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「研究者と女性地方議員との意見交換会」開催報告
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「研究者と女性地方議員との意見交換会」開催報告

June 22, 2023

R-2023-023

あいさつ
女性の地方議員というロールモデル(古川綾 福島県磐梯町議会 議員)
女性という視点を議会へ(森山木の実 長野県信濃町議会 議員)
お互いが尊重し合う議会の実現を(竹内恵美子 神奈川県大磯町議会 議長)
地方議会で女性議員や若手議員を増やすには?

社会における男女格差をめぐり、近年さまざまな研究が行われ、学術論文の数も急速に増えています。しかしながら、こうした最先端の研究成果は英語で発表されることが多く、日本においてはあまり知られていません。今回、このような「学術的な知見」と実際の「政治の現場」のギャップを埋めるべく、地方議会で活躍する女性議員である古川綾議員(福島県磐梯町)、森山木の実議員(長野県信濃町)、竹内恵美子議員(神奈川県大磯町)をお招きし、社会科学の研究者との間で直接意見交換会を開催しました。

研究者側からは、尾野嘉邦研究主幹、粕谷祐子研究主幹、竹ノ下弘久研究主幹、リサーチアシスタントとして遠藤勇哉研究員(東北大学)のほか、モデレーターとして河村和徳先生(東北大学)が参加し、地方議会の現場の状況や実態について理解を深めるとともに、学術研究から得られた知見などの紹介を行いました。

 以下、敬称略。

【あいさつ】

尾野:

皆様、こんにちは。今日はお集まりいただきありがとうございます。現在、研究者としてジェンダーバイアスがどこから生まれてくるのか、それが有権者にどのような影響を与えるのかなどについて研究しています。しかし、これらの研究成果は専門書や英語論文での公開が中心で、学問の成果と実務がうまく結びついていない状態にあります。そういった中で、本日は地方議員の先生方に実際の現場の状況についてお話を伺いつつ、最先端の研究成果を共有することで、お互いの理解を深められればと思います。

河村:

本日は、非常にお忙しい中、お時間を割いていただき、ありがとうございます。では早速なのですが、福島県磐梯町の古川先生からご報告の方、お願いしたいと思います。よろしくお願いします。

【女性の地方議員というロールモデル(古川綾 福島県磐梯町議会 議員)】

〜地方議会の現状〜

古川:

磐梯町議会の古川綾と申します。まず、磐梯町について簡単に紹介させていただくと、人口約3,200人の非常に小さな町で、今日いらっしゃっている他の先生方の町よりも小さいかなと思います。私は大学から東京で過ごしており、東京の出版社で営業の仕事をしていました。震災をきっかけに「農業を軸に地域おこしがしたい」と思い、2人の子どもと磐梯町にUターンをしました。

町村議会の議員職は、女性にとって、ハラスメントが多い点、会議規則等議会環境が整っていない点、家事・育児の負担を背負わなければならない点など、多くの懸念が伴うため、非常に困難な仕事と考えられていると思います。しかし、議員活動は、報酬に対する拘束時間が比較的短い上に、家事代行などを活用すれば、家事・育児も両立可能な仕事だと思います。あとやはり、町民のために自由に活動ができるので毎日が楽しく、大変やりがいのある仕事だと感じています。私は、町民の皆さんが困っていることを解決したり、皆さんがやりたいことをお手伝いしたりする活動を行ってきました。例えば、私が1期目の時に不妊治療に対する助成制度を設けてほしいという要望を受けて、担当課長に相談し、その制度を実現させました。その他にも、ママ友との会話の中で、子ども向けのスイミング教室が話題に上がっていたので、その教室の立ち上げを行いました。そういった活動や予算・決算に関する情報をわかりやすくまとめて、『あや通信』という活動報告として、年6回ほど新聞折込みで配布しています。

私は、女性の地方議員を増やすにはロールモデルが必要だと考えています。どんな活動を議員が行っているのかとか、どんなやりがいがあるのかということを積極的に発信することで、女性の地方議員としてのロールモデルになれればと思い、日々活動を行っています。

地方議員は、やりがいのある仕事である一方、実際はどうかと言いますと、周りの人たちに議会出てみませんかと伺ってみても、人のためにそこまでできないなとか、あまり目立ちたくないなといった気持ちの方が多いみたいで、女性議員は中々増えてこない状況になっています。

