日本における二院制はどうあるべきか−−「カーボンコピー」論と「強すぎる参議院」論を超えて/[第1部]世界の中で見た日本の二院制

第1回特別国会開会式にて(1947年6月23日) 写真提供:共同通信イメージズ

日本における二院制はどうあるべきか――「カーボンコピー」論と「強すぎる参議院」論を超えて/[第1部]世界の中で見た日本の二院制

「第二院は何の役に立つのか、もしそれが第一院に一致するならば、無用であり、もしそれに反対するならば、有害である」(エメニュエル=ヨセフ・シェイエス、フランス革命の理論的指導者)[1]
「行政府にとって院が二つあることは非常にやっかいなことだが、立法府がやっかいだということは立法府の存在理由の一つだ」(宮澤喜一元首相)[2]

第1部:世界の中で見た日本の二院制(加藤創太、茨木瞬)
 I. 根強い二院制批判――「参議院無用論」から「強すぎる参議院」へ
 II.各国との比較で見た日本の二院制の位置づけ
第2部:日本の二院制をどう考えるか:分析の視点(加藤創太)
 Ⅲ.制度改革を行う上で考慮すべき視点
第3部:日本の二院制をどう変えていくべきか:政策提言(加藤創太)
 Ⅳ.日本の両院制のあり方――制度改革の方向性
 Ⅴ.結び

二院制と一院制−−政治のリスク分析の視点から

90年代以降、強いリーダーや政治権力の集約化を求める声が強くなり、政治権力の集中と有権者の政治への影響力を増大させる方向で、様々な制度改革が実施された。しかしその一方で、2000年代になる頃から、強い政治リーダーの言動を「独裁的」「ポピュリズム的」だとして厳しく批判する声も国内外で強くなっている。

政治権力の集中は一面では迅速な「決められる政治」を可能にする。反面、権力の集中はときに「多数者の専制」を招き、多様性を排除する。民主主義は歴史上、様々な悲劇も引き起こしてきた。政治過程において、権力の集中と分散の関係をどう捉えるべきか。これは民主主義のあり方の問題であると同時に、政治過程を経て成立する政策の方向性、さらには各種改革の方向性とスピードについて大きな影響を与える問題でもある。

東京財団政策研究所の「政治のリスク分析」プロジェクトでは、リスクの観点を取り入れて、政治権力の集中と分散の適度なバランスのあり方について分析してきた。本稿ではその応用例として、日本の二院制のあり方について分析し、あるべき方向性を提案する。一方では「衆議院のカーボンコピー」と揶揄され、一方では「強すぎる参議院」と非難される参議院の不要論は根強い。しかし政治のリスクの分散、多様性の確保といった観点からは、現代的な役割もあるはずである。以下では、各種比較理論・シミュレーション分析を踏まえつつ、主に法律レベル、運用レベルにおいて日本の二院制のあり方について考察していく。

I. 根強い二院制批判――「参議院無用論」から「強すぎる参議院」へ

上院(senate)の語源が古代ローマの元老院(senatus)であるように、二院制あるいは両院制の歴史は、古代ギリシア、古代ローマに遡る。しかし冒頭のシェイエスの発言に見られるように、長年にわたり厳しい批判にさらされてきた。日本でも二院制批判、参議院不要論は根強い。そもそも1946年にGHQ民政局が日本政府に提示したGHQ草案では、国会は一院制だった(岡留 2018)[3]。世界の民主主義国家の中で、二院制を採る国はむしろ少数派でもある(図1参照)。

図1:一院制・二院制を採用する民主主義国家の比率(2019年)


*内閣府分類より
出典:V-Demデータベース( https://www.v-dem.net/en/ ) より著者作成

しかし日本において二院制批判が最も高まったのはおそらく、2007年以降に衆参で多数派が異なる「ねじれ国会」が常態化した時期だ。2007年〜2013年の間、2009年〜2010年の1年弱を除いて「ねじれ国会」が続いた。この間、首相は頻繁に交代し、その大きな要因として「ねじれ国会」による政権の不安定化が挙げられた。経済の長期低迷が続く中、「決められない政治」「首相の弱いリーダーシップ」などへの有権者のフラストレーションは強く、それに対する処方箋の一つとして一院制の導入が唱えられた。

戦後日本での二院制批判は当初、参議院が衆議院の「カーボンコピー」に過ぎないといった「参議院無用論」の観点のものが多かった。しかし「ねじれ国会」常態化後は、「強すぎる参議院」が国政の迅速な意志決定を阻んでいるという逆方向からの批判が多くなっている(竹中 2010)。

