今こそエビデンスに基づくソーシャルディスタンスの検討を~感染症対策の効果に関する定量的分析の必要性~
〈政策データウォッチ(30)〉

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今こそエビデンスに基づくソーシャルディスタンスの検討を~感染症対策の効果に関する定量的分析の必要性~〈政策データウォッチ(30)〉

東京財団政策研究所「経済データ活用研究会」メンバー
大阪経済大学経済学部教授
小巻 泰之

ソーシャルディスタンスの評価はされていない

新型コロナ感染症の拡大に対して、日本を含む諸外国ではSocial Distancing(社会的距離の確保、以下SD)として、学校の休校、公共施設の閉鎖あるいは特定地域の封鎖等の対策が実施された。こうした対策はNon-pharmaceutical interventions (医薬品以外による公衆衛生対策、以下NPI)と呼ばれている。現在、ドイツ、アメリカなど諸外国では再びNPIが発出されるなど予断を許さない状況にある。また、日本では首都圏を中心に感染の再拡大の様子が窺え、どのようなNPIが実施されるべきか喫緊の課題となっている。

しかし、NPIの再発動には重要な課題がある。学校の休校、外出抑制、企業への休業要請など、それぞれのNPIの効果が感染症だけでなく経済に対しても定量的に検討されていないことだ。確かに、NPIにより感染症拡大のスピードは緩やかになったものの、人との対面を必要とする経済活動を中心に企業の収益は急激に落ち込こんだ。加えて、NPIの経済面の効果は、世界経済の悪化や他産業への影響を通じて日本経済全体に波及してこよう。

これまで国や都道府県では感染症の現状に関する指標をもとにアラート発出などの議論が進められている。しかし、NPIがこれらの指標にどのような影響を与えたのか定量的に分析されていない。感染症及び経済へのNPIの効果がともに定量的に明確でなく、NPIの経済に対する悪影響のみが大きく喧伝されればされるほど、適切なNPIが実施できなくなる可能性がある。

NPIによる感染症及び経済への影響を定量的に確認した上で、第2波が生じた場合、いつの時点で、どの程度の強度で、どのような種類のNPIを再発動するかを検討すべきである。本論では、NPIの効果に関する先行研究を整理した上で、NPI実施における課題を検討する。

1918年スペイン風邪でのNPI

(感染拡大の抑制効果)

Hatchett et al. (2007) によれば、H1N1ウイルスの第2波(1918年秋頃)に対して、アメリカの17都市では、感染症の隔離政策、学校・劇場・教会などの閉鎖及び、イベント等の禁止措置等が実施されている。他方で、休業要請を実施した都市は少なく、営業時間の調整や交通機関での混雑緩和ルール作成など、人々が集中しないような政策が実施されている(図表1左側)。Markel et al. (2007)は、バックデータは明らかにしていないものの、全米43都市のNPIの効果を検証している。43都市で最も多く採用されたのは「学校休校とイベントなどの集会禁止」である。実施期間は 1カ月以上が多いが、中には16週間実施している都市もみられる(図表1右側)。

このようなNPIについて、Hatchett et al. (2007)では、NPIのタイミングや実施内容で、例としてセントルイスではフィラデルフィアより死亡率が抑制されたと示している。Markel et al. (2007) においても、NPIの早期、持続的な適用により、感染症の拡大を軽減させることを示し、将来のパンデミックへの対応策としてNPIを検討すべきと指摘している。こうした指摘はBootsma and Ferguson (2007)でもみられ、早期のかつ積極的なNPIが伝染病のオーバーシュートを軽減することにより、病気の伝染速度を遅くし、累積感染率を低下させたとしている。

ただし、1918年のH1N1ウイルスは潜伏期間が短く、疑わしい症例との特定や隔離が容易であった点は今回とは異なる(Correia et al. 2020)。

図表1: アメリカでのNPIの状況

(経済面への効果)

