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【消費税ウォッチ】消費税率引き上げ2ヵ月、消費は持ち直しているか?〈政策データウォッチ(21)〉
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【消費税ウォッチ】消費税率引き上げ2ヵ月、消費は持ち直しているか?〈政策データウォッチ(21)〉

December 11, 2019

東京財団政策研究所「リアルタイムデータ等研究会」座長
神奈川大学経済学部 教授

飯塚 信夫

本年101日に消費税率が10%に引き上げられてから2ヵ月が経過した。政策データウォッチ(19で示した通り、株式会社ナウキャストの「日経CPINow」や乗用車登録台数という消費の現場を早期に捉えられるデータを見ると、10月には消費の反動減が観察できた。さらに、126日に10月の実績値が判明した日本銀行「消費活動指数」の実質消費活動指数でより包括的な日本全体の消費の動きをみると、前回の消費税率引き上げ(20144月)の当月は前月比8.5%減少したのに対し、今回は7.4%減と前回を若干下回った。ただ、消費税率引き上げ1年前の水準を1とすると、前回が0.965、今回は0.969とほぼ同水準である。同日に公表された総務省「家計調査」と同様に、足元の消費の弱さが示された(1)。なお、乗用車など耐久財の消費は、前回が前月比28.5%減だったのに対し、今回は35.2%減と落ち込みが大きくなった(2)。消費税率引き上げの前月と当月に注目する限り、前回の消費税率引き上げ時並みの駆け込みと反動減があったと考えられる。今後の注目点は、反動減で落ち込んだ消費がいつ回復するかである。

そこで本稿では、消費税率引き上げ翌月の動きに着目する。政策データウォッチ(17および(19)と同様に、株式会社ナウキャストが提供している「日経CPINow」のデータベース中の「日次物価指数」(T指数)と「日次売上高指数」に注目する(指数の作成方法などについては政策データウォッチ(17)を参照されたい)。本稿執筆時点で12月4日までのデータが判明している。なお、日々のデータはブレが大きいため、以下では後方7日移動平均のデータを用いてグラフと数値を示す。また、両指数ともに消費税抜きの価格で算出している。

日次売上高指数を見ると、前回は消費税率引き上げ60日後になっても、前年に比べて減少していた(3)。消費税率引き上げ翌月の20145月の日次売上高の月間平均は前年比4%減であった。今回の消費税率引き上げ後も弱含みであったものの、直近では58日後(1128日)からプラスに転じ、その幅が拡大した。201911月の日次売上高の月間平均は同0.4%減にとどまっている。

日次売上高指数は全国のスーパーにおける消費を集計したものであり、食料品や日用品が中心だ。今回の消費税率引き上げでは酒類を除く食料品は軽減税率が適用されるため、10月以降もこれらの消費の落ち込みは小さいことが期待されていた。しかし、10月には台風19号に伴う幅広い地域での災害という要因もあって消費は低迷し、日次売上高指数の月間平均は5%減であった。軽減税率のおかげという面は否めないが、食料品や日用品の消費の回復の兆しが見えるのは喜ばしいことだといえる。

ただし、手放しで楽観はできない。消費税率引き上げ56日後(1126日)を境に、日次物価指数が急落しているためである(図4)。図4では、7日移動平均のデータを用いているが、移動平均をかけないデータをみると、1128日からマイナスに転じ、122日からプラスに戻った。これは、今年のブラック・フライデーセールの時期に合致する。日次売上高の回復にセールの効果が加わっているとすれば、若干、割り引いてみる必要があるかもしれない。実際、121日(消費税率引き上げ61日後)を境に直近まで日次売上高の伸びは鈍化している。

さらに、この日次物価指数の動きには、政府によるキャッシュレス還元が反映されていない点にも注意が必要だ。例えば、コンビニエンスストアでは、購入額の2%がその場で割引されるといった還元策が実施されている。軽減税率のために食料品の税率は8%のままであり、還元策も加わると消費者は9月以前よりも割安な価格で買い物ができている可能性がある。消費者が直面している価格は、日次物価指数よりも低いと考えられるにも関わらず、その上昇率が急速に縮小しゼロに近づいているのは気になるところだ。

早めに消費の現場を確認できる他のデータからも消費の現状を楽観できないサインが出ている。乗用車登録台数(軽自動車含む)は、10月は前年比25.1%減と大幅な減少となったが、10月も同11.6%減であった(図5)。日本百貨店協会が集計している全国百貨店売上高は、10月は前年比18.2%の大幅減となった(図6)。これは前回の消費税率引き上げ時より大きな落ち込みだ。さらに、大手百貨店5社(大丸松坂屋百貨店、高島屋、三越伊勢丹、そごう・西武、エイチ・ツー・オー リテイリング)が121日に11月の売上高速報を発表したが、前年比5~8%の減少となっている。政策データウォッチ(19)で示した通り、111日に公表された10月の売上高速報は同2割減前後であったが、その後に公表された10月の全国百貨店売上高は同18.2%減であった。そこから推測すると、11月の全国百貨店売上高は、前回の消費税率引き上げの翌月(2014年5月)並み(4.7%減)の推移となりそうだ。

反動減の後も、個人消費の弱含みが続きそうである。

 

 


飯塚 信夫
神奈川大学経済学部 教授

東京財団政策研究所 政策データラボ アドバイザー

1963年東京都生まれ。86年一橋大学社会学部卒業、日本経済新聞社入社。編集局経済解説部記者、日本経済研究センター主任研究員などを経て、2011年神奈川大学経済学部准教授、14年より現職。2004年千葉大修士(経済学)。専門は日本経済論、経済予測論、経済統計。著書に『入門日本経済(第5版)』(共編著、有斐閣、2015年)、『世界同時不況と景気循環分析』(共編著、東京大学出版会、2011年)

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