R-2023-106
〜デジタル×地域医療の進むべき道〜「ポストコロナを見据えたヘルスシステム・イノベーションに関する研究」提言書全文(全32ページ)
超高齢社会において、人々が安心して保健・医療・介護サービスにアクセスするには、デジタルで完結した社会システムを実現する必要があります。これらの変革には、技術面のDXのみならず、全国展開に向けた政策立案とその実行が必要です。また、持続可能性の観点からも法的・社会的・倫理的実装が重要であり、データ利活用の「集中型から分散型への転換」と「同意依存からの脱却」を進める必要があります。
このようなデータ利活用は国際的に実装されつつあり、我が国もデータ利活用に舵を切り、医療・介護の制度改善に加え、地域密着産業群で高付加価値サービスを提供できるようにすることで、地域社会の持続可能性を確保することが重要です。そして実践例を通じ、国際社会における「信頼のおける自律・分散型のデータガバナンス」「国際標準」の確立を我が国主導で果たすべきです。
このたび、佐藤大介主席研究員と藤田卓仙主席研究員、小野崎耕平研究主幹を中心とする研究プログラムでは、我が国のヘルスケアのDX(価値変革)に向け、提言書を公開いたします。
要旨
- 超高齢者の増加と労働人口の減少により、地域で完結できる医療体制の維持が難しい。
- 「地域」という境界内でのフリーアクセスのために、デジタル技術や遠隔医療が制限されるのではなく、どこに居住していても公平に医療へアクセスできる社会を構築する必要があり、それには「地域」を超えたヘルスシステムの構築が必要である。
- いま求められている医療とは、医療機関が提供する医療サービスだけでなく、日々の健康や介護を含めた日常生活や生命を守る社会システムである。
- デジタル技術の進化によって、多様な価値観を持つ個人がお互いを尊重し支え合う「つながり」も進化した。医療という領域を超えたヘルスシステムを構築するために、デジタル技術の活用は必要不可欠である。
- 新興感染症のまん延下にあっても、地域で医療を安心して受けられるデジタル技術を活用した社会を実現するには、法整備や技術的・財源的課題の解決に加え、実運用の全国展開に向けて実践し、課題を把握し速やかに解決していく政策の立案とその実行が早急に必要である。
(3)「公衆衛生」を変革させる理念・哲学に基づいたヘルスシステムの構築
- デジタル基盤の社会実装には、技術的な実装のみならず、法的・社会的・倫理的実装が重要である。理念哲学なき、パッチワーク的なシステムの継ぎ足しは、持続可能性の観点からも避けるべきだ。
- 「集中型から分散型への転換」と「同意依存からの脱却」がその鍵である。
- 分散型データ管理の推進は個人、集団、国際、各レベルで重要な意義を持つ。
- 信頼を担保し、分散型データを利活用するためには、「本人によるデータ管理」「偽造防止性を含めたデータの真正性」「エビデンスに基づく政策立案」「相互運用性」そして「国際標準の確立」を核とした、一定のルール、アーキテクチャが必要だ。
- 法律上、データ利用に関する本人の同意が必要ない場合も同意の取得が目指されるが、あらゆる局面での形式的な同意が良いとは限らない。本来、同意は本人の意思を尊重し権利を保護するために行うものである。
- 本人の権利保護を主に担保するのは同意ではなく、データ活用の設計であるべきである。公益性を重視しつつ、個人のメリットにも繋がるような、出口規制、データ活用時のリスクをコントロールする仕組みを作るべきである。
(5) 我が国主導で「信頼のおける自律・分散型のデータガバナンス」「国際標準」の確立
- ヘルスケアデータの利活用に舵を切り、日本発の国際的データ流通コンセプトであるDFFT(Data Free Flow with Trust:信頼性のある自由なデータ流通)に基づき「信頼のおける自律・分散型のデータガバナンス」「国際標準」の確立を我が国が主導すべきである。個別の同意がなくともデータ活用が可能な仕組みは国際的に実装されつつある。
- 戦略的な連携を通じて国際的な医療データ流通をリードすべきである。我が国で検証中の「Trusted Web」とインドの「India Stack」の接続検討など、様々な可能性がある。
- ヘルスケアDXの本質は、医療のデジタル化ではなく、デジタルを使ってヘルスケアにおける価値実現を行うことである。
- 国民目線で真に価値があり、信頼がおけるヘルスケアのデータ活用モデルを、ユースケースの提示を通じて、日本から示すべきである。
- ヘルスケアDXにより、地域社会の持続可能性を確保し、新しいWebの仕組みを通じて、地域を超え、国際的にも協調しながら高付加価値サービスを提供できる社会を目指す。
提案
我が国ではデジタル基盤を構築するための政策が進展しているが、技術的基盤だけでは公衆衛生行政や保健・医療・介護サービスがデジタル基盤で完結するヘルスシステムの実現、つまりヘルスケアDXは難しい。全国的なヘルスシステムのデジタル完結には高いハードルがあるため、基盤構築の先を見据えた政策の立案と実行が重要であり、以下の3点を提案する。
1.住民視点に立ったデジタル化した医療サービスおよびヘルスシステムを実現するため、地域で共通電子カルテを導入・展開する。一定規模での運用が継続できている地域や、デジタル田園都市、デジタル化への取り組みに積極的な都道府県・自治体に着目し、政府が主導するデジタル基盤を活用した共通電子カルテの実運用に関する論点整理と、それらを踏まえた医療DX基盤を活用したポストコロナ・ヘルスシステムの実証実験を行う。
2.医療DX基盤の研究開発の完成を見据えて、医療機関だけでなく行政機関や保険者、介護施設等との連結を含めたデジタルで完結させる運用への変革の試行的導入を推進させる。
3.上述の分野や組織において、医療DXによるヘルスシステムを実践するため、地域に根ざした分野横断的な人材開発の研究を進める。特に、分散型のデータシステムや出口規制のルール化に関する専門人材、データの二次利用によって医療政策へ反映させるための専門人材、地域で医療DXによるヘルスシステムに関する技術を地域で実装する専門人材等の育成の在り方や育成方法、カリキュラムデザイン等に関する研究開発に取り組み、全国へ展開する。
提言書本文は【こちら】より、お読みいただけます。
「ポストコロナを見据えたヘルスシステム・イノベーションに関する研究」
「ポスト・コロナ時代における持続可能かつレジリエントな医療・看護・介護システムの構築に関する研究」
佐藤 大介 主席研究員、藤田医科大学医学研究科教授
藤田 卓仙 主席研究員、慶應義塾大学医学部医療政策・管理学教室特任准教授
宮田 裕章 研究主幹、慶應義塾大学 医学部 医療政策・管理学教室教授
益田 果奈 研究プログラム・オフィサー
小野崎 耕平 研究主幹、聖路加国際大学公衆衛生大学院 医療政策管理学教授
渋谷 健司 研究主幹
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