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【開催報告】International Workshop Gender & Political Representation in Asia and Beyond
写真提供:Getty Images

【開催報告】International Workshop Gender & Political Representation in Asia and Beyond

June 23, 2023

R-2023-024

研究プログラム「男女共同参画社会の形成と促進につながるエビデンス―世界最先端の研究成果から得られるインプリケーションの紹介と日本での応用を目指して―」では、20221125日と26日の両日にわたり、慶應義塾大学三田キャンパスにて、国際ワークショップを開催した。

アジアにおける女性の政治参加は、近年大きく前進しているものの、女性政治家の比率が伸び悩んでいるなど、まだまだ改善の余地がある。この2日間のワークショップでは、女性と政治に関する問題を実証的に研究している国内外の研究者たちが集合し、最新の研究成果を報告し共有した。大学院生をはじめ若手研究者らが詰めかける会場からは多数の質問が出て、議論が盛り上がった。

本稿ではワークショップで行われた若手研究者による研究報告のうち、注目を浴びた2つの研究に焦点を当てて、その内容を紹介する。

「家庭内の厚生格差を測る: 理論と日本の家計調査への応用
(Intra-household Welfare: Theory and Application to Japanese Data)」

「ジェンダーによる認知労働の格差とその政治的含意の解明
(The Political Consequences of the Mental Load)」

開催概要
ワークショップの模様(ダイジェスト)

「家庭内の厚生格差を測る: 理論と日本の家計調査への応用(Intra-household Welfare: Theory and Application to Japanese Data)」

東京財団政策研究所・奥山陽子主任研究員(ウプサラ大学助教授)

 報告の様子。冒頭で、政治や労働市場における男女格差と、家庭内の男女格差を結びつける理論に触れ、
家庭内男女厚生格差を計測することの意義を説明した。

◆家庭内の格差
消費生活という観点で、夫婦はどれだけ平等なのか?そして、家庭内の不平等は、家庭の外の不平等とどのようにつながっているのか?政治参加に見られる男女差や、賃金格差、教育・就業機会の格差のような「観察されやすい男女格差」とは異なり、家庭内における不平等は往々にしてブラックボックスの中にある。経済理論と家計調査データを用いてそのブラックボックスを解明し、家庭内に隠されている「厚生の格差」に迫るのが本研究の目的である。

◆理論的枠組み
本研究では、夫婦間の厚生格差を測定する新しいアプローチとして、Money Metric Welfare IndexMMWI)という理論的枠組みを提案し、実際に日本の「消費生活に関するパネル調査」から得られる消費支出と時間配分のデータを用いて、それを推定した。MMWIは「妻、夫それぞれが、仮に一人で暮らすことになった場合に、現在家庭消費生活から得ている厚生と同程度の厚生を達成するためにどれだけの支出が必要になるか」を定量化したものである。MMWIは、家計収入や、各消費財の価格のほか、夫婦おのおのの選好の差、そして夫婦間の交渉力の差を反映した指標である。

 MMWIにより計測した家計内の厚生配分分布(青色)と、私的支出のみにより計測した家計内の厚生配分分布(灰色)の比較。
前者が後者に比べて右側にシフトしていることから、家計内公共財が厚生の再分配機能を果たしていることがわかる。
奥山陽子主任研究員が作成した発表スライドより引用。

◆分析結果
推定の結果、平均的に妻と夫の間の厚生配分は、妻を4とすると夫が6であることが明らかになった。仮に家庭内の「公共財」(住居や家具、光熱費など)が全くなかった場合は、夫婦間の厚生格差は妻1に対して夫2へと悪化する。これは、家庭内での妻の交渉力が低く、そのために消費資源の「個人としての取り分」が少なく、その分「公共財」が夫婦間での厚生再分配の役割を果たしているということを示唆している。 

さらに、他の条件を一定と仮定した場合、厚生格差は、夫婦間の賃金格差が縮まるほど小さくなることが明らかになった。つまり、家庭の外で女性がより高い賃金を得られるようになれば、家庭内交渉力の向上を通じて、家庭内での厚生格差の改善にまで波及することを示唆している。

◆結論
現在、日本では、政治、労働、教育の各方面で、「ジェンダー平等」の実現へとかじが切られている。本研究は、そうした社会政治経済の変化が、女性の交渉力向上を通じて、家庭内の資源配分にまで波及し、厚生の男女平等化につながることを示唆している。 


本稿は、Intrahousehld Welfare: Theory and Application”と題する奥山陽子主任研究員のワークショップでの発表内容にもとづくものです。 

 

