コロナ禍と地域の景況感<政策データウォッチ(31)>

写真提供:GettyImages

コロナ禍と地域の景況感 <政策データウォッチ(31)>

東京財団政策研究所「経済データ活用研究会」メンバー

東北学院大学経済学部教授

大塚 芳宏

1.   はじめに

新型コロナ・ウイルス(COVID-19)の感染者が今年1月に国内で確認されて以降、ウイルス感染は、瞬く間に全国へ広がった。COVID-19は、ヒトからヒトへ強い感染力をもつとされることから、政府は416日に全国に対して緊急事態宣言を発令し、人々の外出や企業活動の自粛を求める措置をとった。これにより国内の新規感染者数は4月の11,955人をピークに5月から6月にかけては減少傾向にあった。全国を対象とした緊急事態宣言は、約1ヶ月の期間を経て、525日に解除された。しかし、COVID-19のワクチンがまだ開発されてないことに加え、7月以降、新規感染者は首都圏を中心に増加していることから第2波を危惧する声も上がっている。

 経済状況を調査する機関や研究者にとって、このコロナ禍における経済的被害すなわちコロナ・ショックの規模や特徴を調査することが、喫緊の課題である[1]。特に、多くの企業や消費者が活動自粛を余儀なくされた期間である5月の経済統計がこれから公表されることから、ショックの実態が数字として明らかとなる。そして、この状況を精査し、今後の政策対応につなげていかなければならない。本稿では、コロナ禍において経済状況の中でもとりわけ景気に着目し、分析を進めていく。

2.   感染の広がりと政策実施対応

まず、感染状況について確認していく必要がある。COVID-19の感染者情報は都道府県の自治体が主導し、公表されている。図1は都道府県ごとの感染者数(累計)[2]2月から4月までの動きを図示したものである。都道府県の色が白から赤、そして紫になっていくほど感染者が多いことを意味する。

 

図 1 月間感染者(累計)の推移

1より2月時点では北海道、東京都、愛知県などで感染者が多かったが、次第に首都圏から周辺地域へと感染は空間的に拡大したことがわかる。これは感染者の移動により地方にも感染が広がったものとみられる。

 このように首都圏から感染被害は広がっていくことから、政府の対応は段階的なものであった。緊急事態宣言は47日時点では7都道府県[3]に発出されたが、16日には全国対象に拡大することになる。そして、514日に39県で宣言が解除され、25日には全国で解除された。このように、政府の規制と解除は感染者の増減に合わせ、地域別かつ段階的に施行された。分析する際にもこうした地域的差異や首都圏から地方への拡大という特徴を考慮する必要があろう。

3.   地域の景気をどのように測るか

今回のCOVID-19感染者情報の管理は、自治体主導で行われている。それゆえに、各首長による迅速な対応が求められている。そのために、管轄地域の景気などの経済動向を適切かつ早く把握する必要がある。そして、仮に首都圏で感染者増加による休業要請が出された場合に、地方経済への波及効果がどれほどなのかを示すことは一般的に関心も高いことから、本稿では国ではなくより細分化された地域の景気を対象とする。

 我が国の地域に関する統計は、一般的に国の統計よりも公表時点が遅れていること、種類が少ないなど整備の面で課題が数多く存在する。このコロナ禍における地域の景気分析で必要となる要件は、高頻度かつ速報性が高いこと、景気の動きを捉えていることが挙げられる。そこで、本稿では、内閣府が公表する景気ウォッチャー調査を利用する。

景気ウォッチャー調査は、家計と密接な小売店や企業を対象としていることから、街角景気を表すとも言われている。毎月25日から月末にかけて調査が行われ、翌月の始めには公表されるという高い速報性を有する。また、回答根拠を記載する欄もあり、方向性の理由を探ることも出来る利便性の高い調査統計である。この調査結果は、ディフュージョン・インデックス(DI)[4]に加工され、方向性を評価する指数が作成される。この指数は、現状判断・先行き判断の2種類の質問項目に対して、地域別[5]と業態別のDIが公表されている。

表 1 地域区分

図 2 景気ウォッチャー指数(現状判断)の動き

 

