都道府県ウェルビーイング政策の実践 | 研究プログラム | 東京財団政策研究所

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都道府県ウェルビーイング政策の実践
写真提供:Getty Images

都道府県ウェルビーイング政策の実践

February 16, 2024

R-2023-090 

地方自治体におけるウェルビーイング指標の活用は、2023年度の「骨太方針」にも記載され、今後ますます重要な課題となる。15程度の都道府県がウェルビーイングあるいは幸福度の向上を政策目標の一部として掲げ、中でも茨城県、岩手県、熊本県、群馬県、富山県(五十音順)が特に先進的である。各県は独自の特性を活かして個別の指標体系を構築し、政策立案に活用している。しかしながら、各県が独自のアプローチで取り組んでいることから、全国的な地方自治体ウェルビーイング政策に関する知見は蓄積されていない状況である。

そこで、本研究プログラムでは、都道府県ウェルビーイング政策に関する情報共有、連携強化、優良事例の横展開を目的として、ウェビナーおよび意見交換会を実施した。

意見交換会は自治体の政策企画部などのウェルビーイング政策に関わる部署の担当者を対象として対面の形で行い、9県1都市(茨城県、岩手県、沖縄県、熊本県、群馬県、滋賀県、富山県、福井県、山形県、横浜市)から参加を得た。ここでは、意見交換会での自治体政策担当者の声を中心に、ウェルビーイング政策を実践する中で見えてきた課題と展望について述べる。

1)都道府県がウェルビーイングを旗印として掲げることによる効果
2)都道府県ウェルビーイング政策における課題
3)都道府県ウェルビーイング政策における課題の解決策
4)ウェビナーおよび意見交換会における議論のまとめ・考察

1)都道府県がウェルビーイングを旗印として掲げることによる効果

まず、都道府県がウェルビーイングを旗印として掲げることにより生じる効果について述べる。ウェルビーイングとして行政が取り扱う分野は、これまで福祉として取り扱われてきた分野とその多くが重なる。それにも関わらず、ウェルビーイングを行政が旗印として掲げ、ウェルビーイング指標を運用することにはどのような意義があるだろうか。

すでにウェルビーイング指標を導入している県から以下のような意見が挙がった。

  • ウェルビーイングを可視化できたことで、ウェルビーイングの向上を目的とした政策について考えられるようになった。
  • 県庁内で部局横断的な課題意識を持つことができた。
  • ウェルビーイングを旗印として大局的に政策を整理する中で、取り組みが弱い分野を見つけることができた。
  • ウェルビーイングが地域ごとや個々人で多様であることを再認識できた。
  • 主観的ウェルビーイングを評価することで、住民が政策に対してどのような考えを持っているのかという政策の質的な評価が可能となった。

2)都道府県ウェルビーイング政策における課題

しかし、都道府県ウェルビーイング政策を効果的に実行するにはいまだ課題が残る。ウェルビーイング指標を基にした施策の立案・効果検証が難しい要因は大きく以下の3つに分けられる。特に①については、政策担当者からの声としても、主観的ウェルビーイングを政策のなかでどのように位置付けるかについて課題があることが改めて浮き彫りとなった。

総合的な主観的ウェルビーイングを変動指標として取り扱いにくいこと

総合的な主観的ウェルビーイング、あるいは、幸福度の総合実感は短期間で変動しないことが世界的な調査で明らかになってきた。本邦においても、主観的ウェルビーイングを10年前後にわたり観測してきた熊本県と岩手県の調査で同様の傾向が見られた。したがって、総合的な主観的ウェルビーイングを短期的な変動指標として捉え、県の成果としてその向上を目指すことには様々な課題がある。また、そもそも、集団のウェルビーイングを「向上させる」という考え方自体の危険性を指摘する県もある。例えば、岩手県では、集団のウェルビーイングを「向上させる」という考えはなく、あくまで気づきを得られるツールとしてウェルビーイング指標のモニタリングを行っている。

②住民のウェルビーイングに対する県政の影響が限定的であること

住民のウェルビーイングに関する調査結果を解釈する上で、県の取り組みによる要素を他の要素から分離することは困難である。そもそも個人のウェルビーイングは政策以外の要素が多く含まれ、さらに、政策の要素の中にも、県の取り組みだけでなく、国や市の取り組みが含まれる。住民のウェルビーイングを解釈する上でこれらの要素を分離することは難しく、また、政策立案の段階においてもウェルビーイングに関わる全ての領域について県政が関与することはできない。