「ジェンダーによる認知労働の格差とその政治的含意の解明(The Political Consequences of the Mental Load)」

アナ・ウィークス講師(イギリス・バース大学)

本研究は、ウィークス講師自身が設計した調査結果に基づき、認知労働として知られる心理的負荷 (mental load)の男女差に焦点を当てて、それが政治的関心の男女差にどのように影響しているのかを解明しようとするものである。

 ウィークス講師の報告の様子。冒頭で心理的負荷の例をコミカルにかつ適切に描いた、
フランスの漫画家Emmaの“The Mental Load: A Feminist Comic” (仏語原題 “Fallait demander”) を紹介した。

◆心理的負荷(Mental load)とは
心理的負荷とは、家事をこなすために投入される認知的労力のことである。時間の使い方で測定できる、いわゆる家事労働(physical labor)とは異なり、心理的負荷には、家事のニーズを予測し、さまざま段取りをつけて調整するという、目に見えないタスクが含まれる。例えば、子供の自宅学習の進捗状況を把握したり、子供の誕生日会を企画したり、また子供の体調を見極めて病院の予約をとったり、といったさまざまな家庭内のタスクである。社会学分野における先行研究によれば、このような心理的負担は、一貫して女性のほうが多く担っていることが分かっており、心理的負荷には大きな男女格差があることが明らかになっている。この格差は、社会に深く根付いたジェンダー規範や女性が背負う「よき母でなければならない」という社会的プレッシャーからきているという仮説がある。また皿洗い、子供の送り迎え、などと異なり、目に見えず形もない心理的負荷は、夫婦で分け合おうにもなかなか分け合いにくいという問題も指摘されている。 

2つの仮説
本研究では、次の2つの仮説を検証している。第1に、認知的労働の分担はジェンダー化されており、心理的負荷の男女格差を助長している。この格差は、女性に家事管理者の役割を課す社会的な期待や規範によってもたらされている可能性がある。第2に、心理的負荷が高いほど、政治的関心が薄れる傾向があり、心理的負荷の男女差が政治的関心の男女差をもたらしている可能性がある。これらの仮説を検証するために、イギリスで調査を実施した。

◆分析結果
調査の結果、心理的負荷には男女格差が存在し、女性のほうが男性よりも大きな負荷を負っていることが明らかになった。また、心理的負荷の認識にも男女差が存在し、男性回答者の方が、夫婦間の心理的負荷の分配をより平等に感じている傾向がみられた。こうした心理的負荷の男女差は、異なる年収や学歴グループの間でも一貫していた。ただ、エスニックマイノリティ(ヒスパニック系やアジア系)では、心理的負荷の男女差はマジョリティ(白人)に比べ小さい傾向にあった。調査結果で注目すべきは、男性が家庭に入り、女性が家庭外で働いている家庭においても、女性の方が男性よりも多くの心理的負荷を負う傾向にあったことである。このことから、家庭内の家計をめぐる男女間の交渉力にかかわらず、心理的負荷には男女差が存在し続けていることがわかった。

◆政治的関心への示唆
さらに調査結果は、心理的負荷の性差が政治的関心における性差を説明するのに役立つことを示した。具体的には、心理的負荷が小さい場合、男女間の心理的負荷の差は国政への関心にほとんど影響を与えていない。しかし、心理的負荷が増加すると、その男女差が政治的関与の格差につながっていることがわかった。一方、家事労働の負担は政治的関心の大きさには影響を与えず、心理的負荷が政治的関心の形成において重要な役割を果たすことが明らかになった。

◆結論
本研究は、性別による認知労働の分担とそれが政治的関心に及ぼす影響に焦点を当て、家事格差の見過ごされがちな側面を明らかにした。女性の精神的負担は、全体の負担が大きい場合、国政への関与の障壁となる傾向が見られた。つまり、心理的負荷が女性の方に片寄り、政治ニュースなどへの興味関心を抱く余裕がないことが、政治知識や関心の男女差につながっていることが示唆された。こうした心理的負荷の男女差を認識し、それに対処することは、政治参加における男女格差の縮小に貢献し、より公平で包括的な民主主義を促進することにつながると考えられる。

本稿は、The Political Consequences of the Mental Load”と題するウィークス講師のワークショップでの発表にもとづくものであり、より詳しい研究内容はこちらでも読むことができます。
Weeks, Ana Catalano. 2022. “The Political Consequences of the Mental Load.” Working Paper pp. 1–29.(https://scholar.harvard.edu/files/anacweeks/files/Weeks_ml_nov22.pdf

