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パンデミックの出口戦略を考える ‐ 過ぎ去りしことは、正しき序幕と成り得るか
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パンデミックの出口戦略を考える ー 過ぎ去りしことは、正しき序幕と成り得るか

January 24, 2023

R-2022-096

Abstract

COVID-19パンデミックが長期化し、なし崩し的とも言える「ウイズ・コロナ」体制への変化の中で、私たちはその出口を見据えた政策をどう考えるべきだろうか。感染症対策は、経済学で言うところの「市場の失敗」に直面するため、公的機関の政策介入、すなわち公共政策が不可欠である。だが公共政策の多くには、予期せぬ外的変化への応急処置という側面があり、このことが多くの課題を生み出す。たとえば現状を確率論的に評価すること(確率論的リスク評価)が難しくなることで、最悪の事態のみが想定されがちになり、政策は過剰なものとなり得る。また、将来の予測不可能性を十分に考慮しないことで、政策評価も不適切になる危険がある。パンデミックの出口戦略を考える際に重要なのは、こうした弊害に留意しつつ、単なる応急処置を超えて、先を見据えた政策を検討することだ。なかでも、確率論的リスク評価ができているか、結論ありきの議論に陥っていないか、政策の評価項目が明確かつ適切か、の3点に留意する必要がある。

1. 感染症対策と「市場の失敗」
2. 応急処置としての公共政策
3. 公共政策立案/実行における課題:確率論的リスク評価の欠如
4. 公共政策評価における課題:説明バイアス
5. 出口戦略の要諦
6. おわりに

1. 感染症対策と「市場の失敗」

 

COVID-19パンデミックが長期化することで、実臨床や公衆衛生学的政策において、そして、広く社会経済的に、これまでにない課題が生じている。医療の現場では、いわゆるLong-COVID[1]と呼ばれる、COVID-19の長期的影響が問題となっている。公衆衛生学的な政策では、規制の緩和が各国で課題となっている[2]。これらに加え、集団免疫獲得による行動変化や、長期間にわたる行動制限をはじめとする規制による経済損失、さらには医療や国内/国際政治における新たな課題の出現により、各国のCOVID-19パンデミックへの対応はますます方向性が見えにくくなっている。こうしたなか、私たちはパンデミックの出口を見据えた政策をどう考えていくべきなのだろうか。

COVID-19パンデミックの出口戦略を検討するにあたり、まずはなぜ、政府をはじめとする公的機関による介入が必要なのかを考えたい。そもそも、COVID-19パンデミックをはじめ、社会全体に影響を及ぼす公共の課題は、民間だけでは解決が困難なことが多い。このことは、経済学で言うところの「市場の失敗」として整理することができる。市場による需要と供給の調整は私たちの社会経済活動の根幹だが、こうした市場メカニズムがうまく機能しないことを「市場の失敗」と呼ぶ。感染症対策は、市場の失敗に直面した一例であり、このことは特に「公共財」と「外部性」という考え方から整理することができる。

「公共財」とは、対価の支払いをせずとも享受でき(非排除性)、かつ他者の消費量に依らず自由にアクセスできる(非競合性)財である。今回のパンデミックの例で言えば、ワクチンとそれによって得られる集団免疫は、公共財として捉えることができる。なぜならワクチンは集団全体の感染リスクを低下させ、かつ自ら接種せずとも他者の接種による効果を享受できるからである。このように、私たち以外の誰かの行動(ワクチン接種)が、私たち自身にも影響を与える(集団免疫)ことを、経済学の用語で「外部性」と呼ぶ。なかでも他者に好ましい影響を与えることを「正の外部性」と呼び、この場合は公共財の供給が滞りがちだ。ワクチン接種の例で言えば、自分が接種せずとも守られるのであれば、あえて自分が接種しなくてもよいと考えてしまう可能性がある。このように、公共の課題の多くは市場の失敗に直面するため、民間任せでは解決が難しい。だからこそ、政府や地方自治体をはじめとする公共部門の政策介入が必要となるのである。

