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宿泊料金高騰の背景~旅行支援・外国人旅行者の受け入れ解禁の同時実施とポストコロナの影響~
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宿泊料金高騰の背景 ~旅行支援・外国人旅行者の受け入れ解禁の同時実施とポストコロナの影響~

October 16, 2023

R-2023-061

はじめに~大幅に上昇する宿泊料
ホテル・旅館業界の状況
旅行者動向と旅行支援策の効果
旅行支援の価格転嫁率
需給動向から見た宿泊料の価格形成
まとめ

はじめに~大幅に上昇する宿泊料

2000年以降で見ると、宿泊料はおおむね小幅な変動の中で、リーマンショック時には小幅な下落を示す一方、2015年の中国人の「爆買い[1]」が話題とされた時期以降には宿泊料は上昇傾向を示していた。しかし、新型コロナウイルス感染症(以下、Covid-19)の拡大から宿泊料は下落に転じ、2020722日から実施されたGo To トラベルによる宿泊料の割引から大きく下落し、Go To トラベルが停止された20201228日以降、再び上昇に転じ、20217月以降は反動で急上昇した。2021年初以降、世界的なエネルギー価格および食料品価格の高騰が進み、宿泊料についても2022年初以降9月まで56%前後の上昇を示した。その後、20221011日からの全国旅行支援の導入により再び宿泊料は下落した。ただし、2023年初以降は全国旅行支援が継続されている中でも宿泊料は上昇傾向に転じている。

特に、20234月以降は上昇率を高め、CPI(消費者物価指数)上昇率(20234月~7月平均、前年同月比伸び率)を見ると、エネルギー価格および食料品価格が4.9%なのに対して、宿泊料は11.2%と大きな上昇となっている(図表1)。

図表1:宿泊料の推移(CPI、前年同月比伸び率ベース)

 ただし、前年同月比伸び率で見ると、20217月以降はGo To トラベルによる宿泊料の割引の反動増で分かりにくくなっている。宿泊料の変化率について2019年を基準とした前年同月比伸び率[2]および、小売物価統計調査での宿泊料をCPI宿泊料の前年同月比伸び率で先延ばししたもの[3]で見ると、直近の宿泊料の上昇率が過去にも見られない大きな上昇となっていることが確認できる(図表2および3)。

図表2:宿泊料の推移(CPI2019年比伸び率ベース)

図表3:小売物価統計調査における宿泊料の推移

本論では、2020年以降の宿泊料が大きな変動を示した要因について、ホテル・旅館業界の需要・供給状況を整理した上で、202210月に同時実施された全国旅行支援と外国人旅行者の受け入れ解禁の影響を検討する。特に、ホテル・旅館業界は、宿泊料の設定でダイナミックプライシングが導入されており、需要と供給の状況が反映されやすい状況にあると考える。 

ホテル・旅館業界の状況

ホテル・旅館業界はCovid-19が拡大する以前から人手不足の状況にあった(日本政策金融公庫、2020)。その後、Covid-19の拡大により人手不足感は弱まるものの、Covid-19の感染が収束に向かう中で、再び、人手不足感が上昇し、特に非正規社員の不足感が高まっている(帝国データバンク、2022)。また、ホテル・旅館業界の人手不足の状況は他の業界と比較して、かなり大きなものとなっている。職業安定業務統計(職業別)[4]の接客・給仕職業従事者の有効求人倍率は、職業計と比較して大幅に高い。特にパートタイムの倍率は職業計より3倍を超える高い水準となっている(図表4)。

図表4:接客・給仕職業従事者と職業計の有効求人倍率の乖離幅

この背景にはホテル・旅館業の雇用環境がある(観光庁、2021)。賃金水準を見ると、全産業より賃金が低い。特に、従業員10人~99人の宿泊業では、Covid-19拡大以降、賃金の低下が続き、他の産業と比較すると15%を超える賃金格差が生じている(図表5)。また、ホテル・旅館業界での特異な雇用形態も関係している。ホテルのベッドメイクなどの客室担当者や旅館の仲居と呼ばれる客室担当者の勤務形態は、たすき掛け勤務や中抜け勤務[5]という形となっている。このような雇用環境の下で、ホテル・旅館業では非正規雇用を中心に、Covid-19でいったん離れた従業員が元に戻らず、人手不足がさらに悪化する状況にある。

図表5:宿泊業の賃金動向

加えて、Covid-19拡大以降、ホテル・旅館の休廃業・解散が高水準となっている(帝国データバンク、2023年)。これはホテル・旅館業界における稼働可能な客室数自体が減少していることを示している。宿泊業従業員(従業員計、非正規)1人当たりの稼働客室数から、客室の供給量を確認する。ここで試算した客室数は、客室数が増加した場合、客室担当者が担当する客室数の増加を意味する。つまり、客室担当者にとって過重な負担となり、結果として提供できる客室が減少する可能性を示している。従業員全体で見て、20236月の客室数はここ数年では最も高い水準まで上昇している。非正規雇用で見ても同様の状況にある(図表6)。

