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【論考】ナウキャスティング・モデルを用いたGDPのリアルタイム・シミュレーション
画像提供:Getty Images
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【論考】ナウキャスティング・モデルを用いたGDPのリアルタイム・シミュレーション

July 21, 2026

※本論考は、当財団が推進する「未来社会データ事業」の一環として、神奈川大学の浦沢聡士教授にご寄稿いただいたものです。

GDPナウキャストとその役割
リアルタイム・シミュレーションとは
リアルタイム・シミュレーションの実践
 2026年4-6月期に輸出が大きく変動した場合
 2026年4-6月期に輸出と出荷が大きく減少した場合
 2026年4-6月期にコロナ禍と同様のショックが再び生じた場合
政策実務への応用

GDPナウキャストとその役割

GDPナウキャストとは、“今”起こっている経済の変化を映し出すデータを利用し、公表に先立ち、いち早くGDPの姿を予測するものと言えるが、その役割は、GDPを正しく予測することとともに、日々公表、更新される最新のデータをもとに予測を繰り返すことで、経済の“今”に関する評価を最新のものへとアップデートすることにある[1]

このうち、GDPを正しく予測できているのかといった予測精度について、東京財団の「未来社会データ事業」の一環として取り組んでいるGDPナウキャストの最終予測(予測対象四半期に関する3か月分の情報を概ね全て利用して行う場合の予測。通常、1次速報値公表の数日前に実施)の結果を見ると、近年、ナウキャスティング・モデルは、民間コンセンサス予測と比べても遜色なく、プラス成長/マイナス成長といった符号も含め一定程度正しく公表値(1次速報値)を予測してきたと評価できる(図を参照)[2][3]

 

図 GDPナウキャスト(最終予測)と公表値(1次速報値)の比較

出所:著者作成

 

こうした結果は、モデルは、予測に必要とする情報、具体的には予測に用いる月次データの3か月分の情報を反映することで、予測対象とする四半期のGDPを正しく予測できることを示唆している[4]。言い換えれば、一度、必要となる月次データの情報を与えれば、それに応じ、モデルは適切なGDPの予測値を機械的に計算することができると言え、仮想的な情報であっても、3か月分の月次データを入力すれば(あるいは3か月分を超えたデータでも)、そうした仮想的な経済環境を前提としたGDPの姿を導くことを可能とする。

仮想的な経済環境の下でのGDPの姿に関する議論は、シミュレーションと呼ばれ、例えば、為替レートが10%減価した場合、原油価格が20%上昇した場合、さらには世界経済の成長率が1%増加した場合などにGDPをどの程度押し上げるのか(または、押し下げるのか)といったGDPへの影響が具体的な数値(乗数)をもとに議論されてきた。

リアルタイム・シミュレーションとは

GDPへの影響を議論するこうしたシミュレーションについては、一般的には、マクロ計量経済モデルや時系列モデル等を用い、外的な経済環境の変化や政府・中央銀行による政策変更といった仮想的かつ外生的な経済ショックへのGDPの反応を評価・分析する中で行われてきた。

しかし、これとは異なり、ナウキャスティング・モデルを用いる場合、外生的な経済ショックに限らず、毎月観察される月次データの動きに仮想的な値を設定することにより(モデルの中で考慮する8つの月次データに対してのみ仮想的な値を設定することができるといった限界はあるが)、例えば、ある四半期に「輸出が10%減少した場合」などと仮定することにより、リアルタイムに観察される現下の経済環境を前提とした仮想的なGDPの姿をシミュレーションすることが可能となる。

2009年のリーマンショックや2020年のコロナ禍の初期においては、輸出が3か月間で20%程度減少するなどの動きも見られたが、再び同様のショックが生じた場合、現在の日本のGDPにどの程度の影響を及ぼすことになるのかなどの評価・分析もできる。これをリアルタイム・シミュレーションと呼ぶ時、その特徴として、以下の点が挙げられる。

  • 仮想的ではあるが、現在進行中の経済を対象としたGDPのシミュレーションが可能
  • 標準ケースからの乖離(ショックの影響を受けたことによるGDPの変化分。いわゆる乗数)という形式ではなく、ショックによる影響を受けた結果として見込まれるGDPそのものの予測が可能

マクロ計量経済モデルを用いた乗数分析などに見られる一般的なシミュレーションでは、ショックに対する、モデルが対象とする分析期間における(いわば)平均的なGDPへの影響が議論され、必ずしも現下の経済環境を前提として見込まれるGDPの姿が議論されているわけではない。加えて、その多くの場合、ショックによりGDPが受ける影響の大きさが評価され、ショックを反映した現在進行中のGDPの姿が議論されることは少ない。

リアルタイム・シミュレーションの実践

以下では、実際に、2026年の日本経済を対象として、仮想的なショックを設けた上でリアルタイム・シミュレーションを行ってみたい[5]

2026年4-6月期に輸出が大きく変動した場合

表1では、仮想的なショックの一例として、202646月期(2026Q2)中に輸出が大きく増加、また減少した場合にモデルが予測する当該四半期のGDP成長率を示している。

 

表1 2026年4-6月期に輸出が増減した場合

出所:著者作成

 

例えば、期間中に輸出が10%減少するようなショックが生じた場合、202646月期のGDP成長率は▲1.0%と予測されることが示されている。同時に、モデルにより予測されるGDP以外の変数への影響について見ると、輸出が10%減少するといった仮想的なショックの下で、出荷指数は1%~2%の減少、消費活動指数は0.2%の減少といった姿となった[6]

