面等価は調整されて等価関係を維持させている

年次GDPについては,多くの国で三面から作成されている。しかしながら,GDE,GDP及びGDIが一致するとは限らない。三面それぞれで利用する経済統計(基礎統計と呼ばれる)が異なり,基礎統計が示す経済活動にラグなどがあるからである。こうした経済活動の違いを整合的に把握しようとの試みでもある。もっとも,基礎統計によっては公表が遅く第一次年次の推計時に利用できないこと,あるいは経済活動の分野によっては基礎統計が未整備であること,また基礎統計が存在してもその捕捉範囲が十分でないなど,個々の基礎統計の精度が異なっていることも,三面が一致しない原因になっている。

日本ではGDEが代表系列である。GDEGDPOは,それぞれ独立に推計し集計される。GDEGDPOとの乖離は「統計上の不突合」としてGDPOの数値で調整され,GDEGDPOを一致させている。ただし,GDIについてはすべてが独立に推計されていない。雇用者報酬や固定資本減耗等を推計しその合計をGDPOから控除して,その残差を営業余剰・混合所得として集計している。こうした三面等価を維持させる方法[3]は日本独自のものではなく,諸外国においても,自国の統計の整備状況に応じて三面のいずれかの系列を調整し,三面等価が維持されている。

諸外国での実質QNAの作成状況

QNAについても,複数の面を独立して推計すれば,それぞれのQNA間での集計値に乖離が生じる。三面それぞれを調整して一致させるのか,未調整のままで公表するのか,各国により対応が異なる。ここでは,実質QNAについて,①未調整のまま公表,②複数のQNAを調整(一致)して公表,③その他の対応に分けて作成状況を整理する(図表1)。

図表1:諸外国での複数面のQNA作成状況


(未調整のまま公表:アメリカの場合)

アメリカの代表系列はGDEである。20157月よりGDEに加えてGDI及び,GDEGDIの平均値を公表している。公表される数値は全て未調整で,両者の間に乖離が確認できることから,その平均値も公表されている。先行研究(Holdren[2014]Fixler and et al.[2021][4]等)で示されたように,2つの集計値の平均値が,基礎統計における経済活動の把握時期のずれや基礎資料の違いによる両者の不整合な結果を削減し,より経済実態を反映するケースがみられるとしている。 


(調整して複数のQNAを一致させる:イギリスの場合)

QNA速報を公表している多くの国は複数面で作成された集計値が一致するように,調整後の数値が公表されている。イギリスでは,代表系列であるGDPOの他,GDE及びGDI[5]が公表され,代表系列に合わせる形で一致するように作成されている。GDEの場合,在庫変動での開差調整(alignment)及び,統計上の不突合(Statistical discrepancy)を計上して,GDPOGDEを一致させている[6]。ただし,調整項目の数値を開示しており,利用者は独立に推計された調整前のGDEを試算できる。

イギリスでは,20186月分(2018810日公表)から月次GDPOを作成し,従来の作成方式を変更している。従来は当該四半期終了後25日前後で公表と先進国では最速であった。しかし,従来の推計では,生産関連のデータのみで支出や収入に関するデータを利用せず,推計に必要な基礎統計の量はその後の改定での半分程度しかない。そこで,月次ベースでより多くの情報を集約して,通常の四半期ベースではなく「直近3カ月間」の動きを示すことで,より質の高いデータ提供につなげるために変更したとしている(Scruton [2018])。一般的に月次GDPOにより速報化されたとの印象をもつが,実際には70日後の公表となる。イギリスでは速報性より精度の高いGDPをより重視する形に変更したといえよう[7]
 

(その他:オーストラリアの場合)

オーストラリアのQNA速報は極めて特殊な形態といえる。代表系列は3面で計測されたGDEGDPO及びGDIの平均値(GDPA)と表記される)としている。この考え方の背景には,三面のQNAの各々独立した推計値に同じ程度の計測誤差があり,計測誤差が互いに無相関である場合には,平均値の計測誤差の分散は個々の推計値の分散の3分の1になることが期待されることがある。このため,GDEGDPO及びGDIのみの集計値のいずれかよりも信頼性の高い活動の測定値であると推測できる(Aspden[1990])。Aspden[1990]19749月四半期から19903月四半期までの期間について,3つの集計値とその平均値との関係について検討し,3つの集計量の単純平均値によりある程度相殺されるとしている。

諸外国のQNAの推計精度

各国のQNAについて変動性,改定状況及び,複数のQNA間の乖離状況についてリアルタイムベースで確認する。補足で詳述するが,各国の代表系列の変動性及び改定幅はほぼ同等なものであり日本の概ね半分程度と小さい。また,各国の他のQNAの推計精度は代表系列に劣る状況にあるものの,日本の代表系列よりも変動性は小さい。

アメリカ及びオーストラリアは,その複数のQNAの平均値を併せて公表している。先述の通り,オーストラリアではQNAの平均値を代表系列に位置付けている。実際,オーストラリアのGDP速報をみると,GDPAは変動性(0.46%)及び改定幅(0.11%)と,個々の三面QNAより小幅になっていることが確認できる(図表2)。

