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【論考】日本版DOGEは機能するのか?
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【論考】日本版DOGEは機能するのか?

July 29, 2026

■410日に、佐藤上席フェローは、森信シニア政策オフィサー土居上席フェロー小黒上席フェローとともに、政策提言「『給付付き税額控除』の導入に向けた具体的な制度設計」を発表いたしました。詳細はこちらをご覧ください。

「税・社会保障研究 レビュー・論考・コラム」
令和710月より、「税」や「社会保障」をテーマとしたコラム(Review)を、以下の執筆者が交代で執筆してまいります。掲載されたコラムは「まとめページ」からご覧いただけます。
小黒一正(東京財団上席フェロー/法政大学経済学部教授)、佐藤主光(東京財団上席フェロー/一橋大学国際・公共政策研究部教授)、土居丈朗(東京財団上席フェロー/慶應義塾大学経済学部教授)、森信茂樹(東京財団シニア政策オフィサー)

骨太の方針2026と日本版DOGE
民主党の事業仕分け
補助金・租特コードの作成
政策効果の異質性
日本版DOGEの法的拘束力
おわりに

骨太の方針2026と日本版DOGE

「責任ある積極財政」を進める高市政権の下で「骨太の方針2026」が取りまとめられた。危機管理投資・成長投資を強化するなど国の歳出規模は「経済の成長力強化と名目の経済規模の拡大にふさわしいものとする」。他方、財政規律にも一定の配慮が見受けられる。「租税特別措置や補助金等の点検・見直しを進め、施策の優先順位を洗い直し、大胆に重点化する」という。その一環として昨年11月、内閣官房に「日本版DOGE」(正式名称は「租税特別措置・補助金見直し担当室」)が新設された。これはトランプ米政権でイーロン・マスク氏が率いた政府効率化省(DOGE)を念頭においた仕組みである。政策効果の乏しい租特・補助金を省庁横断的に洗い出し、縮減・廃止を行い、以って財政赤字に頼らない形で積極財政の財源をねん出することが狙いだった。「実質ゼロ」とする食料品への消費減税(給付等を含めて財政負担は5兆円規模)の財源候補にも挙げられる。

 

  図表:日本版DOGE  

  

出所:内閣官房(令和7年12月2日)「租税特別措置・補助金見直しに関する関係閣僚等及び副大臣会議」

 

 もっとも各省庁による自主点検の対象となった約120件余りの減税等優遇制度のうち廃止の方針が示されたのは1件のみだった。その1件とは2024年度の開始からこれまで申請実績のない企業の事業再編にかかる登録免許税の軽減措置であり、財源の捻出にもならない。この結果に対して日本版DOGEの担当大臣でもある片山財務相は「我々査定官庁から見て是認されるものではない」と不満を表明している(日本経済新聞202677日)。

民主党の事業仕分け

ここで想起されるのが民主党政権(20099月~201212月)の下で行われた「事業仕分け」だ。当時の民主党は子ども手当、公立高校の実質無償化等をマニフェストとして掲げて政権交代を実現した。その経費は国の予算の無駄の削減等で工面するものとされた。その目的に創設されたのが「行政刷新会議」である。平成222010)年度予算の編成において行政刷新会議は3兆円以上を削減目標としていた。しかし、実際に事業が「廃止」や「予算削減」となり、概算要求から削減されたのは7400億円余り、これに公益法人や独立行政法人の基金のうち国庫への返納が求められたのが約8400億円を合わせて「仕分け効果」は総額約1兆6千億円に留まった(朝日新聞20091127日)。ただし、基金からの返還は一度限りの財源に過ぎない。翌年の事業仕分けでも概算要求ベースでの削減額は2千億円だった(日本経済新聞20101119日)。ややもすれば「大山鳴動(たいざんめいどう)して鼠(ねずみ)一匹」の感が否めない。

そもそも市場は「責任ある積極財政」に対して懐疑的だ。中東情勢やインフレに加え財政悪化リスクへの懸念もあり、新発10年物国債利回りは2.8%を超えてきた(20267月上旬時点)。これは199610月以来約30年ぶりの高水準である。骨太方針の原案から財政の「健全化」という文言が無くなった他、日本銀行の金利引き上げを牽制しているとの指摘もあり、「骨太ショック」とも揶揄されている。財政への市場からの信認を得るには経済成長への期待感ではなく、財源確保の具体的な金額と方策が必要だ。ではどうするか?