では、どのようにすれば増えていくのだろうかと考えたのですが、やはりそれを超える「動機」が必要だと思いました。私は農業を軸に地域おこしがしたい、過疎化が進行する中、若者が出ていかない楽しい町、稼げる町にしたいなと思って議員になりました。また、新しく議員になった女性は、ヨガインストラクターをやっているのですが、ヨガで町民の皆さんを健康にしたいという志を持って議員になったそうです。しかし、報酬なしでは、こういうことを実現したいと思って議員になってくれるような人材は、人口3,000人の小さな田舎町において、老若男女問わず少ないという感じがします。地位、名誉、報酬、そういったものがモチベーションだとしても、女性や若者が増えてくれればいいのかなと思いました。しかし、女性を増やすということが、どんな女性でもいいのかというと中々難しいところではあると思います。

そういった中で、私ができることと言えば、「やりがいを伝え続ける」ことだと思います。良い方に理解していただいて、より良いまちづくりができればなと思っているところです。現在は、そのような感じでやっております。

〜質疑応答〜

河村:

ありがとうございます。では、研究者の先生方、何かございますでしょうか。

尾野:

まず、お聞きしたいのは、どういったきっかけで最初出馬されたのかという点です。最初に、出馬する、選挙に出るということは、結構ハードルの高いことだと思うのですが、どういったきっかけで出馬されたのでしょうか。

古川:

私は、農業を軸に地域おこしがしたいと思っていたのですが、なかなか農業って個人とか一つの地域で何かするのは難しくて、国や県と協働する必要があります。その時、私がこれだと思ったのが、ふるさと納税です。ふるさと納税が、農産物を一番高く売れる手段で、近くの湯川村はお米一俵を3万円で売っていました。結果として、何千万円と集めていたんですね。これと同様のことを磐梯町でもできないかと考え、町に提案したのですが、全然聞いてもらえませんでした。そこで、ちょっと発言権を得たいなと思って、私は議員になりました。ですので、農業を軸に地域おこしがしたい、そのために発言権を得たいっていうところです。

粕谷:

私からの質問は、ロールモデルについてです。現在、ロールモデルが必要というお話は、いろいろな場面で聞くのですが、どういうロールモデルが実際に必要なのかということが、私も今一つ分かっていないんですね。今の若い方にしてみると、ヒラリー・クリントンがロールモデルだったり、それとももう少し身近な町の議員さんがロールモデルだったりすると思うのですが、どういったロールモデル像を設定するのが一番効率的なのか。どの辺りが、ロールモデルとしてのスウィートスポットなのか、お考えがありましたら教えていただけますでしょうか。

古川:

身近なところでのロールモデルを想定しています。磐梯町のような小さな町では、60代以上の男性が議会を占めている状態です。その中でロールモデルを設定するとなると、国とか県とかで輝いている女性とは、かなり見える景色が違うように思います。

ただ活動していて思うことは、いろいろなロールモデルが身近な地方議会、町議会にいるとより良いのではないかという点です。あまりに活動してしまうと、そこまでできないと忌避する方が結構いるのではないかと思います。しかし、いろいろなロールモデルがいると、「あの人ほどはできないけど、これくらいならできるかも」と思ってくれる人が出てきてくれるのではないかと。なので、いろんなロールモデルの存在が地方議会などで見られるといいのかな、なんて思っています。

竹ノ下:

実際に政治家として活動している中で、どのような形でご家庭のさまざまな活動と政治活動をやりくりされているのかについて、少しお伺いできればと思います。

古川:

現在、家庭での活動、議員活動、そして仕事として農産物の加工販売会社をやっています。大変ではあるのですが、考え方としてはそれぞれ報酬に見合った活動をしようと思っていて、そのような形で時間配分をしています。家事などに関しては、なかなか手が回らないので、実家の母に頼ったり、家事代行を活用したりしています。

河村:

今、問題になっているのは、兼業と請負の関係ですよね。自治体において、役場の仕事を請け負っている会社の方は、立候補できなくなっていますよね。高知県の大川村などでは、議員のなり手がいなくなってしまった時、請負の範囲を明確化して、請負に該当しない企業の従業員の立候補を可能にする条例を作り、対策していました。

竹ノ下:

やはり地方議会の議員は、かなりの時間や労力を割くという点で、もっと十分な報酬が提供されるべきなのではないかなと感じました。

古川:

