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【論考】ハードルの下がった衆院定数削減問題――多党化の流れは止まったのか
画像提供:共同通信
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【論考】ハードルの下がった衆院定数削減問題――多党化の流れは止まったのか

March 18, 2026

日本の政党間対立構図の変化
ハードルの下がった議員定数削減問題
現行選挙制度における「最大政党ボーナス」
議員定数削減によって多党化の時代は終わるのか
「身を切る改革」を超える重要性

日本の政党間対立構図の変化

2024年の衆院選、2025年の参院選において、当時の与党が両院の過半数の議席を確保できなかったことで、日本で多党化の時代が幕開けしたと盛んに言われた。

しかし、20262月の衆院選で自由民主党(以下、自民党)が歴史的な圧勝をしたことで、状況は一変した。参議院では今も与党は過半数の議席を握っていないが、衆議院の議席の3分の2以上を自民党単独で確保しているため、参議院で法案などが否決されても衆議院で再議決できる。つまり、「ねじれ」の問題は事実上解消している。

このように、今回の衆院選により、多党制というより自民党一党優位制に近い状況に再び転じたといってよい。

民主主義体制の下では、二大政党制から一党優位制から多党制まで、様々な政治対立構図(政党システム)が形成されることが知られている。言うまでもなく、「政党システム」のあり方典型的には二大政党制vs多党制か—は、政治の対立軸を形成するだけでなく、各国の経済財政・社会政策のあり方、格差、経済成長などともリンクすることが示されてきた。

どの国でどのような政党システムが成り立つかを決める大きな要因は主に、①選挙制度と、②有権者の行動の「かけ算」とされる。たとえば、英国や米国が採る小選挙区制は二大政党制に結びつきやすいとされ[1]、実際、両国の政党システムは、短期的な例外時期を除き、二大政党制として推移してきた。有権者の側では、伝統的には資本家と労働者との間の社会的亀裂が、英米の二大政党制につながってきた。また、韓国のように、地域間の亀裂が二大政党制につながる国もある。近年は世界で最も多く採用されている比例代表制は[2]、多党化につながりやすいとされ、選挙後の政党間での連立協議で政権が決まることも少なくない。

ハードルの下がった議員定数削減問題

現在開会中の特別国会において、与党による議員定数削減関連法案の提出が再びなされるという報道が出ており、以前の論考で筆者が述べたように(加藤 2025)、これは1994年以来の本格的な選挙制度改革につながりうる。そうなれば、日本の政党間対立構図(政党システム)も変化し、今後の政治のあり方、さらには経済・社会にも大きな影響を与えることとなる。

議員定数削減や選挙制度改革は議員の死活問題につながるため、その実現には多大な政治資本の投入が必要となる。これも以前の論考でも指摘したとおりだが、2月の衆院選の圧勝により、高市政権は莫大な政治資本を確保した。そのため、議員定数削減実現へのハードルは下がっている。議員定数削減については、世論の支持も高い。

以下では、現在報じられている比例のみでの定数1割削減が、日本の政党対立の構図(政党システム)についてどのような影響を与えるかについて、2月に行われた衆院選の結果を題材に見ていく。

現行選挙制度における「最大政党ボーナス」

日本の政党システムを見ると、選挙制度(①)では、日本は小選挙区制と比例代表制を組み合わせた小選挙区比例代表並立制(混合型)である。混合型にも様々な類型があるが、その中で日本の選挙制度の一つの特徴は、小選挙区制の影響力が大きいということである。小選挙区選出の議員数が相対的に多いことに加え、ドイツのように、比例区の得票率を議席数に連動させる仕組みがないことが効いている。

具体的に見てみよう。図1は、衆院選での自民党の得票率と議席占有率との推移であり、赤線が議席占有率、青線が得票率である。2月の衆院選は、議席数で言えば衆議院の68%を占め、自民党の「歴史的圧勝」だが、自民党の得票率は43%である[3]。つまり、得票率に比して自民党は多くの議席数を得ている。

 

1:自民党の得票率と議席占有率の推移(19862026

 

この議席数比率と得票率との差は、2009年を除き衆院選で常に最大政党となってきた自民党に与えられてきた、いわば「最大政党ボーナス」(図1中の赤領域)である。2009年は最大政党の座を民主党に譲ったため、「最大政党ボーナス」は民主党へと行き、図1にあるように自民党は得票率よりも低い議席比率となった。

この「最大政党ボーナス」は、小選挙区制が原動力となっている。2月の衆院選では、小選挙区に限れば、自民党の得票率は49%なのに対し、議席数比率は86%と、最大政党に巨大なボーナスがついている。他方、比例区では得票率は37%、議席比率は38%とほぼ同等である。つまり、小選挙区制の影響力こそが、最大政党(2009年以外は自民党)を利してきた。

なお、1994年に選挙制度改革が行われる前は、日本の衆議院はいわゆる「中選挙区制」を採っていた。中選挙区制の下でも「最大政党ボーナス」が存在したことは知られているが(Taagepera 1986参照)、これは図1からも明らかである。ただ、選挙制度改革後に導入された現行の小選挙区比例代表並立制(混合型)により、図1のように「最大政党ボーナス」は拡大している。