補助金・租特コードの作成

日本版DOGEであれ、民主党の事業仕分けであれ、租特や補助金を個別に取り上げて、その有効性を問う傾向がある。その基準は「絶対」評価になり易い。政策は目的とその手段に区別される。例えば、イノベーションの創出を政策目的として研究開発税制はその手段と位置付けられる。ただし、目的と手段は一対一で対応しているわけではない。同じ政策目的に対して複数の事業=手段が在り得る。イノベーション促進であれば、政策減税以外にもイノベーションを担うであろう新興企業の参入を促す規制改革が在り得る。他にも内閣府が主導する戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)、中小企業を対象とした経済産業省の「成長型中小企業等研究開発支援事業」や「中小企業イノベーション創出推進事業(SBIR)などの補助金もある。であれば、手段の是非は絶対評価ではなく、他の手段との「相対」評価で問われることとなろう。

一般に政策体系は政策=目的、施策=広義の手段、及び事業=個別の手段から構成される。日本版DOGEも政策目的を共有する複数の政策手段を取り上げ、いずれに注力すべきかを議論するのが有益と思われる。ここで課題は手段としての租特・補助金等が省庁間、あるいは同じ省庁内でも担当局間で分立していることにある。とはいえ、現在のAI技術を駆使すれば、「類似事業」とも称されるが政策目的の似通った事業を識別することは不可能ではないはずだ。実際、筆者も参加したNHK「検証コロナ予算77兆円」(20211229日)では1万ページに及ぶ「行政事業レビューシート」のデータをAIで解析、医療機関支援、飲食支援等、多数のコロナ関連事業を分類していた。コロナ予算に限らず、租特や補助金のような事業を根拠法令や政策目的等に応じて省庁横断的にコード化できないだろうか?これは産業分類に似ている。わが国では総務省が定める「日本標準産業分類」が基準となっており、大分類(例:製造業)、中分類(例:食料品製造)、小分類(例:畜産食料品製造)のように階層化される。個別の租特・補助金に小分類コードが割り振られるとして、中分類、例えば「イノベーション創出」という政策目的が同じコードであれば(省庁の枠を超えて)類似事業と見做すことができるだろう。なお、一事業が異なる政策目的を有するときは「主たる」目的を事業コードとする。産業分類コードでも一企業が異なる複数の分野で経済活動を行っている場合、「主たる経済活動(売上高や付加価値が最も大きい事業)」を基準にコードを付与するのが原則だ。

政策効果の異質性

評価の「相対化」と合わせて肝要なのが、事業の「重点化」だろう。租特であれ、補助金であれ一概に有効かどうかは定かでない。政府税制調査会のEBPM検討会では研究開発税制が機能していないとのデータが財務省から提示されていた。[1]他方、資金制約のある中小企業の投資を喚起するという実証分析もある。[2]所管省庁はえてして支援が有効か否かに関わらず分野・企業属性を「玉石混交」のまま支援の継続を主張しやすい。とはいえ、一蓮托生に事業費をカットすることには政治的な抵抗がある。とすれば、政策効果を対象毎に「セグメント分析」して有効性が確認された分野・企業属性に重点化する見直しがあって然るべきだろう。ここで正しい問いは全体的な効果の有無(=マクロ)ではなく、どこで効果が発現するか(=ミクロ)ということになる。実際、政策の因果推論を行う「差の差(DID)分析」では介入の対象やタイミングに応じた効果の異質性が重要視されるようになってきた。

日本版DOGEの法的拘束力

最後に法的拘束力だ。日本版DOGEの点検・見直し自体に法的拘束力はない。あくまで各省庁の自主的な内部点検であり、実際の予算削減には国会での法改正や予算審議のプロセスを経る必要がある。法的拘束力の欠如は民主党の事業仕分けも同様だった。一旦廃止・縮減になった事業でも予算措置があれば、「看板」を代えて継続させる余地もある。筆者は以前の論考で「財政ルール」の必要性を強調していた。[3]全ての補助金・租特等に期限を設定して、原則、期限が来たら廃止する「サンセット方式」、新たな租特や補助金を講じる際、同額の歳出削減あるいは増税措置を義務付ける「ペイゴー原則」(Pay-as-you-go原則)が挙げられる。こうした財政ルールではなくても日本版DOGEの実効性を高めるのに参考になるのは「規制改革実施計画」かもしれない。規制改革実施計画とは、「規制改革推進会議」(内閣総理大臣諮問機関)の答申に基づき、政府として計画的かつ着実に規制の見直しを行うために策定される閣議決定の文書を指す。各省庁には期限を定めた上で具体的な対応が求められる。これに倣って日本版DOGEについても省庁の自己点検に代え、総理もしくは財務大臣直属の諮問機関の決定事項が閣議決定される実施計画を作ってはどうか?現在、総理を議長として行政事業レビュー実施を担っている「行政改革推進会議」をその諮問機関とするのも一案だ。

おわりに

「骨太の方針2026」にあるように「伸ばすべき歳出と見直すべき歳出を峻別する、規律ある資源配分を実現する」というのは簡単だ。問題はその実現可能性にある。政治的スローガンではなく実効性のある体制がなければ市場や国民からの信認は得られそうにない。


[1]https://www.cao.go.jp/zei-cho/content/7ebpm6kai1.pdf

[2]https://www.rieti.go.jp/jp/publications/rd/070.html

[3]https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=4847

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