図表2:諸外国での実質QNAの推計精度(変動性,改定幅,乖離幅)

日本でのQNAはどのように進められるのか

(公表形態について)

複数面のQNAを公表することで求められるのは,GDPとしての推計精度の向上である。しかし,先述の通り,そもそもGDEGDPO及びGDIは一致しない場合が多い。現実的には,GDEGDPO及びGDIそれぞれの合計値の変化率の不一致が大きい場合に問題視されてくる可能性がある。たとえば,リーマンショック時のオーストラリアのQNA(未調整)の動きをみると,20091-3月期にGDE1.1%,GDI0.9%に対して,GDPO-0.9%と大きく減少しており,こうした数値をこのまま公表すれば利用者に大きな混乱を与える可能性が高い(図表3)。

図表3:オーストラリアのQNAでみたリーマンショック時の状況


このような状況ではイギリスのように,代表系列と他のQNAとが一致するように調整後[8]の数値を公表する方が良いのではなかろうか。あるいは,アメリカやオーストラリアのような平均値[9]での公表もありうる。 

(公表数値の精度について)

三面でのQNAを公表するにしたがって,公表される項目は増加する。現在の日本のGDEにおいても,公的固定資本形成の推計精度が劣るなど,項目毎に精度は異なっている。この点については,オーストラリアが各項目別に精度を示している(図表4[10]

図表4:オーストラリア統計局によるQNAの精度状況

(出所)Australian Bureau of Statistics,“Australian National Accounts: National Income, Expenditure and Product”のmethodologyHP画面から抜粋

こうした取り組みにより,推計精度の状況を利用者に示す方法も検討に値すると考える。Manski [2015]が示すように,経済統計における不確実性を一般に伝えることにより,公的統計の誤解を軽減するための戦略を立て,利用者からの理解を得ることが必要であろう。 

このように,諸外国のQNAから判断する限り,代表系列のQNAは変動性及び改定が小さいという意味で最も精度が高く,他の面のQNAは精度が劣っている。また,日本のGDEは他国の代表系列より2倍を上回る変動性と改定幅となっており,今後公開予定の日本でのGDPO及びGDIの精度はそれほど高くないことが想定される。

しかしながら,現行のGDEと異なる基礎統計や推計手法が用いられること,GDEでは得られない情報を入手できること等のメリットはある。この点で,Scruton, J.[2018]が示したように,各QNAの作成時点で入手可能な基礎統計が推計全体のどの程度を占めるのかを示す一方で,調整前のGDPO及びGDIが再現できるように開示も進めるべきである。

他方,四半期ベースのGDPを追加的に2つ作成するわけであるから,作成部局の負担も倍増以上であろう。作成されたQNAの精度を考慮した費用対効果も併せて検討すべきである。

参考文献

  •  Aspden C (1990), ‘Which is the Best Short-term Measure of Gross Domestic Product? A Statistical Analysis of the Short-term Movements of the Three Measures of Gross Domestic Product and their Average,’ ABS Cat No 5206.0, June.
  • Fixler, D.J., Eva de Francisco D. Kanal, (2021) “The Revisions to GDP, GDI, and Their Major Components,” Survey of Current Business 101(January 2021).
  • Holdren, A.E., (2014) “Gross Domestic Product and Gross Domestic Income: Revisions and Source Data,” Survey of Current Business 94 (June 2014).
  • Jacobs, J., Sarferaz, Sturm and Norden, 2020),” Can GDP measurement be further improved? Data revision and reconciliation,” Journal of Business & Economic Statistics, VOL. 40, NO. 1, 423–431.
  • Manski, C. F. (2015) “Communicating Uncertainty in Official Economic Statistics: An Appraisal Fifty Years after Morgenstern,” Journal of Economic       Literature 53 (September): 631–653.
  • Scruton, J.2018” Monthly GDP: More information, faster”, ONS, News and insight from the Office for National Statistics, July 4, 2018.
  • 飯塚信夫(2019)「労働分配率は低下しているのか-税務統計との比較による検討(下)」東京財団政策研究所『政策データウォッチ(15)』,2019827日.
  • 小巻泰之(2020)「精度向上を重視すれば四半期GDP成長率のブレは大きくなる~GDPの信頼性に関する報道から~」,東京財団政策研究所『政策データウォッチ(25)』,2020310日.
  • 小巻泰之(2015)『経済データと政策決定~速報値と確定値の間の不確実性を読み解く』,日本経済新聞出版社,314ページ,2015513日.
  • 鈴木俊光(2020)「わが国における分配側四半期別GDP速報の導入に向けた検討状況」,内閣府経済社会総合研究所「季刊国民経済計算」第166
  • 内閣府経済社会総合研究所(2017),「「統計改革の基本方針」のうち国民経済計算の加工・推計手法の改善等に係る対応方針について」,統計委員会第3回国民経済計算体系的整備部会,平成29419日.
  • 野木森稔(2011)「先進主要国の生産アプローチに基づく四半期GDPの特徴とその位置づけ -日本での導入に向けてのサーベイ」内閣府経済社会総合研究所『季刊国民経済計算』146
  • 山本龍平(2011)「分配側GDP 推計の各国における実施状況とわが国における対応― わが国における分配側GDP 四半期推計の試算について」内閣府経済社会総合研究所『季刊国民経済計算』146