  

2. 応急処置としての公共政策

 

政府や地方自治体などの公共部門が、民間だけでは解決できない公共の課題解決のために練る戦略のことを「公共政策」と呼ぶ。もちろん、民間が解決できない課題を、公共部門がすべて解決できるわけではない。実際、今回のパンデミックでは、これまで経験したことのない感染症の流行に直面し、各国政府がその対応に苦慮した。これまで各国で行われた政策の中には、十分な根拠に基づき立案されたものもあれば、場当たり的な対応に終止したものもあった。たとえば入国制限ひとつを取っても、各国の対応は分かれた。ニュージーランドのように入国制限を行いつつも、国内流行の兆候が見られると速やかに対応を切り替えた国もあれば、中国のように突然ゼロ・コロナ政策を取りやめ、混乱を生じさせた国もあった。日本においても、しばらくの間は外国人のみに入国制限を継続する政策がとられていた。もちろん、この政策は母国に帰国できる道を残すという点から、日本国民としては望ましいかもしれない。だが一方で、流行状況によってリスクが層別化できる「出発地」ではなく、感染リスクが大きく変わるとは考えにくい「国籍」で入国制限を行うことが、どれだけ感染症の流行を抑えることに貢献したかは、今後検討すべきだろう。入国制限以外にも、ワクチン政策、疫学調査、医療体制維持など、各国政府が行ってきた政策の根拠や効果には、ばらつきが大きい。

こうした現状を踏まえて、私たちに今何ができるだろうか。もちろん国家レベルの政策と言うと、市井に暮らす私たちが影響を及ぼすことのできない、どこか遠い存在のようにさえ見える。あるいは行政機関の中にいたとしても、一個人が政策決定に及ぼすことのできる影響の小ささに、無力感を感じることさえあるだろう。だが、私たちは自立した主権者でもあることを忘れてはならない。単に政策の影響を受ける市民としてすべてを許容してしまうのではなく、自立したひとりの主権者として政策を評価し建設的な議論に貢献していくことが、より効果的な政策立案を促し、パンデミックの出口に近づくことに結びつくのである。そのためにも、感染症対策をはじめとする公共政策がどのような課題に直面しやすいかを理解し、そうした課題をどう乗り越えていくかを考えることは重要である。

公共政策が直面する課題について考えるとき、まず注目したいのは公共政策の、いわば「応急処置」としての一面である。公共政策の多くには、突発的あるいは予期しない外的変化への対応策としての側面がある。たとえばパンデミック政策の焦点は、既に生じた感染症の流行をどう収束させるかにある。安全保障政策の前提には近隣諸国からの軍事的脅威や国家間の紛争への対応があり、環境政策の前提には進行する環境問題がある。こうした外的変化が国家あるいは地球規模の危機に直結し得ることを考えれば、外的変化を踏まえて政策を立案し、それを評価し、政策を練り直し続けること ー すなわち「応急処置」としての公共政策 ー は、国家や社会システム構築における、最も重要な側面のひとつと言えるだろう。実際、国内外における危機をはじめとする外的変化への対処は、新たな統治機構の設立や権力の創出、そして先行事例として今後活用される観点から、国家建設や社会システム構築に重要な役割を果たすと指摘されている[3]

COVID-19パンデミックの出口戦略について検討する際、応急処置としての公共政策の側面に着目することは大きな意味を持つ。なぜなら外的変化への対応策を立案するとき、政策立案者は前例踏襲などの影響を受けやすく、日々刻々と変化する状況に十分対応しきれない可能性があるからだ。このことを理解するため、本稿では次に公共政策の立案/実行における課題として、「確率論的リスク評価」の欠如について考える。さらに公共政策の評価における課題として、「説明バイアス」の概念を紹介する。これらを踏まえ、最後に出口戦略立案の要諦を、主に確率論的リスク評価、結論ありきの議論の危険性、政策の目的と評価項目という3点から提示する。