経済面への影響については、マイナス効果を指摘する研究が多い。Eichenbaum et al. (2020) は、NPIによる個人の労働と支出の制限により、国全体の民間消費支出が年間で20%以上減少することを示している。アメリカの世代別のデータを用いた分析ではパンデミック(世界的大流行)時に幼児(胎児)であった世代は他と比較して、教育水準の低下、収入水準の低下、社会経済的地位の低下、社会的な移転の増加等があり、NPIが世代間の格差を引き起こす原因と指摘する研究もある(Almond 2006)。労働面では、死亡率が高い州や都市では労働供給の減少を引き起こし、その後の労働と賃金を増加させた(Garrett 2007)とあるが、労働者の質が大幅に低下したとの指摘もある(Karlsson et al. 2014)。

地域別では、早期かつ強力なNPIを実施した都市が、そうでない都市に比べてより強い経済成長に復帰したとの指摘(Correia et al. 2020)がある。

ただし、経済面への効果はNPIへの取り組みに地域差があること、先行研究により推計手法等が異なることも分析結果に影響を与えている可能性がある。 

今回の新型コロナ感染症

今回の状況についても既に多くの先行研究がみられる。ただし、感染症が進行中の状況下での研究であり、分析での仮定をどのように置くのかにより結論は異なってくる可能性がある。特に、日本では他国に比し日次ベース等の高頻度データの整備が遅れており[1] 、実証分析が困難な状況にある。

日本に関するものではInoue and Todo(2020)で、東京をロックダウンした場合の影響を試算している。ロックダウンの悪影響はサプライチェーン(供給網)を通じて他の地域に波及する可能性があるとして、東京が1カ月間封鎖された場合、他地域への影響は東京への直接的な影響の2倍となり、日本全体で27兆円(GDP(国内総生産)比5.3%)減少につながるとしている。

こうした企業間の連関だけでなく、NPIによる人々の対面コミュニケーションの中断が及ぼす影響がある。Koren and Peto(2020)は全米で4900万人の労働者が対面コミュニケーションに大きく依存しており、こうした労働者が他者との接触を半分程度削減された場合、賃金の12%を助成する必要があると指摘している。

このように、1918年のスペイン風邪と同様、新型コロナ感染症の社会や経済への影響は、NPIをどのように評価するかによって変化する。この点で、今回の状況は、過去の大不況でみられたストック面あるいはフロー面での需給サイクルのずれから生じるものではなく、リーマンショックのような金融面での信用不安から生じたものとは異なるものである。多くの知見を集め、適切なNPIを実施すべきである。以下では、簡便な方法であるが、日本のNPIの状況、経済面への影響を試算する。

日本のNPIは地域によって違いがある

2020年初頭以降、感染症の拡大に合わせ、国はNPIの啓蒙活動(マスク着用、手洗いやうがい等)や、学校休業及び外出自粛を促し、47日には非常事態宣言(416日に全国へ拡大)を発出した。このような中で各自治体は非常事態措置を発出した。各自治体では、公立小中高の学校休業、自治体保有の施設休館など物理的に強制力の高い手段に加え、地域住民への不要不急の外出自粛の要請(協力依頼と表現する自治体もある)、自地域をまたぐ他地域への移動の自粛、各地域の商業施設への休業要請、営業時間の短縮などを実施してきた。

ただし、地域のNPIをみると、実施期間、実施内容は全ての地域で異なっており、一律なものではない。たとえば、休業要請の状況をみると、中国・四国地域が特徴的である。徳島県や岡山県は未実施であり、愛媛県、鳥取県、島根県も実質的に未実施といえる。ただし、徳島県などでは県外客には入店のお断りを要請する等の対応がみられる。また、首都圏4都県でも地域ごとに違いがある。東京都と神奈川県は411日にほぼ同じような内容で非常事態措置を実施しているものの、埼玉県は413日、千葉県は414日となっており、飲食店への酒類提供時間の制限も当初は未実施であった(図表2)。

このようなNPIの違いは各地域の感染状況や地域の実情の相違にあるとみられる。地域におけるNPIが人々の行動としてどのように表れたのかを検討する。

図表2:都道府県別の休業要請の状況

SDの変動に影響を与えた要因

Agoop社による主要駅での滞在人口のデータで地域別の状況を確認する。ここでは各地域のデータは主要駅での滞在人口をその地域の状況と読み替えて利用する。これをみると、大阪府と東京都等を中心に、多くの地域で外出を控えた様子が確認できる(図表3)。他方で、休業要請等の未実施の地域などで、滞在人口の減少度合いが小さい(図表4)。

