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女性クオータ制で何が変わる? インド地方議会の事例からわかること
写真提供:Getty Images

女性クオータ制で何が変わる? インド地方議会の事例からわかること

October 5, 2022

このレビューのポイント

□女性の政治分野での進出が世界平均に比べて遅れていることへの是正策として、日本でたびたび論議されている国会などでの「女性クオータ制」(女性のための議席割り当て)。このReviewでは、実際に女性クオータ制を導入したインドの地方政治でどんな変化や効果があったのかを紹介します。

□女性議員の増加により、女性の関心事をより反映するような政策が実施され、女性の生活の質が高まりました。例えば、妊婦健診の受診、妊娠中の鉄分補給、自宅ではなく病院での出産の確率が大幅に改善。女性代表が10%ポイント増加すると、新生児死亡率が2.1%ポイント減少するという報告も。

□政策面以外にも、女性に対する犯罪の可視化や女性の間での起業家精神を高めたり、将来のキャリア像に影響を与えたりするなど、ロールモデル効果も指摘されています。

□一方で、クオータ制導入による女性の政治・社会・経済面での進出に対するバックラッシュ(反動)も報告されています。また、インドの女性クオータ制導入は地方レベルにとどまっており、国会や州議会では導入されていません。現職の国会議員にとってみれば、自らの議席が剥奪されかねない、既得権益を脅かす改革と言えます。

R-2022-052

日本での女性クオータ制導入は? なぜインドなのか?
女性議員が5%未満から40%台に――インド地方政治の変化
どんな女性が選ばれるのか? 社会階層(カースト)との関係は?
女性クオータ制がなくなったら?
公衆衛生インフラ、早期教育、相続権――女性の関心事が政策に反映
犯罪報告数の増加、ロールモデル効果――政治分野以外での効果は?
女子への期待、女子の夢――意識の変化
国会議員にとっては「他人ごと」 今後の課題は?

日本での女性クオータ制導入は? なぜインドなのか?

日本で女性の政治分野での進出が世界平均に比べて著しくたち遅れていることは、よく知られている。その是正策として、女性用の議席割り当て(女性クオータ)制を導入すべきだという論争がある。世界全体でみると国政レベルで何らかの女性クオータ制を採用している国は約130にのぼり、その採用は世界的潮流でもある。

日本での女性クオータ制導入の是非を議論するにあたり、インドの地方レベルで採用されている女性クオータ制は、有用な示唆を与えてくれる。なぜなら、後述するように、インドでの制度設計が「無作為(ランダム)に」女性議席や女性議長の枠を配分しているため、バイアスが少ない形で制度の効果を推定しやすい設定になっているからである。この特性を利用した、かなりの程度信頼のおける分析結果が多く存在する。

1992 年、インドの国会はインド憲法第 73次改正法を可決した。この改正は、2つの改革を同時に規定している。

第1は、農村部における地方自治の分権化である。この改正により、村議会(グラム・パンチャヤット、GP)をピラミッドの底辺とし、その上にGPの連合体であるパンチャーヤット・サミティ(準地方議会、PS)、さらにその上にPSを束ねるジラ・パリシャッド(地方議会、ZP)を設ける3層のピラミッド構造が各州で形成されることになった。

 

 インドの地方自治の構造

第2の改革が、これらの地方議会における女性クオータ制の導入である。議長の3分の1を無作為に女性に割り当て、また、議席の3分の1程度を女性のみが候補者として立候補できる選挙区としてこちらも無作為に割り当てることになった。また、第73次改正法と同時に成立した第74次改正では、都市部自治体でも、農村部自治体と同様の分権化と女性クオータ制を導入した。なお、州議会と連邦議会レベルでは女性クオータ制は導入されていない。

女性議員が5%未満から40%台に――インド地方政治の変化

第2の改革に伴い、インドの地方政治での女性の進出は目覚ましい。1992年には5%未満であった女性議員の比率は、2000年代以降では40%台となっている(Clots-Figueras 2011)。この変化を受け、女性議員増加の効果に関する研究もここ数十年の間に多く蓄積されてきた。

このReviewでは、日本での女性クオータ制論争での参考情報となることを念頭に、インドにおける女性クオータ制導入の効果を紹介する。

どんな女性が選ばれるのか? 社会階層(カースト)との関係は?