議員定数削減によって多党化の時代は終わるのか

議員定数削減に関連する法案は、今特別国会に提出される見込みである。各種報道によれば、比例区のみの削減で議員定数を1割削減するという、日本維新の会(以下、維新)が当初から主張してきた方向性への同調が、衆院選後に自民党内でも広がっているとのことだ[4]

定数1割削減を比例区のみでまかなうとすれば、衆議院における小選挙区と比例区との比率は、現状のおよそ1.61程度から、2.21程度に大きく跳ね上がる。これにより「最大政党ボーナス」も大きく拡大する。つまり、日本の混合型選挙制度は「最大政党ボーナス」の拡大を通じて、現状以上に「勝者全取り(winner takes all)」的な制度となる。なお、「最大政党ボーナス」の恩恵を受けられるのは、自民党のような全国区の大政党だけではない。維新のように、一部地域の小選挙区で大政党と伍して戦える地域政党は、その地域における最大政党として、最大政党ボーナスを一部受け取ることができる。

では、この比例区中心の定数削減は日本政治の政党間の対立構造(政党システム)にどのような影響を与えるだろうか。

短期的には、今でも大きい「最大政党ボーナス」がさらに拡大することで、最大政党を全国あるいは一部特定地域で狙える政党の議席数が伸びることが予想される。反面、小選挙区で多くの議席を確保できない中小政党は、全国あるいは特定地域での大政党に脱皮しない限り、「最大政党ボーナス」の裏返しである「中小政党オーナス」の逆風を受け、得票率の割に議席数は伸び悩む。

日本では現状、単独で過半数議席の確保能力がある大政党は自民党だけなので、他の様々な要因次第ではあるが、一党優位体制の維持・拡大には有利に働く。比例区は縮小されつつ残るため、そこで一定の議席を確保する政党は残るが、そうした中小規模の政党がいくつか存在する体制を、(定義にもよるが)通常は多党制とは呼ばない。

もちろん各政党は、選挙制度に応じて戦略・戦術を変える。有権者の側も、選挙制度に応じた戦略的な投票判断を行う。「最大政党ボーナス」が拡大すれば、中小政党から大政党への転換を図るため、野党間の連携が進むかもしれない。二大政党制への道だ。ただし、選挙目当ての連携は「野合」と見透かされる。有権者の支持を得るには、10年後・20年後の日本の姿を共有した上での連携が不可欠だ。現状の日本政治は、有力野党が自民党を挟んで左右に分かれており、数合わせでない合意形成には難航が予想される。

このように、比例区のみに限った定数削減は、「最大政党ボーナス」のさらなる拡大を通じて、一党優位制、二大政党制などの政党システムにつながりやすい。政党システムは、選挙制度(①)と、有権者の行動(②)の「かけ算」で基本は決まるため、有権者がそれでも強く多党制を望めば、多党制は成立しうる。ただ、比例区に限定した定数削減がなされれば、多党制が成立する蓋然性が現在よりも大きく減少するということだ。

「身を切る改革」を超える重要性

以上見てきたように、与党内で検討中と伝えられる比例区に限定した定数削減は、1994年以来の選挙制度改革につながり、今後の日本の政党間対立構図(政党システム)に大きな影響を与えうる。そして、二大政党制か多党制か—といった政党システムのあり方は、政治に加え、経済・社会にも大きな影響を与えることが知られている。両者の功罪を論じるのは別稿に譲るが、維新の言う「身を切る改革」に留まらない重大な意味が議員定数削減問題にはあることを認識した上で、与野党には国会論争に臨んでもらいたい。


[1] 有名なデュヴェルジェの法則(Duverger’s Law)では必ずしも小選挙区制が二大政党制につながるという帰結にはならないが(Cox 1997など参照)、経験則的にはその傾向が強く見られる。

[2]How many countries around the world use proportional representation?” Electoral Reform Society.  https://electoral-reform.org.uk/how-many-countries-around-the-world-use-proportional-representation/

[3] 簡略化のため、得票率については、小選挙区と比例区の得票率を2で割った数値で近似している。

[4] 「定数1割削減法案、自民と維新が今国会提出へ」読売新聞オンライン202632日。他、「衆院定数削減、与党内で『比例のみ』案浮上」毎日新聞電子版2026225日など。

<参考文献>
Cox, Gary W. (1997). Making Votes Count: Strategic Coordination in the World’s Electoral Systems. Cambridge: Cambridge University Press.

加藤創太 (2025).「議員定数削減:実施するならば、社会構造と国民意識に整合的な選挙制度改革を」東京財団, 20251120. https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4827

Taagepera, Rein (1986). “Reformulating the Cube Law for Proportional Representation Elections.” American Political Science Review, 80(2), pp. 489–504.

Electoral Reform Society (n.d.). “How many countries around the world use proportional representation?” https://electoral-reform.org.uk/how-many-countries-around-the-world-use-proportional-representation/

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