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【消費税ウォッチ】消費税率引き上げ1ヵ月、前回との反動減の違いは?〈政策データウォッチ(19)〉

東京財団政策研究所「リアルタイムデータ等研究会」座長
神奈川大学経済学部 教授

飯塚 信夫

 

101日に消費税率が10%に引き上げられてから1ヵ月が経過した。政策データウォッチ(17で示した通り、株式会社ナウキャストの「日経CPINow」や新車登録台数という消費の現場を早期に捉えられるデータを見ると、規模は前回ほどではないものの、駆け込み消費が起きていたことが明らかになった。さらに、11月8日に9月の実績値が判明した日本銀行「消費活動指数」の実質消費活動指数によれば、前回の消費税率引き上げ(20144月)の前月の実質消費水準と比較すると、前回は消費税率引き上げ1年前の1.054倍まで増えたのに対し、今回も1.045倍とほぼ前回並みの水準となった(1)。とりわけ、自動車など耐久財の実質消費水準は、前回が消費税率引き上げ1年前の1.22倍だったのに対し、今回は1.27倍と上回った(2)。消費税率引き上げ3ヵ月前まで目立った駆け込みがなかったため、1年前から通算すると前回よりは駆け込み消費は小さかったと言えるものの、駆け込み消費のラストスパートはそれなりに大きかったと言える。

本稿では、政策データウォッチ(17と同様に、株式会社ナウキャストが提供している「日経CPINow」のデータベース中の「日次物価指数」(T指数)と「日次売上高指数」に注目する(指数の作成方法などについては政策データウォッチ(17を参照されたい)。政策データウォッチ(17では、このデータを用いていち早く消費税率引き上げ前の駆け込み消費を確認したが、今回は消費税率引き上げ後の反動減を観察したい。本稿執筆時点で11月6日までのデータが判明している。なお、日々のデータはブレが大きいため、以下では後方7日移動平均のデータを用いてグラフと数値を示す。また、両指数ともに消費税抜きの価格で算出している。

日次売上高指数を見ると、前回の消費税率引き上げ後では4日後(4月5日)から前年同日比でマイナスになり、その後もマイナス傾向が続いた。今回は6日後(107日)から前年同日比でマイナスになったが、10日後(1011日)にはプラスに転じている。ここまで見ると反動減は小さいようにうかがえるが、17日後(1018日)には再びマイナスとなり、10月末にかけて前回の消費税率引き上げ後に近づいた。さらに、そこから持ち直し、足元(116日)時点では前年並みの売上高となっている(3)。

日次売上高指数は全国のスーパーにおける消費を集計したものであり、食料品や日用品が中心だ。今回の消費税率引き上げでは酒類を除く食料品は軽減税率が適用されるため、反動減は小さいと見込まれていた。112日付の日本経済新聞では、「日経CPINow」算出の元となるPOS(販売時点情報管理)データを分析した記事が掲載され、食料品の反動減は小さいこと、軽減税率の対象にならない日用品には反動減が発生したことが示されている。

しかし、この事実だけではいったんプラスに転じた日次売上高指数が10月中旬から再び低下に転じ、さらに足元で回復してきたことは十分に説明できない。

少なからぬ影響を与えていると推察されるのが、1012日に日本に上陸した台風19号だ。関東、甲信、東北地方という幅広い地域で災害が発生した。NHKが11月11日までにまとめたところでは、91人が死亡、4人が行方不明、71の河川で決壊が生じて、浸水被害などが起きている。災害に伴う店舗休業、被災により避難を余儀なくされ、通常の日常生活を送れなくなっている人々がいることは、日次売上高データに影響を与えている可能性は高い。前述したように、図3は7日移動平均データで描いているが、移動平均を掛けないでみると、台風上陸の前日(11日)の売上高は45%増、当日(12日)は25%減と大きな変動が生じている。

災害の影響は食料品や日用品の価格にも影響を与えた可能性がある。日次物価指数(T指数)の推移をみると、消費税率引き上げ前の特売でマイナスに転じたものの、5日後(106日)にはプラスに転じ、10日後(1011日)には消費税率引き上げ30日前までのトレンドに回帰していた(図4)。このあたりは、酒類を除く食料品が軽減税率の対象になった効果が出ていたのではないかと推察される。しかし、25日後(1026日)から再び上昇に転じ、1028日には1.3%と直近のピークを付けた。表1は指数の下落率が最大となった101日、上昇率が最大になった28日、そして足元の116日における品目別の寄与度上位10品目をまとめたものである(総品目数217(注)20194月から値上がりしていた牛乳、乳製品のほかは、特に10月28日において、保存しやすい、食べやすい品目が上位に来ている。10品目の値上がり寄与度を合計すると、101日は0.60だったが、28日には0.79まで上昇し、足元では0.58まで低下した。一方、値下がり寄与度の上位10品目をみると、軽減税率の対象にならない酒類や日用品が目立つ(表2)。10品目の値下がり寄与度を合計すると、101日はマイナス0.59だった。28日にはマイナス0.25まで縮小したものの、足元ではマイナス0.34と拡大した。災害の影響が和らぐなかで、値引き販売で売り上げを確保しようとしている可能性がある。

このほか、早めに消費の現場を確認できるデータとしては、乗用車登録台数(軽自動車含む)と百貨店売上高があるが、ともに前回の消費税率引き上げ時なみの反動減を示している。乗用車登録台数(軽自動車含む)は9月に前年同月比13.6%まで拡大した後、10月は25.1%減と大幅な減少となった(図5)。日本百貨店協会が集計している全国百貨店売上高は、9月は前年同期比22.8%の大幅増となった。これは前回の消費税率引き上げ時を若干下回るものの、7月まで百貨店売上高が前年割れ基調であったことを踏まえると、駆け込みが大きかったことがうかがえる(図6)。さらに、大手百貨店5社(大丸松坂屋百貨店、高島屋、三越伊勢丹、そごう・西武、エイチ・ツー・オーリテイリング)が11月1日に10月の売上高速報を発表したが、2割前後の減少となっている。新家(2019)は、主要百貨店5社の売上高から10月の全国百貨店売上高が前年同月比18%減になると推計している。

ただ、日次売上高、日次物価指数の推移からも確認できるように、10月の消費動向には、少なからず台風19号による大規模災害の影響が含まれている。生産活動にも影響を与えており、これが乗用車販売にも波及しているであろう。新家(2019)も指摘しているが、11月の消費動向など今後の消費動向を注視していきたい。

参考文献

新家義貴(2019)「自動車と百貨店からみる反動減の動向」Economic Trends 2019年11月1日、第一生命経済研究所 


(注)個々の品目の値上がり(値下がり)が、日次物価指数をどれだけ上昇(下落)させたかを示すのが寄与度である。全品目の寄与度をすべて合計すると、その時点の日次物価指数の上昇率(下落率)になる。

 

飯塚 信夫
神奈川大学経済学部 教授

東京財団政策研究所 政策データラボ アドバイザー

1963年東京都生まれ。86年一橋大学社会学部卒業、日本経済新聞社入社。編集局経済解説部記者、日本経済研究センター主任研究員などを経て、2011年神奈川大学経済学部准教授、14年より現職。2004年千葉大修士(経済学)。専門は日本経済論、経済予測論、経済統計。著書に『入門日本経済(第5版)』(共編著、有斐閣、2015年)、『世界同時不況と景気循環分析』(共編著、東京大学出版会、2011年)

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  • 政策データラボアドバイザー/神奈川大学経済学部教授