「女性」のための議席割り当て制度は、当然ながら、女性の議員を増やす。しかし、どのような女性が女性割り当て議席の選挙に出馬し、当選するのだろうか。

特に、インドのように社会階層の格差が大きい国では、高い社会階層(カースト)の女性が増え、結果として、社会全体での下層階層やマイノリティの代表が阻害されるのではないか、という懸念がある。実際のところ、女性クオータ制の存在しない連邦議会レベルでは、女性議員の大多数が上位カーストの出身であり、その割合は男性議員よりも大きい(Karekurve-Ramachandra and Lee 2020)。

地方政治に関してどうだろうか。カルナータカ州の農村を対象とした研究によれば、女性クオータ制は、村での指導的経験の少ない非エリート層女性の政治参加を促した。また、クオータ制は競争を阻害するものではなく、むしろ女性の方がよりメリトクラティック(能力に応じて)に選ばれることも報告している(Mori et al.2022)。

西ベンガル州を対象とした研究からは、女性議長が割り当てられたGPでは、村民の間での公の場や家庭内での性別役割分担に関する固定観念は弱まり、女性議長の能力に対する男性村民の間でのネガティブなバイアスは低下したことがわかる。また、女性クオータ制導入から10年後には、女性が立候補して一般の議席を獲得する可能性が高くなると報告している (Beaman et al. 2009)。 

一方、大都市デリーにおける市レベルの自治体で2000年代から導入された女性クオータ制を分析した Karekurve-Ramachandra and Lee (2020)では、この制度のもとではエリート家庭出身の女性の政治代表を増やす一方で、後進カーストの女性は選ばれにくくなっていると指摘する。これは、女性割り当て議席となった選挙区では、有権者はヒンドゥー教の上位カーストの候補者を選ぶ傾向があることに起因する。

このように、調査対象地域により分析結果にばらつきはあるものの、インドの地方都市・農村の場合には、おおむね、女性クオータ制の導入は女性全体の地位向上に繋がっているようである。女性クオータ制の導入は、エリート政治を加速させるのではなく、全体としては、より広い階層の女性に開かれた政治をもたらしていると言える。

女性クオータ制がなくなったら?

では、女性専用議席が設けられていた選挙区が、その後、一般(男女どちらでも当選できる)選挙区になった際、女性の政治参加はどうなるのだろうか。

この問題に関してムンバイ市を分析したBhavnani (2009)は、過去に女性専用議席であった選挙区が一般選挙区となった際、一度も女性専用議席となった経験のない選挙区よりも、女性候補が当選する確率が5倍高いと報告している。同じ問題をウッタル・プラデーシュ州のカンプール市を対象に調査したTurnbull (2021)も同様の傾向を報告している。一方で、女性専用議席が割り当てられなかった一般選挙区では女性の立候補はいちじるしく少ないことも指摘しており、これは政党が女性候補公認に消極的であるからだと分析している。

公衆衛生インフラ、早期教育、相続権――女性の関心事が政策に反映

女性の議員や議長が増加したことで、女性の関心事をより反映するような政策決定が行われるようになったとの研究結果もある。西ベンガル州とラジャスタン州におけるGPレベルの分析では、女性が議長職にあるGPでは、女性の関心事に近い公共財(西ベンガル州では飲料水と道路、ラジャスタン州では飲料水)により多く投資している (Chattopadhyay and Duflo, 2004)。

また、インド全域を対象とした研究でも、女性政治家は村レベルの公衆衛生インフラに投資する傾向があり、男性政治家は金融や通信インフラに投資する傾向があった。女性の政治的代表を高めると、妊婦健診への参加、妊娠中の鉄分補給、自宅ではなく病院での出産の確率が大幅に改善される。このような変化の結果、女性政治家割合が10%増加すると、新生児死亡率が2.1%減少したと報告されている(Bhalotra and  Clots-Figueras 2014)。 