 

3. 公共政策立案/実行における課題:確率論的リスク評価の欠如

 

公共政策に限らず、ビジネスであれ、あるいは日常における決断であれ、必要となる情報がすべて揃った状態で意思決定ができる場面は少ない。私たちの日常を振り返れば分かるように、意思決定の殆どは、何らかの不確実性の下で行われている。意思決定において大切なことは、不確実性を少しでも目に見える形へと変換することである。パンデミックの例で言えば、今後どのような感染状況になる可能性があるのかをまず想定し、そしてそれぞれがどの程度の確率で生じ得るのかを考えることである。このように、数字を使って確率論的に、将来想定されるリスクを評価することを「確率論的リスク評価」と呼ぶ。このことは、政策立案において最も重要なステップである。

もちろん、確率論的リスク評価は簡単なことではない。評価自体が難しい場合も多く、その判断基準も、完全に客観的なものとはならない可能性がある。一例として、地球温暖化に関するリスク評価についての論争がある[4]。地球温暖化に関するリスク評価では、将来の地球温暖化の影響を現在の価値に換算するため、時間選好率という数値を用いる。時間選好率とは、端的には将来の影響をどれだけ割り引くかを示す数値である。たとえば将来の世代に地球温暖化の影響を残すべきではないと考えるなら、将来の世代が被る影響を、今の世代が受ける影響と同じくらい重要視する。一方で、技術革新などにより将来のほうが課題解決を行いやすくなるため、ある程度将来の世代に課題解決を託しても良いと思うなら、将来の影響よりも現在の影響に重きをおく。しかし、時間選好率の設定は客観的に決められるものではなく、最終的には、理想を追求するのか、あるいは実効性を考え、現実的な値にするのかという倫理観の問題に帰着しかねない。この地球温暖化の事例が示すように、そもそも確率論的リスク評価は決して簡単ではない。

既に困難な確率論的リスク評価をさらに難しくするのが、応急処置としての公共政策の側面だ。なぜなら予期せぬ大きな外的変化に対応するとき、私たちは最悪の事態のみを念頭に置きがちだからである。もちろん、最悪の事態を念頭に置くこと自体は、決して悪いことではない。むしろ情報が不十分で、どのようなシナリオが想定されるのかさえも判断が困難な場合は、最悪の事態を想定した対策こそが優先的に講じられるべきである。今回のパンデミックで言えば、原因不明の複数の肺炎症例が最初に報告され、その重篤さや感染力さえも明確でなく、加えて検査や治療法も不明な状況であったため、取り得る最善の策は最悪の事態を想定したものであった。このような状況で、最悪の事態を想定しないことはあまりにハイリスクだからだ。したがって、外的変化への初期対応として、最悪の事態を想定することは十分理に適っているのである。たとえば検疫体制を強化したり、あるいは渡航制限をかけたりするなどの政策は、程度の問題こそあれ、流行初期には行わざるを得ない場合がほとんどだろう。問題は、判断材料が増え続けているにも関わらず、最悪の事態のみを想定し続けて確率論的リスク評価を行わないことにある。状況は刻々と変化し、時間が経てば新たな情報が判断材料に加わっていく。これまで有効だった政策が、新たな分析により有効でなかったとわかることもあるだろう。もし判断材料が増えているにも関わらず、確率論的リスク評価を行わなければ、それは不要に過剰な(あるいは有効ではない)政策が続けられることに結びつく。

ではなぜ、応急処置としての公共政策は、最悪の事態のみを念頭に置く傾向があるのだろうか。あるいはなぜ、新たな情報を十分に勘案できない可能性が高いのだろうか。これには大きく3つの要因が考えられる。第一に、組織として請け負える業務量の問題がある。大きな外的変化への対応は、平時から人員不足気味の公的機関の業務をさらに多忙なものとする。パンデミック中の保健所や行政機関の業務逼迫はその最たる例だ。増え続ける業務に忙殺されながら、確率論的リスク評価を行い、政策を更新していくことはそもそも難しい。