このようなSD (Social Distancing)の違いがどのようにして生じたのかを確認する。ここでは地域独自要因として自地域及び他地域の感染状況及び、休業要請の期間(NPIの強さ)を用いる。また、共通した要因として社会経済面でのニュースを用いる。計測結果(図表5)をみると、感染状況は自地域の状況が影響しているが、他地域では最も早くNPIを実施(2020228日)した北海道の影響が大きい。感染症に関するニュースでは、有名人の死亡ニュースの影響も確認できるが、緊急事態宣言発出の効果が大きい。特に、夜間の人々の行動が注目されているが、滞在時間19時台及び20時台についてみると、非常事態宣言発出の影響が確認できる。

また、休業要請の期間の長さについては、外出の減少が大幅な地域(北海道、東京都、石川県、京都府、大阪府、兵庫県、福岡県)ではNPIの効果が高い(図表6)。

図表3:各地域のSocial Distancing(SD)の状況(滞在人口,15時時点)

図表4:SDの地域間の比較

図表5:SDに影響を与える要因(推計結果)

15時台)

19時台)

20時台)

図表6:NPI(休業要請の効果)の外出状況への効果

消費への影響

経済面への影響として消費への影響を日別家計調査で確認する。消費については基本的消費、延期可能消費、仕事関係消費及びSocial Distancing消費(以下、SD消費)の4区分でみると、基本的消費は増加傾向を維持しているものの、延期可能消費、SD消費が減少していることがわかる(図表7)。個別の消費品目でみると、非常事態宣言の解除などから被服・履物関連の消費や外食関連の消費は回復傾向も確認できる。しかし、娯楽サービス関連で文化的な消費(映画、演劇等の鑑賞)はここ3か月の消費がほぼゼロに近い状況にあることが確認できる。また、この期間に、外食産業における倒産も含め、仮に経済活動が回復しても、後戻りできない状況になっている(図表8)。

こうした消費へのNPIの効果は、外出が1%減少すると対面コミュニケーションが必要な消費は1%程度減少すると試算できる。また、20204月までの推計結果で5月を予測すると消費の実績をかなり再現している(小巻、2020、図表9)。このことは、消費への影響を軽減しつつ感染症拡大の抑制を持続できるようなNPIを定量的に検討できることを示しているのではなかろうか。 

図表7:家計消費の状況

図表8:延期可能消費とSocial Distancing消費(個別の状況)

図表8_1図表8_2
図表8_3図表8_4

図表9:SDの消費への影響について(推計結果と外挿による予測部分)

All or NothingでないNPIの模索

NPIが人々の行動や経済面に与える効果は定量的に想定できることが確認できた。ただし、今回の結果は平均的な状況をみたに過ぎない。上述の通り、日本のNPIは地域毎にかなりの相違が確認できる一方で、感染率が低い地域でも感染率の高い地域と同等に厳しい措置を採用した地域も確認できる。先行研究にある通り、NPIの実施内容の違いに関する効果を確認していく必要がある。

他方で、NPIの本来の目的(感染症拡大防止)への効果を確認する必要がある。SD(感染の潜伏期間を考慮して14日ラグとしている)と感染状況(10万人当たりの感染者数、過去7日間の平均)について確認すると、その関係性を理解することは容易でない(図表10)。東京都はSDの上昇とともに感染率の上昇も確認できるが、大阪府や福岡県は5月中旬以降のSDと感染者状況との関係が不明瞭である。この点は、 PCR検査の処理数の増加だけでなく、他の条件(陽性率、1日当たりの処理数制限や相談時の発熱基準など)を考慮する必要があり、ましてSDのみで全てを説明するのは困難である。

 したがって、NPI個々の政策の効果を確認する必要がある。たとえば、「他地域をまたぐ移動自粛」、「休業を要する業種毎の効果」、「イベント等の集会抑制」など、個別の感染拡大防止への効果が明確に示されれば、NPIの選択肢が増えてくるのではなかろうか。特に、経済への影響は他産業への波及や世界経済の減速を通じたルートからも大きくなってくることが見込まれる。そのためにも、SDと感染防止との関係、NPIの発出スピードや強度の面からNPIの効果を確認すべきであり、今後とも継続して分析を進めたい。