さらに、州議会レベルの女性議員を分析対象とした研究でも、低い社会階層出身の女性議員の存在が、格差解消を目指す政策につながると報告されている。16の州を対象に1967年から2000年までの期間を分析したClots-Figueras (2011)によれば、低位カーストや少数民族のために確保された議席の女性議員は、「女性に優しい」政策を支持する傾向がある。例えば、保健衛生や初等教育に多く投資したり、女性と同等の相続権を与えることを目的としたヒンドゥー継承法の改正や土地改革などの再分配政策に賛成している。一方、高位カースト出身の女性議員の場合は、土地改革には反対し、高等教育への投資を促す一方で社会支出を減らす傾向があった。 

犯罪報告数の増加、ロールモデル効果――政治分野以外での効果は?

地方政治で女性議員が増えたことは、様々な側面で政治分野を超えた効果を産んでいる。

Iyer et al. (2012) は、女性に対する犯罪の可視化を指摘する。女性議員が増加した地域では、犯罪の通報数が増加した。これは一見、悪いニュースのようにも聞こえるが、以前には「なかったこと」にされてきた犯罪に対して声を上げやすくなったことを反映していると解釈できる。なぜなら、男性に対する犯罪やジェンダーに関係のない犯罪の通報数は増加していないからである。同研究ではまた、犯罪が通報されるかどうかに強力な影響を与えるのは、一般市民に最も近い村議会レベルでの女性政治家の存在であり、より高位の代表制度である地方議会レベルにおける女性政治家の存在ではないことも報告している。

ウッタルプラデシュ州での調査では、女性の村議会議長が割り当てられた村における女性家長の世帯では、それまで家の外に置かれていたトイレが、家の中に設置される割合が増加したと報告されている(Chaturvedi et al. 2021)。

女性政治家の増加は、政治家以外の女性の起業家精神も高めている。クオータ制の導入後、製造業における女性の雇用は全体としては増加しないものの、インフォーマルセクター(主に途上国における、露天や行商など公式に記録されない経済部門)においては、女性の経営する小規模事業所が増加した。これは、資金アクセスへの増加や、ロールモデル効果のためであるとGhani et al. (2014)は分析している。 

女子への期待、女子の夢――意識の変化

伝統的に男児が好まれるインドでは、世帯レベルで子供の数が増えるに従い、女児の割合が少なくなる傾向がこれまで存在していた。Kalsi (2017)は、 インドの農村部における女性代表の増加によって女児の望ましさが向上したことが、出産時の性選択に影響するかどうかを調査している。

そもそも、人工的な介入がない場合の0歳から6歳までの男女比率は、女児100に対し男児105と言われている。女性クオータ制導入前では、第三子以降では女児100人あたり117人の男児、第二子以降では女児100人あたり107人の男児、第一子以降では女児100人あたり106人の男児、という不均衡があった。分析の結果、女性クオータ制導入後では、特に第三子以降の男女不均衡が大きく改善されたと報告されている。

女性政治家が増えることで、少女やその両親が抱く教育やキャリアの将来像に対して影響があることもわかっている。Beaman et al. (2012)は、11歳から15歳の青少年とその両親を対象とした10年間(2つの選挙サイクル)にわたるサーベイ調査を行った。その結果、女性議席が割り当てられた地域では、割り当てがなかった地域に比べ、将来のキャリア形成に対する考え方の違いに関する男女差は両親で20%、青少年の間では32%縮まったことが判明した。

また、学歴の男女差もほぼ解消され、女子は家事に費やす時間が減少した。とはいえ、若い女性の雇用に関しては変化があったという結果はみられず、女性リーダーの影響は主にロールモデル効果として存在しているようである。 

地方レベルでのクオータ制による女性政治家の増大は、女性クオータ制の存在しない連邦議会・州議会選挙での女性代表にも影響を与えている。Maitra and Rosenblum (2022)の研究では、平均して10年間女性クオータ制が割り当てられた地方レベルの選挙区では、連邦議会選挙レベルでの女性候補者の割合が5%ポイント(以前に比べると143%)増加することがわかった。

国会議員にとっては「他人ごと」 今後の課題は?