③ウェルビーイングに関するロジックモデルの検証にコストがかかること

ロジックモデルとは、文部科学省の定義では、ある施策がその目的を達成するに至るまでの論理的な因果関係を明示したものである。具体的には,インプット(投入)→アウトプット(結果)→アウトカム(成果)という政策の流れについて,予想される仮定の連鎖(ロジック)について,その因果関係が妥当であるかどうかの観点から論理的評価を行うものである。いくつかの都道府県ではすでに住民のウェルビーイング向上のためのロジックモデルの構築が行われている。ロジックモデルの可視化により、県庁内、あるいは県民に対して理解の不一致が起こりにくくなるため、ロジックモデルの構築は非常に重要である。しかし、ウェルビーイングに関わる全ての政策領域でロジックモデルの検証を頻繁に行うことは人的資源などが限られる中においては難しい。

3)都道府県ウェルビーイング政策における課題の解決策

前項の課題と対応させて、その解決策について考察する。

①ウェルビーイング指標の活用方法を定める

ウェルビーイング指標をどのように取り扱うべきかについてはグローバルでもいまだ結論が出ていない。本邦の先進事例では、以下のようにウェルビーイング指標が活用されており、その事例から見えてくる解決策の方向性を検討する。

(ア)総合的なウェルビーイング指標の取り扱い

総合的な主観的ウェルビーイングは個別の事象に対する反応性が低く、変動しにくい指標である。そのため、施策のアウトカムとして総合的な主観的ウェルビーイングのみを用いることは難しい。しかし、住民を属性ごとに層別化することで主観的ウェルビーイングが低い層を特定し、重点的に対策を行うべきターゲットの絞り込みを行うことは非常に有効である。

例えば、若年女性のウェルビーイングが低いことは多くの県で指摘されているが、それだけでなく、例えば富山県では40代の男女や製造業従事者の総合的な主観的ウェルビーイングが低いことを調査で捉えている。40代に介入する行政サービスが少なく不十分なのではないかという発見があった他、富山県の主力産業である製造業従事者のやりがいや働きがいが低いという気づきにより、製造業の設備支援のようなハード面からのアプローチだけでなく、そこで働く人々の働きがい向上や、夢や目標の実現という観点からの施策が必要ではないかとの仮説につながっている。

(イ)主観的ウェルビーイング指標と、領域ごとの客観的ウェルビーイング指標の取り扱い

主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイングはそれぞれ役割が異なる。主観的ウェルビーイングは変動しにくく長期的な指標として捉えられる一方で、領域ごとの客観的ウェルビーイングは短期的な指標として捉えられる。また、客観的指標は施策との連動性が高く、対外的に説明する際に用いやすいという特徴がある。例えば、茨城県は、客観的指標のみで他県との順位付けを行うことで、客観的に自県の強みと弱みの把握を行っている。茨城県は犯罪防止に関する指標が全国の中で相対的に低いという課題を把握し、住宅侵入を防ぐ街頭防犯カメラを増やすなどの取り組みにつなげている。

一方で、客観的指標のみではカバーしきれない領域があることもまた指摘されるところであり、主観的ウェルビーイングの測定も必要である。例えば、富山県では若者の主観的ウェルビーイングの測定結果から、総合的な主観的ウェルビーイングは高いものの地域とのつながりに関する要素が弱いことを捉えている。この結果は、若者の県外への流出と関連すると考えられ、富山県は10〜20代の若者をターゲットとして地域との良好なつながりの実感を向上させる施策を立案することで、県内で自己実現が達成できるようなワクワク感の向上を目指している。

なお、主観的ウェルビーイングを領域ごとに評価する方法は様々である。例えば、熊本県は満足度だけでなくその領域を重視するかどうかという質問を同時に行っており、それにより領域ごとにウェイトを付けた整理を可能にしている。一つ一つの領域について、個人がウェルビーイングの要素の一つとしてその領域を重要と捉えているかどうかで個人のその領域における満足度の意味合いも変わる。そのため、満足度とその領域を重視するかどうかを同時に評価することが、行政として介入すべき領域の優先順位付けに役立っている。

さらに、主観的ウェルビーイングは人と数値を比較するものではなく、自分にとってのウェルビーイングが何かということを自覚し、多様性を認めあうツールとしても働く。例えば、富山県は一人ひとりのウェルビーイングを花の形で表す取り組みを行なっている。具体的には、「現在の総合実感」を花の中心に据え、「心身の健康」や「経済的ゆとり」など7つの要素を花びら、「調和とバランス」をそれらを支える茎、「家族、友人、職場・学校等、地域とのつながり」を葉、さらに、生活の基盤として根をはる「富山県とのつながり」を土壌に見立てウェルビーイングを表現している。ウェルビーイングを構成する要素をわかりやすくビジュアル化することで県民一人ひとりがウェルビーイングを自分ごととして捉えることが可能となり、また、指標同士の関係性も直感的に理解しやすくしていると考えられる。