第二に、前例踏襲の傾向が挙げられる。これは公的機関の意思決定に限った問題ではないが、組織として、すでに一度決めた内容は、前例として踏襲され、組織の意思決定に影響を与えがちだ。こうした前例を覆すことは困難な場合が多い。なかでも一度有効と思われた前例や、影響力の大きな前例、複雑な意思決定構造によって生まれた政策などは、特に覆すことが難しい。状況に合わせて、成功体験を再評価することは容易ではなく、覚えやすく印象に残りやすい政策はそれだけ覆すのも難しく、複数の省庁や意思決定機関が関わる政策は、再調整するだけで時間がかかるからである。日本の例で言えば、流行初期になされた政策のひとつとして、クラスター対策が挙げられる。これは流行初期であれば効果もあるが、市中流行期に入ってしまった後に継続すべき対策ではない。成功事例に引きずられて現状評価が不十分になっていないか、印象に残りやすい政策に固執しすぎていないか、クラスター対策に割いたリソースを他に配分したらどのような対策ができたか等、意思決定の観点から検討の余地は大きい。

第三に、「利用可能性バイアス」が挙げられる。私たちは通常、直近に生じた大きなインパクトのある出来事に影響を受けやすい。このことを、利用可能性バイアスと呼ぶ。パンデミックへの応急処置が政策の主眼となっているとき、政策議論はいかに最悪の事態を避けるかのみに焦点を当てがちになる。そして新しい情報が入ってもなお、政策の焦点を変えることなく、最悪の事態に主眼を当て続けることになる。

 

4. 公共政策評価における課題:説明バイアス

 

ここまで、公共政策の立案と実行において、確率論的リスク評価の欠如が大きな課題となることを述べた。だが確率論的リスク評価の欠如は、政策の立案や実行のみならず、政策の評価にも大きな影響を及ぼす危険性がある。

政策を事後的に評価するとき、その評価者が政策立案時の不確実性を無視すると何が起きるだろうか。ひとつの帰結は、十分な論拠なしに、特定の原因と結果の関係(因果関係)を強調してしまうことである。米国の歴史学者Aroop Mukharjiと医療経済学者Richard Zeckhauserは、このことを「説明バイアス」という概念として提示した[5]。すなわち説明バイアスとは、過去に直面していた不確実性を考慮に入れないことにより、過去の事象について(十分な論拠がないにも関わらず)特定の原因の影響を過大評価してしまうことである。

今回のパンデミックで言えば、スウェーデンは流行初期にロックダウンなどの強固な政策をあえて行わず、感染によって集団免疫を獲得することを政策として選択した[6]。その後人口あたり死者数が増加したこともあり、結果としてスウェーデンはこの政策を撤回した。この集団免疫政策を批判することは簡単である。行動制限をかければ感染拡大のリスクは減るため、致死率や様々な重症化リスク因子を考えれば、行動制限をしたほうが無難だっただろう。だが、こうした批判は政策立案者が直面していた不確実性を考慮していないため、表層的な結論しか得られない。「感染症の流行を抑えるために、行動制限が必要なのは自明である」という、後ろ向きにひとつの因果関係を強調した結論からは、次のパンデミックに向けて何を備えるべきかがわからないからだ。振り返ってみれば、スウェーデンの集団免疫政策は失敗だったと言える。しかし、本来考えるべきは、政策立案者が不確実性をどう評価したかである。想定できるシナリオを広く挙げることはできていただろうか。確率論的な評価を行う際、どのような指標を用いたのか。複数のモデルを検討したうえで結論は出せていたのか。政策の効果が思わしくないとき、十分な再評価はできていたのか。このように、政策立案者が直面した不確実性を考慮に入れることではじめて、政策の適切な評価が行えるのである。

 

5. 出口戦略の要諦

 