2は現状判断DI(地域別)を時系列にプロットしたものである。各地域のDIは大局的な動きに大きな差異は見られないものの、細かい変動においては地域の違いが表れている。そして、COVID-19による被害が首都圏で発生し始めた20202月より下落、そして5月を谷として反転した動きとなっている(図2の影部分がコロナ禍で急落した期間)。このコロナ禍の特徴として、地域別DIの連動性が強くなっている点がある。例えば、関東圏での感染者増加は、東北や東海などの近隣地域の景気にもマイナスの影響を与える可能性があることを示唆している。

4.   地域別景気の連動性と波及効果

地域別景気の実証分析は、アメリカでは州別データとマルコフ切り替えモデル[6]を用いた研究が行われている(例えば、Owyang et al., 2008; Hamilton and Owyang, 2012)。そして、国内では、奥村・谷崎 (2004)Hayashida and Hewings (2008)があり、そこでは日本の地域別景気循環の分析がなされている。しかし、今回は、COVID-19の感染者分布の動きからわかるように、空間的な広がりを考慮した統計モデルで分析する必要がある。そこで、本稿では、空間計量経済学で提案されている統計モデルを用いて、近年の地域別DIの特徴について分析を進める。

 空間計量経済学[7]では、距離の近さや隣接しているなど地理的特徴を導入した統計モデルが提案されている。近年、GIS(地理情報システム)の活用などから、地域経済分析では空間計量経済学の枠組みを用いた実証研究が盛んに行われている。本稿では、COVID-19の空間的な広がりや地域間の経済的交流を統計モデルで捉えるために、Ohtsuka (2019)で用いられている空間的動学パネルデータモデルを使用する。このモデルにより、周辺地域との連動性 (空間的相関) と自地域景気のラグ (時間的相関、過去の値への依存度)の強さを数量的に測ることが可能となる[8]

 上記で紹介した統計モデルと地域別DI(現状判断・先行き判断)[9]を用いて、実証分析を行う。まず、このデータ期間は (1) コロナ禍期間 (20201-6)(2)前年同月期間 (20191-6)2つを用いる[10]。次に、説明変数(景気の動きと関連がある経済変数)の選択をする。雇用や家計に関する統計の利用が望ましいと考えられるが、景気ウォッチャー調査と同じ6月時点の統計は皆無である。そこで、本稿では、厚生労働省が公表する新規求人に関するデータを用いる。新規求人数は、我が国では景気動向指数の先行系列に分類されていることから、分析では20201-5月の地域別新規求人倍率[11]を作成し、説明変数とする。

 

表 2 推定結果

 

2は、今回の分析結果についてまとめたものである。まず、空間的相関の強さについては、現状判断と先行き判断ともにコロナ禍においては前年同月期よりも強い結果となった。一方で、各地域における過去の景気への依存度を示す時間的相関については、現状と先行き共にコロナ禍では減少している。これらのことから、コロナ禍において、地域の景気は空間的相関が高くなり、自地域よりも周辺の業況の方が強く影響を与えることを示唆している。そして、新規求人倍率の変動が、一月先の街角景気にどれだけ影響を与えるのかについて考察する。新規求人倍率の影響は、コロナ禍では現状・先行き判断ともにプラスになっている。休業要請に伴う雇用市場の縮小が、街角景気にもリンクし始めている可能性が伺える。

最後に、波及効果について考える。仮に、東京都を含む関東圏で休業宣言を再度出された場合に、他地域への波及効果は避けられない。現状で、どれほどの効果があるかを測る必要があろう。先ほどの推定結果より、3大首都圏(東京・名古屋・大阪)の新規求人倍率の変動が自地域および周辺地域に与える波及効果をみる。

 

表 3 波及効果

 

33大都市圏の波及効果を記載している[12]。表の数値は、例えば関東で新規求人倍率が1ポイント上昇した場合、東北の現状DI0.975引き上げる効果が見込まれることを意味している。全体的な傾向としては、首都圏近郊の地域への影響が強く、そして、現状より先行きに対して強く波及する。先述した関東圏の再休業宣言で、新規求人市場が悪化するのであれば、表3の数値結果はマイナスに働くことになる。