図表6:従業員1人当たり稼働客室数

 

これらのデータは、ホテル・旅館業界にとって、雇用面および提供できる客室数から見て、供給面で厳しい状況にあることを示している。

旅行者動向と旅行支援策の効果

ホテル・旅館業界の需要として、延べ宿泊者数から確認すると、2020年のCovid-19が拡大する以前には、外国人旅行者の増加傾向に支えられ、旅行者数は増加基調にあった。しかし、Covid-19拡大以降、延べ宿泊者数は急激に減少し、その中で宿泊料も下落傾向を示していた。

その後、Go To トラベルが実施され、日本人の延べ宿泊者数は増加に転じた。しかし、Go To トラベルの運用が20201228日以降停止され、延べ宿泊者数の伸びは鈍化した。こうした中で202141日より「地域観光事業支援」(以下、県民割)が実施されたことから延べ宿泊者数は増加傾向を維持してきた。さらに、20221011日から、全国旅行支援および、外国人旅行者の入国解禁が同時に実施され、日本人だけでなく、外国人の延べ宿泊者数は急激に増加した(図表7)。

図表7:延べ宿泊者数と外国人延べ宿泊者数の比率

 

旅行支援の価格転嫁率

旅行支援がCPIの宿泊料にどの程度価格転嫁されたのかを確認する。対象となるのはGo To トラベル(2020722日~20221227日)、全国旅行支援(20221011日~20221227日)および、20231月以降の全国旅行支援(2023110日~630日)までの3期間である(図表8)。

図表8:旅行支援策の状況

2020年のGo To トラベルについては、おおむね期待された通りに宿泊料は大きく下落している。しかし、2022年の全国旅行支援は宿泊料を機械的に試算[6]すれば-26.07%引き下げる効果が期待されるが、宿泊料の低下幅で見れば62.782.3%の価格転嫁にとどまっている。さらに、2023年以降の宿泊料については、前年同期比および2019年度比ともに増加に転じており、価格への反映が不明な状況となっている(図表9)。

図表9:旅行支援策の価格転嫁状況

需給動向から見た宿泊料の価格形成

これまで見てきたホテル・旅館業界の需要および供給要因をもとに宿泊料の価格形成状況を確認する。需要動向については、日本人の延べ宿泊者数(前年同月比伸び率)および、外国人延べ宿泊者比率(全体の延べ宿泊者数に占める外国人比率)を用いる。また、供給面については、稼働可能な客室数(前年同月比伸び率)を用いる。Go To トラベルおよび全国旅行支援については、実施日数を調整したダミー変数を用いる。

20161月~20236月の期間で推計すると、宿泊料に関して需給両要因が価格形成に有意となっている。しかし、外国人旅行者の比率が増加したからといって、宿泊料の上昇に寄与しているわけではないことが確認できる。この背景には、外国人旅行者の宿泊費は10261円(観光庁「訪日外国人消費動向調査」、2023)と、日本人の13722円(観光庁「旅行・観光消費動向調査」、2023)に比べ3500円程度低く、宿泊施設も日本人と異なる可能性がある点が影響していると考えられる(図表10)。

図表10:宿泊料の価格設定状況

しかし、Covid-19の感染が収束に向かう中で、20221011日に外国人旅行者の受け入れ解禁と全国旅行支援が実施され、旅行者数は急増することになった。特に、外国人旅行者比率は20234月には20%を超えた。そこで、推計期間を水際対策が強化(2020318日)された以降の期間(20204月~20236月)で推計すると、外国人旅行者比率が有意となり、2023年以降の宿泊料の上昇は外国人旅行者の受け入れ解禁を受けたものであることが推察できる。また、外国人旅行者にとって、外国為替レートは2019年平均(109.01円)から大きく円安水準となっている。この結果、円換算で見た日本への旅行が割安なものとなっており、外国人旅行者の需要拡大を見据えた価格上昇ではないかと推察される。

また、稼働可能な客室数(供給能力)は、2019年の水準と比較して回復していない。このような供給制約も価格高騰の背景にあると考えられる。

まとめ

今般の宿泊料の価格高騰の背景には、ホテル・旅館業における人手不足などにより稼働可能な客室で供給制約がある中で、20221011日からの旅行支援と外国人旅行者の受け入れ解禁により需要が急増したことが、宿泊料の価格を大きく押し上げていると考えられる。特に、ホテル・旅館業における人手不足については、他業界にも言えることであるが、Covid-19の拡大でいったん調整された雇用者は、Covid-19の収束で元の状況に戻ると想定されていた。しかし、現実には想定通りとならず、Covid-19を通じて、かえって悪化している。