パンデミックの出口戦略を検討する際に重要なのは、すでに述べた弊害に留意しつつ、単なる応急処置を超えて、先を見据えた政策を検討することである。今回のパンデミックが明らかにしてきたのは、感染症への事後的対応策のみでは、パンデミックの収束が困難となることである。国家あるいは地域の医療システムに課題があれば、いかに防疫体制を整えようとも最終的には破綻する。あるいは国民レベルで循環器疾患や呼吸器疾患の罹患率が高ければ、重症化リスクは自ずと高くなる。感染症対策は、応急処置だけで完結するものではないのである。その意味で、パンデミックの出口戦略立案には、応急処置から先を見据えた政策への移行が求められると言える。

では、スムーズな政策移行には、何が求められるだろうか。これまでの議論を踏まえ、ここでは (1) 確率論的リスク評価ができているか、(2) 結論ありきの議論に陥っていないか、(3) 政策の評価項目が明確かつ適切か、の3点を出口戦略立案の要諦として挙げる。

第一に、先を見据えた政策の実現には、確率論的リスク評価が不可欠である。既に述べたとおり、応急処置としての公共政策が直面する課題は、最悪の事態に焦点を当て過ぎ、過剰な政策を提示し続けてしまうことである。そうではなく、最悪の事態への備えは行いつつも、最も可能性の高いシナリオを念頭に置き、それを軸に政策立案を行うべきである。意思決定に必要な情報がすべて揃うことはないと理解し、手持ちのデータからいくつかのシナリオを推定し、想定される課題を明確にすることが、先を見据えた政策への第一歩となる。

たとえばワクチン接種と感染により、集団免疫のレベルはパンデミック初期よりも高くなっている。これを踏まえれば、新たな変異株などが問題とならない限り、これまでのような重症者数の急激な増加は考えにくくなるだろう。一方で、多くの国々が日常を取り戻しつつあることを考えれば、パンデミック中には流行がみられなかったインフルエンザなどが再度問題となる可能性がある[7]。こうした状況把握をデータに基づいて行い、確率論的に現状を把握することが、政策立案の基盤である。もちろん、COVID-19が市中流行となるなか、得られるデータの量や質の問題が、今後ますますシナリオ推定に大きくのしかかるだろう。なぜなら把握できる症例が少なくなれば、得られたデータから状況を推定することは難しくなるからだ。それでも、多様なチームによる数理モデルなどを用いて、考えられ得るシナリオを比較検討することは重要である。そのためには、データや分析結果をよりオープンにしていくことが不可欠だ。科学の世界では、分析のために用いたデータやプログラミングのコードをオープンにし、発表した論文を必要に応じて再解析したり、発展的な分析に結びつけたりすることが近年では一般的となっている。政策分析に用いたデータやコードを公開しない理由はなく、むしろオープンにすることで、より多様な分析が可能になるだろう。

第二に、結論ありきの議論に陥っていないか、常に確認しなければならない。確率論的リスク評価の後に必要となるのは、一旦ゼロベースで政策を比較検討する作業である。ここで陥りがちなのは、一つの政策にこだわりすぎ、その政策を実行すること自体を目的にしてしまうことだ。これは日本や公共政策といった背景に特有のものではなく、誰もが常に陥りがちな課題である。好ましいと思われる政策を思いつくと、ついその政策実行に合致するデータを収集してしまい、全体像が見えなくなるのである。これを避けるには、好ましいと思われる政策から議論を始めるのではなく、まずは現状を確率論的に評価することが不可欠である。政策は現状に対しての打ち手であり、打ち手を選ぶ前にはまず状況把握が必要だからだ。

