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【特集】第2次高市内閣に求める経済政策―インフレを嫌う有権者にどう対応すべきか
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【特集】第2次高市内閣に求める経済政策―インフレを嫌う有権者にどう対応すべきか

March 26, 2026

221回特別国会が218日に召集され、高市早苗氏が第105代首相に選出されました。給付付き税額控除や飲食料品の2年間消費税ゼロをはじめとする国民の負担軽減策が注目されていますが、「責任ある積極財政」を掲げる第2次高市内閣は経済の課題とどう向き合っていくのでしょうか。持続可能な社会を築き、国民の生活をより豊かにするために必要な政策について、研究者がそれぞれの専門分野から論じます。

この記事のポイント
 ・有権者はインフレを嫌悪する傾向がある
 ・正の実質賃金の確保が最大の防波堤
 ・生活者目線の政策説明が不可欠                                                                                     

「責任ある積極財政」に必要なもの
インフレの時代の積極財政
インフレへの有権者の嫌悪
世論の反発をどう緩和するか—政策対応のあり方
終わりに

「責任ある積極財政」に必要なもの

高市早苗首相は、220日の施政方針演説において、「責任ある積極財政」を強力に遂行していくことを改めて全面的に打ち出した。「責任ある積極財政」を効果的に進める上で特に重要になるのは、施政方針演説でも言及された「財政規律への配慮」や「マーケットからの信認の確保」である。もう一つは、今のところ見過ごされがちだが、「インフレに対する国民の反発をいかに抑えるか」である。以下では、その背景を整理した上で、インフレと世論の関係、それに対する政策のあり方について論じる。

インフレの時代の積極財政

1990年代後半以降、日本では長期のデフレ状態が25年にわたって続いてきたが(日本銀行 2024参照)、コロナ禍やロシアによるウクライナ進攻を契機に、物価や賃金が上昇傾向に転じている。消費者物価(生鮮食品を除く総合)の前年比上昇率は2022年以降、日本銀行(以下、日銀)の2%目標を上回る水準で推移しており、2025年通年でも約3%の上昇となった。名目賃金もバブル崩壊直後以来のペースで伸びている。「金利のある時代」「インフレの時代」が、日本に久々に訪れている。

そうした中で202510月に高市早苗政権が発足し、高い支持率を背景に、20262月の衆議院総選挙で歴史的な圧勝を遂げた。新政権の「責任ある積極財政」は、安倍政権におけるアベノミクス路線の継承・発展とも言えるが、アベノミクス期には2%の物価安定目標の持続的な達成には至らなかった。日銀による国債の大量買い付けや公的債務残高の膨張などから、財政社会保障の持続可能性への懸念も生じた。今回は、インフレ傾向が定着しつつある環境下での実施となる。

積極財政の展開は、財政の持続可能性への懸念をマーケットに生じさせる。実際、高市政権発足後、日本の長期金利は上昇基調をたどり、現在の約2.27%(320日時点)に達した。IMF(国際通貨基金)は20262月の対日審査声明で、この上昇の一因として「国内の不確実性の認識や財政リスクの高まり」を挙げている[1]

新政権も財政規律の維持およびマーケットからの信認確保の必要性については意識しており、高市首相自身もその点については何度も強調している。各種発言などから読み取れるその基本的な方向性は、成長により名目GDPを伸ばすことを前提に「積極財政と財政規律の両立」を図ろうというものである。

施政方針演説では「成長率の範囲内に債務残高の伸び率を抑え、政府債務残高の対GDP比を安定的に引き下げていく」と述べているが、これは、一定のインフレの継続を想定した上での政策方針でもあると考えられる。また、インフレ自体が、いわゆる「インフレ税」を通じて家計・企業から政府への所得移転を進めるため、日本のように政府債務の大きい国では特に財政規律維持に役立つ面もある。

積極財政は緊縮財政に比べて国民の支持を一般的に受けやすいとされ、これが高市政権や旧安倍政権の高支持率を支える(た)一因ともなっている可能性がある。ただ、旧安倍政権時と今回の大きな違いは、現在の日本経済がすでにインフレ傾向にある点にある。

経済的には一般に、適度なインフレは好ましいとされる。特に25年にも及ぶ長期デフレに苦しんできた日本においては、物価安定目標を2%に置いてきた政府や日銀だけでなく、企業経営者からも歓迎されているようだ(日本銀行 2024参照)。

