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【論考】『財政危機時の緊急対応プラン2025』 発表1年後の振り返り
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【論考】『財政危機時の緊急対応プラン2025』 発表1年後の振り返り

March 31, 2026

東京財団政策研究所(現:東京財団)の政策研究『財政危機時の緊急対応プラン2025』(以下「対応プラン」)は、20253月に発行された。同プランは、日本において財政危機が生じた際に政府・日本銀行が採るべき具体的対応策について、数値シミュレーションや法的・制度的分析に基づき提言を行ったものである。発表後、政府や与野党の場で内容の説明がなされ、各種シミュレーション結果が政府資料やメディアに引用されるなど、実際の政策議論の場で参照がされてきた。その後の1年間で、高市政権誕生後の長期金利急上昇、日本銀行による金融正常化の進展、米国・イスラエルのイラン攻撃による原油価格高騰など、対応プランが扱うテーマをめぐる状況は大きく変動している。

本稿では、財政分野、金融分野でそれぞれ執筆を担った小黒一正氏(東京財団上席フェロー)と愛宕伸康氏(楽天証券経済研究所所長兼チーフエコノミスト)へのQ&Aをまとめた別稿[1]を参照しつつ、対応プラン発表後1年を経た現時点における簡単な振り返りを行う。

現時点での想定内と想定外
危機への備え
終わりに

【政策研究】『財政危機時の緊急対応プラン2025』こちら

【論考】『財政危機時の緊急対応プラン2025』発行1年―― 執筆者Q&A:小黒一正氏・愛宕伸康氏に聞く ――こちら

現時点での想定内と想定外

202510月に「責任ある積極財政」を掲げる高市政権が誕生するなど、発表後の1年で、対応プランに関連する日本の経済・財政・金融をめぐる環境は大きく変動した。長期金利は急上昇し、30年債利回りは20261月に一時3.88%に達して1999年の発行開始以来の過去最高を記録。10年金利も一時2.38%まで上昇した。

IMF(国際通貨基金)は20262月の対日審査声明で、こうした上昇の一因として「国内の不確実性の認識や財政リスクの高まり」を挙げた。愛宕氏は、高市政権誕生後の長期金利の動きから、日本にも債券自警団が存在することが確認できたとし、債券自警団がにらみをきかせることで財政拡大に歯止めをかける重要な役割を果たすと述べる。

財政問題と連動して長期金利が上昇するという動きは、対応プランのメインシナリオである。その意味では、現状は対応プランの「想定内」ではあるが、財政拡張派と目される高市政権の誕生も一因となって、対応プランの想定を上回るペースで長期金利は上昇している。

他方、財政運営面では、2026年度一般会計予算において1.3兆円のプライマリーバランス(PB)黒字を確保するなど、高市政権は世間のイメージとは異なり一定の財政規律を維持している。ただ、現時点までの財政規律維持の大きな要因は、対応プランでも触れたインフレ率の上昇に伴う高い名目成長率によるものであり、愛宕氏が懸念するように、その持続可能性に疑念が生じるリスクは残っている。

対応プランでは、長期金利上昇の際、政府や日銀が動くことでそのペースを抑え込めたとしても、為替で円安方向の調整が起きるというサブシナリオも提示した。昨年(2025年)6月の(超)長期金利上昇に伴い、日銀による出口戦略のスピード調整、財務省による国債発行計画の変更が行われた際には、すでにそうした為替市場の動きが見られている。愛宕氏は、ドル円相場が昨年秋頃から、日米金利差と乖離した形で一方的に円安になったことを指摘する。財政問題については、国債市場だけでなく為替市場も常時モニターする必要がある。

為替市場においては、円安の進行を止めるべく財務大臣などによる口先介入はなされているが、対応プランで詳述したように、円売り介入と異なり円買い(外貨売り)介入には大きな限界とリスクがあり、実際の介入は行われていないようである。最も有効と考えられるのは他国との協調介入であると対応プランでは指摘したが、これは、1月に米財務省の要請を受けニューヨーク連銀が行ったレートチェックにより、一気に円高が進んだことからも裏付けられる。

日銀の金融正常化は、①長期国債買入額の縮小(バランスシートの正常化)、②政策金利の引き上げ(金利の正常化)、の2つの面で概ね対応プランの想定どおりのペースで着実に進んでいる。対応プランが取り上げた日銀の「逆ざや」発生は、2026年度と想定していたが、実際には2025年度上期決算で発生した。タイミングは予想よりやや早かったが、市場の反応は薄く、その点は想定どおりだった。

ただ、昨年6月には金利上昇圧力を受けて日銀が出口戦略のスピードを緩めたほか、政権サイドからは金利引き上げへの慎重論も報じられている。こうした状況を踏まえ、小黒氏は、対応プラン作成時と比べると、金利引き上げペースがビハインド・ザ・カーブ(後手に回る状態)に陥るリスクが高まっていると指摘する。

最後に、米国・イスラエルのイラン攻撃は、当然ながら対応プランの「想定外」の出来事だったが、愛宕・小黒両氏が指摘するように、対応プランで扱った有事・天災など外部ショックが物価・金利に波及するシナリオの一類型であり、その意味では「想定内」でもあった。ただ、小黒氏は、この地政学ショックのスケールが対応プラン作成時の想定を超えているとし、危機への備えの重要性が一層増していると指摘する。