インドにおける地方レベルの女性クオータ制の導入は、いわば「他人ごと」として連邦レベルの国会議員たちが決めたものである。当の国会議員レベルで女性クオータ制を導入する法案は、上院では2010年に通過したものの、本稿執筆時点(2022年)では下院でペンディング状態である。また、州議会におけるクオータ制の導入も達成されていない。要するに、国会・州議会の現職政治家の多くにとって、女性クオータ制導入は自らの議席が剥奪されかねない、既得権益を脅かす改革と言える。

このような性質をもつ女性クオータ制が、既得権益層、つまり男性からのバックラッシュ(反動)を引き起こしているとの研究もある。Brulé (2020)は、クオータ制が導入された地域では土地相続において女性がこれまでよりも相続権を主張することを男性が見越して行動するため、女性の相続分がクオータ制導入以前よりも減ってしまうことを指摘している。

このようなバックラッシュは長期的にはおそらく解消されるだろうが、男女が平等な社会実現への道のりは遠そうである。


参考文献

Beaman, L., Chattopadhyay, R., Duflo, E., Pande, R. and Topalova, P., 2009. Powerful women: does exposure reduce bias?. The Quarterly journal of economics, 124(4), pp.1497-1540.

Beaman, L., Duflo, E., Pande, R. and Topalova, P., 2012. Female leadership raises aspirations and educational attainment for girls: A policy experiment in India. Science, 335 (6068), pp.582-586. 

Bhalotra, S. and Clots-Figueras, I., 2014. Health and the political agency of women. American Economic Journal: Economic Policy, 6 (2), pp.164-97.

Bhavnani, R.R., 2009. Do electoral quotas work after they are withdrawn? Evidence from a natural experiment in India. American Political Science Review, 103(1), pp.23-35.

Brulé, R.E., 2020. Reform, representation, and resistance: The politics of property rights’ enforcement. The Journal of Politics, 82 (4), pp.1390-1405.

Chattopadhyay, R. and Duflo, E., 2004. Women as policy makers: Evidence from a randomized policy experiment in India. Econometrica, 72 (5), pp.1409-1443. 

Chaturvedi, S., Das, S. and Mahajan, K., 2021. The importance of being earnest: What explains the gender quota effect in politics? (No. 52).  

Clots-Figueras, I., 2011. Women in politics: Evidence from the Indian States. Journal of public Economics, 95 (7-8), pp.664-690.

Ghani, E., Kerr, W.R. and O'Connell, S.D., 2014. Political reservations and women's entrepreneurship in India. Journal of Development Economics, 108, pp.138-153.

Iyer, L., Mani, A., Mishra, P. and Topalova, P., 2012. The power of political voice: women's political representation and crime in India. American Economic Journal: Applied Economics, 4 (4), pp.165-93.

Karekurve‐Ramachandra, V. and Lee, A., 2020. Do gender quotas hurt less privileged groups? Evidence from India. American Journal of Political Science, 64(4), pp.757-772.

Kalsi, P., 2017. Seeing is believing-can increasing the number of female leaders reduce sex selection in rural India?. Journal of Development Economics, 126, pp.1-18. 

Maitra, P. and Rosenblum, D., 2022. Upstream effects of female political reservations. European Journal of Political Economy, 71, p.102061. 

Mori, Y., Manjula, R., Rajasekhar, D., Goto, J.,and Kurosaki, T. 2022. Who can become politicians in a gender quota system?, paper prepared for delivery at the Japanese Electoral Studies Association annual meeting, April 23, 2022. 

Turnbull, B., 2021. Quotas as Opportunities and Obstacles: Revisiting Gender Quotas in India. Politics & Gender, 17(2), pp.324-348.

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