訪日外国人関連統計を考える~政策目標にできる精度なのか〈政策データウォッチ(5)〉

東京財団政策研究所「リアルタイムデータ等研究会」座長
神奈川大学経済学部 教授

飯塚 信夫

はじめに

2019年1月16日、観光庁は2018年に日本に訪れた外国人の消費額(以下、訪日外国人消費額)が4兆5064億円と過去最高になったと発表した。同日、日本政府観光局(JNTO)が発表した日本に訪れた外国人の数である訪日外客数も3119万1900人と過去最高である。政府は、2020年に訪日外客数を4000万人とし、消費額を8兆円にする目標を打ち立てているが、消費額については達成が難しいのではないかという声も出ている。 

こうした訪日外客数や消費額は、訪日外国人の動向の実勢を本当に表しているといえるのであろうか。結論を先に述べれば、政策目標にできる精度ではなく、“外国人観光客”を過大評価するリスクがあると考えられる。政策に生かすうえでは、統計の在り方を再検討する必要があろう。

統計間での訪日外国人買い物額などのズレ

観光庁の「訪日外国人消費動向調査」における訪日外国人消費額は、総額だけでなく、宿泊料金、飲食費などの内訳も公表されている。この中で最も金額が大きく、注目度も高いのが「買い物代」である。2018年の速報値では、1兆5464億円と総額の34.7%を占める。ただし、「買い物代」は前年に比べて減少した(図1)。

 

訪日外国人の「買い物代」については、日本百貨店協会も「外国人観光客の売上高・来店動向」を毎月公表している。図2に示したように、両者の動きは2018年入り後、異なっている[1]。訪日外国人消費の内訳としての「買い物代」は2018年4~6月期以降、前年比で減少が続き、2018年通年でもマイナス成長だ。しかし、日本百貨店協会の外国人観光客の売上高は増加が続いている。2018年通年でも前年比2割を超える増加となった。訪日外国人消費における百貨店のシェアが高まったと解釈できないこともないが、そもそも訪日外国人の「買い物代」が正確に把握されていない可能性も考えられる。

 

観光庁は、「宿泊旅行統計調査」において外国人の宿泊客数も調査している。宿泊客数は人泊という単位で集計されている。例えば、1人が3泊すると3人泊とカウントされる。訪日外客数とこの外国人の宿泊客数を比較すると、ともに増加傾向ではあるが、2016年での動きが異なる。訪日外客数は2割近く増えたものの、外国人の宿泊客数の伸び率は6%弱と減速したのである(図3)。

また、2018年11月までの累計では、訪日外客数が2869万人であるのに対し、外国人の宿泊客数は8086万人泊。外国人の宿泊客数を訪日外客数で割ると1人あたり2.8泊となり、2011年以降3泊前後で推移している。一方、「訪日外国人消費動向調査」における回答者全体の平均泊数は8泊弱であり、3倍弱の開きがある。民泊の影響もあるかもしれないが、2011年からの傾向であることを踏まえると、訪日外客数は真の外国人観光客数を過大評価している可能性がある。

“観光客”は訪日外客数の85%程度

観光庁の「訪日外国人消費動向調査」における訪日外国人消費額は、基本的に、同調査のアンケート調査による1人当たり消費額に、JNTOの「訪日外客数」を乗じることで計算されている。訪日外客数が真の外国人観光客数を過大評価しているとすれば、訪日外国人消費額自体も過大ということになる。 

JNTOは訪日外客数の内訳を示している。例えば、2017年の2869万人のうち、88%の2544万人が「観光客」で、残りが「商用客」と留学、研修などの「その他客」としている。この「観光客」には親族友人訪問を含むと、JNTO資料では示している。訪日外客数の原データである法務省入国管理局の「出入国統計」を用いて、真の観光客数を把握してみよう。

図4で示したように、訪日外客数は、「出入国統計」における入国外国人数を2016年以降上回っている。訪日外客数には、入国外国人数には含まれないクルーズ船で訪れる買い物客(船舶観光上陸許可数)が含まれているためだ。 

