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都道府県別月次実質GDPの作成とその意義
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都道府県別月次実質GDPの作成とその意義

November 17, 2022

R-2022-070

はじめに
「都道府県別月次実質GDP」の位置づけ
推計法の概要
公表値との乖離
JCER月次GDPとの比較
課題と展望

はじめに

新型コロナウイルスの感染拡大で、地域別の高頻度の経済データが重要になった。ウイルスの感染状況は地域別に異なる様相を呈し、GDP(国内総生産)など四半期データでは早期に経済の実態が捉えにくいためだ。内閣府はVRESAS(地域経済分析システム)を立ち上げ、人流やPOSデータなどの都道府県別の高頻度データの分析を可能にした。しかし、経済を包括的に表す指標は含まれておらず、「全体としてどうなのか」がわかりにくい。
そこで、都道府県別実質GDPを月次で作成し、新型コロナウイルスの感染拡大の分析に用いることとした。
図表1は東京都の実質GDPと緊急事態宣言の発令率(1ヵ月すべて発令されると1)を描いたものだ。緊急事態宣言が発令される月に東京都の実質GDPが低下していることがわかる。これは東京都のみの分析だが、パネルデータを使うと、47都道府県すべてを使ったデータで検証できる。まん延防止等重点措置を加えた分析も可能だ。本稿では、「都道府県別月次実質GDP」の作成法について解説し、別の機会にパネルデータを使った分析例を紹介する。

県内総生産はGRPGross Regional Product) と呼ぶこともあるが、わかりやすくするために都道府県別GDPと呼ぶことにする。都道府県別月次GDPデータの詳細については、山澤成康主席研究員のデータベース(外部サイト)を参照されたい。

図表1 緊急事態宣言が東京都のGDP伸び率に与える影響

(注)東京都の月次実質GDPと東京都の緊急事態宣言の発令率(全期間発令=1)。まん延防止等重点措置は含まない。

「都道府県別月次実質GDP」の位置づけ

本稿で紹介する「都道府県別月次実質GDP」の位置づけを、対象地域と期種の点から解説する(図表2)。

図表2 GDPの対象地域と期種

(注)茨城県、兵庫県、福岡県では四半期別県民経済計算が発表されている。  


内閣府が発表する「四半期別GDP速報」は、経済活動を包括的に表す統計であるが、都道府県別には発表されず、かつ四半期ごとの発表である。

都道府県別には、各都道府県が「県民経済計算」のなかで「県内総生産」を発表している。しかし、年次統計で発表が遅い。内閣府(2022)によると、2019年度について最も早く発表した兵庫県でも20221月の発表である。対象期間終了から2年半程度遅れている。また、県民経済計算の速報版である「四半期別県民経済計算」を発表している地方自治体は、茨城県、兵庫県、福岡県に限られる。

次に月次統計を見てみよう。英国やカナダなど政府が月次GDPを発表している国もあるが、日本では日本経済研究センターが「月次GDP」を毎月発表している。しかし、都道府県別に月次GDPを発表している機関はない。

都道府県別月次実質GDPについては、Yamasawa2015)が支出面から作成し、東日本大震災について分析した。

新型コロナウイルス感染拡大以降では、Fujii and Nakata(2021)が経済損失を計測するため、都道府県別に月次実質GDPを推計した。生産面の実質GDPは、「鉱工業生産指数」と「第三次産業活動指数」などを用い、2016年の経済センサスの付加価値ウエートで合成している。支出面は内閣府の「地域別支出総合指数(RDEI)」を使用し、生産面と支出面のデータを平均してアウトプットとしている。

推計法の概要

 産業別に月次生産関連統計を使って推計

「都道府県別月次実質GDP」の詳細な推計法は山澤(2022)にあるので、ここでは概要を述べる。「県内総生産」を第一次産業、第二次産業、第三次産業に分けて推計した。第一次産業の公表部分は月次分割し、未公表部分については適切な月次統計がないため、前年度と同じ値を置いた。第二次産業については、製造業は「鉱工業生産指数」、建設業は「建設工事出来高」で推計した。第三次産業は「第三次産業活動指数」を使って推計した(図表3)。

図表3 「都道府県別月次実質GDP」の作成法 


製造業について説明すると、年次の「実質県内総生産(製造業)」を被説明変数、都道府県別の「鉱工業生産指数」を説明変数として回帰分析を行い、その係数を使って、月次の県内総生産を作成した。建設業も同様である。

第三次産業についての推計上の問題点は、「第三次産業活動指数」が業種別にはあるが、都道府県別にはないことである。Fujii and Nakata(2021)では、基準年の業種別付加価値ウエートをもとに、各都道府県別の第三次産業活動指数を計算している。

本研究では、「第三次産業活動指数」を都道府県別に推計する方法として、クラスター分析を使った。第三次産業活動指数を2つのクラスターに分けるとクラスターⅠが卸売業、事業者向け関連サービス業、生活娯楽産業となり、クラスターⅡが金融業・保険業、医療・福祉、物品賃貸業、電気・ガス・熱供給・水道業、情報通信業、運輸業・郵便業、小売業、不動産業となった。クラスターⅠは長期間安定的に推移しており、クラスターⅡは上方トレンドを持っている。