他方で、今般の宿泊料高騰は2019年と比較しても高い水準となっている。図表3のように、宿泊料の上昇を金額で見ると、宿泊単価(1人あたり)は201948月平均17738円から、202348月平均19061円と1300円ほど上昇している。

こうした価格高騰をどのように考えるのかは大きな課題である。というのも、今般の宿泊料の高騰は、ホテル・旅館業界における価格設定行動の変化を意味するのであろうか。これまでは、青木、他(2023)の指摘にあるように、日本ではマークアップ率を引下げる一方で、賃金を抑制することで利益を得てきた。池田、他(2022)は、2021年以降の物価高の中で、コスト高を販売価格に転嫁する動きがあるとして、企業の価格設定行動の変化を指摘している。

また、急激な価格高騰前の従来の価格帯に慣れている宿泊者にとっては、価格に見合ったサービス水準かについての評価がより重視されるのではないかと考える。さらに、ホテル・旅館業界における賃金水準や雇用形態の改善などの供給構造の変化につながるのかについても精査が必要である。

このように、今般の宿泊料の高騰は、デフレと言われてきた日本の構造変化の事例の1つとなるのか、この点からも今後の宿泊料の推移が注目される。


(補論)CPIにおける宿泊料と旅行支援

CPIの宿泊料については、主に旅館を対象とする12食付き、およびホテルを対象とする1泊朝食付きの価格を宿泊料として価格調査されている。その中で、旅行支援については、宿泊料への割引後の価格が反映されている。しかしながら、利用者や行き先に制限のない全国規模の旅行支援が対象となることから、県民割は対象外となっている(補論図表)。

調査方法は、2020年基準改定前後で大きく異なる。2015年基準までは、小売物価統計調査での宿泊料調査をもとにCPIベースのデータが作成されていた。しかし、2020年基準改定以降、インターネットから価格情報を収集するウェブスクレイピング技術を活用して価格収集されている。ただし、2015年基準までは宿泊料の水準の情報も入手可能であったが、2020年基準改定後は指数のみしか利用できない。

補論図表:CPI宿泊料における旅行支援の反映状況


 参考文献

  • 青木浩介、高富康介、法眼吉彦(2023)「わが国企業の価格マークアップと賃金設定行動」、日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、23-J-4
  • 調査統計局 池田周一郎、倉知善行、近藤卓司、松田太一、八木智之(2022)「短観からみた最近の企業の価格設定スタンス」、日銀レビュー、2022-J-17
  • 株式会社帝国データバンク(2022)「特別企画:人手不足に対する企業の動向調査」(20221130日)
  • 株式会社帝国データバンク(2023)「特別企画:全国企業「休廃業・解散」動向調査」(2023116日)
  • 日本政策金融公庫(2020)「ホテル・旅館業の人手不足感が調査開始以来、過去最高」、『雇用動向に関するアンケート調査結果』、2020227
  • 観光庁(2021)「観光を取り巻く現状及び課題等について」、令和31125

[1] 「爆買い」は2015年の「現代用語の基礎知識」選 ユーキャン新語・流行語大賞の年間大賞を受賞している。
[2] Go To トラベルにより20207月~12月の宿泊料は大きく下落した。20217月~12月の宿泊料は元に戻ることから前年同期比伸び率は大きく上昇するため、2019年の各月のCPIを基準として2021年以降の各月の変化率を求めたもの。
[3] 小売物価統計調査では202112月まで旅館の宿泊料(12食、平日)、宿泊料(12食、休前日)および、ホテルの宿泊料(1泊朝食、平日)、宿泊料(1泊朝食、休前日)の金額ベースの数値が利用可能である。平日の料金を7、休日を3として旅館およびホテルそれぞれの価格を加重平均し、旅館とホテルの平均値を宿泊料とする。その宿泊料をCPIの宿泊料の前年同月比伸び率で先延ばししている。
[4] 職業安定業務統計では、常用的パートタイムと表章されているが、本論ではパートタイムと表記する。
[5] たすき掛け勤務とは、1組の客のチェックインとチェックアウトを同じ仲居が担当するために正午から翌日の正午までを1日とするシフトのこと。中抜け勤務とは6時に出勤し、10時から19時までを長時間の休憩として勤務から離れ、再度19時に出勤し、22時に退勤するというシフトのことを示す。
[6] ここでの機械的試算は以下のように算出している。
①基準となる宿泊料を算定する。ここでは20194月~7月の宿泊費を休前日8日、平日22日で1日当たりの平均宿泊費を求めた上で旅館とホテルの単純平均値を算出。宿泊費平均は17116円となる。
②旅行支援策は宿泊費の割引額には上限がある。Go To トラベル(14000円)、全国旅行支援(202210月~125000円,20231月以降3000円)の上限金額が基準となる宿泊料における比率(割引率)を求める。
③求めた割引率を実施期間(日次ベース)で加重平均したものを機械的試算値としている。

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