しかし、私は、報酬に関しては難しい問題のように感じます。あまり活動していない議員は、月20万円をタダでもらっているような状態です。そういうことも可能なんですよね。なので、一律に報酬を上げてしまうのは、複雑な問題のように思っています。

【女性という視点を議会へ(森山木の実 長野県信濃町議会 議員)】

〜地方議会の現状〜

河村:

 それでは次に、長野県信濃町の森山先生、よろしくお願いします。

森山:

長野県の一番北の外れの信濃町というところからやってまいりました。長野県信濃町は、野尻湖と黒姫高原を擁する人口8,000人弱の町です。私が議員になった理由は、約20年前、産業廃棄物最終処理場の建設計画が持ち上がったからです。この計画は、本当にひどくて、信濃町の小さな山に県外からの産業廃棄物を8年間で24万立方メートルも埋め立てようというものですから、農業用水の汚染など自然を損なう可能性がありました。なので、この計画に対する反対運動に参加しまして。その中で、町議会選挙に誰かを送り込もうとなり、私が立候補することになりました。

私が立候補するに当たり、多くの壁が立ちはだかっていました。まず、家族について。私の出馬が決まった後、町ではいろいろなことを言われました。「父ちゃんの許可は?」とか、「家族のことができなくなったら家族が困るだろ」とか。私は父が亡くなってから一人暮らしでしたので、この質問に該当するような家族の壁はありませんでした。次に、よそ者の女性というレッテル。立候補したのは良いものの、私には地域の「地盤・看板・鞄」が全部ありませんでした。なので、そのことに関しても「よそ者にこの町を乗っ取られるんじゃないか」とか、「勝手なこと言って」というようなことを言われていたみたいです。特に、信濃町では、「地域」が大事にされていたんですね。地域から1人出せば、町は言うことを聞いてくれるだろうという具合に。だから、地域に関係のない「よそ者」を立候補させる余裕はないという雰囲気でした。また、仲間の中には、「女は政治に首をつっこむな」と言われた方もいるそうです。こういったさまざまな壁があったわけですが、争点がはっきりしていたので、産廃処理場建設反対を支援してくださる方もいらっしゃり、最終的には当選することができました。上位当選だったものですから、業者側はついに撤退し、運動は結局成功に終わりました。

そして実際に議員活動を始めてみると、セクハラやジェンダー問題が当たり前にあることに気づきました。「女性はこうあるべき」や「男性はこうあるべき」という考え方が普通に実践されていたんですね。特に、福祉の面では、女性の視点が一切欠けていました。なので、議長になった時、生理用品を防災計画の備蓄品として設置できたこと、傍聴規則改正を実現できたことは、かなり大きいと思っています。平成19年に長野市で台風の被害があって、長野市には福祉避難所ができました。そこの避難所では女性の視点が入っていたんですね。それで信濃町の避難所を確認したところ、大人用や子ども用のおむつは備蓄品として含まれていたんですが、生理用品がありませんでした。その問題を指摘して、なんとか備蓄してもらうところまでこぎ着けました。あと、傍聴規則改正。私が議長に当選する前、議場で本会議中に赤ちゃんが泣いてしまい、お母さんが慌てて赤ちゃんを抱いて出て行きました。その後の休憩時間中に、ある議員が「あれは傍聴規則違反」と目を釣り上げて、議長に報告していたんですね。それに対して議長が「議場に赤ちゃんの声が響くのはいいね」とおっしゃっていて。その時から傍聴規則を変えたいと思っていて、議長に当選してすぐ実行に移しました。なので、赤ちゃんを議場に連れてくることもOK、帽子を被ることもOKの議会になりました。これでいろいろな人が議会に来れるようになったと思います。

しかし、やはり地方でジェンダー問題などの比較的新しい問題について、迅速に取り組むことは、本当に難しいなと感じています。そういった問題を逐一厳しく指摘していると、敵視する議員が出てくるんですね。なので、怒ったりはせずに明るく指摘してきました。現在、実際に役場ではデジタル化の問題に関して、ものすごく苦労しています。特に田舎だと、徐々に徐々に変えていかないといけないんですよね。