図表10:SDと感染者の状況

図表10_1図表10_2
図表10_3図表10_4


脚注

[1] 政府や中央銀行では日次あるいは週次のデータを用いて新型コロナ感染症の影響を分析している。特に、ニューヨーク連邦準備銀行やドイツ中央銀行では週次の経済動向指数(Weekly Economic Index)、ダラス連邦準備銀行ではSocial Distancingの指標を作成し公開されている。日本では、経済産業省のビックデータプラットホームで日本での利用可能な高頻度データが利用できるようになっている。しかし、日本での利用は限定的である。感染症対策では日々の決定が必要であり、日本でのデータ開発や活用が望まれる。


参考文献

Almond, D. (2006). Is the 1918 influenza pandemic over? long-term effects of in utero influenza exposure in the post-1940 u.s. population. Journal of Political Economy 114(4), 672–712.

Bootsma, M. C. J. and N. M. Ferguson (2007). The effect of public health measures on the 1918 influenza pandemic in u.s. cities. Proceedings of the National Academy of Sciences 104(18), 7588–7593.

Bank of England (2020), “Monetary Policy Report,” May 2020.

Sergio Correia, Stephan Luck, and Emil Verner, (2020), ”Pandemics Depress the Economy, Public Health Interventions Do Not: Evidence from the 1918 Flu

Crosby, A. W. (2003). America’s Forgotten Pandemic: The Influenza of 1918. Cambridge University Press.

Dahl, C. M., C. W. Hansen, and P. S. Jensen (2020). The 1918 epidemic and a v-shaped recession: Evidence from municipal income data. Working Paper.

Eichenbaum, M. S., S. Rebelo, and M. Trabandt (2020). The macroeconomics of epidemics. Working Paper 26882, National Bureau of Economic Research.

Garrett, T. A. (2007). Economic Effects of the 1918 Influenza Pandemic: Implications for a Modern-Day Pandemic. Federal Reserve Bank of St. Louis.

Hatchett, R. J., C. E. Mecher, and M. Lipsitch (2007). Public health interventions and epidemic intensity during the 1918 influenza pandemic. Proceedings of the National Academy of Sciences 104(18), 7582–7587.

Hiroyasu Inoue and Yasuyuki Todo, (2020),”The propagation of the economic impact through supply chains:The case of a mega-city lockdown to contain the spread of Covid-19,” The Centre for Economic Policy Research (CEPR) working paper, Covid Economics Vetted and Real-Time Papers, Isuue 2, 8April 2020.

Karlsson, M., T. Nilsson, and S. Pichler (2014). The impact of the 1918 spanish flu epidemic on economic performance in sweden: An investigation into the consequences of an extraordinary mortality shock. Journal of Health Economics 36, 1 – 19.

Miklós Koren and Rita Peto, (2020), “Business disruptions from social distancing,” The Centre for Economic Policy Research (CEPR) working paper, Covid Economics Vetted and Real-Time Papers, Isuue 2, 8April 2020.

Markel, H., H. B. Lipman, J. A. Navarro, A. Sloan, J. R. Michalsen, A. M. Stern, and M. S. Cetron (2007). Nonpharmaceutical Interventions Implemented by US Cities During the 1918-1919 Influenza Pandemic. JAMA 298(6), 644–654.

小巻泰之(2020)「日本におけるNPIの経済効果」,mimeo


小巻 泰之   大阪経済大学 経済学部教授

1962年生まれ。2001年筑波大学大学院博士課程単位取得退学。ニッセイ基礎研究所、大蔵省財政金融研究所客員研究員、日本大学経済学部教授などを経て、2018年より大阪経済大学経済学部教授。専門は経済統計、経済政策、地域経済。
著書:『経済データと政策決定――速報値と確定値の間の不確実性を読み解く』(日本経済新聞出版社、2015年)、『世界金融危機と欧米主要中央銀行――リアルタイム・データと公表文書による分析』(共著、晃洋書房、2012年)など。

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  • 大阪経済大学経済学部教授