一旦状況を把握し、取り得る政策を立案したら、次に行うべきは政策の比較検討である。考えられ得る政策のうち、一体どれが最も有効となる可能性が高いかを、ひとつひとつの政策を比較して吟味するのである。ここでも、結論ありきの議論に陥らないように十分注意する必要がある。政策の比較検討において有効なのは、取り得るいくつかの政策に加えて、現状の政策を維持するシナリオを、比較対象としてあえて議論の俎上に乗せることである[8]。こうすることで、政策議論が前例踏襲の罠に陥っていないかを確認することができる。たとえば現状の政策をそのまま継続した場合の将来予測と、新しい政策がもたらし得る結果に大差がなければ、それは提示した政策がすでに行われている政策の追認に終止していることを示している。

最後に、明確かつ適切な政策の評価項目が必要である。政策を比較検討し、それを実行に移した後に必要なのは、政策の評価項目を適切に設定し、評価サイクルを回すことだ。前述の通り、応急処置的な政策の評価において、私たちは不確実性を度外視し、説明バイアスに陥る危険性がある。そうではなく、政策立案時に直面した不確実性を考慮に入れ、政策を正しく評価することが重要である。また、不確実性の考慮に加え、適切な評価項目の設定も不可欠だ。自明なことだが、パンデミック対応策は、感染拡大状況をはじめとする公衆衛生学的指標によって評価されるべきであり、仮にもたとえば政権支持率(政権支持率は国民の健康や感染拡大状況を直接示す数値ではない)、あるいは他国との政策の足並み(各国の感染拡大状況やハイリスク層の分布は異なる)といった指標に影響を受け変更されてはならないのである。

 

6. おわりに

 

過去の感染症流行の歴史を踏まえるとき、「過ぎ去りしことは序幕」であることに疑いようはない。今回のCOVID-19パンデミックで得られた経験や教訓は、今後の感染症対策、医療/公衆衛生政策、あるいは公共政策や国家戦略に様々な影響を与えるだろう。大切なことは、過ぎ去りしことを「正しき序幕」にすること ー すなわち、COVID-19パンデミックを、将来のより効果的かつ効率的な政策実行の糧にすること ー である。私たちは政策の受益者であると同時に、国家の主権者でもある。公共政策の行く先を誰かに委ねるのではなく、自立したひとりの個人として、現状を客観的に評価し、必要に応じて改善を促していく。困難な舵取りを任された政策立案者を労いつつも、冷静に政策の成果を見つめ、成功と失敗の要因を考え議論する。その過程で建設的に批判し、また批判されることを受け入れる。このように、私たち一人ひとりが政策議論に建設的に貢献することで、今回のパンデミックを、よりしなやかで機敏な社会システム構築のための契機にできるのである。

  

参考文献

[1] Soriano JB, et al. A clinical case definition of post-COVID-19 condition by a Delphi consensus. Lancet Infect Dis 2022;22(4):e102-e107. https://www.thelancet.com/journals/laninf/article/PIIS1473-3099(21)00703-9/fulltext. 2023年1月16日閲覧.

[2] Mukaigawara M, et al. An equitable roadmap for ending the COVID-19 pandemic. Nat Med 2022;28(5):893-896. https://www.nature.com/articles/s41591-022-01787-2. 2023年1月16日閲覧.

[3] Skowronek S. Building a New American State. New York: Cambridge University Press; c1982. Chapter 1, The new state and American political development; p. 10.

[4] Nordhaus W. Critical assumptions in the Stern Review on climate change. Science 2007;317(5835):201-2.

[5] Mukharji A and Zeckhauser R. Bound to happen: explanation bias in historical analysis. Journal of Applied History 2019;1(1-2):5-27. https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3476915. 2023年1月16日閲覧.

[6] Claeson M and Hanson S. COVID-19 and the Swedish enigma. Lancet 2021;397(10271):259-261. https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(20)32750-1/fulltext. 2023年1月16日閲覧.

[7] Tanne JH. US faces triple epidemic of flu, RSV, and covid. BMJ 2022;379:o2681. https://www.bmj.com/content/379/bmj.o2681.long.

[8] Bardach E and Patashnik EM. A Practical Guide for Policy Analysis, Sixth Edition. Washington, D.C.: CQ Press; c2020. Part I, The eightfold path; p. 51-53.

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