古川先生もおっしゃっていましたが、女性議員を増やすという課題は、なかなか難しい問題になっていると思います。しかし、議会で女性の視点を活かし、町や地域のために活動を行うことは楽しいことです。とてもやりがいがある。なので、あと2年の任期ですが、やりがいを伝えつつ、女性の視点を大事にして町民の方々のために小さな変化を創り出していければと思って活動しております。

〜質疑応答〜

河村:

ありがとうございました。生理用品の話なんですけど、やはり議員さんが、そういう被災地の避難所を見に行くことは大事なことですよね。特に災害などの時に、男性中心の社会が浮き彫りになるように思います。では、尾野先生、いかがでしょうか。

尾野:

先行研究だと、「benevolent sexism(慈悲的性差別)」と呼ばれる男性による無意識のセクシズムが存在すると言われています。男性の良かれという思い込みによって生じるものですね。男性本人たちは気付かずに、女性のために優しくしているんだというような。

遠藤:

東北大学の遠藤と申します。女性に対して真っ向から差別はせずに、女性は自分より下の存在だから助けなきゃいけないという種類の女性差別が存在します。それに対して、女性が嫌悪感を示したりすると、すごく反発を招いてしまったり、強めに注意してしまうと、女性らしくないからという理由でネガティブな評価が下されたりすることがあるようですね。

森山:

そうですね。やはり飲み会の席などで、酔っ払った何人かの方々が、「あんた一度結婚したほうがいい」などと平気で言ってきますよね。

粕谷:

私の質問は少し答えづらいかもしれません。森山先生が議員になろうとされたきっかけが、産業廃棄物処理の問題と伺いました。その後、その問題は解決されたということだったのですが、元々議員になるきっかけが争点ではなくなった後、活動を継続していくモチベーションは、どのようなものだったのでしょうか。

森山:

やはり、やりがいが出てきたからだと思います。議員活動を続けていくうちに、予算配分にしても、ふるさと納税の使い方にしても、信濃町ではいろいろな問題が山積みになっていることがわかってきました。そういった理由で続けてきました。

【お互いが尊重し合う議会の実現を(竹内恵美子 神奈川県大磯町議会 議長)】

〜地方議会の現状〜

河村:

 神奈川県大磯町の竹内先生、よろしくお願いします。

竹内:

大磯町議会の竹内といいます。どうぞよろしくお願いいたします。まず、大磯町というところを簡単に紹介させていただきたいと思います。大磯町は神奈川県の南部相模湾に面した気候温暖な人口31,500人ほどの町です。東京までは1時間ほどで、箱根や伊豆などの温泉観光地へのアクセスもよく、湘南発祥の地とも言われています。大磯町では、昭和42年に初の女性議員が誕生しました。それ以降、女性議員の割合は徐々に増えて、平成15年には50%に到達しました。今でもこの50%以上という数字は、維持されています。

私が議員に立候補したきっかけは、突然の出来事からでした。当時、私は町役場で働いていたと同時に、消費者運動にも積極的に参加していました。その中で、先輩から「議員にならないか」とお誘いを受けました。最初はこのお誘いに戸惑っていたのですが、町議会を傍聴していくうちに「町民のためにできることがあるのではないか」という思いに至り、立候補することを決意しました。私は町民派として立候補し、町民の方々から温かい支援を受けながら、無事当選することができました。ちなみに、その選挙は女性議員が50%以上になった初めての選挙で、女性候補者10人中9人が当選しました。

大磯町議会は、その活動内容を町民の方々に周知するために、先駆的な取り組みを行っています。具体的には、会議録検索システムの導入や公開をしたり、本会議動画(DVD)の貸し出しを行ったり、議案説明や一般説明にパワーポイントを導入したり、議会報告会にオンラインを導入したり。これらの改革は、男女や年齢に関係なく多様な視点から行われてきました。実際に、議会では、議員全員が自由闊達に発言できる雰囲気があり、活発な議論が行われています。私は、性別や年齢だけでなく、議員それぞれの個性や多様な視点が議会運営に活かされているのだと思います。

大磯町は、2003年に女性議員の割合が50%に達し、それ以降も女性議員が半数以上の状態が維持されてきました。なので、記者の方々が取材にいらっしゃり、女性議員の数を増やすための取り組みや女性議員が多い理由などについて、たびたびご質問を受けます。しかし、その理由については、正直わからない部分が多いです。議会が主体的に何らかの取り組みを行ってきたわけではないんですね。考えられるものとしては、女性の政治運動への参加でしょうか。大磯町では、女性が以前から環境問題や開発問題に対する反対運動に積極的に参加していました。大磯町の自然だったり、文化だったりを守るため、多くの女性が中心となって市民運動を牽引してきたんですね。そういった中で、女性が議員選挙に挑戦し、徐々にその数も増えていったのではないかと考えています。

