[ポリシー・ブリーフ] 【緊急提言】新型コロナ感染急拡大に対応した医療提供体制拡充について

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[ポリシー・ブリーフ] 【緊急提言】新型コロナ感染急拡大に対応した医療提供体制拡充について

東京財団政策研究所 ポリシー・ブリーフ No.20-01

2020年11月26日
小林慶一郎
佐藤 主光
土居 丈朗

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1. 現状

  • 感染が予想以上に急拡大し、新型コロナウイルス感染症対策分科会(以下、分科会)からも政府に対し、「財政面の支援を含む医療提供体制の拡充」が改めて要請された(1120日付け分科会資料「私たちの考え ―分科会から政府への提言―」)。
  • 医療崩壊が迫れば、経済にブレーキをかけざるをえないが、医療提供体制(病床数等)を大きくできれば、医療崩壊を回避して経済社会活動を継続できる。経済を回すためにも医療提供体制の一層の拡充は必須である。
  • 現状、コロナ対応をしてきた医療者は疲弊しており、医療機関は風評被害などで減収に苦しんでいる。コロナ対応に協力することに躊躇する医療機関が少なくないのが現実である[1]

2. これまでの措置

  • コロナに対応する医療機関には、手厚い財政支援が3回にわたって追加拡充されてきた。コロナ対応医療機関には915日の予備費措置において、当時の想定に対応した財政支援が措置されている。医療提供体制として、感染拡大に備え、即応病床数は27,646床(うち重症者用3,678床)が計画されている。この予備費措置を、まずは最大限活用することが求められる。
  • 他方、都道府県を経由して支払われる緊急包括支援交付金は、交付執行が遅い(4月分が秋になっても交付されていないなど)との問題も指摘されている。
  • 補助金は手続きが煩雑なため、診療報酬が妥当との見方も政府内にはある。確かに、診療報酬はコロナ対応の診療行為への確実な支援になる。診療報酬で対応できるところは遅滞なく措置することが求められる。一方、コロナ患者の受け入れによる他の診療科の間接的な減収(例えば、外来の停止や手術の先送りなど)は診療報酬ではカバーできない。

3. 大流行リスクに対応した財政支援の必要性

  • 9月の予備費措置は、第一波と第二波の経験にもとづく感染拡大の想定に対して対応できる財政措置であった。しかしながら、11月に入り、9月当時の想定を上回る規模とスピードで感染が拡大しつつあり、一部地域においてはすでに医療崩壊を懸念する声が上がっている。また、欧米諸国では感染が大きく再拡大している。前提となる状況が変わったことを踏まえ、また欧米諸国のような感染症の大流行リスク(コンテインジェンシー)に対応できる医療提供体制を確保するために、財政措置を追加的に準備する必要がある。今冬懸念される一層の感染拡大に備えるためには、感染拡大が起きてから対応するのではなく、あらかじめリスクに備えた十分な医療提供体制を用意すべきであり、このためには実効性のある財政支援を速やかに講じておくことが極めて重要である。感染症の大流行を封じることこそ、国民の生命を守ることにも日本経済の好転にも財政状況の悪化を防ぐことにも、大いに資する。
  • 感染症が大流行する場合には、現在計画されている即応病床数27,646床(うち重症者用3,678床)は決して多くはない。たとえば4月の第一波のイギリスのような状態を想定すれば、必要な病床数は約5万床(うち重症者用約6千床)となる[2]。また、計画上用意された病床数と実際に運用されうる病床数には相当のギャップが実態上あるため[3]、さらに十分なバッファーをもって医療提供体制をあらかじめ整備しておくことが肝要である。
  • 大流行に備えるためには、9月の予備費措置で確保できた病床に加えて、あと2万床(うち重症者向けには2,500床)を新たに確保することが必要であると考えられる。負担のかかる医療機関にさらに一層の協力をしていただくために、実効性のある追加的な財政措置を講じることが必要となる。方向性としては、民間医療機関にコロナ対策への参加を促す強力なインセンティブを与える措置を講じる。その際、医療機関間の連携を促進する観点から、医師や医療スタッフ等を他の医療機関に派遣する医療機関サイドにも支援措置が講じられることが重要である。同時に、現場を支え、奮闘している医療者に対して十分な支援措置を直接提供するとともに、現場の就労環境の改善に強力に取り組むことが必要である。

4. 第三次補正予算へのポイント

政策手段

都道府県を経由しないで国が直接執行する事前一括補助金の形式で、コロナ対策に協力を表明した医療機関に、事前に資金を支給する(下図を参照)。事前一括補助金は、コロナ対応へのコミットメントに対する支払い及びインセンティブ分の上乗せとして、昨年の収入を十分にカバーする金額を支給する。事後的に、今年の診療報酬で収入が得られた分は、返金してもらうこととする。