しかし、経済的に良いことが、政治的な支持を集めるとは限らない。

インフレへの有権者の嫌悪

インフレは、ほぼすべての先進民主主義国家で国民全般(世論)に嫌悪される対象であることが知られている(Scheve 2004; Binetti et al. 2024など参照)。これは、経済学者のインフレに対する評価と大きく異なる。たとえば、ノーベル経済学者である米エール大学のロバート・シラー教授は、経済学者と一般国民双方に対してアンケート調査を行った上で、「経済学者の大半はインフレを一般国民よりはるかに良性(more benign)と見ている」と結論づけている(Shiller 1997)。

日本ではこの30年以上、インフレという言葉が死語だった時代が続き、また、デフレ脱却への期待が強いこともあり、欧米で見られるようなインフレに対する激しい反発や嫌悪は今のところ前面に出ていない。インフレについての意識調査結果も少ない。しかし、兆候は現れている。日銀の直近(202512月)の「生活意識に関するアンケート調査」によれば、物価が1年前と比べて「上がった」と回答した人は95.2%に達し、そのうち、この物価上昇を「どちらかと言えば、困ったことだ」と答えた人は85.8%に上る(下図参照)。ここ数回の国政選挙で、与野党が物価対策を競い合ってきたのも、有権者のこうした兆候を察知した上でのことだろう。

さらに長期デフレ前まで遡れば、日本でもインフレへの世論の反発が政治を直撃した例がある。たとえば、政権発足時には60%を超える高さを記録した田中角栄政権の支持率は、第一次石油ショックにともなう「狂乱物価」により約1年半で、20%前後まで急落した(発足時の支持率は朝日新聞調べ)。誤解されがちだが、田中政権の人気が政権発足直後に短期で急落したのは、その後に露見するロッキード問題ではなく、主にインフレによるものである。

このように、「責任ある積極財政」に伴うインフレは、たとえそれが政府・日銀や経済学者らが考える適度なレベルに留まったとしても、今後、世論の猛反発を受ける可能性がある。たとえば、米国の例ではあるが、一般消費者の8割超がFRB(米連邦準備制度理事会)の2%目標より低いインフレ率を希望して、望ましいと考えるインフレ率の中央値は0%、との結果が出ている(Afrouzi et al. 2024)。

高市政権の「責任ある積極財政」の遂行には、財政規律の維持を通じたマーケットからの信認に加え、インフレに対する国民の不満を抑えることが必要となる。党内基盤が決して強固ではない政権にとっては、国民からの高い支持率をつなぎ止めることは、政策の遂行力確保のために特に重要な意味を持つ。

世論の反発をどう緩和するか政策対応のあり方

国民のインフレ嫌悪は、単なる経済的負担への不満にとどまらず、将来への恐怖や不公平感といった強い心理的ストレスに根ざしている。したがって「責任ある積極財政」を政治的に維持し、デフレからインフレ経済への移行(transition)を乗り切るためには、マクロ経済学的な正当性の主張だけでなく、国民の感情やミクロな痛みに寄り添う政策的対応が不可欠となる。以下では、政策的な対応のあり方として考えられるものにつき、簡単に見ていくこととする。

  • 実質賃金向上に向けたあらゆる支援

人々がインフレを嫌う最大の理由は、賃金が物価に追いつかないという認識にある(Shiller 1997; Stantcheva 2024)。予想外のインフレは政権への強烈な反発へと転化しうるが(Federle et al. 2024)、その鍵は実質賃金が低下しているか否かにかかっている。2025年まで4年連続で実質賃金のマイナスが続いた日本では、足元でようやくプラス転化の兆しが出ているものの、定着するかは予断を許さない。実質賃金のマイナスが再び長期化する展開となれば、インフレへの反発は一気に強まりかねない。政労使の交渉支援や中小企業への価格転嫁対策など、名目賃金の引き上げを全力で後押しすることが、政治的な防波堤となる。

  • 移行期(transition)における生活者支援

インフレの負担は低所得層に不均衡に大きく(Stantcheva 2024)、人々が支持する物価対策は利上げのようなマクロ政策ではなく、生活必需品の価格安定や脆弱層への直接支援である(Binetti et al. 2024)。ここ数年の日本でも同様の傾向が見られる。