第二次安倍政権発足後に「ねじれ国会」はすぐに解消され、さらに衆議院で与党が議席数の23以上を占める状況が続き、参議院は政治過程における影響力を大幅に失った。それに伴い現時点では二院制批判は下火になっている。ただ、与党がこのまま衆参両院で多数の議席を占める状態が続けば、改憲論が現実味を増し、その際には大きなテーマとして二院制見直しが俎上に上がるだろう。逆に、与党が議席数を減らせば、再び「ねじれ国会」が常態化する可能性があり、その場合も二院制見直し論は再燃するだろう。2017年の総選挙の際には希望の党(当時)が、一院制の導入を政策の柱に据えて維新の会との共闘を図った。この問題は今後も大きな政治争点となり続けるはずだ。

II. 各国との比較で見た日本の二院制の位置づけ

1.一院制と二院制――世界の状況

「民主主義の多様性(Varieties of Democracy)」データベースによれば、2019年時点で、民主主義国家のうち二院制を採るのは41.3%26カ国)、一院制を採るのは58.7%37カ国)となっている(図1参照)。一院制を採っている国は経済や人口的に見て「小さな国」が多い。G7諸国はいずれも二院制を採っている。また、先進国31カ国の中では日本を含め17カ国が二院制を採っており多数派となる。よって日本が二院制を採っていること自体は、比較政治的に見て特異ではない。

ただ、集権化が進んでいて比較的均質的な国は一院制を採っていることが多く、ここでは日本はやや異端である(Lijphart 1999)。戦後のGHQ草案が一院制を日本政府に提案したのも、日本の政治・社会構造を考慮した上だと言われる。反面、連邦制を採るなど分権が進んでいる国の多くは二院制を採っている。

二院制から一院制、一院制から二院制への転換を果たした国も少なくない。多いのは前者だ。たとえばデンマーク、スウェーデン、ノルウェーの北欧三国は、第二次大戦後に二院制から一院制への転換を行った(Smith 2020)。逆方向の転換の例としてはスペインがある。独裁者だったフランコ将軍の死後に上院を復活させ、以前の二院制へと再転換している。

ただ、たとえ同じ二院制の中でも法的位置づけ、運用のあり方については各国間で大きな差異がある。以下ではそれらの中での日本の二院制のあり方を見ていく。

2.二院制の類型−−リップハルトの分類と日本の位置づけ

カリフォルニア大学バークレー校のアレント・リップハルト教授(当時)(1999; 2012)によれば、両院が対等な権限を持つ二院制は米国、イタリア、スイスなどごく少数でその数も近年減少している。衆議院の優位を定める日本を含め、大半の国では一方の院に他方を従属させることで、両院の判断が異なった場合の意志決定をスムーズに行うことができるような配慮がなされている。権限以外でも、各国は上院及び下院の役割分担、各院の議員の選出方式、政治過程における決定権限などにおいて二院間で差を設け、両院の差別化を図っている。リップハルトは、各国の二院制、一院制につき類型化しているが、それを米国の教科書を基に砂原ら(2015)がまとめたものが図2である。

図2:リップハルト(2012)の二院制の類型

日本の二院制は、リップハルトの分類にもあるように、衆参両院の権限がほぼ対等であることが、他国との比較の上での一つの特徴である。衆議院の優越が憲法で定められているが、憲法で衆議院の優越が定められていない事項については、参議院は衆議院とほぼ対等の立場に立つ。法案については、参議院で否決された場合は、衆議院で出席議員の23以上の賛成がないと成立しない(憲法59条第2項)。予算案については衆議院の優越が定められているが(憲法60条)、予算を実際に執行する際に必要となる予算関連法案については衆議院の優越がない。このような参議院の権限の強さが、いざ「ねじれ国会」になると「強すぎる参議院」批判につながる。「ねじれ国会」の下では、政権与党は、野党の同意なしに重要法案を通すことができないどころか、予算の執行すらままならない[4]

リップハルトが類型化のもう一つの基準として用いたのが、両院の選出母体の同一性である。特定の少数派を優遇するような選挙制度で一方の院の議員が選ばれるような場合、選出母体の同一性は失われる。連邦制を採る米国の上院が、人口にかかわらず各州別に均等に議席を割り振っているのがその一例である。人口比で議席が割り振られる下院に対し、上院では人口の少ない州が過剰に代表されるからだ。また英国やドイツやカナダなど、一方の院では直接選挙なしで議員を選ぶ国も少なくない。これに対して日本は、衆参両院で選挙制度こそ異なるものの、いずれも全国民の直接投票で議員が選ばれるという面で(憲法43条)、選出母体の同一性は高い。出身母体の同一性の高さは、もう一つの二院制批判−−「衆議院のカーボンコピー」論につながる話だ。選出母体がほぼ同一であれば、両院の判断はそうは変わらないことが多いからだ。

