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パネルデータを用いた人流抑制政策の検証―実質GDPに与える影響について
画像提供:Getty Images

パネルデータを用いた人流抑制政策の検証―実質GDPに与える影響について

January 11, 2023

R-2022-092

はじめに
第1回緊急事態宣言は実質GDPを6.5 %押し下げ
職場への抑制効果が大きい
人流が実質GDPに与える影響
今後の課題―都道府県別の分析
まとめ

はじめに

本稿では、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が人流や実質GDP(国内総生産)にどのような影響を与えたかを分析した。新型コロナウイルスの感染拡大以来、緊急事態宣言は3回発令され、まん延防止等重点措置は2021年4月に初めて発令されて以降断続的に続き、2022年3月にすべての都道府県で解除された。

緊急事態宣言などの効果を分析するには、都道府県別のデータが必須である。感染状況や抑制政策の強さは、都道府県別に異なるためである。また、経済活動に関して分析する際、望ましいのはGDPを使うことである。そこで、都道府県別実質GDPを推計(推計法は山澤 2022参照)して、パネルデータ(時系列データと横断面データの両方があるもの)で効果を検証することとした。都道府県別月次実質GDPについては、20221117日付けReview都道府県別月次実質GDPの作成とその意義」でも紹介した。先行研究では、経済活動の変数として失業率が使われていたが、本研究では経済活動の包括的な指標であるGDPを使っているところが新しい点である。

この分析では、都道府県別に日次ベースで発令日を数えて、1ヵ月当たりの発令率を計算した。この指標を使うことで、各都道府県の発令動向が把握できる(図表1)。

20204月から5月にかけて発令された第1回緊急事態宣言は、発令内容も厳しく、経済活動は大きく停滞した。第220211月から3月の発令では対象都道府県が絞られた。第3回緊急事態宣言は20214月に発令された後、延長が繰り返され20219月まで続いた。20219月は最も高い発令率になった。まん延防止等重点措置は、20214月から断続的に発令された。20219月に発令が停止したが、20221月から3月にかけて、幅広い地域で発令された。

図表1 人流抑制政策と月次実質GDPの動き

(注)緊急事態宣言、まん延防止等防止重点措置は、全国・全期間で発令されると1の指標。都道府県別に作成し、GDPウエートで合計した。月次実質GDPは筆者作成。

1回緊急事態宣言は実質GDP6.5 %押し下げ

都道府県別実質GDP推定は、都道府県別の月次データを使ったパネルデータで行った。日本全体への結果を先に述べると、第1回緊急事態宣言で、実質GDPは6.5%減少した。しかし、それ以降の実質GDPへの影響は小さい(図表2)。第2回緊急事態宣言時は0.2%減にとどまり、第3回緊急事態宣言では0.3%の減少だった。

まん延防止等重点措置については、1期(2021年4-5月)と2期(202169月)とも実質GDPへの大きな影響はなかった。3期(202213月)は、多少影響はあったが、実質GDP0.3%減少させる程度である。

図表2をみれば、この結果と内閣府の四半期別実質GDPの動きは、整合的なものだとわかる。

 図表2 緊急事態宣言等が実質GDPに与えた影響

(注)(出所)内閣府『国民経済計算』
(注)マーカー付き直線は、各緊急事態宣言等が実質GDPへ与えた影響の大きさを表す。

職場への抑制効果が大きい

人流抑制政策が実質GDPに与える影響は、2段階で把握した。まず、政策が人流に与える大きさを推計し、次に人流が実質GDPに与える影響を推定した(図表3)。両者を合わせて政策が実質GDPに与える影響を推定した。Hoshi et al.(2021)が失業率を対象にして行った分析を実質GDPに代えて分析したものである。

図表3 分析の枠組み

 

1段階として人流抑制政策が、人流にどのような影響を与えたのかを分析した。人流のデータとしてグーグル社のCOVID19:コミュニティ モビリティ レポートを使った。対象としたのは、小売・娯楽、食料品店・薬局、乗換駅、職場とその4つの平均である。

被説明変数を人流、説明変数を各期間の発令率と感染者数(対数階差)とした。図表4のそれぞれの係数は、政策が全国で全期間行われた場合の人流へ与える影響の強さを表している。