[1] 日本を含む諸外国において最も利用されているGDP速報を,本論では代表系列と記載している。

[2]日本やアメリカではGDEが代表系列であるから,厳密には四半期GDEと表記すべきである。本論では三面からの比較検証を行うため,支出面をGDE,分配面をGDI,生産面は特にGDPOと表記してGDPと区別する。

[3] GDIにおいて旧作成基準(53SNA)までは独立に推計され四半期系列も作成されていた。しかし,当時の新基準(68SNA)への移行に伴い,GDIでは営業余剰・混合所得を残差扱いする推計方法が示され,多くの国でも採用されている。なお,GDPの作成基準は,その後93SNAに変更され,現在は2008SNAと呼ばれる基準で作成されている。

[4] Fixler et al. [2021] は,GDPGDIの平均は個々のGDPGDIと比較して、MSEMean Squared Error)が小さいか等しいという意味で,GDP及びGDIよりも信頼性の高い経済活動の指標であると指摘している。

[5] イギリスのGDIは第二次速報からGDEデフレーターで実質化された合計値のみ公表。本論では名目GDIの内訳項目により調整後の数値をGDEデフレーターで実質化した数値を用いている。

[6] 具体的には,イギリスではGDPOの前期比伸び率を最良のGDP推計値と考えて,GDEGDIの前期比伸び率がGDPOと同じになるように加減算(調整)されている。それが開差調整(alignment)で,GDEでは在庫,GDIでは営業余剰で調整している。しかしながら,変化率が同一になったとしても,GDPOGDE及びGDEの水準が一致すると限らない。水準において,GDPOGDE及びGDIの差異をそれぞれ統計上の不突合(Statistical discrepancy)として表示されている。水準は三面で異なったままとなっている。

[7] 月次GDPGDPO)では先行するカナダも当該月の終了後60日後に公表され,四半期ベースGDE及びGDIは,月次GDPO3か月分揃った公表日と同日に開示されている。

[8] 三面それぞれを独立推計して三面が一致するようなQNAを作成することは困難である。調整を行えば,見かけ上,三面等価が成立したQNAの作成は可能である。しかし,どの程度の調整が必要となるのかを国際比較する必要も出てくるのではないか。あまりに大きな調整では,帳尻合わせ的なものとみられよう。

[9] 複数のQNAの平均値を用いることが適切かは別途検討が必要である(Jacobs et al [2020])。

[10] 日本では資金循環勘定(日本銀行)で推計精度の高低を視覚化している。

[11] イギリスの名目値ベースの三面QNAからも,GDIの推計精度が他の面より劣っていることを示している(補表)。

補表:イギリスにおける名目QNAの推計精度(変動性,改定幅,乖離幅)

(補足)
1.変動性

ここでの変動性とは,前期比の変化率に対するばらつきの平均(標準偏差)を示す。変動性が高いほど,公表の都度,変化率が大きく振れることになり,経済活動の趨勢判断が困難になることを意味する。これでみると,第1次の場合で,諸外国の代表系列は0.5%前後となっている。しかし,代表系列でないQNAはそれよりも変動性が高くなっていることが分かる。他方,日本の代表系列GDE及び,オーストラリアのGDI0.9%台とここで比較する国々の代表系列の倍近い変動をしている。

2.改定幅

前期比変化率がその後にどの程度改定されるのかを示す。ただし,改定には下方改定もあり,下方改定は数値としてはマイナスとなるため,単純に平均すると正確な計算ができないため,ここでは改定幅の絶対値での平均としている。ただし,改定幅の標準偏差は調整前の素データで計算している。

アメリカとイギリスの代表系列は0.05%程度とかなり小さい。アメリカのGDI,及びオーストラリアのGDPOGDI0.1%程度となっている。しかし,この点でも日本のGDE,イギリス及びオーストラリアのGDEは0.2%台と大きくなっている。

3.各QNA間の乖離

ここでは,各国で作成される複数のQNAの前期比変化率の乖離を算出したもので,数値が大きいほど同時に公表されたQNA間の乖離が大きいことを示している。ここでも乖離についても乖離幅の絶対値での平均としている。

アメリカとイギリス(GDPO-GDE)はほぼ同程度の0.25%前後となっており,その後の改定でも乖離幅は大きく変化していない。イギリスではGDIの推計精度がやや劣ることから,対GDIとの乖離が0.430.53%と大きくなっている[11]。オーストラリアの場合,個々のQNAの統計精度で大きな差異はないこともあって,乖離幅は0.30%~0.34%となっている。

小巻 泰之/Yasuyuki Komaki

小巻 泰之

  • 主席研究員

研究分野・主な関心領域

  • マクロ経済学
  • リアルタイム・データ
  • 経済政策
  • 地域経済

研究プログラム

エビデンスに基づく政策立案(EBPM)に資する経済データの活用