3.類型別に見た二院制の機能

以下では、図2のリップハルトの類型化の各象限において二院制がどう機能しているかを見つつ、日本の二院制を比較政治的に見ていきたい。

まず第Ⅰ象限をリップハルトは「強い二院制(strong bicameralism)」と呼んだ。両院の権限が対等あるいは対等に近ければ、一方の院の判断をもう一方の院が覆すことは難しくなる。さらに、両院の選出母体が異なれば、両院の判断も異なる場合が多くなる。こうした第Ⅰ象限の二院制では、立法府の2つの院がお互いに屹立して牽制し合うようになる。実際、第Ⅰ象限の代表的な国である米国では1980 年代以降、上院と下院の多数派政党が異なる状態が頻繁に生じ、行政府である大統領府も加わり、相互に様々な均衡と抑制が図られてきた。米国では二院制に対する世論の批判はさほどないが、二院制と大統領制を通じた厳格な三権分立によって政策決定の膠着(political gridlock)が生じる問題は指摘されてきた。

次は日本が分類される第Ⅱ象限であり、これをリップハルトは「中間的な強さの二院制(medium-strength bicameralism)」と呼んだ。第Ⅰ象限と同じく二院の権限がほぼ対等であるにかかわらず第Ⅱ象限の二院制は「強い」ではなく「中間的な強さ」になっているのは、両院の選出母体が似通うからだ。たとえ強力な第二院だったとしても議員の構成が第一院と似通えば、独自の影響力を発揮しえず(Krehbiel 1998)、同じような判断ばかりする「カーボンコピー」になりかねないからである。ただ、選出母体が似通っていたとしても、両院で大きく異なる議員構成になることはある。日本でいえばまさにそれが「ねじれ国会」の状況で、そうなると両院それぞれの権限が強いため、政策過程は膠着しがちだ。

リップハルトは、第Ⅳ象限も第Ⅱ象限と同じく「中間的な強さの二院制(medium-strength bicameralism)」と呼んだ。第一院に比べて第二院の権限は弱く第一院に基本は従属するが、選出母体が異なるため、独自性は発揮しやすい面があるからだ。フランスやカナダなど、この類型に入る国では、第二院の議員は間接選挙や首相などの任命によって選ばれる例が多い。英国も本来ここに分類されるはずだが、世襲貴族に議席を与えるなど、民主化以前の体制を引き継いでいることなどから、リップハルトは第Ⅲ象限寄りに位置づけている。

第Ⅲ象限は、第二院の権限が弱く選出母体が第一院と似通う類型であり、この場合は第二院の影響力は非常に弱くなるため「弱い二院制(weak bicameralism)」とリップハルトは呼んだ。リップハルトも言うように、この第Ⅳ象限の延長線上に一院制がある。ただ、たとえ権限が弱い第二院であっても一定の政治的な影響力はあることが実証的に示されており(Tsebelis & Money 1997)、一院制を採る国家とは政治過程に与える影響は異なってくる。

第2部:日本の二院制をどう考えるか:分析の視点」に続く

 

<参考文献>
Clark, W. R., Matt Golder, S. N. Golder.  2012[2009]. Principles of Comparative Politics. 2nd Eds. SAGE.
Krehbiel, K. 1996. “Institutional and Partisan Sources of Gridlock: A Theory of Divided and Unified Government.” Journal of Theoretical Politics 8(1): 7-40.
Lijphart, A. 2012[1999]. Patterns of Democracy: Government-Forms and Performances in Thirty-Six Countries. 2nd Eds. New Haven: Yale University Press.
岡留康文 2018.「GHQと参議院」『立法と調査』406号。参議院事務局。
Smith, E. 2020. “The Rise and Fall of the Quasi-Bicameral System of Norway (1814-2007).” In Nikolaj Bijleveld, Colin Grittner, David E. Smith, and Wybren Verstegen (eds). Reforming Senates: Upper Legislative Houses In North Atlantic Small Powers 1800-Present. London and New York: Routledge, 29-41.
高見勝利 2001.「両院制と「衆議院の優越」」『法学教室』247号。
竹中治堅 2010.『参議院とは何か 1946〜2010』。中央公論新社。
棟居快行 2015.「参議院議員定数配分をめぐる近時の最高裁判例−最高裁平成26年11月26日大法廷判決を中心として−」『レファレンス』平成27年7月号。
Tsebelis, G. and J. Money. 1997. Bicameralism. Cambridge: Cambridge University Press.

 


[1] 高見勝利(2001)より。

[2] 産経新聞朝刊、2004218日。

[3] 岡留康文「GHQと参議院」『立法と調査』406号。2018年。

[4] なお最高裁はかつて議員定数不均衡問題に関する判例において、二院制の下では、参議院に都道府県代表的な機能を持たせることが許されるとしていた(棟居 2015)。しかし現在はその立場は取っていない。

加藤 創太/Sota Kato

加藤 創太

  • 研究主幹

研究分野・主な関心領域

  • 比較政治経済
  • 政治学方法論
  • 世論と経済政策

研究ユニット

経済と民主主義ユニット

茨木 瞬/Shun Ibaragi

茨木 瞬

  • 元東京財団政策研究所リサーチアシスタント