5.   まとめ

本稿では、現在、世界経済を蝕むCOVID-19の日本経済とりわけ地域景気への影響について分析を行った。2020年初頭からの景気ウォッチャー調査の地域別現状判断・先行き判断DIを用いて分析した結果、地域間の連動性はコロナ禍では高まり、地域の独自性は弱まっている傾向にあることが示された。コロナ禍は収束していない進行中の事態であり、選べるデータは少ないながらも出来る限り最新の統計データを用いて、分析し、最新結果の蓄積を行なっていくしかない。

 最後に、今後、調べていくべき課題は、コロナ・ショックが景気後退にどれほどのインパクトがあるかを調査することである。過去の2008年の世界同時不況であれば、金融危機からの景気後退であった。しかし、今回は、活動強制停止による経済の縮小である。近年の我が国の景気状態は、201810月を景気の山として、景気後退期に入っているとの見方もある。これらは生産など実態経済の統計を用いて、因子分析などで景気循環分析をする必要がある。


脚注

[1] 海外でも同様にCOVID-19の経済へのインパクトの分析・調査がNBER(National Bureau of Economic Research)を中心に進められている。

[2] データはNHK特設サイト(URL: https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/ )より取得した。

[3] 7都道府県は東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、大阪府、兵庫県、福岡県である。

[4] 調査票は、5択の選択肢があり、それぞれの選択肢にウェイトをかける。これにより、0から100のDIを作成する。50を越えるのであれば、景気の方向性は上向きを示し、そうでない場合は、下向きであると判断する。

[5]11地域で公表されている。どの都道府県がどの地域に区分されているかは表1を参照のこと。

[6]これは景気分析であれば、後退期と拡張期などの状態を推定し、景気循環や転換点を推定する際に用いられる統計モデルである。

[7]空間計量経済学の入門書として、アルビア (2016)やラセージ・ペイス(2020)などがあるので、より詳しく知りたい読者は参照されたし。

[8]モデルの詳細や推定方法については、Ohtsuka (2019)を参照のこと。

[9]実証分析では、地理的に大きく離れている沖縄を除いている。

[10]比較対象として、感染者が国内で発生する前の期間である2019年7-12月のデータで分析する必要がある。しかし、2019年10月から消費税比率引き上げが行われたことから、増税の影響が入ってしまうので、ここでは割愛している。

[11]都道府県別の新規求人数と新規求職者数より、景気ウォッチャー調査と同じ地域区分の求人倍率を作成する。

[12]通常、こうした波及効果は全体の平均的な効果をみる。しかし、ここでは首都圏の波及効果など特定地域の影響を測る必要があることから、ここでは細部の結果を用いる。これらの波及効果の計算方法は、ラセージ・ペイス(2020)を参照のこと。


参考文献

  • ジョゼッぺ・アルビア (2016)Rで学ぶ空間計量経済学入門』堤盛人訳、勁草書房.
  • J・ラセージ、RK・ペイス(2020)『入門 空間計量経済学』各務和彦・和合肇訳、彩流社.
  • 奥村拓史・谷崎久志 (2004)「マルコフ・スイッチングモデルによる我が国の地域経済別景気の転換点の推定」『国民経済雑誌』190巻、45-59.
  • Hamilton J. D. and M T. Owyang (2012) “The Propagation of Regional Recessions”, Review of Economics and Statistics, 94, p.935-947.
  • Hayashida, M. and G J. D. Hewings (2008) “Regional Business Cycles in Japan”, International Regional Science Review, 32, p.119-147.
  • Ohtsuka. Y (2019) “An Efficient Estimation for the Space-time Stationary Condition”, TGU-ECON Discussion Paper Series #2019-5
  • Owyang M T., J Piger and H J. Wall (2008) “A State-level Analysis of the Great Moderation”, Regional Science and Urban Economics, 38,578-589.


大塚 芳宏    東北学院大学経済学部教授

1979年東京都生まれ。2006年千葉大学修士(経済学)、金融機関の営業・調査部に勤務。2012年一橋大学経済学研究科で博士号取得後、北海道大学大学院経済学研究院助教、長崎県立大学経済学部講師を経て、東北学院大学経済学部准教授、2020年から現職。

関連記事

政策データウォッチHOME

大塚 芳宏

  • 東北学院大学経済学部教授