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『財政と民主主義』プロジェクト 政策提言

July 21, 2026

本政策提言は、東京財団『財政と民主主義』プロジェクトの検討内容をまとめた書籍『財政と民主主義:ポピュリズムは債務危機への道か』(加藤創太・小林慶一郎編著、日本経済新聞出版社、2017年。以下「書籍」という)において提示した政策提言を、一部加筆修正し再掲したものである。


財政不均衡の最大要因は経済ではなく政治なのではないか——この観点から、東京財団『財政と民主主義』プロジェクトは検討を進めてきた。したがって、以下で挙げられる対応策は、従来の経済・財政政策、社会保障政策の枠内に収まらない。もちろん適切な経済・財政政策、社会保障政策を立案していくことは、財政不均衡是正にとり重要だ。しかし、適切な経済・財政政策のあり方以上に、適切な経済・財政政策が民主主義過程で政治的に通らないことの方が問題だと考える。

よって以下の対応策には、経済・財政政策のあり方に加え、民主主義過程のゆがみを是正する措置や、世代間対立など民主主義が従来想定していなかった事態に対応するため必要な措置が含まれている。法的には、本政策提言には、議会運営改革など法律・規則の運用レベルでの対策から、抜本的な選挙制度改革など憲法改正レベルの対策までが含まれる。

提言1.有権者の判断軸を長期化するための改革

書籍(第1章)では、有権者が近視眼に陥り、財政バラマキや減税などの「財政ポピュリズム」が過剰に支持されるメカニズムを検討した。安易で抽象的なポピュリズム論で民主主義を悲観するのではなく、近視眼が生じる要因を具体的に探り、その要因に合った対策を打っていくことが必要となる。

有権者の「合理的な近視眼」と「非合理的な近視眼」とに分けて検討したが、特に前者の問題を緩和するには、いかに十分な情報が有権者に流通するかがカギとなる。まず必要なのは、政府による財政情報の徹底開示である。先進民主主義国家の中でも最高レベルの情報開示制度を導入すべきだ。

ただ、政府による情報開示だけでは、政府―有権者間の情報格差は埋まらない。政治情報について、有権者の情報収集インセンティブは弱いからだ。有権者の情報収集・分析コストを削減する対策も必要だ。たとえば、政府や官民機関による長期的な将来推計の提示、財政の一覧性の確保などが考えられる。政治情報の媒介・分析機関としてのメディア、シンクタンク、政党などの役割も重要となる。

政府や政党への信頼も、有権者の判断軸の長期化に資する。政党については「責任政党」の確立が必要だ。そのためには、政党法を導入し透明化を図ることなどを通じ、有権者による政党ガバナンスを強化する必要がある。

提言2.選挙制度の改革

書籍(第2章)では、選挙制度の問題について論じた。「シルバー民主主義」仮説が成立する場合、急速に少子高齢化が進展する中でさらに検討が必要なテーマは、「政治的意思決定の時間軸を長くする選挙制度」である。

人口構成比に応じて世代ごとに議員の議席数を配分する制度や、「ドメイン投票制」(子どもに選挙権を付与した上で親が代理で投票)、「余命投票制」(世代別選挙区の拡張で各世代の平均余命に応じて世代ごとに議席数を配分)といった新しい選挙制度の導入もタブー視すべきではない。

また、選挙制度改革とは別に、世代別の利害にとらわれないような意思決定を有権者に働きかけるため、政策分析局や財政機関の設置(例:オランダの経済政策分析局やイギリスの財政責任庁)も検討するべきである。

さらに、被選挙年齢の引き下げ等で若い世代の政治への人材供給ルートの拡大を進めることも重要である。超高齢化社会が到来するのはこれからであり、財政・社会保障の抜本改革が不可欠であることはいうまでもないが、その意思決定の土台となる民主主義のあり方についても、いまから十分な議論を深めておく必要がある。

提言3.政治哲学の変更

書籍(第3章)では、合理的かつ利己的な個人からなる現代社会において、財政再建のような世代を超えた超長期の時間軸でのコミットメントを行うことが可能なのか、という問題を考察した。

一般に、現在世代がコストを支払い、将来世代が利益を受ける政策の実施は不可能である。もし実施すれば現在世代の個々人はコストだけを支払わされ、利益を得られないからである。

こうした問題を解決するためには、各人が将来世代への利他性を持てるように政治哲学を変更するべき時代が来ているのかもしれない。具体的には、現在の支配的な政治思想である個人主義的自由主義を超え、次世代への社会の継承に大きな価値をおく政治哲学を共有することまでが求められているのかもしれない。

また、世代間のコミットメント問題を引き起こすと予想される技術や制度の使用を自制し、普及させない、という新しい社会規範を共有する必要も出てくるだろう。

民主主義国家において、世代を超えた超長期の時間軸で財政の自己規律を確保することは、現代における人類共通の課題である。各人が将来世代への責任を自覚した行動をとれるようになるために、新しい政治哲学が必要である。