JNTO資料から推測すると、訪日外客数は以下のように算出されている。カッコ内は2017年の実績値である。

入国外国人数(2742.9万人)+船舶観光上陸許可数(245万人)-永住者等[2](120.5万人)

以上の算出結果は2867.4万人。JNTOの訪日外客数は2869万人なので、ほぼ再現できていると考えられる。一方、入国外国人のうち観光客の概念に近いのは、「短期滞在」(90日以内)である。2017年の実績値は2461.8万人である。再入国(1355人)を除いた新規入国外国人でみると、観光目的が2219万人で入国外国人の8割を占める。このほか、商用目的が164万人、親族訪問が55.7万人となっている(図5)。JNTOの訪日外客数2869万人のうち、“観光客”に相当するのは船舶観光上陸許可数を加えても85%(≒(2219+245)÷2869×100)にとどまるのである。

こうした“観光客”と、親族訪問、短期滞在以外で仕事や研修、技能実習に来ている外国人の消費行動は、当然異なる。それらをひとくくりで訪日外客数とし、アンケート調査による1人当たり消費額を掛け合わせて算出した訪日外国人消費額は実勢をとらえているとは考えにくい。

実際、観光庁は2018年からクルーズ客とそれ以外の訪日外客数を分けて、消費額の推計を行うようにしたが、この結果、消費額の伸びが低下したという。観光庁の資料によれば、2017年以前と同様の推計方法で算出すると2018年の訪日外国人消費額は4兆8000億円(前年比8.7%増)となり、冒頭に示した実績値より、金額は3000億円程度大きく、伸び率は6.7ポイント高くなる。データの制約があるから実現は難しいであろうが、さらに観光客、商用客、親族訪問などにブレークダウンすれば消費額は変わるであろう。

さらに、訪日外国人消費額の内訳は、アンケートによる1人当たり消費額の内訳から算出されている。冒頭に示したように、その内訳である「買い物代」と百貨店での外国人向け売上高にズレが生じるのも当然であろう。

家計調査より低い1人当たり消費額の精度

さらに、「訪日外国人消費動向調査」による1人当たり消費額の精度も高くはない。かねて批判を受けることが多い、総務省の「家計調査」よりも精度が低いのである。

詳細データがわかる2018年7~9月期を例にとると、「訪日外国人消費動向調査」[3]では、全国17の空海港[4]からの出国者[5]を母集団として、調査員による聞き取り調査を行っている。訪日外国人の国籍・地域により層化を行い、各層において独立に標本抽出を行っているが、その標準誤差率は最も低い韓国でも2.2%である。これは、バイアスがあるとかねて批判を浴びている家計調査の1%台前半に比べて高い。

2018年の1人当たり旅行支出は15万3000円。これにクルーズ客を除いた訪日外客数2885.4万人を乗じた4.4兆円が、クルーズ客を除いた訪日外国人消費額なのである。1人当たり旅行支出の標準誤差率を2%と低めに見積もっても、上記の消費額には880億円の誤差があることになる。

国際収支統計マニュアルに沿った調査だが

この訪日外国人消費額は、国際収支の旅行サービス収支の受取額を推計するために用いられている。国際通貨基金(IMF)の推計マニュアル[6]によれば、旅行サービス推計の方法には、大きく分けて、コンポーネントアプローチと消費額アプローチがある。コンポーネントアプローチは、旅行者が財貨・サービスの支払いのために用いた手段(クレジットカードなど)から捉えるものだが、「旅行サービス」以外の支出が混入する危険性がある。そこで、日本は2006年1~3月期から、現行の消費額アプローチに移行している。

両者のメリット・デメリットを比較検討した和田(2006)によれば、本稿で検討してきたデメリット、すなわち、データの精度を維持するのが難しいという問題はあるものの、消費額アプローチを用いる国が多い。「訪日外国人消費動向調査」で滞在期間1年未満の外国人を調査しているのも、国際収支統計における旅行サービスの計上対象が滞在期間1年未満の旅行者が中心になっているためだ[7]