年次の「実質県内総生産(第三次産業)」を被説明変数、「第三次産業活動指数」の2つのクラスターをそれぞれ説明変数として、各都道府県別に推計した。係数は都道府県によって異なるため、各都道府県の特徴を持った月次指標が推計できる。 

内閣府GDPとの整合性をとる

本推計の特徴は、内閣府の「四半期別GDP」と整合性をとっていることである。「都道府県別月次実質GDP」を作成する際、「県民経済計算」の実績値がない部分については、推計式を使って月次で予測している(以下、「調整前月次系列」と呼ぶことにする)。後述するように「調整前月次系列」でも精度は悪くないが、全国計の情報を取り込むため、内閣府の「四半期別GDP」と「都道府県別月次実質GDP」の都道府県計が一致するように調整した。

まず四半期系列で、内閣府の「四半期別GDP」と「調整前月次系列」の都道府県計の四半期平均値とのかい離を計算し、それを各都道府県にGDP比に応じて配分する。これを「調整後四半期系列」と呼ぶことにする。次に、「調整後四半期系列」の月次分割を行う。比例デントン法[1]で行い、「調整前月次系列」を参照系列とする。この操作により、内閣府の「四半期別GDP」と整合的な「都道県別月次実質GDP」が推計できる。 

公表値との乖離

「都道府県別月次実質GDP」が分析に耐え得るものかどうか、内閣府や先に挙げた3県の公表値と比較した(図表4)。「都道府県別月次実質GDP」と公表値の間にかい離はあるものの、分析に耐え得ると判断した。

内閣府の「四半期別GDP」と「都道府県別月次実質GDP」の都道府県計の四半期値は一致するように調整するが、「調整前四半期系列」との誤差を調べた。201946月期から202213月期の前期比伸び率のRMSE(平均平方誤差の平方根)は0.6%となった。平均絶対誤差は0.4%である。図表5によると、この期間は緊急事態宣言などが含まれ前期比10%減から6%増まで大きく動いており、その中で生じた誤差としては比較的小さいといえる。また、分析に用いる際は、この誤差を調整したものを使っている。

次に、「四半期別県民計算」を公表している3県の公表値と比べた。茨城県については、RMSE1.3%、MAE1.1%である。図表5のグラフを見ると、おおむね似た動きをしている。内閣府(全国)よりかい離は小さく、県特有の動きが捉えられている。

「都道府県別月次実質GDP」と兵庫県とのRMSE0.7MAE0.6%である。福岡県とはRMSE1.8%、MAE1.5%である。図表5のグラフを見ると、増減については同じ動きをしていることがわかる。

図表4 公表値との誤差

図表5 公表値との誤差(グラフ)

JCER月次GDPとの比較

次に日本経済研究センター(JCER)の「月次GDP」と比較した(図表6)。両者とも内閣府の四半期GDPの実績値と合わせるようにしているので、水準は似ている。

日本経済研究センターの「月次GDP」は支出面からの計算で、消費や設備投資、輸出入などの需要項目別に推計して合計したものである。「都道府県別月次実質GDP」は生産面からの計算である。月次の前期比増減の動きは、「月次GDP」では支出面の動き、「都道府県別月次実質GDP」では生産面での動きが反映されている。作成法から考えると、支出面からのGDPの方が在庫投資の動きが反映されやすく、両者のかい離の原因となる。しかし、月次では製造業の製品在庫しか反映されないため、その差は無視できるほど小さい。前期比でみても、概ね同じ方向に動いており、差も小さい。

図表6 JCER「月次GDP」との比較

(注)「JCER」は日本経済研究センターの月次GDP,「都道府県月次」は「都道府県別月次実質GDP」の都道府県計。

課題と展望

本稿では生産面から、都道府県別に月次実質GDPを推計した。この推計値を用いれば、新型コロナウイルス感染拡大などの分析の幅を広げることができる。

課題としては、まず、支出面から推計していないことである。Fujii and Nakata(2021)では、内閣府の「地域別支出総合指数(RDEI)」を使って推計しているが、ここには政府最終消費や移出入が含まれず、本来のGDPとは概念が異なることになる。「県民経済計算」では、生産面からのGDPが本系列で、支出面からのGDPは生産面からのGDPと等しくなるように移出入が調整項として使われる。移出入は残差として求めていることもあり、移出入の独立推計が課題の一つである。

また、生産面のGDPを都道府県別に作るには月次指標に限界がある。特に、「第三次産業活動指数」が都道府県別に発表されていないため、都道府県別の推計にはさまざまな工夫が必要だ。「第三次産業活動指数」が都道府県別に発表されるようになれば良いが、統計作成コストが大きくなる。より良い推計法の模索が課題である。


参考文献
Fujii, Daisuke & Nakata, Taisuke(2021). ” COVID‑19 and output in Japan,” The Japanese Economic Review (2021)72:609–650

Yamasawa, Nariyasu(2015).The Impact of the Great East Japan Earthquake on Japan’s Economic Growth”, International Journal of Economics and Finance;Vol.7, No.8;2015

内閣府(2022)「各都道府県・政令指定都市の公表状況(2022年10月6日時点)」 (2022111日閲覧)

山澤成康(2022)「生産側都道府県別月次実質GDPの作成」、『マネジメント学部紀要第34号』、跡見学園女子大学、20228


[1] 周期の長い系列を短い系列に分割する方法の一つで、IMF(国際通貨基金)などが最良の手法として推奨している。

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