対策としては、賃金上昇が経済全体に波及するまでの間、購買力低下の直撃を受ける低所得者・中間層に対しては、燃料費補助や給付金などの直接的で即効性のある支援策を講じることが考えられる(Binetti et al. 2024; Stantcheva 2024参照)。こうした再分配政策はそれ自体がインフレ圧力を高めうるが、経済だけでなく政治まで視野に入れたあくまで一時的な対策を考えるのであれば、一種の政治的コストとして必要性も認められよう。東京大学の渡辺努教授は、物価が0%から2%に移行する際の「インフレ税」による政府のネット取り分を約90兆円と試算しており(渡辺 2025)、移行期の一時的な出費であれば財源の目途も立つ。ただ、消費税減税のようにいったん導入すると元に戻すことが政治的にも技術的にも困難な対応策については慎重になるべきだ。

  • 政策コミュニケーションの見直し

人々はインフレを一義的に悪いものと捉えており、「適度なインフレは経済成長の副産物であり良いことだ」というマクロ経済的な説明(narrative)は、有権者には理解されず、彼らのインフレ警戒感を変える効果はほとんどない(Binetti et al. 2024)。政府は、マクロの成長を強調するよりも、「いかにして国民の購買力を守るか」「いかに不公平を正すか」という、生活者の視点に立った説明で一貫して説明し続けることが求められる(Stantcheva 2024)。

日本では、物心ついて以来デフレしか知らない世代が現役の中心を占める。若い世代ほど直近の経験にインフレ期待の形成を左右されやすいことが明らかにされており(Malmendier & Nagel 2016)、少しの物価上昇にも過敏に反応する可能性がある。最近では、予想外のインフレはポピュリスト政党の台頭につながることも、欧州などの経験で明らかになっている(Federle et al. 2024)。「インフレを知らない世代」に対しては、政府による丁寧かつ工夫されたコミュニケーションがとりわけ必要となる。

終わりに

 私たちはかつて、消費税について、経済学者と国民全般が対照的な立場を取ることを、東京財団のアンケート調査で明らかにした(加藤 2023参照)。インフレについても同様の関係が見られる。多くの先進民主主義国家において、有権者のインフレに対する反発が根強く、適度なインフレには肯定的な政府・中央銀行や経済学者と大きく立場が異なる。

日本では、30年近くインフレが死語となり、デフレに苦しめられた経験もあり、インフレへの国民の反発は現時点では目立たない。ただ、適度なインフレへの有権者の反発が強くなれば、「責任ある積極財政」を遂行していく上で大きな支障となりうる。財政規律の維持と共に、インフレが持続する時代へのスムーズな移行を可能とする対策を求めたい。

 

<参考文献>

Afrouzi, H., A. Dietrich, K. Myrseth, R. Priftis, and R. Schoenle (2024). “Inflation Preferences.” NBER Working Paper No. 32379.

Binetti, A., F. Nuzzi, and S. Stantcheva (2024). “People’s Understanding of Inflation.” Journal of Monetary Economics 148: 103652.

Federle, J., C. Mohr, and M. Schularick (2024). “Inflation Surprises and Election Outcomes.” Kiel Working Paper No. 2278.

加藤創太(2023.Review: 財政問題について経済学者と国民の意識はどう乖離するのか 『経済学者及び国民全般を対象とした経済・財政についてのアンケート調査』の紹介」東京財団.

Malmendier, U. and S. Nagel (2016). “Learning from Inflation Experiences.” Quarterly Journal of Economics 131(1): 53–87.

日本銀行(2024.『金融政策の多角的レビュー』.

Scheve, K. (2004). “Public Inflation Aversion and the Political Economy of Macroeconomic Policymaking.” International Organization 58(1): 1–34.

Shiller, R.J. (1997). “Why Do People Dislike Inflation?” In C. Romer and D. Romer, eds., Reducing Inflation: Motivation and Strategy. University of Chicago Press, pp. 13–70.

Stantcheva, S. (2024). “Why Do We Dislike Inflation?” Brookings Papers on Economic Activity, Spring 2024.

渡辺努(2025).『インフレの時代:賃金・物価・金利のゆくえ』中央公論新社.

[1] IMF, "Japan: Staff Concluding Statement of the 2026 Article IV Mission," February 17, 2026.

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