提言4.予算制度の改革

書籍(第4章)では、わが国の予算制度の問題点が吟味された。日本の財政は、他国と比べ透明性が低く規律が弱い。日本において財政の基本を定めているのが財政法であるが、同法が規定する財政ルール(税収と歳出を毎年一致させるという均衡予算原則)はまったく機能していない。財政法は目的規定もない時代遅れの立法であり、同法を抜本的に改編し、日本版財政責任法を制定するべきである。

その柱は、①財政運営の基本原則とそれに基づく財政目標の導入、②財政運営の前提として慎重な経済成長率や金利などの見通しを使うべきこと、③中期財政フレームによる将来の歳出の拘束と予算執行の弾力性付与、④目標の達成状況の半年ごとの検証と目標から乖離した場合の是正措置、⑤政府の財政政策を検証する独立財政機関を国会に設置、などである。

また、予算とは大切な資源を巡る政治的な意思決定プロセスであり、政府(首相・財務大臣・各省大臣)、与党、議会の関係を整理する必要がある。与党の意見を吸い上げ調整する仕組みは必要であるが、与党議員が拒否権プレーヤーとして行動することを抑制する必要がある。与党と協議しつつも、最終的には政府が意思決定を行い、そのチェックは国会が行う、というかたちの統治機構を構築すべきである。

提言5.国会運営の諸問題についての改革

書籍(第5章)では、国会運営の諸問題について論じた。国会が財政規律の維持に貢献するためには、すでに国会に付与されている権限を活用し、さらに新しい工夫を凝らして、財政監視の実効性を高めていかなければならない。そのためには、衆参両院の審議を改革することが先決問題である。

国会審議の空洞化を招いた直接的な原因は与党による事前審査制にある。事前審査という方法に頼らないですむように、ある程度内閣の主導権を確保し、国会の場で内閣と国会との間の議論を実施できるように、国会運営の制度を改めなければならない。少なくとも、内閣が提出した議案については、国会審議開始後も内閣による修正を自由に行えるように国会法を改正する必要がある。

審議をより充実させ、実質化するための改革も必要となる。審議改革の方向の一つとして、事前審査制のもとで定着してきた審議慣行を見直し、委員会審査の自由化や党首討論の活性化によって論戦を活性化していくことなどが挙げられる。

提言6.社会保障と地方財政の改革

書籍(第6章)では、社会保障と地方財政の改革について論じた。予算の膨張の大きな要因は社会保障と地方財政にある。現在の社会保障・地方財政など支出の基本的な仕組みは、日本が発展途上だった時代に形成された「分配モデル」に基づく。これを抜本的に改革する必要がある。

公的サービスの原則は、本来「負担なくして受益なし」でなければならない。保険原理と再分配原理を区別し、公私の役割分担を明確にする必要がある。保険のガバナンスを強化する一方、最低保障について政府の役割を強化し、一般財源を効果的に投入する。具体的なモデルとしては、年金についてカナダ、医療についてはオーストラリアやオランダが参考になる。

地方財政については、国と地方の役割分担を明確にし、それに応じて財源を手当てする仕組みを再構築するべきである。真の地方分権を目指すのであれば、地方間の格差の拡大を許容しなければならない。国による財源保障は限定し、地方間の財源格差の調整を主とする水平的な地方交付税制度の構築を目指すべきである。

提言7.デフレ脱却と経済成長についての判断枠組み

書籍(第7章)では、デフレ脱却と高い経済成長が実現すればそれだけで財政再建が進むという考え方について、批判的に検討した。

日本経済の将来の展開を各時点で断定的に議論することは、もとより不可能である。必要なのは、あり得るいくつかのシナリオについて、その蓋然性を評価し、その上で、将来に発生し得るより大きな社会的コストを回避するため、現在どの程度の対応をすべきかということについての冷静な判断であろう。

日本の財政が破綻するかどうかの判断は人によって大きく違う。その判断の幅を、民主主義の手続きを通じて集約し、長期的な視野からみたマクロ経済的に最適な政策判断に結び付けることが重要である。

現時点での政府の歳入・歳出面の制度的変更は、「将来発生する可能性のある一定のリスクを回避するためのコストを社会全体として今払うことだ」との認識に立ち、そのリスクの大きさに対する評価に応じて進めていくべきものである。

8.まとめ

書籍では、選挙制度、政治哲学、国会運営など、法律レベルの改革だけでは対応できない問題が提起された。財政膨張に象徴される政治システムのゆがみに対応するには、法改正だけではなく、憲法改正、思想改革をともなうような民主主義の大改革まで視野に入れることが必要となっていることを指摘したい。

他方、具体的改革の方向性についても、いくつかの有望な案が示された。憲法レベルの改革から、予算制度・社会保障・地方財政などの財政政策領域まで、世界各国の先例から、まだまだ学ぶべき点は多い。「痛みのともなう制度改革を実行しなくても、経済成長によって自然に財政問題は解決する」といった希望的観測に頼ることの問題点も検討し、そのリスクを示した。

財政問題を後ろ向きの問題として封印せず、民主主義の再設計に取り組むきっかけとして前向きにとらえなおし、国民各層の広範な議論の対象とすることが求められている。

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