1回緊急事態宣言では、人流に大きな影響を与えたことがわかる。第2回、第3回も符号がマイナスの場所が多く、抑制効果はあったが、効果は小さくなっている。場所別では、職場への抑制効果が大きい。食料品店・薬局は、取り扱い商品に必需品が多く、抑制効果が小さかった。

まん延防止等重点措置では、初期の202145月期には食料品店・薬局を除けば抑制されているが、202169月期では、職場が有意な抑制効果が見られなかった。202213月期は、職場のみに有意な抑制効果が見られた。北村(2022)によると、202145月期以外の抑制効果は弱かったとの結論だが、他の期間でも職場などにはある程度の抑制効果があったと考えられる。

この結果からは、第1回緊急事態宣言には大きな人流抑制効果があったが、まん延防止等重点措置を含めて、それ以外の期間は影響力が小さかったことがわかる。場所別では、職場への抑制効果が強く、次いで小売り・娯楽への抑制効果が大きかった。

説明変数には、感染者数も使用した。これは、感染者数が増えたという報道が外出を自粛するという自発的ロックダウン効果(Watanabe and Yabu 2021)が表れたものと考えられる。

図表4 各政策と人流への影響

(注)***は1%、**は5%、*は10%で有意。緊急事態宣言の階差を操作変数とし、月次の固定効果モデルを用いた。

人流が実質GDPに与える影響

2段階として人流と実質GDPの関係を調べた。都道府県別実質GDP(対数階差)にグーグル社のCOVID19:コミュニティ モビリティ レポートの人流データ(階差)を回帰した。パネルデータで推計すると、実質GDPへの当てはまりは職場の人流が最も良かった(図表5)。職場の人流に対する弾性値は0.46である。つまり、人流が1%増加すると実質GDP0.46%増加するという関係である。そこで、職場の人流の抑制→実質GDPの抑制、という経路で実質GDPの影響を調べた。

図表5 実質GDPの人流に対する弾性値

 

期間の違いによっても弾性値が変わると考えられる一方、推計期間を確保する必要があるので、各抑制策の終期より前1年間を推計期間とした。その結果が図表6示されている。ただし、第1回、第2回の緊急事態宣言は、20204月から1年間とした。このデータを用いて、人流抑制政策の実質GDPへの影響を調べた。

 図表6 人流抑制政策の実質GDPへの影響


今後の課題―都道府県別の分析

本稿では、データは都道府県別のものを使ったが、政策効果については日本全体についてまとめたものを提示した。

今後の課題は、「都道府県別の政策効果の違い」についてである。都道府県別に調べてみると、実質GDPの人流に対する弾性値は都道府県によってかなり違いがある。図表7は人流の中でも、職場について都道府県別に計算した弾性値の箱ひげ図である。0.3から0.5に集まっているが、大きく外れている都道府県もある。同じ施策をとっても、経済活動への影響に違いが出るため、都道府県別の分析も重要である。

図表7 実質GDPの人流(職場)に対する弾性値

(注)都道府県別実質GDPとグーグル社のCOVID19:コミュニティ モビリティ レポートから推計。推計期間は20203月から20223月。

まとめ

本稿では、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が人流や実質GDPに与える影響を試算した。第1回緊急事態宣言は人流抑制が大きく効き、実質GDP6.7%減少したが、それ以降の人流抑制効果は相対的に小さくなった。特にまん延防止等重点措置では、対象地域は広かったものの、人流抑制にはそれほど効果はなく、実質GDPも大きくて0.3%程度の押し下げにとどまった。


参考文献

北村周平(2022)「まん延防止等重点措置の政策評価レポート」(20221026日閲覧)

山澤成康(2022)「生産側都道府県別月次実質GDPの作成」、『マネジメント学部紀要第34号』、跡見学園女子大学、20228

山澤成康(2022)「都道府県別月次実質GDPの作成とその意義」東京財団政策研究所Review,20221117

Hoshi, K., Kasahara, H., Makioka, R., Suzuki, M., and Tanaka, S. (2021). Tradeoff between job losses and the spread of COVID-19 in Japan. Japanese Economic Review, 72:683–716.

Watanabe, T. and Yabu, T. (2021). Japan’s voluntary lockdown: further evidence based on age-specific mobile location data. Japanese Economic Review, 72:333–370.

 

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