【新春特別企画:展望2020】安倍政権のビジネスモデルは崩れるのか

【新春特別企画:展望2020】安倍政権のビジネスモデルは崩れるのか

激しい与野党対立を経て2015年に安全保障関連法が成立した後、安倍首相をはじめ自民党幹部は「これからは経済に全力を注ぐ」と強調した。その半世紀以上前には、60年代安保闘争で世論が二分される中、安倍氏の祖父の岸信介氏から「安保から経済へ」というスローガンを掲げた池田勇人氏が政権を引き継いだ。

安保問題は、政治学では一般的にイデオロギー対立の問題の典型とされ、「リベラル(左)vs保守(右)」という一次元の軸上で、左右の政党や有権者は激しく対立する。問題の本質は「取るか取られるか」であり、限られたパイを奪い合うゼロサムゲームである。対立する両者の協調の余地は非常に狭い。2015年の安保論争の際に、60年代安保以来の大デモ隊が国会周辺に集結したのは偶然ではない。

これに対し経済問題は、経済成長などによってパイを増やすことができれば、増やしたパイを分け合うプラスサムゲームに転じうる。協調の余地も生まれる。実際、所得倍増計画を掲げた池田政権の下で、内閣及び自民党は岸政権下で落ち込んだ支持率を大きく回復し、与野党間の対立は一気に緩和した。「くたばれGNP」といった死語もあるにはあったが、「所得倍増反対!」と唱えてもなかなか力は入らない。

安倍政権は、岸政権的な手法と池田政権的な手法とを巧みに使い分けてきた。アベノミクスは拡張的な財政金融政策を基調としており、伝統的な自民党の経済政策との間で大きな乖離はない。経済政策を通じたパイの分配(あるいはばらまき)により政治対立を抑え支持基盤を固めるという手法は、池田政権以来のやり方を踏襲していると言ってよい。国土強靱化など伝統的なばらまき政策も見られる。他方、安保政策については、安倍政権は清和会の伝統を引き継ぎ、自民党内でも右寄りの路線を取っている。つまり岸政権にスタンスは近い。

写真提供: 共同通信イメージズ/日米安全保障条約署名60年を記念した式典を前に、故アイゼンハワー元米大統領の孫メアリーさん(前列中央)、茂木外相(同右)と展示を見る安倍首相。右奥は条約に署名する岸信介元首相とアイゼンハワー氏の写真=1月19日午後、東京都港区の飯倉公館(代表撮影)

アベノミクスなどの拡張的な経済政策によって高支持率という政治資本を蓄え、それを憲法や安保問題に投じる。あるいは政権不祥事による支持率低落への埋め合わせに使う。それらによって支持率が下がると再び経済政策に戻る。この「安倍政権のビジネスモデル」とも言えるパターンの繰り返しを、2015年に限らず安倍政権は続けてきた。

ただ、高度成長期の池田政権の時代と現在とでは抜本的に経済状況は異なる。低成長、ゼロ成長の現在においては、経済問題においても、本来は拡張的なパイの分配は持続不能なはずである。安保問題だけでなく経済問題もゼロサムゲーム的な状況となるはずである。それでもばらまき的な経済政策を続けられるのは、膨大な借金を通じて将来世代からゼロサム的に果実を奪い取り、それを現役世代に分配しているからという見方も成り立つだろう。

昨年9月に発足した現改造内閣で、安倍首相は、憲法改正と社会保障制度の抜本改革に取り組む決意を表明した。憲法問題も当然そうだが、人口増・高成長を前提に設計されている現在の社会保障制度を抜本改革し持続可能なものにするためには、経済政策面でも、ゼロサムゲーム的なパイの奪い合いと激しい政治対立とを避けることはできない。人数も多く投票率も高い高齢者の利益に反する政策を推進すれば、経済面でも、支持率の低下などは避けられまい。その覚悟が政権にあるのか。今年は、安倍政権のビジネスモデルが崩れるのかが問われる年ともなるだろう。

 

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加藤 創太/Sota Kato

加藤 創太

  • 研究主幹

研究分野・主な関心領域

  • 比較政治経済
  • 政治学方法論
  • 世論と経済政策

研究ユニット

経済と民主主義ユニット