ここで、モデルの特性を明らかにするために、一般的なシミュレーションの中で評価される、いわゆる乗数と呼ばれる、標準ケース(ここでは、仮想的なショックを与えない場合のモデルによるナウキャスト結果)とインパクト・ケース(仮想的なショックを与えた場合のモデルによるナウキャスト結果)の乖離率をGDPについて見ると、輸出の1%減少(または増加)といったショックに対するGDPの乗数は、0.15%程度であった。内閣府より公表される「世界需要が外生的に1%増加」した場合の乗数分析の結果を見ると、1年目にはその影響で輸出が1.30%増え、その結果、GDP0.36%拡大する姿が報告されているが、モデルのシミュレーション特性はこうした結果ともある程度整合的となっている。

2026年4-6月期に輸出と出荷が大きく減少した場合

リアルタイム・シミュレーションの中では、輸出に加え、出荷指数についても、輸出と同様に10%の減少を仮定したいと思えば、モデルによる予測に替えて出荷指数に仮想的な値を入力すればよい。表2では、輸出とともに出荷指数が10%減少した場合、202646月期のGDP成長率が▲2.3%と予測されることを示している。

 

表2 2026年4-6月期に輸出、出荷指数が減少した場合

出所:著者作成

 

実際、何らかの経済ショックが生じる場合、1つの変数(あるいは分野)のみが影響を受けるというよりは、複数の変数(分野)において、同時に影響を受けることが多い。コロナ禍初期の202046月期(2020Q2)を例にとれば、輸出相手国におけるロックダウンや国内での緊急事態宣言などの影響を受けて、輸出に限らず、出荷や消費活動に加え、新規求人や所定外労働時間、さらには景気ウォッチャー調査で測られるマインドに至るまで、モデルで用いられる全ての変数(分野)において、10%~20%程度の減少が見られた。

2026年4-6月期にコロナ禍と同様のショックが再び生じた場合

ナウキャスティング・モデルを用いたシミュレーションでは、必要があれば、1つの変数に対してのみ仮定を設けるのではなく、複数の変数に同時に仮想的な値を設定し、GDP成長率を予測することが可能であり、仮想的な中でもより現実的なシミュレーションを行うことができる。そこで、リアルタイム・シミュレーションのより実践的な活用例として、202646月期に、例えば、コロナ禍当初(202046月期)に見られたショックと同様のショックが生じた場合にGDP成長率がどのようになるかを予測してみた。表3では、202046月期に見られた経済の落ち込みと同様のショックが再び生じた場合、202646月期のGDP成長率が▲7.2%となることが示されている。202046月期のGDP成長率が1次速報値で▲7.8%(最新の202613月期・2次速報値では▲7.2%)であったことを踏まえると、2026年に同様のショックが再び起これば、やはり経済は当時と同様の影響を受けると予測されている(この結果を当たり前だと思えば、モデルはその当たり前を表現することができている)。

 

表3 2026年4-6月期にコロナ禍と同様程度のショックが生じた場合

出所:著者作成

政策実務への応用

経済の動向を適切、かつ早期に把握することの重要性はいつの時代においても変わることはない。そのため、様々な手法により経済動向の即時評価が試みられているが、一国経済全体の動向をリアルタイムで把握するGDPナウキャストを用いる場合、経済の“平時”においては、日々公表、更新される最新のデータをもとにGDPの予測を繰り返すことで経済のに関する評価を最新のものへとアップデートしていくとともに、経済の“非常時”においては、ショックにより想定される影響を反映したリアルタイム・シミュレーションを実施することで、その経済への影響を定量的に評価することができるようになる。

政策実務への応用を念頭に置く際、特に、経済への下振れリスクが生じた場合には、政策的対応といった視点から、その影響の程度を早期に見極めることが重要となるが、そうした政策ニーズに対しリアルタイム・シミュレーションは有効な手段となり得る。

コロナ禍における消費や輸出などの減少、また、より最近では中東情勢を背景に悪化が見られたマインドなど、例えそうした懸念が実体経済の中で顕在化しなかった場合においても、状況の変化が経済に与える影響をリアルタイムに評価する景気分析の道具を増やすことは重要と考えられる。実際、「経済財政運営と改革の基本方針2026」(いわゆる、骨太2026)の中では、「リアルタイムデータや高頻度データの活用を進め、経済の実態把握の精度を高める」と議論されている。今後、政策ニーズも踏まえ、隔週で公表されるGDPナウキャストの中で、必要に応じ、リアルタイム・シミュレーションを実施し、その結果を参考的に示すことに取り組んでいきたい。


[1]GDPナウキャストの基本的考え方や意義などについては、「GDPナウキャストとは」を参照。

[2]GDPナウキャストに用いる予測モデルの概要については、「GDPナウキャストの枠組みの変更:更なる予測精度の向上にむけて」を参照。

[3]モデルがGDPを正しく予測する場合と正しく予測しない場合の違いを評価する議論については、「GDPナウキャストは、なぜ当たり、なぜ外れるのか―景気推定とGDP推計のギャップ―」を参照。

[4]モデルでは、資本財出荷指数、消費財出荷指数、第3次産業活動指数、消費活動指数、実質輸出、新規求人数、所定外労働時間、景気ウォッチャー調査の8つの月次データを予測に用いている。

[5]リアルタイム・シミュレーションの実施に際しては、202668日時点で利用可能な最新の情報を用いた。そのため、シミュレーションの対象期間を当該時点で1次速報値が公表されていない2026Q2としている。ただし、3か月分を超えてより長い期間にわたり仮想的な値を設定する場合には、2026Q32026Q4を対象としてシミュレーションを行うこともできるようになる。

[6]参考までに、輸出が20%減少した場合と、逆に20%増加した場合のGDP成長率を見ると、それぞれ、▲2.8%、+3.0%となっている。モデルは、プラスのショックとマイナスのショックで概ね対称的な予測結果を示している。

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