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論考「世襲議員と政策形成能力のあり方について―『政治主導』時代へのインプリケーション」(1) 上

February 12, 2009

東京財団研究員
加藤創太

1.世襲議員の突出

国会、特に与党自民党の世襲議員の多さが、現代日本政治の問題として取り上げられることが多くなった。次の総選挙では一つの大きな争点となる可能性もある。すでに70年代頃からメディアや学者により取り上げられてきたこの問題が、ここに来て大きく注目されるようになったのは、以下のようなことなどからであろう。

・現麻生政権(中山国交大臣の更迭後)の閣僚18人のうち12人が世襲議員であり、 他の6人のうち2人の親が元地方議員であること。
・近年の首相の大半が世襲議員であること、特に橋本龍太郎氏以降は7人中6人が世襲議員であり、唯一の例外である森喜朗氏も祖父・父親が元町長であること。
・安倍氏、福田氏、麻生氏と3代続けて元首相直系の世襲議員が首相となり、最初の2人は政権を放り出すような形で唐突に辞任したこと。
・特定郵便局長の世襲や自民党の旧弊な体質を手厳しく非難していた小泉純一郎元首相が、自分の後任に息子の小泉進次郎氏を指名したこと。

世襲議員の定義にはばらつきがあり、ここで厳密な整理はしない。しかし、定義によって差異はあるが、自民党の現議員のおよそ40%――これでも大半が非世襲の「小泉チルドレン」によって前回衆院選後に比べ大幅に下がっている――が世襲議員であり、自民党あるいは政府幹部になるとその比率は高まる。他方、民主党の世襲議員の比率は20%程度であり自民党よりもだいぶ低いが、代表の小沢一郎氏、幹事長の鳩山由紀夫氏は共に世襲議員である(親の選挙地盤を引き継いでいない鳩山氏については世襲議員に含めない定義もある)。
以下ではさらに、議論の前提となるものとして興味深いファクトを二つほど挙げておく。

・ここ数回の衆院選を通じて世襲議員の比率が圧倒的に低いのは東京ブロックであり、地域差はあるものの、都市部よりも地方の方が世襲議員の比率は高まる。他方で、最大の票田である東京出身の首相は、50年代半ばの鳩山一郎氏以後、長らく出ていない。
・世襲議員の当選率は非常に高く、ここ数回の衆院選において70%~80%である。これは一般候補者の当選率を大きく上回る。新人に限ってみても、2005年選挙において世襲議員は59%の当選率であり、非世襲議員の当選率を20%以上上回った。

こう見ると、世襲議員の数の多さ一般についてはもちろんのこと、最近の動向で際だつのは、日本政府および自民党の要職にある議員の世襲率の高さであろう。閣僚だけでなく党三役なども世襲議員の比率は高い。しかし、新憲法の施行後、橋本政権までは、首相21人中世襲議員は3人(鳩山一郎氏、宮沢喜一氏、羽田孜氏)に過ぎなかった。

このように政府および自民党幹部に世襲議員が特に多い最大の理由は、70年代頃に自民党内で制度化された、当選回数に応じた役職の割り振りである 1 。その結果、若いうちから当選回数を重ねることが多い世襲議員が若いうちから要職に就き、党内での地位を高め、世間での知名度を上げることが可能となった。首相・閣僚候補となった時点で「若さ」を強調できることも大きいであろう。一方、世襲候補以外で、20代~30代で、「カバン(鞄)、カンバン(看板)、ジバン(地盤)」の三バンを揃えて中選挙区制で当選することは困難であった。

世襲議員に関しては、様々な角度からの分析や批判が可能である。とりあえず総体としては問題性があることは明らかであろう。非上場のオーナー企業や伝統芸能ならともかく、上場企業や行政組織といった公的性格を有する組織において、ここまで世襲率の高い組織・集団は少ないはずだ。ましてこれは、立法府と行政府という日本の三権のうちの二権の根幹となる母集団である 2 。他の先進民主主義国家と比較しても、日本、特に政権与党の自民党の世襲議員比率は突出して高い。どの国にも世襲議員は少なからず存在するものの、日本に迫るレベルなのはイタリアだけであり(それでも日本より世襲議員比率は低い)、たとえば、米国の全議員に占める世襲議員の比率は5%程度である。

こうした状況は異常である。格差が大きな社会問題となっているが、格差社会に対する対策を打ち出す立場の行政府や立法府の中枢が、階層が血筋によって固定された格差社会の極みのような存在となっているのである。

世襲議員がここまで日本で増え続けたことにはもちろん理由があり、それは日本政治のあらゆる構造的な問題と連関する。本稿では、スコープを限定する意味で、世襲議員と、ここ10年以上強く唱えられてきた政治主導との関係について問題点を提起していきたい。

◆続きは→→ こちら

1 こうした慣行がこの時期に制度化された理由としては、財政におけるシーリング制などとパラレルに考えられる要素があり、それ自体興味深い研究対象である。

2 三権のうちの残りの一権の司法では、世襲性向は極めて低い。最高裁判事や検察幹部はもちろんそうだが、弁護士事務所でも世襲されているものは稀である。これは、司法試験という極めて高倍率で難関な試験が、世襲を阻み、新たな人材を呼び入れる装置となっていたからだと考えられる。この点において、倍率の低い医師国家試験合格を資格とする医師の世界で、開業医の世襲性向が高いのと好対照をなす。なお近年、司法制度改革に伴い、司法試験の倍率が大幅に低下したが、これにより弁護士事務所などで世襲性向が高まる可能性がある。

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