しかし、国際収支統計マニュアルに沿った調査であることと、観光などの政策目標として掲げるデータとして適しているかは異なる。

前述したように、2017年の入国外国人のうち、観光目的の短期滞在外国人は8割程度にとどまる。2018年12月に「出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律」が成立し、今後、単純労働の外国人の受け入れを拡大する中で、観光目的の短期滞在以外の入国者が増える可能性がある。外国人観光客対応として求められる政策と、外国人労働者対応として求められる政策は当然異なる。訪日外客数とひとくくりに捉え、その大きさを政策目標とする時代は終わったのではないだろうか。

訪日外国人消費額についても、宿泊、買い物などの分野別に、販売・供給側からの調査を拡充すべきであろう。国内における家計消費の推計でも、支出側を調査する「家計調査」の限界はかねて指摘されている。出国直前の外国人をつかまえて調査する現状の方法は、なおさら限界があろう。

日本は諸外国に比べても、外国人観光客向けの免税販売を取り扱う店舗が多い。現状は百貨店にとどまっている免税売上高の集計を、スーパー、専門店など他の業態に拡大するだけでも、外国人の買い物代の実勢をより詳細に把握することができる。経済産業省の「商業販売統計」の調査項目に追加する価値はあるのではないだろうか。

観光庁の「宿泊旅行統計調査」についても、例えば、宿泊平均単価の調査などが追加できれば、外国人観光客の宿泊ニーズをさらに詳細にとらえられよう。

政府の公表資料[8]によれば、2019年1月7日から課税が始まった「国際観光旅客税」は、観光先進国実現に向けた観光基盤の拡充・強化を図るための恒久的な財源を確保するために創設されたという。年500億円にものぼるとされる財源を生かすためにも、より実勢をとらえた訪日外国人関連統計の整備が求められている。

 

参考文献

和田麻衣子(2006)「『旅行サービス』推計方法を巡る議論と課題」、日本銀行ワーキングペーパーシリーズ、No.06-J-12、2006 年6 月 


[1] 日本百貨店協会のデータは、毎月公表されるプレスリリースの速報値を合計したものである。

[2] 入国外国人の内訳のうち永住者、特別永住者、日本人の配偶者等、永住者の配偶者等、定住者の合計

[3] ここでは、クルーズ客以外の1人あたり消費額を調べる「全国調査」のことを説明している。このほか、都道府県別の内訳を調べるための「地域調査」、クルーズ客の消費動向を調べる「クルーズ調査」も行われている。

[4] 新千歳空港、函館空港、仙台空港、東京国際空港、成田国際空港、富士山静岡空港、中部国際空港、小松空港、関西国際空港、広島空港、高松空港、福岡空港、鹿児島空港、那覇空港、関門港(下関)、博多港、厳原港

[5] ただし、1 年以上の滞在者、「永住者」「日本人の配偶者」「永住者の配偶者」「定住者」など日本に居住している人、日本に入国しないトランジット客、乗員を除く。

[6] Balance of Payments and International Investment Position Compilation Guide(2017年11月現在)

[7] 旅行者のうち、留学生、医療患者は滞在期間1年以上も含む。

[8] 観光立国推進閣僚会議決定「国際観光旅客税の使途に関する基本方針等について」より

 

飯塚 信夫
神奈川大学経済学部 教授

東京財団政策研究所 政策データラボ アドバイザー

1963年東京都生まれ。86年一橋大学社会学部卒業、日本経済新聞社入社。編集局経済解説部記者、日本経済研究センター主任研究員などを経て、2011年神奈川大学経済学部准教授、14年より現職。2004年千葉大修士(経済学)。専門は日本経済論、経済予測論、経済統計。著書に『入門日本経済(第5版)』(共編著、有斐閣、2015年)、『世界同時不況と景気循環分析』(共編著、東京大学出版会、2011年)

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  • 政策データラボアドバイザー/神奈川大学経済学部教授