また、主観的ウェルビーイング指標の別の意義として、主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイングとの間でギャップのある領域を見つけられるということがある。領域によっては、主観的ウェルビーイングと客観的ウェルビーイングの測定結果にギャップが存在し、そこに課題やニーズが隠れている可能性がある。例えば、滋賀県では、毎年度実施している「県政世論調査」において設定している「公共交通が整っていると思うか」という質問に対して、都市部はそれ以外の地域と比較して公共交通が整っているにも関わらず、都市部の方が「整っていない」という回答が多くなった年があった。そのギャップの原因について、都市部の方が公共交通に対する期待値が高いためであるのか、あるいは、細かく分析すれば層ごとに需要が異なっているのか、評価と意味の解像度を上げることで課題や解決策が見える可能性がある。

②住民のウェルビーイングに対して県政として関与できる分野の絞り込みを行う

住民のウェルビーイングを構成する要素の中で、県としてできることは限定的であり、具体的に施策に落とし込む際には分野を絞る必要がある。

例えば、多くの県で若年女性のウェルビーイングが低いという課題が指摘されている。この課題に対する県の施策として、家庭科の充実、放課後プログラムの充実による体験格差の解消、地元国公立大学への進学率の向上、男性側のジェンダーバイアス是正のためのスキル向上などが考えられる。若年女性のウェルビーイングの低下は、20代、30代の女性の県外への転出と関わっていると考えられ、転出率を下げるためには10代にアプローチすることが必要である。

家庭科教育を充実させることは、男女の家事参加率の不均衡の是正やSDGsの浸透などにつながり、生活における基本的な価値観を育む中でその地域で過ごすことの素晴らしさを実感することにもつながる。

あるいは、学校の空き時間である放課後の時間にさまざまな体験プログラムを提供することも有効であると考えられる。現在行われている学童保育は生活の場としてのみ捉えられているが、そうではなく、地域のさまざまな人々が参画し、体験を共有する場としての放課後教育が、体験格差の是正につながり、子どもたちの現在から将来にわたるウェルビーイングや進学率の向上につながると考えられる。

また、地元の国公立大学への女性の進学率を上げるような施策を行うことも、若年女性がその地域で暮らすことに自信や希望を持つことにつながる。

さらに、男性側のジェンダーバイアスを是正する施策も有効である。特に地方においてはジェンダーバイアスがいまだ根強く存在し、ウェルビーイングと強く関係する要素である生活上での選択肢を狭め自己決定を妨げることで、若年女性のウェルビーイングを大きく低下させていると予想される。

③領域ごとに濃淡をつけたロジックモデルの構築と分析を行う

いくつかの県ではウェルビーイング政策におけるロジックモデルの構築がすでに進められている。ウェルビーイングを旗印として、客観的な指標と主観的な指標が互いに補完し合うようなロジックモデルの構築が必要と考えられる。しかし、ウェルビーイングに関わる全ての領域におけるロジックモデルを頻繁に評価することは、行政リソースが限られる中においては負担が大きく、領域ごとに評価のウェイトに濃淡をつけることが、ウェルビーイング政策をより多くの自治体で実践する上で必要であると考えられる。

4)ウェビナーおよび意見交換会における議論のまとめ・考察

地方自治体ウェルビーイング政策は、一見、地方自治法にうたわれている「住民福祉の増進」に向けた取り組みの呼び方を変えただけのようにも捉えられる。

しかし、ウェルビーイングを旗印とすることは、既存の取り組みをウェルビーイングという枠組みで整理し直す中で、これまで足りなかった視点に気づくことができるという大きな意義がある。これまで行政サービスが行き届いていなかったターゲット層を発見し、また、文化・芸術などのこれまで行政であまり顧みられなかった領域の重要性を再検討することにつながる。また、県内での地域ごとのウェルビーイングの違いを明らかにすることは、それぞれの地域の特性を生かした施策を行うことにも役立つ。さらに、ウェルビーイングを旗印とすることは、縦割りになりがちな行政の取り組みに横串を入れ、部署間の連携を促すことにもつながる。

なお、ウェルビーイング政策を実践する上では、主観的指標と客観的指標の両方を組み入れたウェルビーイングのロジックモデルを構築し、施策の立案・評価を行う必要がある。ただし、指標を施策の立案・評価に用いる上では、全体的な主観的ウェルビーイングは変動しにくいことを念頭に置き、主観的ウェルビーイングに影響すると予想される、領域ごとの下位指標を評価して運用することが大切である。また、ウェルビーイングを構成する要素の中でも行政として関与できる領域とそうでない領域とに分けてロジックモデルの運用に濃淡をつけ、分野を絞って具体的な取り組みを行うことが必要と考えられる。


2023年1020日に実施したウェビナー「都道府県で共創する未来〜ウェルビーイング政策に関する優良事例の共有と連携強化〜」は、こちらの記事をご参照ください。

【動画・資料公開】ウェビナー「都道府県で共創する未来〜ウェルビーイング政策に関する優良事例の共有と連携強化〜」

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