議員にとって最も大切なことは、町民によって選挙で選ばれたということ、それを踏まえて議員がお互いを尊重し合い活動を行うことだと思っています。今日、1,741議会中、300ほどの議会で、女性議員は一人もいないということを伺いました。こういった状況を鑑みると、大磯町は、20年間、女性議員の割合が50%以上の状態を維持しており、稀有な存在と言えるでしょう。性別や年齢に関係なく、議員が自治体の発展のために議論し合える議会の実現を切に願っています。

〜質疑応答〜

河村:

ありがとうございます。それでは、先生方、質問いかがでしょうか。

粕谷:

お話を伺っていて、大磯町では昭和42年というかなり以前の時点で女性議員がいた点が、他の町議会と大きく違うところなのかなと思いました。お隣の二宮町、あるいは中井町には女性議員がどの程度いて、どういう状況になっていて、これらの隣接する町で大磯町はどのように認識されているのかなど、もしご存知でしたら教えていただけますでしょうか。

竹内:

二宮町は、去年11月に町議会選挙があり、このタイミングで女性議員が、議長、副議長、各委員会の委員長に就任したと伺っています。中井町についての詳細は、あまりわからないのですが、女性議員はあまり多くないと思います。

河村:

神奈川県は、全国的に見たら女性議員の数がやはり多いですよね。たぶん、二段階の現象だと思います。一つは、1960年代、1970年代の運動。もう一つは、都市が拡大するプロセスで、女性が生活環境などを守ろうして行った運動。つまり、最初に女性が当選して増えた後、そこで終わりではなく、他の女性が続いていくという二段階の現象があったのではないかと。特に、後援会の方々は、一度女性議員を応援すると、それ以降、男性・女性といった性別に関係なく支援してくれるんですよね。そういった要因が、大磯町での女性議員の割合の維持に繋がっているのではないかと思います。

竹内:

そうかもしれないです。私の場合、ご夫婦で支援してくださる方々が多くいらっしゃいます。そういった意味では支援してくれる方々の人数は、男女間であまり変わらないかもしれないです。

河村:

やはり、政治参加の在り方が、都市部と地方では異なっているかもしれないですね。都市部だと、男性も女性も関係なく選挙に出ることのできる雰囲気があると思うのですが、地方だと男性中心の選挙が行われていますよね。男性の世帯主が出るもんだみたいな。

竹ノ下:

女性議員が昭和42年に当選されて、それから女性議員の割合が少しずつ高まって、平成15年以降はずっと50%以上をキープし続けていることは、本当にすごいことですよね。他の先生方のお話を踏まえて、竹内先生のお話を伺っていると、女性が立候補したり、議会で活動したりする際の制約が少ないように感じられたのですが、いかがでしょうか。

竹内:

そうかもしれないですが、私はあまり感じていないんですね。ただ、小さいお子さんを持つ方にとっては時間的な制約が伴うと思います。例えば、私たちの議会は必ずしも17時には終わりません。終わる時間が決まっていないので、そういった点において小さいお子さんを持つ方は大変かと感じています。

尾野:

女性の場合、立候補できる期間がどうしても限られてしまいますよね。子育てが終わったと思ったら、親の介護が始まりますよね。一方、男性の方はあまり気にしなくて良い。そうなると女性が出られるタイミングはすごい難しいように感じます。

遠藤:

大磯町で女性議員の割合が高いという点なのですが、先行研究では、最初の女性がいかに「成功するか」ではなく、いかに「失敗しないか」が、周りの人のジェンダー意識などに影響を与えることが指摘されています。女性リーダーが成功しても周りの人の意見は変わらないけど、失敗してしまうと変わって、リーダーの立場に選ばれにくくなる一方、失敗しなければ、若干右肩上がりになるということが言われているんですね。もしかしたら、大磯町の事例は、昭和42年に当選された最初の女性議員がうまく立ち回ったので、女性議員と男性議員に対する有権者の評価に違いがあまりないのかもしれませんね。

粕谷:

確かに、最初の女性も大事だと思います。それに加えて、その女性に協力してくれる周りの方々、特に権力のある男性の役割も大変重要ですよね。協力してくださる周りの方々は、最初のところでいかに失敗しない女性を入れるかというリスクを背負っているわけですよね。そういった意味で、周りの方々の役割とその環境は非常に重要なのではと思いました。

森山:

私が議長に当選した時は、それを支持してくれる男性の存在がかなり大きかったと思います。力になってくれました。

【地方議会で女性議員や若手議員を増やすには?】

〜地方議員の報酬の問題〜

河村:

3名の先生方から地方議会の現状についてご報告いただいたのですが、それを踏まえて研究者側から関連する研究などをご紹介していきたいと思います。

尾野:

まず、最近行った研究についてご紹介したいと思うのですが、なぜ若い人が議員にならないんだろうという問いを解明しようとして始めた研究があります。現在、政治家と有権者の間でかなりの年齢差が存在します。全体的に政治家になる人々の年齢が高く、若い政治家がなかなか出てこないんですよね。さまざまな仮説が考えられるのですが、この研究では候補者の顔写真を使った実験を行いました。具体的には、顔写真の年齢を自動的に変えるソフトウェアを使い、その写真を無作為に提示して、有権者に「現在、この候補者が選挙に出馬しています。どれくらい支持しますか。選挙で投票したいですか。」のような形で尋ねるんですね。それで、候補者の顔の年齢によって、有権者の投票先はどれほど変わるのかを調べました。すると、案外、若い有権者や中年の有権者が、若い候補者を選ぶことに加え、意外と高齢の有権者も若い候補者を選んでいることが分かりました。なので、実際は若い候補者の方が有利なんですよね。

しかし、現実では、政治家間で年齢の偏りがあります。それはなぜかと考えてみると、やはり、若い候補者がそもそも出てこないという点がかなりネックなのではないかと思います。

森山:

報酬が少ないという理由が一番大きいと思うんですよね。信濃町を例としてあげると、若い政治家が出たとしても、月18万円の議員報酬で子育てして教育していけるかといったら、かなりネックなように感じます。

河村:

報酬に関して、日本では都道府県議会と市町村議会で同じ制度である一方、町村だけ生活給という発想がない中で報酬が決まってしまったという歴史があります。1960年代の町村では、議員になって食べていくのではなく、余裕のある方が議員になるという状態で高度経済成長に入ってしまったんですね。つまり、町村議会において、ヨーロッパ型のノブレス・オブリージュのようなスキームが残っているのですが、市議会以上になると、いわゆる生活給をもらって職業政治家になるアメリカ型のスキームが存在するというような制度になっています。なので、町村議会は非常に報酬が低く設定されているのだと思います。

あともう一つ問題になっているのは、年金についてです。世論調査などを行ってみると、有権者は、議員の報酬が高すぎると認識しているみたいです。しかし、実際は議員には厚生年金がないんですよね。

これらの一連の問題は、政令市や都道府県の議員のイメージが町村議員に投影されていたり、戦前の余裕のある人が議員になるという伝統が投影されていたりするからかもしれません。

古川:

若い議員を増やすという点で、報酬に関しては本当におっしゃる通りだと思います。現在、この若い議員の増加について、私が磐梯町長と進めていることは、「会社公認」です。今、議員は、主婦、自営業、農業といった方々が多いと思うのですが、町内の企業に勤めている従業員さんであればその会社が公認してくれることもあるんですね。磐梯町では結構良い企業がいらっしゃるので、会社公認という形で若手議員を増やそうと取り組んでいます。

〜女性候補者のリクルートメントの問題〜

遠藤:

先ほど、古川先生がロールモデルのお話をされていたと思います。政治学では、ロールモデルの女性に接すると、女性の政治に対する関心が高まることが通説とされてきました。しかし、最近の研究では、その効果がロールモデルの女性によって異なることが示されています。例えば、ロールモデルとしての女性議員がいかに育児と議員活動の両立に対して努力や苦労を経験してきたかをさらけ出してしまうと、若い女性から共感を得られず、むしろ立候補を忌避してしまう可能性もあるようです。これは政治学に限らず、経済学や心理学でも確認されている知見みたいですね。そして、ここでの問題点が、男女間でのロールモデルの数の差です。男性の場合、ロールモデルになる人物が多くいて、男性は「これくらいなら自分でもできるのではないか」と思いやすい環境に身を置いていると言えます。一方、女性はロールモデルが少ないので、1人大変な苦労をしている女性を見てしまうと、諦めてしまうような可能性が存在するんですね。