開催概要

■イベントタイトル:International Workshop Gender & Political Representation in Asia and Beyond
■日時:
1日:20221125日(金)10:0017:30(開場:9:30 
2日:20221126日(土)10:0017:35(開場:9:30
■会場:慶應義塾大学三田キャンパス東館G-Lab
※ハイブリッド開催(会場参加:事前登録不要/オンライン参加:事前登録制)/参加無料/使用言語:英語
■主催:公益財団法人東京財団政策研究所
■共催:慶應義塾大学、早稲田大学現代政治経済研究所、V-Dem East Asia Regional Center
■プログラム:
<第1日:20221125日(金)>
10:00- 10:05
Opening Remarks
Yoshikuni Ono (Waseda University / The Tokyo Foundation for Policy Research) 
[Japan]
10:05-11:15
Gender Differences in Japanese Political Media Coverage
Karen Kaminaga (Waseda University) 
11:25-12:35
Intrahousehold Welfare: Theory and Application to Japanese Data
Yoko Okuyama (Uppsala University / The Tokyo Foundation for Policy Research)
—Lunch Break—
[East Asia]
13:30-14:40
The Gendering Impact of Facebook on Candidates’ Self-presentation
Wan-ying Yang (National Cheng-Chi University) 
14:55-16:05
Making Parties Work for Gender Equality: Bounded Political Agency of Party Women
Ki-young Shin (Ochanomizu University)
16:20-17:30
Continuity and Change in Women’s Issue Representation in the Legislature: Evidence from the Korean National Assembly, 1948-2022
Min Hee Go (Ewha Womans University) 

<第2日:20221126日(土)>
[Southeast Asia]
10:00-11:10
Widening the Base: Women’s Representation at the Local Level in Indonesia
Sally White (Australian National University) 
11:25-12:35
Getting to the Top: Career Paths of Female Ministers in Post-Suharto Indonesia
Ella S. Prihatini (Bina Nusantara University)
Lunch Break— 
13:30-13:35
Welcome Remarks
Yuichiro Anzai (CEO, Tokyo Foundation for Policy Research) 
[New Approaches to Studying Gender]
13:35-14:45
The Political Consequences of the Mental Load
Ana Catalano Weeks (University of Bath)
14:55-16:05
The Limited Effects of Gender in Voter Evaluations: Using a Conjoint Experiment in South Korea
Yesola Kweon (Sungkyunkwan University)
16:20-17:30
Position Congruity Bias: Why Voters in Developing Countries May be Particularly Biased Against Women as Village Leaders
Paul Schuler (University of Arizona)
17:30-17:35
Closing Remarks
Yuko Kasuya (Keio University / The Tokyo Foundation for Policy Research)

ワークショップの模様(ダイジェスト)


神長夏怜さん(早稲田大学) 

日本において候補者がメディアに取り上げられる回数が男女の間で異なることをうけ、その要因について読売新聞や朝日新聞といった主要新聞社の新聞記事のデータを分析した結果を報告。

 


Wan-Ying Yang教授(台湾国立政治大学)

台湾の選挙において、候補者によるFacebook上でのアピール方法が男女でどのように異なっているのかを、選挙キャンペーン中に実際に用いられた写真だけではなく、それらを数値化した実証的なデータに基づく分析結果を用いて紹介。

 


Min Hee Go准教授(梨花女子大学)

韓国の立法府において議論される女性に関する政策課題がどう変化してきているのか、1948年から2022年までのデータをもとに紹介。

 
Sally Whiteリサーチフェロー(オーストラリア国立大学)

インドネシアの地方政治における女性政治家の台頭について、その事例を紹介しながら、時系列的変化について分析結果を発表。

 

 
Ella Prihatini講師(ビナ・ヌサンタラ大学)

インドネシアにおいて女性閣僚がどこから選ばれているのかについて、大学教員や政治家一族など、女性閣僚のキャリアパスについて分析した結果を報告。

 


Yesola Kweon助教授(成均館大学校) 

有権者のセクシズム(性差別主義)の態度が候補者の評価にどう影響しているのかについて、韓国で実施した実験結果を報告。

 


 Paul Schuler准教授(アリゾナ大学)

公職のレベルによって女性候補者に対するバイアスがどのように変化するかについて、ベトナムで実施した実験結果を報告。



今回のワークショップは、国境を越えて研究者らが一堂に会して研究成果を共有し議論することで、国際的研究ネットワークを構築する機会を提供するものとなった。


 

▼本研究プログラムについて
「男女共同参画社会の形成と促進につながるエビデンス―世界最先端の研究成果から得られるインプリケーションの紹介と日本での応用を目指して―」

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