危機への備え

対応プランでは、危機の類型を大きく2つに分けている。1つは「ファンダメンタルズ危機」。これは、危機発生の根本要因が経済財政のファンダメンタルズにある危機を指す。もう一つは「自己実現危機」。こちらは、悲観的な市場心理によって金利が非連続的に上昇し、自己実現的に危機が深まるものである。市場の心理的要因に起因する突発的な危機である。なお、両者は相乗的に生じることも多く、完全には峻別できない。

2つの危機のうちファンダメンタルズ危機は、各種の経済ファンダメンタルズから見て、起こるべくして起こる危機である。対応プランの検討はこちらを中心に行い、「危機の予兆段階」を長期金利4%〜5%、「危機の初期段階」を長期金利7%10%と定義した上で、各種シミュレーションを行った。

もう一つの自己実現危機は、理論的検討によれば、債務水準が非常に低い国でも発生しうる[2]。対応プランでも、非常に可能性は低いものの、今の日本、あるいは日本よりだいぶ財政状況が健全な国においても、何らかのきっかけで市場心理が悪化すると、危機が自己実現する可能性があることを指摘している。

高市政権発足後、金利上昇と円安の進行を受けて、「日本版トラスショック」への懸念が盛んに語られた[3]。実際、拡張的な財政政策は、財政規律への不安を通じて市場心理を悪化させる引き金になりうる。自己実現的な危機は、こうした心理の悪化そのものが主因となる以上、未然に防ぐには政府と市場の丁寧な対話が欠かせず、高市政権もこの点は意識的である。内外の政治経済情勢が不安定化する中、財政規律への政府のコミットメントを通じ、市場の信認を確保していくことが肝要となる。

ただ、自己実現危機については、政府と中央銀行が迅速かつ適切な対応を取り市場心理を沈静化させることができれば、発生したとしても比較的短期で収拾させることが可能である。トラスショックも、大混乱とはなったものの比較的短期で収束した。対応プランでも危機時の各種市場対策をまとめているが、世界的に市場が不安定化する中、発生確率は非常に低いとはいえ、政府や日銀においても突発的な自己実現危機への備えは必要となろう。

より本質的な危機はファンダメンタルズ危機である。ただ、こちらについては、まだ切迫した状況には至っていないというのが対応プランの見立てで、それは現時点も同様だ。金利は上昇傾向にあるものの、「危機の予兆水準」として設定した4%5%にはまだ余裕がある。さらに、普通国債残高の平均残存期間は95ヶ月であり(202512月末)、たとえ金利が急上昇したとしても、利払い費への影響が顕在化するには相応の時間を要する。

ただ、愛宕・小黒両氏が指摘したように、金利水準は対応プランの想定より早いペースで上昇している。地政学ショックなどに伴う不確実性も増している。本年326日に経済財政諮問会議に招かれたハーバード大学のケネス・ロゴフ教授は、日本の長期金利は、今後10年間のうちに3%に達する可能性もあると述べた[4]。これは、私たちが対応プランで行ったシミュレーション結果とほぼ一致する。

将来的なファンダメンタルズ危機を回避するためには、財政の持続可能性を確保し、市場の信認を維持することが不可欠である。その前提として、対応プランのシミュレーションが示すように、公的債務残高の対GDP比を安定的に引き下げていく必要がある。そして、そのためには、プライマリーバランスで一定の黒字幅を継続的に確保しなければならない。これは対応プランで強調したことだが、前述の経済財政諮問会議でも、ロゴフ教授に加え、MITのオリビエ・ブランシャール名誉教授が、公的債務残高の対GDP比を安定化、あるいは安定的に低下させる必要があると指摘した。 

終わりに

対応プランの発表から1年、金利上昇のペースは想定を上回り、地政学リスクという新たな不確実性も加わった。財政危機は今なお確率の低いテールリスクであるが、その発生時の影響は甚大である。だからこそ、平時のうちに備えを固めておくことの重要性は、この1年でむしろ高まったと言える。対応プランについて、今後も機会があれば、こうした振り返りなどを続けていきたい。


[1] 【論考】『財政危機時の緊急対応プラン2025』発行1年―― 執筆者Q&A:小黒一正氏・愛宕伸康氏に聞く ―― https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4922

[2] Blanchard, O. (2023). Fiscal Policy under Low Interest Rates. The MIT Press.

[3] たとえば、石川智久『高市政権の経済対策をどうみるか—日本版トラス・ショックを回避せよ』。日本総研・経済・政策レポート。20251121日。https://www.jri.co.jp/report/economistcolumn/detail/16268/

[4] 「高市政権、海外著名学者招き日本の積極財政を議論—責任ある姿勢発信」Bloomberg. 2026326日。https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2026-03-26/TCH9KGT96OSJ00


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【論考】『財政危機時の緊急対応プラン2025』発行1年―― 執筆者Q&A:小黒一正氏・愛宕伸康氏に聞く ――こちら

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