各論

①コロナ対応に参加することに対する強力なインセンティブの付与。具体的には、コロナ患者受け入れに伴う当該医療機関全体としてのマイナスを補う措置がないとコロナ対応への参加は進まない。実際の患者受け入れや病床確保に対する補助に加え、「感染拡大時にコロナ患者受け入れを拡大する具体的・定量的なコミットメントに対する財政措置」などとして、昨年の診療報酬の収入を十分にカバーできる金額の支給ができるよう工夫する(コミットメントが守られなかった場合には当然返還)。

  • コロナ対応に手を挙げたことに対する「コミットメント料」を事前支払いにする。交付は国が直接執行すべきである。コミットメント料は、昨年の診療報酬の収入と概ね一致するように概算で決めるべきである。たとえば、「コロナ専用病棟」を作って他の病棟との分離ができているなら、当該専用病棟で従前行っていた診療行為に見合う金額とする。コロナ受け入れにあたって感染防止のために外来を停止しているなら、外来も対象にする。これらの金額の精査に時間をかけては迅速性に欠けるので、事前の一括補助金は概算で支給し、年度が終わった後で精算すること(今年の診療報酬の収入分を返金してもらうことを含む)を制度化するべきである。
  • これらコロナ対応への手挙げに対する支払いは、十分な能力と体制の構築が条件となるべきである(たとえば重症者受入れには、集中治療専門医・救急救命専門医がいること、ICUHCUERなど病床ユニットの整備が要件となるべきである)。
  • スタッフにコロナ罹患者が出た場合の診療所等の休業に対する補償
  • 検査への支援(入院転院時の検査の公費化、診療所での検体採取対応に対する追加的支援)

 

②コロナ対応医療機関に他の医療機関から医師・看護師の派遣を迅速柔軟に行うために、人員配置標準の規制緩和、派遣元の医療機関へのインセンティブ付与(経費だけでなく、「派遣」そのものに対する報酬など)

  • 派遣元の医療機関の看護師の人員配置標準の要件緩和、医師・看護師のローテーション体制の整備等
  • 派遣元の医療機関に、派遣経費だけでなく、コロナ対応協力に対する「コミットメント料」を支払う。医師1人派遣すれば派遣元は年ベースで1億円前後の逸失収入が発生するので、逸失収入をカバーする支払いが必要。

 

③コロナ対応する医療従事者本人への手当て

  • コロナ対応する医療関係者(事務スタッフを含む)には、モチベーションを上げるため、通常給与に危険手当・コミットメント料等を上乗せして支給
  • 休息期間を確保するための補助(休業中の給与補填、休憩スペース設置費用の医療機関に対する補助、交代要員の派遣支援など)
  • 罹患時の休業補償のさらなる拡充
  • 医療機関関係者・家族等に対する嫌がらせ等に対しては法的措置をとることも含めて行政がサポート

 

以上


[1] 経営難にある医療機関への「一律」支援を求める声もある。しかし、ターゲットを絞らない支援では、コロナ対策に貢献する医療機関に必要な額が行き届かないという意味で効果に乏しく、コロナ対策に対する民間医療機関の協力を得るための誘因とならない。さらなる財政悪化に繋がるリスクもある。政策の有効性を最大限に高めるためメリハリの利いた支援を実施することが求められる。

[2] 4月の第一波のピーク時において、イギリスの入院患者は約2万人、重症者(人工呼吸器装着者)約3,200人。これを人口比で補正すると、日本では、入院患者約3.8万人、重症者約6,000人に相当する。日本では英国より入院措置が多いので最大病床数の目安は5万床(重症者用約6,000床)と考えるべきである。

[3] 分科会の数値基準では、5割の病床使用率で感染のステージ4となり、医療崩壊の懸念があるとされている。

 

※ 本提言の発表は個人として行うものです。

小林 慶一郎/Keiichiro Kobayashi

小林 慶一郎

  • 研究主幹

研究分野・主な関心領域

  • マクロ経済学
  • 金融危機
  • 経済思想

研究ユニット

経済政策・経済思想ユニット

佐藤主光

佐藤 主光

  • 上席研究員

研究分野・主な関心領域

  • 地方財政論
  • 最適課税論・税制改革
  • 社会保障(医療経済学)

研究ユニット

税・社会保障改革ユニット

土居 丈朗/Takero Doi

土居 丈朗

  • 上席研究員

研究分野・主な関心領域

  • 税制
  • 地方財政
  • 財政の持続可能性
  • 社会保障
  • 公共選択論

研究ユニット

経済政策・経済思想ユニット