ですので、大磯町でどのように女性議員の割合を50%以上で維持しているのかという点は、女性のロールモデルの多さに起因するのではないかと。先生方のお話や最近の政治学の研究を踏まえて思いました。

しかし、では実際にどのようにして女性のロールモデルを増やすのかという問いに関しては、いまだに不明点が多いため、堂々巡りになっている感じがします。また、ロールモデルに関する研究は、比較的新しいトピックです。なので、具体的にどのような対策を講じるべきかという研究から得られる含意は、まだ明確に示すことが難しいように感じます。政治家になる前の候補者のプールを作るところが課題といったところでしょうか。

古川:

あと地方議会だと、過去のことについてさらされてしまいますよね。地元の方々は、昔から良く知っている人が多いので。私は東京にいたので大丈夫だったのですが、ある女性は過去の話をさらされていました。そういったことに対して、男性はまだ許容できている感じがするのですが、女性は特にプライベートなことを言われてしまうと傷つきますよね。その辺りが、一番の問題のように思います。 

河村:

やはり地方では、男性よりも女性の方が、完璧さを求められやすい傾向にあるように思います。つまり、女性議員は、良い妻であり、かつ政治家であるということが求められているんですかね。

あと先生方は、選挙を実際に行ってきて応援してくださる方々がいらっしゃると思うのですが、寄付などはいかがですか。

古川・森山:

ないですね。

尾野:

アメリカでは、女性議員の増加を目指して、女性候補者へ金銭面で支援を行う財団が存在するんですよね。最近の研究では、女性議員が少ない理由は、有権者のバイアスというよりも、そもそも女性の立候補者があまり出てこないからという可能性が指摘されています。つまり、出馬の段階で男女差が既に存在していて、そこに問題があるように思います。どのように男性候補者と同じ人数の女性候補者を集めるか。この問題の解決が、なかなか難しいところですよね。

アメリカでは、女性が出馬した場合、だいたい女性候補者が勝つんですよね。しかし、逆に言うと、選挙に勝つ女性候補者しか出馬しない。他方で、男性は多少クオリティが低くても、簡単に出馬できるみたいで。リスクの認識において、男女間で違いがあるのかもしれませんけれども。

古川:

お話を伺って、思ったことは、女性議員をリクルートする人がいないような気がします。選挙にならない方が良いと考える議員の方もいらっしゃるみたいなんですね。女性議員が出たら、自分が落選してしまうかもとか、自分の票が取られてしまうのが恐いとか。そういった意味で、リクルートする人が少ないように感じました。

森山:

信濃町でも、議員が女性議員を増やそうという動きがあまりありませんね。

遠藤:

選挙制度が違うので、比較は難しいかもしれないのですが、アメリカでは党の偉い人が数人の女性に立候補を促すという取り組みを行うと、実際に女性が出馬する割合が高まるという研究もあるみたいです。つまり、いかに党で地位のある方々や男性が女性をリクルートするかが、女性立候補者の増加に寄与するという話もあるんですね。しかし、日本だとなかなか難しいみたいですね。

古川:

そういう意味では、みんな無所属なので、党がないというか。

河村:

地方議員は政党中心じゃないですよね。国会議員は落選しても支部長などの役職に就くことも可能だと思うのですが、地方議員だとそうはいかないじゃないですか。落選リスクが、制度ごとに異なっているんですよね。そういった意味では、女性のリクルートに伴い、いかにその落選リスクを減らすかという点も問題だとすると、現行制度自体の改革が必要かもしれないですね。

では、そろそろお時間ですので、最後に尾野先生、よろしくお願いいたします。

尾野:

本日はお忙しい中、貴重なお話を聞かせていただきありがとうございました。大変勉強になりました。やはり、現場のお話を伺わなければ分からないことが多々あるので、非常に興味深くお話を聞かせていただきました。今回のお話をもとに、今後いろいろと研究を行っていければと思っております。本日は、どうもありがとうございました。 

本意見交換会は、2023年3月16日に東京財団政策研究所にて行われました。本稿はその模様を要約し、まとめたものです。

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